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二十九章
二十九話 バラ その十
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「待ちなさいよ、ほのか」
「美月さん? どうしたの? メンバーの人達は?」
「FLCの近藤さん達と踊ってるわ。ほのか、暇なら私と踊って」
「別にいいですけど」
本当に奇妙なことが続くよね。私はまた男の子側に並んで、美月さんと踊り始める。不機嫌そうな顔をしているけど、何かあったとみるべきだよね?
美月さんが不機嫌な理由って、やっぱりあれだよね?
「あ、あの……おしかったですよね、ゴールデン青島賞」
「全然おしくないわよ! なんなの、あのグループは!」
そう、ヒューズはゴールデン青島賞を取れなかった。今年のゴールデン青島賞は、スクールアイドルのフェイズが勝ち取った。
フェイズ。
それはイケメン男子グループによるスクールアイドル。従来は女の子がスクールアイドルをやっているんだけど、その常識を打ち破り、日本初の男子スクールアイドルが結成された。
その目新しさと容姿で女の子の票を獲得。見事、優勝となった。
世の中、無常だよね。獅子王さんや馬淵先輩達が無理でも、園田先輩の演劇部や美月さん達のヒューズがゴールデン青島賞をとってほしかった。
所詮は容姿ってとこなのかな? でも、容姿だってみんな、負けてないんだけどな。
「メンバーのみんなもおかしいわよ! 負けたのに仲良くおどちゃってさ。全然楽しめる気にならないわ」
それなら、なぜ私と踊っているわけ? ストレス発散なのかな?
そう思っていたら、美月さんが真剣なまなざしで私を見つめてきた。
「……ほのか、ありがとね。あなたのおかげで吹っ切れたわ。いろんなことからね」
吹っ切れたとは、押水先輩の事だよね。失恋から立ち直ったってことでいいのかな……。
「私こそ、ごめんなさい。ヒューズのみんなを傷つけてしまって」
「もういいって言ってるでしょ! いつまでも混ぜ返さないの!」
「えええっ! 今、美月さんから言ってきたことでしょ!」
「いいのよ、私は。早い者勝ちって言葉、知らないの?」
「絶対に意味が違いますから!」
私と美月さんはお互い笑ってしまった。本当に奇妙な縁。美月さんは私の事を恨んでいたのに、今では仲良く踊っている。
曲が終わり、礼をして手を離す。
「踊ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ」
これで別れるはずだった。でも、美月さんは私の事を睨んでいる。
えっ? 私、何かしちゃった?
美月さんは不満げに私に言ってきた。
「ねえ、ほのか。私の事、呼び捨てにしてよ。私が呼び捨てで、ほのかがさん付けっておかしいでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
「ねえ、虫のいい話だとは思うけど、私、ほのかの事、友達だって思ってる。私の態度が悪かったのは謝るわ。ごめん。だから、呼び捨てにしてほしいの。対等であってほしいから」
それは私の事を許してくれるって事? だとしたら、嬉しいな。せっかくのご厚意だし、受け取らせてもらおう。
「分かった。じゃあ、またね……美月」
「そうね。またね……ほのか」
お互いテレくさくて、顔をそむけてしまう。でも、心地よかった。美月とは今後も仲良くやっていけると思う。
ヒューズ、頑張ってね。次はフェイズに勝てると信じてるから。
「ほのっち!」
「きゃ! そ、園田先輩!」
「会いたかったよ~、すりすり」
園田先輩の柔らかい頬が私の頬をさすってくる。今度は園田先輩ね。休む暇もない。
園田先輩はうれしそうに私と踊ってくれている。その無邪気な笑顔に、私もつられてしまう。
一個年上の先輩なのに、同い年のようなフレンドリーな態度のおかげで、私も気を遣わなくていいから楽しい。
「ごめんね、ほのっち。私の事、嫌いになった?」
「いえ。私、園田先輩の事、好きですよ」
「ほのっち! 大好き!」
うわっ! これはもうフォークダンスじゃなくて、園田先輩にいいように抱きつかれているだけ。ちょっとこそばゆい。
園田先輩とはいろいろあったけど、これからも仲良くできそう。できることなら、演劇をしていないゆるい園田先輩と仲良くやっていきたいな。
園田先輩に何度もハグされ、最後は満足げに園田先輩は去っていった。
さて、今度こそクラスの打ち上げの会場を予約にいこう。お店は混んでいるから、カラオケがいいかな。
あそこなら人も入れるし、騒いでも問題ないよね。
「伊藤、ここにいたか」
「二上先輩ですか。もしかして、一緒に踊りましょうとか? そんなわけないですよね?」
「その通りだ。いくぞ」
ちょっと! 強引なんだから!
