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二十一章
二十一話 ハイビスカス -新しい恋- その三
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美月さんの後ろ姿を見つめながら考えていた。押水先輩が転校していった後の失恋した女の子達の事を。
新しい恋を見つけて、元気にやっていると思っていた。実際にくるみや西神先輩は新しい恋をしているところを目撃している。でも、勘違いだった。今なら分かる。
ネットで、失恋の立ち直りは男よりも女の方が早いって書いてあった。だから、早く立ち直れるって思っていた。
でも、違った。人は人、自分は自分って言葉が身に染みる。
大体、本気で人を好きになって、失恋したからすぐさま忘れることなんて、できっこない。
しかも、恋愛経験が少ないのに対応方法なんてわかりっこないよ。
失恋の痛みを忘れようとしても、余計に好きな人の事を考えてしまう。気を抜いたとき、ふとしたときに思いだしてしまう。
先輩との楽しい思い出を。フラれた瞬間を。何度も何度も思い返してしまう。
失恋の立ち直り方の答えがまだみつけることができない。苦しみから解放されたいっていつも思ってる。
でも、解放された時、失恋から立ち直ったとき、どうなってしまうの? 先輩の事を好きでなくなってしまうの?
そんなことが想像できない。だから、今も同じ場所をぐるぐると迷っている。
失恋をした者がたどり着く場所。それはどこなの?
「ついたわよ」
美月さんの言葉がまるで判決を待つ受刑者のような気分。
私はどうしたらいいの? 謝罪するべき? でも、私が謝罪すれば、先輩や橘先輩に迷惑をかけてしまう。先輩達がやってきたことを今になって否定してしまうから。
自分勝手なひどい理由だけど、それでもこれ以上、二人を裏切りたくない。ただでさえ、獅子王さんとのことで迷惑ばかりかけているのに……。
考えがまとまらないまま、美月さんと一緒にたどり着いた場所は三年の教室。美月さんがあわせたい人に思い当たる節がある。
秋庭先輩と本庄先輩。
秋庭先輩と本庄先輩は友人同士で同じ人を好きになった。お互いの友情が壊れるのを覚悟でその人に告白したけど、返事は保留のままで最後まで想いが届くことはなかった。
今、二人はどうしているの?
最後に二人に会ったとき、懇願された。押水先輩を傷つけないでほしいと。その願いを無視して、私達の都合で押水先輩を傷つけてしまった。
あわせる顔はないけど、それでも逃げちゃだめだよね。
美月さんが秋庭先輩を呼んでいる。
秋庭先輩との対面。
相変わらず綺麗な人。ツーサイドアップに整った顔立ちとスタイル、それに大人びた表情が儚くて美しいと思う。失恋した後でもそれは変わらない。
「すみません。お忙しい時に呼び出してしまって」
「別にいいけど。それより、その子……」
「伊藤です。商店街で一度お会いしています」
秋庭先輩は思いだそうとしているけど、思いだせないみたい。それで正解だと思う。自己紹介したわけでもなく、話をしたこともないから。
秋庭先輩とお会いした時、私は先輩の後ろで何も言わずに立っていただけだから。
私の腕章を見て、秋庭先輩はああっと言葉をもらした。
態度は変わることなくどこか冷めたような顔をしている。
「その子が私に何の用なの?」
「私はこの人が押水先輩を追い詰めた一人だと確信しています」
私は美月さんの言葉に何の否定もせずに、ただ黙っていた。
美月さんの言葉に、秋庭先輩はやっぱり何の表情も変えなかった。
「別に、どうでもいいわ」
「あ、秋庭先輩! それでいいんですか! 私はイヤです! 押水先輩を傷つけた人達は謝罪させるべきです!」
「誰に?」
秋庭先輩のそっけない言葉に美月さんの勢いがなくなっていく。
「誰って、私や秋庭先輩に……」
「迷惑よ」
はっきりとした拒絶の言葉に、美月さんは黙ってしまう。
私は思わず訊いてしまった。
「あ、あの本庄先輩はどう思っているんでしょうか?」
本庄先輩の名前が出た途端、何の感情もなかった秋庭先輩の瞳がゆれた。どうして、そんな悲しそうな顔をしているの?
