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兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE

1/30 後編

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「兄さんだけずるいです!」

 ほ~~~~~~~~ら~~~~~~~~~~~、いわんこっちゃない!
 そして、この男、全く気づいていない。
 なぜ、咲を怒らせたのかを……。

「ほんま、あほちゃう? それって芸なん? 絶対にわざとやろ? 女の子を怒らせるの、神的にうまいのって女の天敵なん?」

 はぁ……どうして、ウチは憎まれ口ばかり叩いてるん……。
 もっと、違う話がしたいのに……こ・の・お・と・こ・は!

「……俺のせいじゃあない……だろ? 」
「あんさんのせい以外に何があると?」

 はぁ……咲があまりにも不便や……。
 ウチかてこれ以上怒りたくないのに……けど、言わないと伝わらないのなら、ウチが言わんと。
 例え、嫌われても……。
 はぁ……。

「……分かる気がする。姉さんができてからうらやましいって思うことがある」

 強はん?

「ご飯やおやつ、お小遣いが姉さんの方が多いし、時々、姉さんのお古が僕にくる。姉さんは新しいモノを買って貰える。家電も姉さんの方がいいモノ使ってるし」
「それ、分かります。ウチもそうやったし」

 分かる……その気持ち分かるわ……。
 強はん……ええ子や……。

「朝乃宮って姉妹か兄弟がいるのか?」
「ぷい」

 藤堂はんとは話したくないし。

「千春姉さんはどっち?」
「どっちもです。上に兄が。下に妹がいます。けど、妹がだだこねてウチのモノが仕方なく妹
にいくって流れもありますけど」

 懐かしい……。
 朝乃宮家の人間は恨めしいけど、兄様と妹の万桜まおは別。強はんにはああ言ったけど、ウチも兄様のモノをよく欲しがって困らせたっけ。
 強はんをとられたことに藤堂はんは不機嫌な顔をしている。
 千春アイ発動!

『にしても、朝乃宮のヤツ、俺を完全に悪者にしたいみたいだな。
 けどな、テレビもこたつも、俺の頑張りが認められたから与えられたモノだ。
 上春は何もしていないし、それで平等なのは納得いかない。』

「はぁ……正論で自分は悪くないって正当化してはるみたいですけど、咲怒らせて何が正論ですの、この石頭。嬉しいのは分かりますけど、少しは自重し。誰のせいで家の中の空気が重苦しいと思ってますの?」

 ほんま、大きな子供やね、藤堂はんは。拗ねた顔して。

「正論は正しい。けど、正論を盾にして自分の考えを押し通すのはいかがなものかと。人は一人では生きていけません。人を思いやられへん行動はいかがなものかと。伊藤さんと組んでいたとき、年下だからいろいろと譲歩してたんと違います?」

 ……納得してへん顔してる。
 千春アイ再動!

『いや、待て。
 食い扶持が増えたせいで家事の量が増えた。そもそも、上春が我が家に来なければ余計な仕
事が増えなかったわけで……それに心労も上春達が来たせいで増大したし、それに……』

「ふ~じ~ど~う~は~ん!」

 あ、頭痛くなってきた……。

「……あんちゃん。姉さん、謝ってきた」
「?」
「……意地を張ってごめんなさいって謝ってきた。姉さん、あんちゃんと仲良しになりたいっ
て言ってた」
「……」
「僕は姉さんとあんちゃんも仲良くして欲しい。あんちゃんは血のつながっていない僕に優し
くしてくれて、家族にしてくれた。すごく、うれしかった。姉さんにも同じ想いをしてほしい。
幸せを感じて欲しい」
「「……」」

 つ、強はん……イケメンやわ……。
 ちょっと感動した。

「ここまで期待されてるのなら応えなあきませんね」

 しみじみと言葉がもれてしまう。

「強、勘違いしてるぞ」
「勘違い?」
「家族にしてくれたんじゃない。家族になって欲しかったんだ。俺が礼を言いたいくらいだ。
ありがとな、強。俺の弟になってくれて」
「……僕こそありがとう」

 ええ話や……。
 藤堂はんも吹っ切れた優しい顔をしてはるし、これならイケるやろ。
 ウチも援護するし、これで兄妹喧嘩はおしまい。

「ほんま、強はんにはあまいんやね」
「……うっさい」

 ふふっ……拗ねた顔も今は可愛く見える。
 はよ、こんなくだらない喧嘩、終わらせて仲良うお話しよ。
 そう思っていたのに……この男は……。
 次の藤堂はんの一言でウチの笑顔は固まってしまう。

 ……なんやて?
 この男、全然分かってない……。
 そんなん、無理やん。絶対にモメるやん。
 年上のあんさんが折れてくれへんとこの兄妹喧嘩、終わらへんやん……何度同じ過ちを繰り返すん……。
 ほんま……ほんま……。

「……ほんま……あほちゃうか……」
「あ、あほ? おい、いい加減に……」
「いい加減にしてほしいのはこっちやわ! ほんま信じられへん! 藤堂はんに期待したウチ
が大馬鹿やったわ!」

 ウチの感動を返せ!
 強はんの気遣いを返せ!
 このあほ! 朴念仁!
 絶対にもう! この男には頼らへん!
 絶対の絶対や! もうもうもうもうもうもうもうもうもうもうもうもうもうもう!



「千春ちゃん、大丈夫?」
「どうしたの、千春ちゃん?」
「別に……」

 思い出すだけで腹が立つ! あの朴念仁は!
 信吾はんと澪はんが仲良う台所に入ってきて、料理しているウチに話しかけてくるけど、ムカッとしていて答える気にならなかった。

「正道と咲ちゃんの事で悩んでいるんでしょ? 千春ちゃん……私から話してみようか?」
「澪はん?」

 澪はんの意外な提案に料理の手が止まる。そう思ったのはウチだけでなくて……。

「ほ、本気なの、澪さん! だって、正道君とはまだ……」

 信吾はんの言うとおり、藤堂はんと澪はんの仲はかなり悪い。一方的に藤堂はんが澪はんを嫌っていたのだけれど。

「そうね……でも、正道とは向き合わないといけないし、いい機会だわ。ちゃんと話してみる。咲ちゃんが困っているのに何もしない母親はいないから」

 澪はん……いい人や……。

「澪さん! 惚れ直したよ! だったら、僕も正道君と話すよ!」

 信吾はん……。
 これはもしかして、いけるかも……。
 一人がダメでも二人なら……。

「澪さん……」
「信吾さん……」
「……おほん! イチャつくんなら、よそでお願いします」

 はぁ……不安やわ……。
 期待しすぎるのは澪さんに負担をかけるだけやし、ウチの方でも考えておかんと……。

「それにしても、千春ちゃんは本当に咲ちゃんの事、大事に思っているのね」
「当然です」

 ウチが陽菜の代わりをせんと……。

「正道が迷惑かけてごめんね。嫌になるでしょ? あの子と一緒にいると」
「……いえ」
「でも、なるべくなら嫌いにならないであげてね。あの子、お父さんと同じで石頭で融通が利かないけど、いいところあるのよ」
「……知ってます」
「えっ?」

 そんなこと、知ってるわ……。
 ウチかて、藤堂はんのこと、見てきたんやから……。

「僕からもお礼を言わせて、千春ちゃん。咲の事、いつもありがとう。咲の為にいろいろとしてくれているみたいだけど、そのせいで正道君と喧嘩する必要はないからね」
「……別にウチは藤堂はんと喧嘩していませんから」

 なんか、モヤモヤする……。
 咲の為? 本当にそれだけ?
 そのはずやのに……胸がチクチクする……。
 なんで……。
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