私は二上先輩に手を引かれ、また輪に加わる。もしかして、私のモテ期? そんなわけないか。一緒に踊った人の半分以上は女の子だし。
そう考えると、私って同性にモテるとか? それこそないか。
私と二上先輩はおじぎをして、踊り出す。
陽気なカントリーミュージックにあわせて、体を動かすんだけど、やはり二上先輩はイケメン。ちゃんとエスコートしてくれる。
こういう気遣いをいつもしてくれたらいいのに。でも、女の子に媚びない男らしさが女の子を惹きつけるんだろうな。
私はふいに、くるみの事を思い出した。
失恋して、恋をすることに臆病になった女の子。彼女は今も報われない恋を続けているのかな?
なんとかしてあげたいけど、くるみは自分の意志でやっている。助けを求めてきたわけではない。
きっと友達なら、理由なんかなくても助けるんだろうけど、くるみの失恋には私も関わっている。
だから、何も言えない。どうしたらいいの?
「おい、伊藤」
「は、はい!」
二上先輩の声に考えていたことが止まってしまう。いけない、今は二上先輩と踊っている。
迷惑をかけないよう、注意しないと。いい加減、毒舌を聞くのはキツい。
「ありがとな。お前のおかげで、はるとは前に進めたみたいだ」
「そういえば、馬淵先輩と本庄先輩はどうなったんですか?」
「あれを見ろ」
二上先輩の視線を追うと、そこには本庄先輩と秋庭先輩が踊っている。その姿を馬淵先輩が見守っている。
あれ? またなの。確か、お昼に見かけたときもそうだったような……。
「秋庭はまるで子猫を護る母猫のようだ。はるとが本庄に近づこうとすると、秋庭が必ず邪魔する」
なるほど、二上先輩の例えは分かりやすい。つい笑ってしまった。
もしかして、あれも三角関係なのかな? 前途多難っぽいけど、あの三人は笑っているし、これはこれで青春なのかも。
「あの三人、幸せになってほしいですね」
「とんでもない修羅場になるかもな」
「……」
「冗談だ」
う、うわ~、二上先輩が冗談を言ったよ。これってレアイベントだよね? 今日ってレアブーストの日なの?
二上先輩はフォークダンスが終わるとさっさっといってしまった。事後報告をしに来てくれたのかな?
そう思っていたら、また二上先輩が戻ってきた。
「言い忘れた。お前も打ち上げにこい。場所と時間はメールする」
「打ち上げ?」
「出し物の打ち上げに決まっているだろ? バカなのか、お前は」
えええっ~、二上先輩と絡むの難しい~。バカ扱いされない日なんて、私にはないんじゃない?
けど、打ち上げに誘ってくれるんだ。うれしいな。
「誘っていただき、ありがとうございます。ですが……」
「あっれ~、ほのかじゃん! ヤッホー」
「ほのか、どうしたの? 二上先輩と何か話してるけど」
よ、よっちーに詩織? どうしてここに?
