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十九章

十九話 ラベンダー -期待- その三

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「お待たせいたしました。演劇部の脚本書いている先輩と園田先輩のアドバイスを受けて台本を作成しました。獅子王さん、古見君、頑張って覚えてね」
「誰に物を言っている」
「ありがとう、伊藤さん。僕、頑張るから!」

 お昼休み、風紀委員室で私は二人に台本を渡した。
 台本の雛形ひながたをパソコンのデータで園田先輩から譲ってもらい、そこからパソコンで編集しつつ、園田先輩からOKをもらえるまで……本当に長かった。
 元々、黄泉比良坂物語は演劇部の台本、脚本があったので大筋はそのままで、変更したところは登場人物を獅子王さんと古見君、ナレーターにセリフや演出等をしぼり、ラストの部分を変更した。

 そこからが地獄だった。園田先輩の怒濤どとうのダメだしばっかりで何度書き直したことか……演劇部の脚本兼台本を書いている人にすごく迷惑をかけてしまった。
 この台本はまだ未完成のもの。ここから獅子王さんや古見君が演劇しやすいよう変更点を聞いて、また改変する。
 本当に劇ってしんどい。園田先輩がナメてるのかって言った理由が身にしみて分かりました。

 二人が台本を読んでいる間、私は昨日の事を思いだしていた。
 頭の整理がつかない。でも、あの出来事は夢じゃない、現実。
 どうしよう……。

「はあ……」

 ため息を一つつくと幸せが一つ逃げるらしい。何の科学的根拠はないけど、不思議とそう思えちゃう。だって、今幸せじゃないし。

「おい、こらほのか」
「あたたたたたたた!」

 獅子王さんがいきなり、私の頭を掴み、揺らしてきた。

「な、何するんですか!」
「何か悩んでるんだろ? 言えよ。俺様が解決してやっからよ」

 私は唖然として獅子王さんの顔を見つめてしまう。俺様の獅子王さんが相談にのってくれる? 信じられないんですけど。前に自分で解決しろって言ってなかった? ほんと、俺様だよね。
 私の不安をよそに、獅子王さんは自信満々な笑みを浮かべていた。

「なんだ、俺様だと頼りないか? 俺様の力をなめんなよ」
「い、いえ、獅子王さんがすごいことは分かっています。でも、なんで優しくしてくれるんですか?」
「いつまでもグチグチ悩んでるからだろうが。ひなたがお前のことを心配してるから、仕方なくだ。まあ、ほのかは俺様の友達だしな。仕方なくだ!」
「いえ、別に! 助かります!」

 直立不動で獅子王さんに返事をした。テレているからって怒鳴らなくてもいいじゃない。
 獅子王さんの態度に不満を感じていると、横から古見君がやさしく微笑みかけてきた。

「伊藤さん、僕も微力だけど力になれると思う。言ってもいい悩みなら相談してね」
「古見君……」

 古見君の笑顔を見ていると、少し癒された気分。何気ない仕草や気遣いが女子力高いよね。二人の態度は対極だけど、私を気遣ってくれていることが嬉しかった。
 だから、私は話すことにした。やっぱり、私はあの人達よりも獅子王さん達の方が大切。
 この関係が続いてくれたらと思っている。隠し事はなしにしておきたい。

「獅子王さん、古見君。話を聞いてくれますか?」

 二人は力強くうなずいてくれた。

「私も聞いていい? ダメなら席を外すけど?」
「いえ、園田先輩も聞いてくれませんか? 第三者の意見も聞いておきたいですし」
「分かった。他の人には言わないから」

 園田先輩の配慮に感謝しつつ、私は一つせきをして、昨日の多目的室のことを話した。
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