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十三章

十三話 幕引き その一

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 事件が解決したその日の放課後、俺はある人物に呼び出され、待ち合わせ場所へと向かっていた。事件はもう解決したので、きっと後日談だろう。
 待ち合わせ場所へ向かう途中、ひそひそと俺の悪口を言う生徒とすれ違う。ハーレム騒動のときも同じような事があったが、あのときは押水にも非があったのであまり俺への悪口は少なかった。

 だが、今回は違う。イジメの主犯である井波戸が周りから許された以上、完全に俺が悪者になってしまっていた。
 F組の生徒があることないこと言いふらし、一年の生徒の大半を俺は敵に回してしまったようだ。
 ほとぼりがさめるまで、一年の校舎には近寄らない方がいいな。

 さて、そろそろ待ち合わせ場所につく。アイツはいるのだろうか。
 校舎を出て、敷地の片隅に大きな樫の木がある。そこが待ち合わせ場所だ。
 待ち合わせ場所には、すでに人影があった。その人物は俺を呼び出した張本人だった。

「待たせたか?」
「いえ。俺も来たところっす」

 樫の木にもたれかかっていた庄川が体を起こし、俺と向き合う。

「こんなところに呼び出してすんません。この時期、ここなら人に話を聞かれることはないと思ったんで」
「それで、話とは何だ?」

 庄川は真面目な顔になり、俺に向かって深く頭を下げた。

「事件を解決していただいてありがとうございました! 藤堂先輩のおかげで白部と真子っちゃんの仲も元通りになりました。美花里も二人の親友として復帰できました。美花里は毒舌キャラとして、真子ちゃんをいじっていますよ。でも、前よりももっと仲良くやっていますよ、彼女達。これも藤堂先輩のおかげです」

 律儀なヤツだな、庄川は。
 嫌われ者の俺なんかに礼を言うあたり、相当なお人好ひとよしだ。

「そっか……それはよかったな」
「はい。藤堂先輩から見たら俺達F組の関係はいびつに見えるかもしれないっすけど、俺はバカやれて楽しめるいいクラスだって思うんすよ。だから、あまり嫌って欲しくないっていうか……」
「……別に嫌ってはいない。逆にあっちが俺を嫌っていると思うがな」

 俺も庄川もつい苦笑してしまう。
 アイツらと和解なんて出来るのか? 腕時計盗難事件よりも、ハーレム騒動よりも骨が折れそうだ。
 想像しただけで頭痛がする。

「藤堂先輩、スマイルスマイル。笑顔で話しかけたら案外、うまくいっちゃうみたいな、そんな軽いノリでいきましょうよ。美花里とだって仲良くなれるかも。俺、美花里は真面目すぎると思うけど、いきすぎたところがあるって感じるけど、悪いヤツじゃないから。藤堂先輩の事、陥れようとしたのに何を説得力のない話をしているって思っているとは思いますけど、あれはあれで……」
「……ああっ、そうだな。井波戸さんは友達思いのヤツだ」
「白部限定で情の深いところが……ってあれ? 藤堂先輩は美花里のこと、本気でそう思ってるんすか?」

 自分で言っておいて何を今更。
 俺は断言してみせた。

「当たり前だ。庄川君はそう思っていないのか?」
「いや、思ってるし。でも、白部以外にももっと他の人にも優しくしてほしいというか……特に真子っちゃんに」
「聞こえなかったのか、庄川君。俺は井波戸さんは友達思いのヤツって言ったんだ。平村さんにも優しいよ、アイツは」
「……マジで?」

 そんなに驚くようなことではない。
 井波戸は少し真面目すぎると思う。
 左近から聞いたのだが、教師と生徒の熱愛スクープに一番こだわっていたのは井波戸だった。
 井波戸は許せなかったのだろう。先生が生徒と恋愛関係にあることが。
 井波戸はゴシップネタとして報道したかったのではなく、断罪するつもりで記事を明るみにしたかった。
 だが、記事は表に出ず、却下された理由が保身の為だと分かり、あそこまで風紀委員を毛嫌いしていたわけだ。

 井波戸も本気で平村の事を心配していたからこそ、腕時計盗難事件を思いついたのだろう。
 もちろん、積年の恨みはあっただろうが、それだけの理由であの事件を起こすことは出来なかったと確信している。
 その理由は……。

