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二十二章
二十二話 キブシ -嘘- その六
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「……のか、ほのか!」
「ん? 何?」
明日香の声に考え事を中断する。今は二時間目で、授業は先生が休みで自習になった。
与えられた課題は終わって、劇に必要なものを準備していたんだけど、昨日の馬淵先輩の事や新聞部の事を考え込んでいた。
馬淵先輩が薄情と言ったとき、何を言えば想いを伝えることができたのだろう。
失恋の痛みを感じないからといって薄情とは思えない。だって馬淵先輩の顔、すごく辛そうだったもん……。
変な考えだとは自覚してるけど、失恋したらどんな反応が正しいんの? んん……やっぱり変な考えだよね。正しい反応なんてあるの? 答えがそもそも存在するの? こんなことを考えて意味はあるの?
ダメ、さっぱり分からない。そんな私の言葉が馬淵先輩に届くわけがない。分かるわけないよ、そんなこと……。
自分の周りで傷ついている人がいたら、その傷を和らげてあげたい。なのに、それができない。
だから、何度でも悩んでしまう。諦めきれない。この無限ループ、なんとかならないのかな?
「ねえ、ほのか! 聞いてるし?」
「ごめん、何?」
「課題出来たし? それなら見せてほしいし」
「……丸写しはやめてよ。ちゃんといくつか答えを変えてね」
「OK」
明日香は私の課題のプリントを取り上げ、るりかと一緒にうつしている。
他の皆は課題を終え、近くの席の子とおしゃべりをしている。話題は青島祭のこと。
昨日の新聞部の件は橘先輩が裏から手をまわしてくれたのか発表されていない。皆にかるくさぐりをいれたけど、噂にもなっていなかった。
余計な心配をかけたくないので獅子王さんに話していないけど、黙っているのは罪悪感があるな~。もう、余計な心配ごと増やさないでよ!
「ねえ、ほのほの。また何か悩みがあるの? しかめっ面になってるよ」
「……聞いてよ、るりか~」
新聞部の事は話せない。何を話せばって考えていたら、先輩の顔が浮かんだ。
気が付くと、昨日の先輩とのやりとりをるりか達に話していた。最初はただ新聞部の事を誤魔化すために話していたけど、話が進むにつれ、だんだん腹が立ってきた。
気まずいって何? みんなに迷惑がかかる? なんで私が悪いみたいな感じになっちゃってるのよ!
全部先輩達の都合じゃない! そんなもの、私に押し付けないでよ!
きっと、明日香とるりかなら私の気持ちを分かってくれるはず。同じ女の子だし、共感してくれるよね!
「……てなわけなんだけど、ひどいよね」
「それはひどいし」
「だよね! そうだよね! ひどいよね!」
「ひどいのはほのほのだから」
えっ、私? 聞き間違いかな? るりかは分かってくれなかった。明日香なら分かってくれるよね。
そう期待して、視線を明日香に向けると……。
「全くだし。いい加減にするし。ほのほの我儘だし」
全然共感してもらえなかった!
明日香もるりかも呆れたような顔で私を睨んでいる。
「えっ? なんで? 私が悪いの?」
「悪くないし。でも、大人になるし。ねえ、ほのか。藤堂先輩の事、なんでもできる、分かってもらえる、そんな超人みたいに思っていない? 藤堂先輩だって間違えることはあるし。自分の気持ちに気づいてほしいって思うのはわかるけど、もっと藤堂先輩の気持ちも考えるし」
そりゃ正論だけど……そんな回答、期待してないよ~。
それに……。
「な、なんで明日香が藤堂先輩をかばうのよ。やっぱり……」
「それだよ、ほのほの。人にあたりすぎ。いつまでもいじけている姿見てると、こっちまで憂鬱になるからやめてよね」
ううっ、まさかのダメだし……ってことないか。確かに落ち込んでいる姿をずっと見せたら嫌な気分になっちゃうよね。
でもでも、やっぱり雰囲気が悪くなるって理由で仲直りはないよ。絶対に納得いかない! そこは分かってほしい!