突然のクラスメイトの登場に、私は驚いたんだけど、二上先輩は顔色一つ変えずにいる。
この人の心臓って何で出来ているのってときどき思うんだよね。それより、今は二人の事が優先。
「ねえ、ほのか。これってどういうことかな? 説明よろ」
よっちーは笑顔だけど、拒否するなってプレッシャーをかけてくる。私は仕方なく説明する。
「ええっと、二上先輩達の打ち上げに招待されたの。私が誘われたのはちょっとだけ、二上先輩達の出し物を手伝ったから。そのよしみでかな? でも、私にはクラスの打ち上げがあるから、拒否しよっかなって……うげっ!」
「そうなんですか~。あの、二上先輩、私達も参加してもいいですか~?」
「……私達? キミ達二人が参加したいって事か?」
「はい!」
「それならかまわないが」
「「やった!」」
「「「ちょっと待った!」」」
「げっ! 奈々子! それにみんな!」
「抜け駆けはいけませんな~詩織。ここはみんな仲良くしなきゃね!」
「二上先輩~。私達も参加したいです~」
「……」
ちょ、ちょっと待って……ポンポン痛いんですけど……よっちーの肘鉄がモロに入ったんですけど……。
こんな痛い友情はイヤ! しかも、私、無視されてるし!
私は小声でよっちーと詩織に話しかける。
(ちょっと待って、よっちー、詩織。クラスの打ち上げはどうするつもりなの? それに女子全員が二上先輩達の打ち上げにいくって不味くない? クラスの男子はどうするのよ!)
(そんなの合同ですればいいじゃん)
えええっ~! そんなあっさりと決めていいの? これって結構、重要な事じゃないの?
(それっていろいろと問題なくない?)
(ほのか、バカなの? クラスの男子とイケメン勢揃いの男子、どっちの打ち上げがいいかなんて、考えなくても分かるでしょうに)
ひ、ひどいよね、二人とも。みんなでクラスの出し物、頑張ったのに。その打ち上げを勝手に変更するなんて……。
よっちーや詩織は気づいていないと思うけど、二人のことを密かに想っている男の子がクラスにいるんだよ。
きっと、打ち上げで勇気を出して声をかけるつもりだったのに、二上先輩達がいたら話しかけられないじゃない。
そういえば私、青島祭の最中、クラスの出し物に参加してなかったっけ。うわ~気まずいな。
出し物の事を話されたら、話題に入れないよ。でも、二上先輩や馬淵先輩と話す共通の話題もないし、困ったな。
「殿! ここにいたんですか!」
またややこしい人たちが来ちゃったよ。ううっ、頭痛がしてきた。
「二上君、まだ誘ってなかったの?」
「仕事遅過ぎでしょ~」
「勝手に決めるな。ここにいる女子が俺達の打ち上げに参加したいって言うから、どうしたものか考えていたんだ」
「何の問題もナッシングでしょ。来ちゃえばいいじゃね?」
「殿の知り合いならいいっしょ」
「ええ~いいんですか~? それならお邪魔しよっか」
「断ったら悪いもんね」
いや、違うでしょ。あんたらが強引に参加したいって言ったんでしょうが!
まっいっか。クラスの出し物にあまり参加できなかったし、これでチャラにしてもらおう。
私一人で二上先輩の打ち上げにいったら、きっと村八分されるし、これでよかったのかも。
「善は急げだ! 殿、いきましょう!」
「やっぱ英雄がいなきゃ始まらないでしょ!」
「ふっ、救世主のいない晩餐に何の意味がある」
「……ねえ、ほのか。これってどういうこと? 殿ってなに? 救世主って誰?」
「あははっ」
よっちーの問いに私は乾いた笑いしか出てこなかった。
新見先生の決定事項を覆して以来、私の呼び名が一気に増えた。
殿だけでなく、英雄、救世主、挙句の果ては青島のジャンヌダルクとか意味分からない名前までいただいてしまった。
私でもよく分かっていないことをどう話せばいいのやら。
今分かっているのは、打ち上げは退屈しなさそうだということだけ。
そう思っていたら、ポケットの中に入れていたスマホが震えた。
メール? 誰から?
キャンプファイヤーの手伝いをしていたから、マナーモードにしてたんだっけ。差出人を見ると……く、黒井さん?
