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十九章

十九話 ラベンダー -期待- その九

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「では、第一回対橘対策作戦会議を始めます!」
「「「っしゃっす!」」」

 多目的室にみんなが円卓をえがくように椅子に座っている。私もその中にぽつりと座っていた。
 こうしてみるとすごい光景だよね。イケメンに囲まれるなんて。ナニ水先輩なのよ、私は。
 会議の内容はその名前の通り、橘先輩の無理難題、ゴールデン青島賞をどうしたらとれるのか。
 青島祭まで時間がない。その短時間で何ができるのか。それを考えているんだけど……。

「やっぱり、青島祭だからド派手なこと、してえよな!」
「俺達にしかできないこと、やってやりたい!」
「そうだね。センセーショナルでファッショナブルなものがいいな。僕達のパフォーマンスを見てくれるゲストをリスペクトすることから始めよう」

 意見は出るけどやりたいことが抽象的すぎて、何がしたいのか分からない。具体的に何をしたいのか、それがない。
 馬淵先輩は苦笑い、二上先輩はこめかみをおさえている。

「殿は何をすればいいと思いますか?」

 意見を求められ、私は考え込んだ。
 短期間で準備できて、ゴールデン青島賞が狙えるほどの出し物……そんな都合のいいものがあるの?
 確かにイケメンが多いから、何をしてもインパクトはあると思うんだけど……イケメン? 複数?
 私は思いついたことを口にした。

「それなら、合唱はどうでしょうか? これなら、お金も時間もかからずにできますよ」
「合唱だと? 子供の発表会か何かと勘違いしていないか?」

 二上先輩は私の意見に眉をひそめているけど、私はあながち的を射た発言だと思っている。その根拠を話してみよう。

「そんなことありません。ここにいる皆さんはイケメンですし、その三十人以上のイケメンが甘い恋の歌を歌えば、間違いなく女の子の投票を狙えます。アイドルのコンサートを知らないんですか? あれって、歌やダンスで何万の人達を魅了みりょうしているじゃないですか」
「……確かにそうだが、俺達は見世物扱いされるのか?」
「いや、出し物なんですから見世物でしょ?」

 二上先輩は更に眉をひそめ、考え込んでいる。
 私は決して悪い案ではないと思う。クラスの友達に聞いたけど、この青島祭は島の住人だけではなく、島の外からも見に来るらしい。
 宣伝にもよると思うけど、他校の女の子達には絶対にウケがいいはず。

 確かに見世物だけど、馬淵先輩達の強みはやっぱりイケメンの男の子が複数いること。
 このアドバンテージを活かさない手はない。それに人の心をつかむのに歌は鉄板だと思う。

「ダメ……ですかね?」

 私はみんなの顔色をうかがう。みんなは黙ったまま、考え込んでいる。
 流石に抵抗があるかな? みんな難しい顔してるもんね。
 よくよく考えてみれば、人前で歌うのも勇気要るし、沢山練習が必要だよね。簡単にできるわけないか。
 それならば、別の提案をしてみよう。

「やっぱり……」
「いい……」
「えっ?」
「それいい! それでいこう!」

 ええええええっ~~~~! いいの? 自分で言っておいてなんだけど、みんな、私の意見に賛成しすぎじゃない?
 そんな私の不安をよそに話が進んでいく。

「歌か……いいな、それ!」
「歌しかないって俺も思ってたんだ!」
「ちっ! 俺が今言おうと思ったのに!」
「ウソつけ!」

 ま、まあ、出し物を何にするのか時間をかけるより、早く決まった方がいいよね。物は考えよう。
 それに重苦しい雰囲気より、楽しい雰囲気の方がいいに決まっている。
 私もみんなの姿を見ていると楽しくなってきちゃった。

 私としてはやっぱり、ベタだけど『We Are The World』かな? みんなが歌えばいい雰囲気になるよね。
 提案してみよっかな。もしかしたら、採用してくれるかもしれないし。もし、決まったら、私が宣伝しまくっちゃおう。ちょっとした自慢にもなるし。
 私はみんなに声をかけようとした。

「カッコいいダンスとかしたらイケるんじゃない?」
「それいい!」
「なら歌もダンスもオリジナルがいい!」
「それある!」

 えっ?
 何か話が良くない方向にいっている気がする。だって、オリジナルってことは一から作り出すってことだよね? 無理じゃない? 時間が少ないし、第一、誰が作れるの?