だから、きっぱりと言ってやるんだから!
「あ、あの~でも~その……ひどくないっすか? いくらなんでも、仲直りしたい理由が……その……周りを気にしてというのは……理由的にダメとは……ちょっとちょ~と思うんですけど。こ、これは一般論としての意見であって、その……愚痴ではありませんので……」
「はあ……そんなの口実だし」
「こ、口実? どういうこと?」
私は身を乗り出して明日香の意見を聞く。明日香はため息をついて背をそらし、私から距離をとる。
「あんなゴツい藤堂先輩が面向かって、年下の女の子に仲直りしたいなんて言えないっしょ。テレくさいから適当な理由をつけただけだし」
「なんでそんなことが言い切れるのよ」
「……相談されたのよ、藤堂先輩に」
な、なんでるりかや明日香に先輩が相談するの? 先輩が他の女……。
「い、いひゃいいひゃい!」
いきなり明日香とるりかが頬をつまんできた! い、意味が分からない!
「そうやってまた嫉妬する。誤解しないでほしいんだけど、あーしら、最初は藤堂先輩に苦情を言いにいったのよ。ほのほのを泣かすなって。そしたら、藤堂先輩、かなり落ち込んだのよ」
「お、落ち込んだの?」
「ほのか、頬が緩んでるし」
いや、無理でしょ? 好きな人が私の事で落ち込んでくれたなんて嬉しすぎる。
なんとも思われていなかったらショックだけど、気にしてくれたことが嬉しい。
「べ、別にいいでしょ! それより、先輩の事、いじめないでよ!」
「誰のせいでこんなことになってるし。まあ、そのとき、藤堂先輩に相談されたし。どうしたら、ほのかと仲直りできるかって。だからるりかと一緒に考えて作戦を立てたのに……」
「そ、そうなんだ……」
なんでかな、すごく申し訳ない気持ちになる。でも、私、悪くないはずだよね? でも、先輩、私のこと、考えてくれていたんだ。
何か胸の奥にあたたかいものがこみあげてくる。もう、意地を張っていても仕方ない。
大切なのは先輩と仲直りすること。今は恋人は無理でも、いつかきっとなれるよね。だったら、じっとしていられない。
私は席を立つ。善は急げ。先輩に会いにいこう。先輩に会いたい……今すぐ会いたい!
「ありがとう、るりか、明日香。私、先輩と仲直りしてくる!」
「ちょっ!」
「ちょっと、ほのほの!」
るりかと明日香の制止の声をふりきり、私は教室を飛び出した。
廊下を走り、階段を上がり、先輩の教室の前に立つ。
どきどきが止まらない。息が整わない。落ち着かない。一秒でも早く先輩に会いたいのに落ち着いてくれない!
あんなことを言っておいて、今更って感じはする。でも、もうこれ以上、意地を張って先輩とすれ違いのはイヤ。今度は私から言うの。
仲直りしましょう……。
その一言を伝えたい。
先輩、私の昨日の態度、怒ってないかな? でも、先輩に怒られても、謝って許してもらおう。素直になって……自分の気持ちを伝えよう。
先輩とお話がしたい……一緒にいたい……笑っていたい……。
ドアを開ける前に深呼吸をする。よし、いこう!
ガラガラガラガラガラ!
「先輩! 仲直りしてください!」
私は大声で叫んだ。抑えきれない気持ちがあふれて一気に話してしまった。
は、恥ずかしい……でも、これが私の本当の気持ち。嘘偽りのない想い。
私の想いに先輩は……唖然としていた。先輩だけではない、クラス中のみなさんがこっちを黙ってみている。
あ、あれ? なんでみなさん、私に注目しているの?
「キミ、何用かね?」
せ、先生? なんで先生がいるの?
異様な雰囲気にようやく気が付く。
今って……授業中だった! は、恥ずかしい!