ど、どうしよう……お昼の事があるから、あまり見たくないんだけど……で、でも、黒井さんが何の用もなくメールを送ってくるわけないし……。
お昼の件でメールを送られても、どう反応していいか分からない。
私は先輩の事が好きだから、御堂先輩に負けたくないし、譲りたくもない。だから、黒井さんの想いには応えられない。
だけど、今後もお付き合いがあるから、早い目になんとかしておきたい。
それに、助けられてばかりだし……やっぱり、見るっきゃないよね。
私は深呼吸一つして、メールの内容を確認……。
「おい、伊藤! 早くしろ!」
「は、はい!」
二上先輩に怒鳴られて、私は慌ててスマホをポケットにしまう。
そして、そのままよっちー達に背中を押されてしまい、見る機会を失ってしまった。
ま、また後で確認すればいいよね? 今は嫌な事、忘れて騒いでもいいよね?
罪悪感を無理やり押さえこんで、私はそのまま、二上先輩達と合流する。
クラスのみんなと二上先輩と男の子達、馬淵先輩に本庄先輩、秋庭先輩の大所帯で、私達はクラブを貸し切って打ち上げをした。
二上先輩から、
「打ち上げを当日になって予約するだと? バカかお前は。そんなことできるわけないだろ?」
と、ありがたいお言葉をいただいた。ちなみに、バカ扱いされたのは私だけで、他の女の子には優しい二上先輩だった。
納得いかないわ~。
みんなで飲んで、食べて、歌って、踊って、バカ騒ぎして大笑いした。誰もが笑顔で、打ち上げを楽しんだ。
二次会にも参加して、目一杯遊んだ。もう、ホント、青春してますってカンジ。
先輩がいないのが寂しかったけど、これはこれでいいよね。
来年こそ、絶対に先輩も打ち上げに参加させて、一緒にはしゃごう。頑張ったご褒美はあっていいはず。
先輩もみんなの輪に入って、幸せを感じてほしい。
そうしていけばきっと、先輩は欲しかった絆を手にいれることができるかもしれない。誰かの絆を試すような真似をしなくてすむかもしれない。
できれば、私と先輩が強い絆で結ばれたいんだけどね。
帰るのが遅くなってママに怒られるといったお約束もしたし、後は寝るだけ。
明日は休みだから、お昼までゆっくりと寝てしまおう。
おやすみなさい、先輩。
私はベットに入ると、すぐに眠りについた。
「美月さん? どうしたの? メンバーの人達は?」
「FLCの近藤さん達と踊ってるわ。ほのか、暇なら私と踊って」
「別にいいですけど」
本当に奇妙なことが続くよね。私はまた男の子側に並んで、美月さんと踊り始める。不機嫌そうな顔をしているけど、何かあったとみるべきだよね?
美月さんが不機嫌な理由って、やっぱりあれだよね?
「あ、あの……おしかったですよね、ゴールデン青島賞」
「全然おしくないわよ! なんなの、あのグループは!」
そう、ヒューズはゴールデン青島賞を取れなかった。今年のゴールデン青島賞は、スクールアイドルのフェイズが勝ち取った。
フェイズ。
それはイケメン男子グループによるスクールアイドル。従来は女の子がスクールアイドルをやっているんだけど、その常識を打ち破り、日本初の男子スクールアイドルが結成された。
その目新しさと容姿で女の子の票を獲得。見事、優勝となった。
世の中、無常だよね。獅子王さんや馬淵先輩達が無理でも、園田先輩の演劇部や美月さん達のヒューズがゴールデン青島賞をとってほしかった。
所詮は容姿ってとこなのかな? でも、容姿だってみんな、負けてないんだけどな。
「メンバーのみんなもおかしいわよ! 負けたのに仲良くおどちゃってさ。全然楽しめる気にならないわ」
それなら、なぜ私と踊っているわけ? ストレス発散なのかな?
そう思っていたら、美月さんが真剣なまなざしで私を見つめてきた。
「……ほのか、ありがとね。あなたのおかげで吹っ切れたわ。いろんなことからね」
吹っ切れたとは、押水先輩の事だよね。失恋から立ち直ったってことでいいのかな……。
「私こそ、ごめんなさい。ヒューズのみんなを傷つけてしまって」
「もういいって言ってるでしょ! いつまでも混ぜ返さないの!」
「えええっ! 今、美月さんから言ってきたことでしょ!」
「いいのよ、私は。早い者勝ちって言葉、知らないの?」
「絶対に意味が違いますから!」
私と美月さんはお互い笑ってしまった。本当に奇妙な縁。美月さんは私の事を恨んでいたのに、今では仲良く踊っている。
曲が終わり、礼をして手を離す。
「踊ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ」
これで別れるはずだった。でも、美月さんは私の事を睨んでいる。
えっ? 私、何かしちゃった?
