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八章
八話 真実への追求 その三
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白部達のクラスが3年A組で、庄川は3年B組。
腕時計盗難事件のあった日、A組とB組は合同で体育の授業だったとのこと。つまり、庄川も当事者となる。
伊藤にも言われたが、白部を容疑者から外した場合、候補は二人だけ。その二人ともアリバイがある以上、男子も視野に入れるべきだろう。
ならば、庄川にも聞いておきたいことがある。
「えっ、俺も容疑者って事ですか?」
庄川は心外だと言わんばかりに俺じゃないとアピールしてきた。
何か力になれることがないかと思ってついてきたら犯人扱いされたら、誰だっていい気はしないだろう。
妙な緊張感で誰も何も言わない。意外な展開で白部も平村も戸惑っている。
俺は首を横に振り、俺の考えを伝える。
「そう構えないでくれ。庄川君には男子側の体育の様子と、事件について一緒に考えて欲しいんだ。腕時計を盗んだ犯人が女子とは限らないからな」
そう、男子が犯人の場合、庄川のクラスメイトと、白部のクラスのクラスメイトの男子が犯人の可能性がある。
庄川が犯人だと証拠がない限り、あらゆる可能性を模索するべきだろう。
俺の意見に平村と白部は否定的な意見を述べる。
「そ、それは流石にないんじゃあ……」
「そうよ。たとえ腕時計を盗むことが出来ても、私の鞄から真子の鞄に腕時計を移動すること何て出来ない。的外れだと思う」
そこなんだよな……。
男子が犯人だとした場合、白部の言うとおり腕時計の移動は男子では無理だ。
ただ、意外な盲点があって、それに気づいていない場合も考えられる。
だから、一つひとつ確認していく必要があるんだ。まずは、どうやって腕時計が盗まれたのか、知る必要がある。
「腕時計の入れ替えはともかく、腕時計を盗んだ犯人として、一応男子の線も考えておきたいんだ」
「そうなると、腕時計を盗んだ犯人と私の鞄から真子の鞄に入れた犯人は別ってことね。つまり、犯人は二人いて、別々に行動していたってことになるけど、私はありえないと思う」
白部の意見に、俺は疑問点をぶつける。
「白部さん、どうして腕時計盗難事件の犯人は単独犯だと思うんだ? その根拠は? 犯人の手がかりがない以上、決めつけはよくないと思うぞ。もちろん、単独犯の線もあるが、複数犯の可能性だって考えるべきだろ?」
「……でも、庄川は犯人じゃないと思う」
「白部~」
感激のあまり、涙目で白部の手を握ろうとした庄川を、白部は面倒くさそうに避ける。
白部は庄川を犯人ではないと確信しているようだが、なぜだ?
やはり、情報が乏しくて謎だらけだな。
「藤堂先輩。私も庄川君が犯人ではないと確信しています。でも、他の男の子が犯人って事ももしかしたらありえるかもしれませんし、私は藤堂先輩の考えに賛同します」
「ありがとな、平村さん」
平村は帽子を押さえ真っ赤になった顔を隠そうとしていた。
こうしてみると、平村は実に女子っぽい。いや、女子なのだが、俺の周りにいる女子はおしとやかというよりも行動派だからな。ちょっと和む。
「白部さんもいいか?」
「……徒労に終わらなければいいけど」
賛同を得たと判断していいみだいだな。
最後は庄川だな。
「庄川君も頼めるか?」
「別にいいっすよ。でも、俺が証明するのは、俺と俺のダチが女の子の持ち物を盗むはずがないって事を藤堂先輩に認めさせ為ですから」
「それでいい」
これで庄川を同行させても問題なくなったな。
気になったのが、白部も平村も庄川が犯人でないと確信していることだ。
二人は女子を犯人だからと思っているから、庄川が犯人でないと考えているのだろうか?
だが、平村は男子が犯人の場合も考えられるかもしれないと言っていた。ならば、庄川と庄川以外の男子の差はなんだ?
庄川は平村がイジメられていると白部を注意したり、かばっていた。だから、そう感じているのだろうか?