秋庭先輩は私を見て、教えてくれた。
「聞いてないの? もういないわ」
「いないって……」
「留学したの。フランスにね」
寂しそうに、悲しげに笑う秋庭先輩に、私はつい呟いてしまった。
「どうして……」
「……失恋が原因だったと思う。私達、勘違いしていたんだ。彼に告白したけど、想いは届かなかった。それでも、三人仲良しの時間がこれからも過ぎていくんだって思った。でも、続かなかった。ハーレム騒動で一郎君から言われたの。もう一緒にいられないって。迷惑をかけるからって。私達、フラれたの。それが思いのほか、キツかった。私は我慢できたけど、ゆずきはダメだった。何もかも捨てて、フランスへいったの。私を置き去りにして二人とも去っていった。私、一人になっちゃった」
「……」
「どうして、あなたが泣くの?」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……だって、悲しいじゃないですか……好きな人も、親友もいなくなるなんて……」
涙があふれて止まらない。悲しくて、ただ謝ることしかできない。
私は何てことをしてしまったの。後悔で押しつぶされそうになる。
私があんな提案をしなければ、三人は一緒にいられたのに……理由があったとはいえ、私は……私は……。
涙が止まらない。泣いて許されるわけがない、それどころか私が泣く資格なんてない。でも、涙は止まってくれなかった。
ドン!
背中に激痛が走る。私は秋葉先輩に肩を掴まれ、壁にぶつけられた。顔をあげるとそこには憤怒を露わにした秋庭先輩の顔が目の前にあった。
「何それ? 同情なわけ? ふざけないで! あんたに同情される理由なんてない!」
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「謝らないで! 謝ったらなかったことになるの! あの日々が帰ってくるとでも思ってるの!」
秋葉先輩は私の胸に頭をおいて、ドンドンと両手で私を叩いてくる。力のないただぶつけてくる拳が痛い。心に直接響いてくる。秋庭先輩の怒りが、悲しみが……。
秋庭先輩の方が私より大きいのに、今はとても小さく見える。秋庭先輩は肩を震わせ、泣いていた。
秋葉先輩……。
私はぎゅっと秋庭先輩を抱きしめた。体が自然と動いた。秋庭先輩は体をよじらせ振りほどこうとするけど、私は必死にしがみつく。
秋庭先輩の体は、小さくて華奢で力を籠めれば折れてしまいそうだった。
儚くて、壊れてしまいそうな体を、心を必死に抱きしめた。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「……かえしてよ……かえりたいよ……あのころに……三人でいられたあのころに……かえりたい……かえりたい……」
私達はずっとそのまま泣き続けた。
美月さんに手を引っ張られ、秋庭先輩と別れた後、私達は誰もいない廊下でただ立ち尽くしていた。
美月さんは先程の光景がショックだったのか、何も言ってこない。私はただ考えていた。
あのあと、騒ぎを聞きつけた先生が現れても、私と秋庭先輩は泣き続けた。私達の痛みを取り除く解を先生も誰も教えてくれなかった。
美月さんに、くるみに、秋庭先輩に私はどんな贖罪ができるのだろう。どうしたら、傷ついた心をいやすことができるんのか?