美月さんは不満げに私に言ってきた。
「ねえ、ほのか。私の事、呼び捨てにしてよ。私が呼び捨てで、ほのかがさん付けっておかしいでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
「ねえ、虫のいい話だとは思うけど、私、ほのかの事、友達だって思ってる。私の態度が悪かったのは謝るわ。ごめん。だから、呼び捨てにしてほしいの。対等であってほしいから」
それは私の事を許してくれるって事? だとしたら、嬉しいな。せっかくのご厚意だし、受け取らせてもらおう。
「分かった。じゃあ、またね……美月」
「そうね。またね……ほのか」
お互いテレくさくて、顔をそむけてしまう。でも、心地よかった。美月とは今後も仲良くやっていけると思う。
ヒューズ、頑張ってね。次はフェイズに勝てると信じてるから。
「ほのっち!」
「きゃ! そ、園田先輩!」
「会いたかったよ~、すりすり」
園田先輩の柔らかい頬が私の頬をさすってくる。今度は園田先輩ね。休む暇もない。
園田先輩はうれしそうに私と踊ってくれている。その無邪気な笑顔に、私もつられてしまう。
一個年上の先輩なのに、同い年のようなフレンドリーな態度のおかげで、私も気を遣わなくていいから楽しい。
「ごめんね、ほのっち。私の事、嫌いになった?」
「いえ。私、園田先輩の事、好きですよ」
「ほのっち! 大好き!」
うわっ! これはもうフォークダンスじゃなくて、園田先輩にいいように抱きつかれているだけ。ちょっとこそばゆい。
園田先輩とはいろいろあったけど、これからも仲良くできそう。できることなら、演劇をしていないゆるい園田先輩と仲良くやっていきたいな。
園田先輩に何度もハグされ、最後は満足げに園田先輩は去っていった。
さて、今度こそクラスの打ち上げの会場を予約にいこう。お店は混んでいるから、カラオケがいいかな。
あそこなら人も入れるし、騒いでも問題ないよね。
「伊藤、ここにいたか」
「二上先輩ですか。もしかして、一緒に踊りましょうとか? そんなわけないですよね?」
「その通りだ。いくぞ」
ちょっと! 強引なんだから!
私は二上先輩に手を引かれ、また輪に加わる。もしかして、私のモテ期? そんなわけないか。一緒に踊った人の半分以上は女の子だし。
そう考えると、私って同性にモテるとか? それこそないか。
私と二上先輩はおじぎをして、踊り出す。
陽気なカントリーミュージックにあわせて、体を動かすんだけど、やはり二上先輩はイケメン。ちゃんとエスコートしてくれる。
こういう気遣いをいつもしてくれたらいいのに。でも、女の子に媚びない男らしさが女の子を惹きつけるんだろうな。
私はふいに、くるみの事を思い出した。
失恋して、恋をすることに臆病になった女の子。彼女は今も報われない恋を続けているのかな?
なんとかしてあげたいけど、くるみは自分の意志でやっている。助けを求めてきたわけではない。
きっと友達なら、理由なんかなくても助けるんだろうけど、くるみの失恋には私も関わっている。
だから、何も言えない。どうしたらいいの?