「藤堂先輩、女の子をじっと見つめるのは失礼だから」
白部に肘で突っつかれ、ようやく俺は平村をじっと見つめていたことに気づいた。
平村は顔を真っ赤にして、うつむいている。
しまった。つい、平村の真意を測りかねてしまい、見つめてしまっていたか。
「すまない」
「い、いえ……その……」
「平村は男子が苦手なのか?」
「藤堂先輩、ストレートすぎ。真子は男の子が少しだけ苦手なだけだから」
俺の疑問に白部が平村をフォローするように答えてくれた。
なるほどな、それなら平村の態度は納得がいく。
俺も女子が苦手だ。何を話したらいいのか分からないし、俺と一緒にいても退屈だと思われてしまうのが嫌だしな。
だとしたら、これからは必要なこと以外は話しかけない方がいいか。
もしかすると、以前に風紀委員で二人っきりで話をしたのは不味かったな。
あのときは白部が掃除ロッカーに隠れていたとはいえ、二人っきりだったから、平村に嫌な思いをさせてしまったかもしれない。反省しないと。
そう思っていたら、平村が慌てたように俺に訴えかけてきた。
「あ、あの! 藤堂先輩は怖くないですから! そ、その熊さんって感じがしますし、危険なんですけど、可愛いというか……いえ、危険って変な意味で言っているわけじゃなくてですね!」
ど、どう反応すればいいんだ?
怖くないと思われている事はナメているってことか?
一応、俺は風紀委員で不良を相手にしている。少しくらい怖がってもらっても問題ないのだが。
相手に威圧感を与えることは余計な喧嘩を買う必要がなくなるし、話もしやすいこともある。
不必要に怖がらせるのは問題だが、女子に怖くないと言われるのもどうかなと。
いや、面向かって怖いって言われるのもそれはそれで傷つくか。
それよりも可愛いってなんだ? 熊って可愛いか?
確かにぬいぐるみは熊が定番だが、自然の熊は人を食べることもあるって聞くからな。
そう考えると熊をぬいぐるみにするのはどうだかと思ってしまう。女子の感覚についていけず、悩んでいると。
「真子、落ち着きなよ。昔からそうなんだから」
「う、うん。ごめんね、奏水ちゃん」
「謝る相手が違うから。藤堂先輩は一応先輩なんだから、気をつけなよ」
「お前もな」
コイツ、わざとやってやがるな。
白部はにやっと唇をつり上げているが、前のように敵対するような笑みでなく、少し柔らかい笑みに感じた。
少しは信頼されているってことか。
その信頼を裏切らないよう、この事件の真相を解明しないとな。
それと、平村は自爆するタイプだな。悪気はないと思うのだが、物事を自分に置き換えて考えているから、失言が出てしまう気がする。
それでも平村を憎めないのは、小動物っぽいというか、知り合いに一人、同じようなヤツがいるからだろう。
お調子者でお節介な相棒のせいで、年下の女子に少しは免疫が出来たかもな。
そんなことを考えつつ、俺達は調査を開始した。
俺が最初に白部に頼んだのは職員室と更衣室、体育館、保健室の場所だ。場所が分からないと推理のしようがない。
白部の説明では、校舎は長方形の形で三階建て、真ん中には開けた空間があり、その場所は校庭になっている。
北側が昇降口で、職員室は右の校舎の一階、更衣室は同じく右の校舎の三階にあった。
体育館は校舎の南側から渡り廊下を抜けた場所にある。保健室は左側の校舎の一階奥。
まずはここから一番近い……というか、目の前の職員室だな。
職員室に入ると、教師が二、三人いるだけで静かなものだった。
黒板には一ヶ月の予定が書かれていて、先生方の机には教材や授業の資料が山積みになっている。
先生の机って本当に個性が出るよな。
風紀委員の顧問、播磨先生の机の上は綺麗に整理されていて、パソコンだけが置かれている。
俺の担任の先生の机は、生徒の課題のすぐ隣に昼ご飯のカップ麺やペッドボトル等が散乱している。
ここも似たようなものだ。
「白部さん。更衣室の鍵はどこに保管されているんだ?」
「入り口のすぐそば。奥にあると取りに行くのが面倒だから、入り口近くにあるわけ」
セキュリティ、低いな。
実際に鍵のある場所を見ると、他の部屋の鍵と一緒にボックスの中に保管されていて、ボックスのドアは開きっぱなしだ。
普通はボックスを閉めて、必要なとき、鍵を管理している先生の許可を得て開けるのだろう。何時に鍵を借りたのか、管理簿もつけて記録を残す。
そうすれば、誰がいつどの鍵を使用したのか管理できるわけだ。
だが、実際にそんなことをしていたらかなりの手間だし、先生方も忙しいのでボックスのドアの鍵は開けっぱなしなんだろうな。
職員室から鍵をどうやって誰にも気づかれずにとったのか、不思議に思っていたのだが、案外簡単に分かってしまったな。
授業中で先生方は出払っているし、職員室のドアをそっと開けて、中の様子を確認してから素早く鍵をとれば、誰にも気づかれずにとれそうだ。
「どうしたの、庄川君。藤堂先輩の事、じっと見つめて」
白部の問いに、庄川は慌てて顔を背ける。
なんだ? 俺に何か言いたいことがあるのか? 早速、事件の事で気づいたことがあるのか?