人を傷つけておいて都合がいいと思ってる。それでも、何かしたかった。恋愛で傷つく人を見たくなかった。
恋愛って本当に難しい。容赦なく見たくもない、背を向けたい事実が私達にふりかかってくる。綺麗事だけではない面を見せつけられ、
私は何もできないでいる。どうしたらいいのか、分からない。
「ままならないよね……」
美月さんの独り言に、私は頷く。
窓の外は、青島祭の準備で走り回る生徒がいる。その中で、カップルらしき生徒がいた。仲良く楽しそうに笑い合っている。仲むつまじい二人。その二人を見て、私は距離を感じた。
どうして私達はあちら側にいけないのか。どうして、想いは報われないの。いつまで、この辛い気持ちを抱えていくの。
「……忘れてしまいたい」
それは意識することなくもれた言葉だった。意図した言葉ではなかった。その言葉に美月さんが反応する。
「忘れるって何を?」
「何もかも……失恋の痛みを忘れることができたらいいのにね……」
それは本心だった。偽りのない想いだった。
美月さんと秋庭先輩の恋を壊してしまった私が言えた義理ではないけれど、疲れ切った私には気にする余裕は全くなかった。
「そう……あなたもなの。その……ごめん」
「どうして私に謝ってくれるんですか? 私達は……その……」
意外だった。美月さんが私に謝罪するなんて。本当に謝罪しなければいけないのは私達なのに……。
「秋葉先輩と一緒に流した涙を見たら、自分がどれだけ酷いことをしたのかくらい分かるわよ。私はあなたに失恋がどれだけ辛いことか知ってほしかったの。押水先輩の一件は、みんなの中では終わったことかもしれないけど、私達の中ではまだ消化し切れていない。だから、終わっていないんだってあなた達風紀委員に叫びたかった。でも、あなたは知っていた。ははっ……なんだったの……私の怒りは……」
美月さんは力なく笑っている。傲慢かもしれないけど、私には分かる。美月さんがどれだけ押水先輩を好きだったのかを。
そうでなければ、今も辛い思いを抱えてなんていられないから……。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「だから、もう泣くな! 私まで泣きたくなるでしょ! もう、いいから! 私が悪かったから!」
「……ありがとう」
心からのお礼に美月さんは顔をそむける。耳が真っ赤。それを横目で見て、私はつい笑ってしまう。
「迷惑をかけた謝罪として、教えてあげようか」
「教えるって何を?」
「……失恋の痛みを忘れるってどういうことか」
新しい恋を見つけて、元気にやっていると思っていた。実際にくるみや西神先輩は新しい恋をしているところを目撃している。でも、勘違いだった。今なら分かる。
ネットで、失恋の立ち直りは男よりも女の方が早いって書いてあった。だから、早く立ち直れるって思っていた。
でも、違った。人は人、自分は自分って言葉が身に染みる。
大体、本気で人を好きになって、失恋したからすぐさま忘れることなんて、できっこない。
しかも、恋愛経験が少ないのに対応方法なんてわかりっこないよ。
失恋の痛みを忘れようとしても、余計に好きな人の事を考えてしまう。気を抜いたとき、ふとしたときに思いだしてしまう。
先輩との楽しい思い出を。フラれた瞬間を。何度も何度も思い返してしまう。
失恋の立ち直り方の答えがまだみつけることができない。苦しみから解放されたいっていつも思ってる。
でも、解放された時、失恋から立ち直ったとき、どうなってしまうの? 先輩の事を好きでなくなってしまうの?
そんなことが想像できない。だから、今も同じ場所をぐるぐると迷っている。
失恋をした者がたどり着く場所。それはどこなの?
「ついたわよ」
美月さんの言葉がまるで判決を待つ受刑者のような気分。
私はどうしたらいいの? 謝罪するべき? でも、私が謝罪すれば、先輩や橘先輩に迷惑をかけてしまう。先輩達がやってきたことを今になって否定してしまうから。
自分勝手なひどい理由だけど、それでもこれ以上、二人を裏切りたくない。ただでさえ、獅子王さんとのことで迷惑ばかりかけているのに……。
考えがまとまらないまま、美月さんと一緒にたどり着いた場所は三年の教室。美月さんがあわせたい人に思い当たる節がある。
秋庭先輩と本庄先輩。
秋庭先輩と本庄先輩は友人同士で同じ人を好きになった。お互いの友情が壊れるのを覚悟でその人に告白したけど、返事は保留のままで最後まで想いが届くことはなかった。
今、二人はどうしているの?