 あっ、もしかして、作詞作曲やふりつけできる人がいるとか。イケメンってなんでもこなしちゃうから。
 チート級の性能があって羨ましいな~。

「ねえ、みんな待って。オリジナルは難しいと思う。誰が作詞作曲をする? 無理だよ」

 あっ、流石はこの中で一番の常識人である馬淵先輩。冷静にツッコミをいれてくれる。
 賑やかだった雰囲気が静まっていく。

「えっ? そっか、それがあるよな?」
「誰かできるヤツいる?」

 誰も答えてくれない。まあ、作詞作曲は無理か。そうだよね、フツウの高校生ができちゃうんなら、音楽家は苦労しないよね。
 別に高校生だからってデスっているわけじゃないけど、私的には大人のプロが傑作けっさくを作り出してほしいとは思っている。
 オリジナルだと今しか聞けないから宣伝効果は抜群ばつぐんだと思ったけど、仕方ないよね。

「諦めるしかないのか」
「いや、待て! いるじゃないか、俺達には殿が!」

 なぬ?

「えっ? 殿って作詞作曲とふりつけできるの?」
「殿って呼ばれるくらいだからできるんじゃねえ?」
「流石は殿だよな!」

 いやいやいやいや! 殿、全然関係ないじゃん! それに勝手に呼ばれていただけだし!
 なぜか私が作詞作曲、ふりつけをしなければならない空気になりそうだったので、私は慌てて止めに入った。

「無理! 無理ですから! 作詞作曲、ふりつけ、絶対に無理!」
「殿、なせば成る!」

 一人の男の子がサムズアップとウインクをしてきた。
 じゃあ、あんたがやりなさいよ!
 私は必死にそのセリフを押さえ込んだ。

 我慢よ、我慢と忍耐よ、ほのか。
 ほら、修学旅行で京都に行った時の事を思いだして……東福寺の境内を色鮮やかに染める紅葉、そして通天橋から見ることができる景色の美しさの前では、私の怒りなんて小さいものよ。
 私は笑顔で説得を続ける。

「素人同然の人が作る歌よりも、プロが作った歌の方が断然いいですよ。人気のある歌の方が親しみがあるというか、分かりやすいというか……」
「なら、殿はどんな歌がいいんだ?」
「そ、それは……レアドロ★HOI★ホイ?」
「れ、レアドロ★HOI★ホイ?」

 私は公式サイトから、サンプル動画をみんなの前で見てもらった。
 動画には中央に三人が歌いながら踊っている。その周りに鳥のような生き物が可愛く踊っている。何度見ても癒される……。
 動画が終わり、私はすっきりした気分になる。
 さて、みなさんの反応は……なんでだろう、あまりかんばしくない。

「ええっ~ダサいよ!」
「格好悪い!」
「まじめにやれ」

 ええええっ~パパイヤさんがふりつけした伝説の曲なのに! この歌でどれだけ折れかけた心をたてなおしたことか……これのおかげでレア★14を手に入れたのに……ガルグルで。
 恥ずかしがらなくてもいいんですよ?
 私は腰を落とし、体を振って踊って見せたけど、ダメだった。
 お、おかしいな……魂に訴える神曲なのに……。

 ちなみに私は、この曲が流れるときに行われるリズムアクションはパーフェクトでプレイしていると自負している。
 コラボのオブジェのせいで画面をタッチするタイミングが分からない時でも、野次が飛んでも、ひたすらボタンをタッチしていた。

「じゃあ、どうするつもりなんですか?」
「殿~もっといいのにしてよ~」

 男の子達が捨てられた子犬のような目つきで私を見つめてくる。
 ホント、無理だから! 私にそんな才能はない。そう思っていたら、スカートのポケットから振動するものを感じた。携帯だ。
 まずっ! 黒井さんから! もう見回りの時間が過ぎてる!
 私は慌てて電話をとる。

「伊藤さん、もう見回りの時間は過ぎていますわよ」
「ご、ごめんなさい! すぐにいきます!」
「……はあ、今どこですの?」
「たも……職員室です」

 私は慌てて嘘をついた。馬淵先輩の事は風紀委員には内緒にしている。話すとしても、まだその時期じではない。

「職員室? 呼び出しですの?」
「うん。ちょっとね」
「分かりましたわ。途中で合流しましょう」
「OK。すぐにいくから! 本当にごめんね、黒井さん」
「ジュースの一本は奢ってくださらないとね、上春にも」
「OKOK! 今いく!」

 私は慌てて、通話を切った。黒井さんとサッキーには迷惑ばかりかけている。ジュースの一本で報いることができるのであれば安いもの。
 私はリュックを背負い、馬淵先輩に声をかける。

「馬淵先輩、すみません。風紀委員の仕事があるので」
「うん。ごめんね、忙しいときに呼び出したりして」
「いいですよ。それでは」
「と、殿! 作詞作曲の件は!」
「む、無理だから!」

 私は多目的室を飛び出すように出ていった。
 作詞作曲なんて、無理。ましてやふりつけなんて、素人ができるわけがない。リズムアクションは得意だけど、それとこれとは全然違う。
 みんなもきっと分かってくれると思う。多分、今ある曲をみんなで歌うことになるだろう。
 少し悪いことをしちゃったかなと思いつつも、黒井さん達が待つ場所へ走った。
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