「庄川君。言いたいことがあったら遠慮なく言ってくれ。何気ない一言が事件の突破口になるかもしれない」
「いや、これは言わないほうがいいと思って」
言わない方がいい? 不味いことでもあるのか?
そう言われると余計に気になるだろうが。
「頼む、言ってみてくれ」
「……怒りません?」
「? 内容次第だが」
「だったら、やめときます。俺、藤堂先輩に喧嘩売りたくないんで」
喧嘩を売る?
ますます理解できないぞ。
「庄川君。ちゃんと藤堂先輩に報告して」
白部の言葉に、庄川はテレくさそうに考え込んでいたが、しばらくして、意を決した顔で俺に伝えてきた。
「いや、さっきの藤堂先輩と白部のやりとりがそのおかしいと思ってさ」
「おかしい?」
何かおかしな点があったか?
俺は白部と視線を交わすが、白部も心当たりはないらしい。どういうことだ?
「だって、女の子の白部に更衣室の鍵はどこなのかって真剣に尋ねる藤堂先輩がちょっと変態っぽくって……ってウソウソ! 睨まないで!」
ったく、本当にくだらないことを言いやがって。期待して損しただろうが。
気のせいか、白部が顔を真っ赤にして俺から距離をとっているような気がする。平村なんて、白部の後ろに隠れている。
俺はため息をついた。
「茶化すな。俺は本気で事件の事を……」
「わ、私、分かっていますから! 男の子ってそんなことばかり考えちゃうってことですよね! それが正常だって」
「全然分かってないだろうが!」
平村のフォローが下手すぎて泣けてくるわ!
白部は耳を赤くしたまま、まだ黙って顔を背けているし、この空気、どうしたらいいんだ?
俺はなんとかしろと庄川を思いっきり睨みつけているが。
「だから言ったじゃないですか! どうでもいいことだって! ガチなことなら、ちゃんと話しますから」
全く、下らなさすぎて脱力してしまった。
次に行くか。
腕時計盗難事件のあった日、A組とB組は合同で体育の授業だったとのこと。つまり、庄川も当事者となる。
伊藤にも言われたが、白部を容疑者から外した場合、候補は二人だけ。その二人ともアリバイがある以上、男子も視野に入れるべきだろう。
ならば、庄川にも聞いておきたいことがある。
「えっ、俺も容疑者って事ですか?」
庄川は心外だと言わんばかりに俺じゃないとアピールしてきた。
何か力になれることがないかと思ってついてきたら犯人扱いされたら、誰だっていい気はしないだろう。
妙な緊張感で誰も何も言わない。意外な展開で白部も平村も戸惑っている。
俺は首を横に振り、俺の考えを伝える。
「そう構えないでくれ。庄川君には男子側の体育の様子と、事件について一緒に考えて欲しいんだ。腕時計を盗んだ犯人が女子とは限らないからな」
そう、男子が犯人の場合、庄川のクラスメイトと、白部のクラスのクラスメイトの男子が犯人の可能性がある。
庄川が犯人だと証拠がない限り、あらゆる可能性を模索するべきだろう。
俺の意見に平村と白部は否定的な意見を述べる。
「そ、それは流石にないんじゃあ……」
「そうよ。たとえ腕時計を盗むことが出来ても、私の鞄から真子の鞄に腕時計を移動すること何て出来ない。的外れだと思う」
そこなんだよな……。
男子が犯人だとした場合、白部の言うとおり腕時計の移動は男子では無理だ。
ただ、意外な盲点があって、それに気づいていない場合も考えられる。
だから、一つひとつ確認していく必要があるんだ。まずは、どうやって腕時計が盗まれたのか、知る必要がある。
「腕時計の入れ替えはともかく、腕時計を盗んだ犯人として、一応男子の線も考えておきたいんだ」
「そうなると、腕時計を盗んだ犯人と私の鞄から真子の鞄に入れた犯人は別ってことね。つまり、犯人は二人いて、別々に行動していたってことになるけど、私はありえないと思う」
白部の意見に、俺は疑問点をぶつける。
「白部さん、どうして腕時計盗難事件の犯人は単独犯だと思うんだ? その根拠は? 犯人の手がかりがない以上、決めつけはよくないと思うぞ。もちろん、単独犯の線もあるが、複数犯の可能性だって考えるべきだろ?」
「……でも、庄川は犯人じゃないと思う」
「白部~」
感激のあまり、涙目で白部の手を握ろうとした庄川を、白部は面倒くさそうに避ける。
白部は庄川を犯人ではないと確信しているようだが、なぜだ?