「なあ、庄川君。なぜ、井波戸さんは平村さんの鞄に腕時計を入れた事にこだわったと思う? 正直、井波戸さんが白部さんの鞄から平村さんの鞄に腕時計を入れなければ、俺は井波戸さんがこの腕時計盗難事件に関わった証拠を見つけることが出来なかった。髙品さんも司波さんも絶対に口を割らなかったと思う。井波戸は安全圏にいられたのにな」
「や、やっぱり、真子っちゃんに無実の罪を着せようとしたからじゃないんですか? 真子っちゃんに恨みがあること言ってましたし」
「だな。でも、おかしいとは思わないか?」
「何がっすか?」

 俺が井波戸の行動に疑問に思う点、それは……。

「平村さんのアリバイを井波戸さんが意図的に作り出したことだ。平村さんを本気で冤罪にするのなら、体育の時間に平村さんとずっと一緒にいるのはおかしい。そんなことをしたら、平村さんのアリバイを自分が証明してしまうからだ。平村さんを陥れるには、平村さんのアリバイをなくすことが必要になる。たとえば、更衣室に忘れ物をしてしまった。バスケのスコアをカウントしていて手が離せないから、代わりに取りに行って欲しいって平村に言えばいい。平村さんは井波戸さんの言葉を何も疑わずに更衣室まで行っただろうな。そうすれば、そのときに平村さんが腕時計を盗んだと誤解させることが出来る。実際に平村さんは一人で更衣室に入っているわけだから。平村さんが腕時計を盗んでいないと証明できるわけがない。けれど、それをせずに、井波戸さんはずっと平村さんと一緒にいた。これでは、罠に嵌めようとした相手が無実だと自分で証明してしまう。矛盾してないか?」
「あっ……」

 庄川も気づいたようだ。
 ずっと疑問に思っていた。
 井波戸は平村を懲らしめるために腕時計を盗み、平村に罪をかぶせようとした。しかし、平村のアリバイは計画をたてた井波戸が証明している。
 これが何を意味するのか?

「井波戸さんが平村さんのアリバイを作った理由は、平村さんを犯罪者にしないためだと思う」
「それっておかしくないっすか? 腕時計を盗んだ犯人にする為に美花里は真子っちゃんの鞄に腕時計を入れた計画をたてたわけっしょ?」
「そうだ。だが、高価な腕時計が盗まれた場合、最悪警察沙汰になっていたかもしれないだろ? そうなると、平村さんは犯罪者になってしまう。だから、井波戸さんは平村さんのアリバイを作ることで、それを回避する道を作ったんだ。平村さんを懲らしめたい気持ちはあったが、犯罪者にするつもりはなかったようだな」

 つまり、井波戸の本当の計画は結菜の腕時計を平村の鞄に入れ、平村の鞄から腕時計を発見させる。
 平村は無実の罪でクラスメイトから断罪されるが、井波戸が平村のアリバイを証明し、平村の無実を証明する。そうすることで平村は犯行が不可能だと思わせる。
 体育の時間に抜け出した司波、髙品にもアリバイを作ることで犯行は不可能だと証明し、犯人は外部犯だと思わせる。
 平村に一時的に恐怖を与え、井波戸はさりげなく平村の発言が今回の騒動を起こしたことを話し、反省させる。

 そうさせることで、平村の軽はずみな発言で頭にきていた司波の怒りを収め、平村も自分の発言に注意するようになり、計画は完了する予定だった。
 腕時計をぬすんだ犯人は分からずじまい、でも、腕時計は戻ってきたことで事件は迷宮入り。
 それで腕時計盗難事件を終わらせる予定だった。また、仲のよかった五人組に戻るはずだった。

 しかし、平村の発言で計画は狂い、友情は壊れた。
 井波戸は白部と平村の仲を徹底的に壊すつもりと屋上で言っていたが、友情が壊れたことに責任を感じていた事、またみんなで仲良くなりたかったと心の底では思っていたのかもしれない。
 だから、井波戸は白部と同じ学校に進学し、平村にも同じ学校に進学するように仕向けたと俺は思っている。また仲のよかった間柄に戻るために……。
 司波と髙品は罪悪感から白部達とは別の学校にいってしまったのだが。
 そのことを悔いていると、司波達は昨日言っていた。

「あははっ、俺、美花里の事、誤解してました。美花里のやったことは許せない事だけど、友達の為なら少しは救いがあるっすね。また、仲良し五人組に戻れますよね?」
「そうだな……」

 そう願わずにはいられなかった。
 もう、お互い隠し事はなくなったんだ。お互い、思うところはあるだろうが、仲良くやって欲しい。

「これで全ての謎は解けましたかね?」
「いや、まだある」

 俺は庄川にどうしても確認しておきたいことがあった。
 庄川はまだあるのって顔をしていて、顔がこわばっていた。俺は庄川に尋ねた。
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