何をしていいのか分からず、そのまま固まってしまう。
どうしよう……この空気……。
「ん? 何?」
明日香の声に考え事を中断する。今は二時間目で、授業は先生が休みで自習になった。
与えられた課題は終わって、劇に必要なものを準備していたんだけど、昨日の馬淵先輩の事や新聞部の事を考え込んでいた。
馬淵先輩が薄情と言ったとき、何を言えば想いを伝えることができたのだろう。
失恋の痛みを感じないからといって薄情とは思えない。だって馬淵先輩の顔、すごく辛そうだったもん……。
変な考えだとは自覚してるけど、失恋したらどんな反応が正しいんの? んん……やっぱり変な考えだよね。正しい反応なんてあるの? 答えがそもそも存在するの? こんなことを考えて意味はあるの?
ダメ、さっぱり分からない。そんな私の言葉が馬淵先輩に届くわけがない。分かるわけないよ、そんなこと……。
自分の周りで傷ついている人がいたら、その傷を和らげてあげたい。なのに、それができない。
だから、何度でも悩んでしまう。諦めきれない。この無限ループ、なんとかならないのかな?
「ねえ、ほのか! 聞いてるし?」
「ごめん、何?」
「課題出来たし? それなら見せてほしいし」
「……丸写しはやめてよ。ちゃんといくつか答えを変えてね」
「OK」
明日香は私の課題のプリントを取り上げ、るりかと一緒にうつしている。
他の皆は課題を終え、近くの席の子とおしゃべりをしている。話題は青島祭のこと。
昨日の新聞部の件は橘先輩が裏から手をまわしてくれたのか発表されていない。皆にかるくさぐりをいれたけど、噂にもなっていなかった。
余計な心配をかけたくないので獅子王さんに話していないけど、黙っているのは罪悪感があるな~。もう、余計な心配ごと増やさないでよ!
「ねえ、ほのほの。また何か悩みがあるの? しかめっ面になってるよ」
「……聞いてよ、るりか~」
新聞部の事は話せない。何を話せばって考えていたら、先輩の顔が浮かんだ。
気が付くと、昨日の先輩とのやりとりをるりか達に話していた。最初はただ新聞部の事を誤魔化すために話していたけど、話が進むにつれ、だんだん腹が立ってきた。
気まずいって何? みんなに迷惑がかかる? なんで私が悪いみたいな感じになっちゃってるのよ!
全部先輩達の都合じゃない! そんなもの、私に押し付けないでよ!
きっと、明日香とるりかなら私の気持ちを分かってくれるはず。同じ女の子だし、共感してくれるよね!
「……てなわけなんだけど、ひどいよね」
「それはひどいし」
「だよね! そうだよね! ひどいよね!」
「ひどいのはほのほのだから」
えっ、私? 聞き間違いかな? るりかは分かってくれなかった。明日香なら分かってくれるよね。
そう期待して、視線を明日香に向けると……。
「全くだし。いい加減にするし。ほのほの我儘だし」
全然共感してもらえなかった!
明日香もるりかも呆れたような顔で私を睨んでいる。
「えっ? なんで? 私が悪いの?」
「悪くないし。でも、大人になるし。ねえ、ほのか。藤堂先輩の事、なんでもできる、分かってもらえる、そんな超人みたいに思っていない? 藤堂先輩だって間違えることはあるし。自分の気持ちに気づいてほしいって思うのはわかるけど、もっと藤堂先輩の気持ちも考えるし」
そりゃ正論だけど……そんな回答、期待してないよ~。
それに……。
「な、なんで明日香が藤堂先輩をかばうのよ。やっぱり……」
「それだよ、ほのほの。人にあたりすぎ。いつまでもいじけている姿見てると、こっちまで憂鬱になるからやめてよね」
ううっ、まさかのダメだし……ってことないか。確かに落ち込んでいる姿をずっと見せたら嫌な気分になっちゃうよね。
でもでも、やっぱり雰囲気が悪くなるって理由で仲直りはないよ。絶対に納得いかない! そこは分かってほしい!