やはり、情報が乏しくて謎だらけだな。
「藤堂先輩。私も庄川君が犯人ではないと確信しています。でも、他の男の子が犯人って事ももしかしたらありえるかもしれませんし、私は藤堂先輩の考えに賛同します」
「ありがとな、平村さん」
平村は帽子を押さえ真っ赤になった顔を隠そうとしていた。
こうしてみると、平村は実に女子っぽい。いや、女子なのだが、俺の周りにいる女子はおしとやかというよりも行動派だからな。ちょっと和む。
「白部さんもいいか?」
「……徒労に終わらなければいいけど」
賛同を得たと判断していいみだいだな。
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「庄川君も頼めるか?」
「別にいいっすよ。でも、俺が証明するのは、俺と俺のダチが女の子の持ち物を盗むはずがないって事を藤堂先輩に認めさせ為ですから」
「それでいい」
これで庄川を同行させても問題なくなったな。
気になったのが、白部も平村も庄川が犯人でないと確信していることだ。
二人は女子を犯人だからと思っているから、庄川が犯人でないと考えているのだろうか?
だが、平村は男子が犯人の場合も考えられるかもしれないと言っていた。ならば、庄川と庄川以外の男子の差はなんだ?
庄川は平村がイジメられていると白部を注意したり、かばっていた。だから、そう感じているのだろうか?
「藤堂先輩、女の子をじっと見つめるのは失礼だから」
白部に肘で突っつかれ、ようやく俺は平村をじっと見つめていたことに気づいた。
平村は顔を真っ赤にして、うつむいている。
しまった。つい、平村の真意を測りかねてしまい、見つめてしまっていたか。
「すまない」
「い、いえ……その……」
「平村は男子が苦手なのか?」
「藤堂先輩、ストレートすぎ。真子は男の子が少しだけ苦手なだけだから」
俺の疑問に白部が平村をフォローするように答えてくれた。
なるほどな、それなら平村の態度は納得がいく。
俺も女子が苦手だ。何を話したらいいのか分からないし、俺と一緒にいても退屈だと思われてしまうのが嫌だしな。
だとしたら、これからは必要なこと以外は話しかけない方がいいか。
もしかすると、以前に風紀委員で二人っきりで話をしたのは不味かったな。
あのときは白部が掃除ロッカーに隠れていたとはいえ、二人っきりだったから、平村に嫌な思いをさせてしまったかもしれない。反省しないと。
そう思っていたら、平村が慌てたように俺に訴えかけてきた。
「あ、あの! 藤堂先輩は怖くないですから! そ、その熊さんって感じがしますし、危険なんですけど、可愛いというか……いえ、危険って変な意味で言っているわけじゃなくてですね!」
ど、どう反応すればいいんだ?
怖くないと思われている事はナメているってことか?
一応、俺は風紀委員で不良を相手にしている。少しくらい怖がってもらっても問題ないのだが。
相手に威圧感を与えることは余計な喧嘩を買う必要がなくなるし、話もしやすいこともある。
不必要に怖がらせるのは問題だが、女子に怖くないと言われるのもどうかなと。
いや、面向かって怖いって言われるのもそれはそれで傷つくか。
それよりも可愛いってなんだ? 熊って可愛いか?