最後に二人に会ったとき、懇願された。押水先輩を傷つけないでほしいと。その願いを無視して、私達の都合で押水先輩を傷つけてしまった。
あわせる顔はないけど、それでも逃げちゃだめだよね。
美月さんが秋庭先輩を呼んでいる。
秋庭先輩との対面。
相変わらず綺麗な人。ツーサイドアップに整った顔立ちとスタイル、それに大人びた表情が儚くて美しいと思う。失恋した後でもそれは変わらない。
「すみません。お忙しい時に呼び出してしまって」
「別にいいけど。それより、その子……」
「伊藤です。商店街で一度お会いしています」
秋庭先輩は思いだそうとしているけど、思いだせないみたい。それで正解だと思う。自己紹介したわけでもなく、話をしたこともないから。
秋庭先輩とお会いした時、私は先輩の後ろで何も言わずに立っていただけだから。
私の腕章を見て、秋庭先輩はああっと言葉をもらした。
態度は変わることなくどこか冷めたような顔をしている。
「その子が私に何の用なの?」
「私はこの人が押水先輩を追い詰めた一人だと確信しています」
私は美月さんの言葉に何の否定もせずに、ただ黙っていた。
美月さんの言葉に、秋庭先輩はやっぱり何の表情も変えなかった。
「別に、どうでもいいわ」
「あ、秋庭先輩! それでいいんですか! 私はイヤです! 押水先輩を傷つけた人達は謝罪させるべきです!」
「誰に?」
秋庭先輩のそっけない言葉に美月さんの勢いがなくなっていく。
「誰って、私や秋庭先輩に……」
「迷惑よ」
はっきりとした拒絶の言葉に、美月さんは黙ってしまう。
私は思わず訊いてしまった。
「あ、あの本庄先輩はどう思っているんでしょうか?」
本庄先輩の名前が出た途端、何の感情もなかった秋庭先輩の瞳がゆれた。どうして、そんな悲しそうな顔をしているの?
秋庭先輩は私を見て、教えてくれた。
「聞いてないの? もういないわ」
「いないって……」
「留学したの。フランスにね」
寂しそうに、悲しげに笑う秋庭先輩に、私はつい呟いてしまった。
「どうして……」
「……失恋が原因だったと思う。私達、勘違いしていたんだ。彼に告白したけど、想いは届かなかった。それでも、三人仲良しの時間がこれからも過ぎていくんだって思った。でも、続かなかった。ハーレム騒動で一郎君から言われたの。もう一緒にいられないって。迷惑をかけるからって。私達、フラれたの。それが思いのほか、キツかった。私は我慢できたけど、ゆずきはダメだった。何もかも捨てて、フランスへいったの。私を置き去りにして二人とも去っていった。私、一人になっちゃった」
「……」
「どうして、あなたが泣くの?」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……だって、悲しいじゃないですか……好きな人も、親友もいなくなるなんて……」
涙があふれて止まらない。悲しくて、ただ謝ることしかできない。
私は何てことをしてしまったの。後悔で押しつぶされそうになる。
私があんな提案をしなければ、三人は一緒にいられたのに……理由があったとはいえ、私は……私は……。
涙が止まらない。泣いて許されるわけがない、それどころか私が泣く資格なんてない。でも、涙は止まってくれなかった。
ドン!