だから、きっぱりと言ってやるんだから!
「あ、あの~でも~その……ひどくないっすか? いくらなんでも、仲直りしたい理由が……その……周りを気にしてというのは……理由的にダメとは……ちょっとちょ~と思うんですけど。こ、これは一般論としての意見であって、その……愚痴ではありませんので……」
「はあ……そんなの口実だし」
「こ、口実? どういうこと?」
私は身を乗り出して明日香の意見を聞く。明日香はため息をついて背をそらし、私から距離をとる。
「あんなゴツい藤堂先輩が面向かって、年下の女の子に仲直りしたいなんて言えないっしょ。テレくさいから適当な理由をつけただけだし」
「なんでそんなことが言い切れるのよ」
「……相談されたのよ、藤堂先輩に」
な、なんでるりかや明日香に先輩が相談するの? 先輩が他の女……。
「い、いひゃいいひゃい!」
いきなり明日香とるりかが頬をつまんできた! い、意味が分からない!
「そうやってまた嫉妬する。誤解しないでほしいんだけど、あーしら、最初は藤堂先輩に苦情を言いにいったのよ。ほのほのを泣かすなって。そしたら、藤堂先輩、かなり落ち込んだのよ」
「お、落ち込んだの?」
「ほのか、頬が緩んでるし」
いや、無理でしょ? 好きな人が私の事で落ち込んでくれたなんて嬉しすぎる。
なんとも思われていなかったらショックだけど、気にしてくれたことが嬉しい。
「べ、別にいいでしょ! それより、先輩の事、いじめないでよ!」
「誰のせいでこんなことになってるし。まあ、そのとき、藤堂先輩に相談されたし。どうしたら、ほのかと仲直りできるかって。だからるりかと一緒に考えて作戦を立てたのに……」
「そ、そうなんだ……」
なんでかな、すごく申し訳ない気持ちになる。でも、私、悪くないはずだよね? でも、先輩、私のこと、考えてくれていたんだ。
何か胸の奥にあたたかいものがこみあげてくる。もう、意地を張っていても仕方ない。
大切なのは先輩と仲直りすること。今は恋人は無理でも、いつかきっとなれるよね。だったら、じっとしていられない。
私は席を立つ。善は急げ。先輩に会いにいこう。先輩に会いたい……今すぐ会いたい!
「ありがとう、るりか、明日香。私、先輩と仲直りしてくる!」
「ちょっ!」
「ちょっと、ほのほの!」
るりかと明日香の制止の声をふりきり、私は教室を飛び出した。
廊下を走り、階段を上がり、先輩の教室の前に立つ。
どきどきが止まらない。息が整わない。落ち着かない。一秒でも早く先輩に会いたいのに落ち着いてくれない!
あんなことを言っておいて、今更って感じはする。でも、もうこれ以上、意地を張って先輩とすれ違いのはイヤ。今度は私から言うの。
仲直りしましょう……。
その一言を伝えたい。
先輩、私の昨日の態度、怒ってないかな? でも、先輩に怒られても、謝って許してもらおう。素直になって……自分の気持ちを伝えよう。
先輩とお話がしたい……一緒にいたい……笑っていたい……。
ドアを開ける前に深呼吸をする。よし、いこう!
ガラガラガラガラガラ!
「先輩! 仲直りしてください!」
私は大声で叫んだ。抑えきれない気持ちがあふれて一気に話してしまった。
は、恥ずかしい……でも、これが私の本当の気持ち。嘘偽りのない想い。
私の想いに先輩は……唖然としていた。先輩だけではない、クラス中のみなさんがこっちを黙ってみている。
あ、あれ? なんでみなさん、私に注目しているの?
「キミ、何用かね?」
せ、先生? なんで先生がいるの?
異様な雰囲気にようやく気が付く。
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