確かにぬいぐるみは熊が定番だが、自然の熊は人を食べることもあるって聞くからな。
そう考えると熊をぬいぐるみにするのはどうだかと思ってしまう。女子の感覚についていけず、悩んでいると。
「真子、落ち着きなよ。昔からそうなんだから」
「う、うん。ごめんね、奏水ちゃん」
「謝る相手が違うから。藤堂先輩は一応先輩なんだから、気をつけなよ」
「お前もな」
コイツ、わざとやってやがるな。
白部はにやっと唇をつり上げているが、前のように敵対するような笑みでなく、少し柔らかい笑みに感じた。
少しは信頼されているってことか。
その信頼を裏切らないよう、この事件の真相を解明しないとな。
それと、平村は自爆するタイプだな。悪気はないと思うのだが、物事を自分に置き換えて考えているから、失言が出てしまう気がする。
それでも平村を憎めないのは、小動物っぽいというか、知り合いに一人、同じようなヤツがいるからだろう。
お調子者でお節介な相棒のせいで、年下の女子に少しは免疫が出来たかもな。
そんなことを考えつつ、俺達は調査を開始した。
俺が最初に白部に頼んだのは職員室と更衣室、体育館、保健室の場所だ。場所が分からないと推理のしようがない。
白部の説明では、校舎は長方形の形で三階建て、真ん中には開けた空間があり、その場所は校庭になっている。
北側が昇降口で、職員室は右の校舎の一階、更衣室は同じく右の校舎の三階にあった。
体育館は校舎の南側から渡り廊下を抜けた場所にある。保健室は左側の校舎の一階奥。
まずはここから一番近い……というか、目の前の職員室だな。
職員室に入ると、教師が二、三人いるだけで静かなものだった。
黒板には一ヶ月の予定が書かれていて、先生方の机には教材や授業の資料が山積みになっている。
先生の机って本当に個性が出るよな。
風紀委員の顧問、播磨先生の机の上は綺麗に整理されていて、パソコンだけが置かれている。
俺の担任の先生の机は、生徒の課題のすぐ隣に昼ご飯のカップ麺やペッドボトル等が散乱している。
ここも似たようなものだ。
「白部さん。更衣室の鍵はどこに保管されているんだ?」
「入り口のすぐそば。奥にあると取りに行くのが面倒だから、入り口近くにあるわけ」
セキュリティ、低いな。
実際に鍵のある場所を見ると、他の部屋の鍵と一緒にボックスの中に保管されていて、ボックスのドアは開きっぱなしだ。
普通はボックスを閉めて、必要なとき、鍵を管理している先生の許可を得て開けるのだろう。何時に鍵を借りたのか、管理簿もつけて記録を残す。
そうすれば、誰がいつどの鍵を使用したのか管理できるわけだ。
だが、実際にそんなことをしていたらかなりの手間だし、先生方も忙しいのでボックスのドアの鍵は開けっぱなしなんだろうな。
職員室から鍵をどうやって誰にも気づかれずにとったのか、不思議に思っていたのだが、案外簡単に分かってしまったな。
授業中で先生方は出払っているし、職員室のドアをそっと開けて、中の様子を確認してから素早く鍵をとれば、誰にも気づかれずにとれそうだ。
「どうしたの、庄川君。藤堂先輩の事、じっと見つめて」
白部の問いに、庄川は慌てて顔を背ける。
なんだ? 俺に何か言いたいことがあるのか? 早速、事件の事で気づいたことがあるのか?
「庄川君。言いたいことがあったら遠慮なく言ってくれ。何気ない一言が事件の突破口になるかもしれない」
「いや、これは言わないほうがいいと思って」
言わない方がいい? 不味いことでもあるのか?
そう言われると余計に気になるだろうが。
「頼む、言ってみてくれ」
「……怒りません?」
「? 内容次第だが」
「だったら、やめときます。俺、藤堂先輩に喧嘩売りたくないんで」
喧嘩を売る?
ますます理解できないぞ。
「庄川君。ちゃんと藤堂先輩に報告して」
白部の言葉に、庄川はテレくさそうに考え込んでいたが、しばらくして、意を決した顔で俺に伝えてきた。
「いや、さっきの藤堂先輩と白部のやりとりがそのおかしいと思ってさ」
「おかしい?」
何かおかしな点があったか?
俺は白部と視線を交わすが、白部も心当たりはないらしい。どういうことだ?
「だって、女の子の白部に更衣室の鍵はどこなのかって真剣に尋ねる藤堂先輩がちょっと変態っぽくって……ってウソウソ! 睨まないで!」
ったく、本当にくだらないことを言いやがって。期待して損しただろうが。
気のせいか、白部が顔を真っ赤にして俺から距離をとっているような気がする。平村なんて、白部の後ろに隠れている。
俺はため息をついた。
「茶化すな。俺は本気で事件の事を……」
「わ、私、分かっていますから! 男の子ってそんなことばかり考えちゃうってことですよね! それが正常だって」
「全然分かってないだろうが!」
平村のフォローが下手すぎて泣けてくるわ!
白部は耳を赤くしたまま、まだ黙って顔を背けているし、この空気、どうしたらいいんだ?
俺はなんとかしろと庄川を思いっきり睨みつけているが。
「だから言ったじゃないですか! どうでもいいことだって! ガチなことなら、ちゃんと話しますから」
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