「おい、伊藤」
「は、はい!」
二上先輩の声に考えていたことが止まってしまう。いけない、今は二上先輩と踊っている。
迷惑をかけないよう、注意しないと。いい加減、毒舌を聞くのはキツい。
「ありがとな。お前のおかげで、はるとは前に進めたみたいだ」
「そういえば、馬淵先輩と本庄先輩はどうなったんですか?」
「あれを見ろ」
二上先輩の視線を追うと、そこには本庄先輩と秋庭先輩が踊っている。その姿を馬淵先輩が見守っている。
あれ? またなの。確か、お昼に見かけたときもそうだったような……。
「秋庭はまるで子猫を護る母猫のようだ。はるとが本庄に近づこうとすると、秋庭が必ず邪魔する」
なるほど、二上先輩の例えは分かりやすい。つい笑ってしまった。
もしかして、あれも三角関係なのかな? 前途多難っぽいけど、あの三人は笑っているし、これはこれで青春なのかも。
「あの三人、幸せになってほしいですね」
「とんでもない修羅場になるかもな」
「……」
「冗談だ」
う、うわ~、二上先輩が冗談を言ったよ。これってレアイベントだよね? 今日ってレアブーストの日なの?
二上先輩はフォークダンスが終わるとさっさっといってしまった。事後報告をしに来てくれたのかな?
そう思っていたら、また二上先輩が戻ってきた。
「言い忘れた。お前も打ち上げにこい。場所と時間はメールする」
「打ち上げ?」
「出し物の打ち上げに決まっているだろ? バカなのか、お前は」
えええっ~、二上先輩と絡むの難しい~。バカ扱いされない日なんて、私にはないんじゃない?
けど、打ち上げに誘ってくれるんだ。うれしいな。
「誘っていただき、ありがとうございます。ですが……」
「あっれ~、ほのかじゃん! ヤッホー」
「ほのか、どうしたの? 二上先輩と何か話してるけど」
よ、よっちーに詩織? どうしてここに?
突然のクラスメイトの登場に、私は驚いたんだけど、二上先輩は顔色一つ変えずにいる。
この人の心臓って何で出来ているのってときどき思うんだよね。それより、今は二人の事が優先。
「ねえ、ほのか。これってどういうことかな? 説明よろ」
よっちーは笑顔だけど、拒否するなってプレッシャーをかけてくる。私は仕方なく説明する。
「ええっと、二上先輩達の打ち上げに招待されたの。私が誘われたのはちょっとだけ、二上先輩達の出し物を手伝ったから。そのよしみでかな? でも、私にはクラスの打ち上げがあるから、拒否しよっかなって……うげっ!」
「そうなんですか~。あの、二上先輩、私達も参加してもいいですか~?」
「……私達? キミ達二人が参加したいって事か?」
「はい!」
「それならかまわないが」
「「やった!」」
「「「ちょっと待った!」」」
「げっ! 奈々子! それにみんな!」
「抜け駆けはいけませんな~詩織。ここはみんな仲良くしなきゃね!」
「二上先輩~。私達も参加したいです~」
「……」
ちょ、ちょっと待って……ポンポン痛いんですけど……よっちーの肘鉄がモロに入ったんですけど……。
こんな痛い友情はイヤ! しかも、私、無視されてるし!
私は小声でよっちーと詩織に話しかける。
(ちょっと待って、よっちー、詩織。クラスの打ち上げはどうするつもりなの? それに女子全員が二上先輩達の打ち上げにいくって不味くない? クラスの男子はどうするのよ!)
(そんなの合同ですればいいじゃん)
えええっ~! そんなあっさりと決めていいの? これって結構、重要な事じゃないの?
(それっていろいろと問題なくない?)
(ほのか、バカなの? クラスの男子とイケメン勢揃いの男子、どっちの打ち上げがいいかなんて、考えなくても分かるでしょうに)
ひ、ひどいよね、二人とも。みんなでクラスの出し物、頑張ったのに。その打ち上げを勝手に変更するなんて……。
よっちーや詩織は気づいていないと思うけど、二人のことを密かに想っている男の子がクラスにいるんだよ。
きっと、打ち上げで勇気を出して声をかけるつもりだったのに、二上先輩達がいたら話しかけられないじゃない。
そういえば私、青島祭の最中、クラスの出し物に参加してなかったっけ。うわ~気まずいな。
出し物の事を話されたら、話題に入れないよ。でも、二上先輩や馬淵先輩と話す共通の話題もないし、困ったな。
「殿! ここにいたんですか!」
またややこしい人たちが来ちゃったよ。ううっ、頭痛がしてきた。
「二上君、まだ誘ってなかったの?」
「仕事遅過ぎでしょ~」
「勝手に決めるな。ここにいる女子が俺達の打ち上げに参加したいって言うから、どうしたものか考えていたんだ」
「何の問題もナッシングでしょ。来ちゃえばいいじゃね?」
「殿の知り合いならいいっしょ」
「ええ~いいんですか~? それならお邪魔しよっか」
「断ったら悪いもんね」
いや、違うでしょ。あんたらが強引に参加したいって言ったんでしょうが!