背中に激痛が走る。私は秋葉先輩に肩を掴まれ、壁にぶつけられた。顔をあげるとそこには憤怒を露わにした秋庭先輩の顔が目の前にあった。
「何それ? 同情なわけ? ふざけないで! あんたに同情される理由なんてない!」
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「謝らないで! 謝ったらなかったことになるの! あの日々が帰ってくるとでも思ってるの!」
秋葉先輩は私の胸に頭をおいて、ドンドンと両手で私を叩いてくる。力のないただぶつけてくる拳が痛い。心に直接響いてくる。秋庭先輩の怒りが、悲しみが……。
秋庭先輩の方が私より大きいのに、今はとても小さく見える。秋庭先輩は肩を震わせ、泣いていた。
秋葉先輩……。
私はぎゅっと秋庭先輩を抱きしめた。体が自然と動いた。秋庭先輩は体をよじらせ振りほどこうとするけど、私は必死にしがみつく。
秋庭先輩の体は、小さくて華奢で力を籠めれば折れてしまいそうだった。
儚くて、壊れてしまいそうな体を、心を必死に抱きしめた。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「……かえしてよ……かえりたいよ……あのころに……三人でいられたあのころに……かえりたい……かえりたい……」
私達はずっとそのまま泣き続けた。
美月さんに手を引っ張られ、秋庭先輩と別れた後、私達は誰もいない廊下でただ立ち尽くしていた。
美月さんは先程の光景がショックだったのか、何も言ってこない。私はただ考えていた。
あのあと、騒ぎを聞きつけた先生が現れても、私と秋庭先輩は泣き続けた。私達の痛みを取り除く解を先生も誰も教えてくれなかった。
美月さんに、くるみに、秋庭先輩に私はどんな贖罪ができるのだろう。どうしたら、傷ついた心をいやすことができるんのか?
人を傷つけておいて都合がいいと思ってる。それでも、何かしたかった。恋愛で傷つく人を見たくなかった。
恋愛って本当に難しい。容赦なく見たくもない、背を向けたい事実が私達にふりかかってくる。綺麗事だけではない面を見せつけられ、
私は何もできないでいる。どうしたらいいのか、分からない。
「ままならないよね……」
美月さんの独り言に、私は頷く。
窓の外は、青島祭の準備で走り回る生徒がいる。その中で、カップルらしき生徒がいた。仲良く楽しそうに笑い合っている。仲むつまじい二人。その二人を見て、私は距離を感じた。
どうして私達はあちら側にいけないのか。どうして、想いは報われないの。いつまで、この辛い気持ちを抱えていくの。
「……忘れてしまいたい」
それは意識することなくもれた言葉だった。意図した言葉ではなかった。その言葉に美月さんが反応する。
「忘れるって何を?」
「何もかも……失恋の痛みを忘れることができたらいいのにね……」
それは本心だった。偽りのない想いだった。
美月さんと秋庭先輩の恋を壊してしまった私が言えた義理ではないけれど、疲れ切った私には気にする余裕は全くなかった。
「そう……あなたもなの。その……ごめん」
「どうして私に謝ってくれるんですか? 私達は……その……」
意外だった。美月さんが私に謝罪するなんて。本当に謝罪しなければいけないのは私達なのに……。
「秋葉先輩と一緒に流した涙を見たら、自分がどれだけ酷いことをしたのかくらい分かるわよ。私はあなたに失恋がどれだけ辛いことか知ってほしかったの。押水先輩の一件は、みんなの中では終わったことかもしれないけど、私達の中ではまだ消化し切れていない。だから、終わっていないんだってあなた達風紀委員に叫びたかった。でも、あなたは知っていた。ははっ……なんだったの……私の怒りは……」
美月さんは力なく笑っている。傲慢かもしれないけど、私には分かる。美月さんがどれだけ押水先輩を好きだったのかを。
そうでなければ、今も辛い思いを抱えてなんていられないから……。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「だから、もう泣くな! 私まで泣きたくなるでしょ! もう、いいから! 私が悪かったから!」
「……ありがとう」
心からのお礼に美月さんは顔をそむける。耳が真っ赤。それを横目で見て、私はつい笑ってしまう。
「迷惑をかけた謝罪として、教えてあげようか」
「教えるって何を?」
「……失恋の痛みを忘れるってどういうことか」
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