まっいっか。クラスの出し物にあまり参加できなかったし、これでチャラにしてもらおう。
私一人で二上先輩の打ち上げにいったら、きっと村八分されるし、これでよかったのかも。
「善は急げだ! 殿、いきましょう!」
「やっぱ英雄がいなきゃ始まらないでしょ!」
「ふっ、救世主のいない晩餐に何の意味がある」
「……ねえ、ほのか。これってどういうこと? 殿ってなに? 救世主って誰?」
「あははっ」
よっちーの問いに私は乾いた笑いしか出てこなかった。
新見先生の決定事項を覆して以来、私の呼び名が一気に増えた。
殿だけでなく、英雄、救世主、挙句の果ては青島のジャンヌダルクとか意味分からない名前までいただいてしまった。
私でもよく分かっていないことをどう話せばいいのやら。
今分かっているのは、打ち上げは退屈しなさそうだということだけ。
そう思っていたら、ポケットの中に入れていたスマホが震えた。
メール? 誰から?
キャンプファイヤーの手伝いをしていたから、マナーモードにしてたんだっけ。差出人を見ると……く、黒井さん?
ど、どうしよう……お昼の事があるから、あまり見たくないんだけど……で、でも、黒井さんが何の用もなくメールを送ってくるわけないし……。
お昼の件でメールを送られても、どう反応していいか分からない。
私は先輩の事が好きだから、御堂先輩に負けたくないし、譲りたくもない。だから、黒井さんの想いには応えられない。
だけど、今後もお付き合いがあるから、早い目になんとかしておきたい。
それに、助けられてばかりだし……やっぱり、見るっきゃないよね。
私は深呼吸一つして、メールの内容を確認……。
「おい、伊藤! 早くしろ!」
「は、はい!」
二上先輩に怒鳴られて、私は慌ててスマホをポケットにしまう。
そして、そのままよっちー達に背中を押されてしまい、見る機会を失ってしまった。
ま、また後で確認すればいいよね? 今は嫌な事、忘れて騒いでもいいよね?
罪悪感を無理やり押さえこんで、私はそのまま、二上先輩達と合流する。
クラスのみんなと二上先輩と男の子達、馬淵先輩に本庄先輩、秋庭先輩の大所帯で、私達はクラブを貸し切って打ち上げをした。
二上先輩から、
「打ち上げを当日になって予約するだと? バカかお前は。そんなことできるわけないだろ?」
と、ありがたいお言葉をいただいた。ちなみに、バカ扱いされたのは私だけで、他の女の子には優しい二上先輩だった。
納得いかないわ~。
みんなで飲んで、食べて、歌って、踊って、バカ騒ぎして大笑いした。誰もが笑顔で、打ち上げを楽しんだ。
二次会にも参加して、目一杯遊んだ。もう、ホント、青春してますってカンジ。
先輩がいないのが寂しかったけど、これはこれでいいよね。
来年こそ、絶対に先輩も打ち上げに参加させて、一緒にはしゃごう。頑張ったご褒美はあっていいはず。
先輩もみんなの輪に入って、幸せを感じてほしい。
そうしていけばきっと、先輩は欲しかった絆を手にいれることができるかもしれない。誰かの絆を試すような真似をしなくてすむかもしれない。
できれば、私と先輩が強い絆で結ばれたいんだけどね。
帰るのが遅くなってママに怒られるといったお約束もしたし、後は寝るだけ。
明日は休みだから、お昼までゆっくりと寝てしまおう。
おやすみなさい、先輩。
私はベットに入ると、すぐに眠りについた。
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