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エピローグ スタートライン
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「……報告は以上だ」
平村と白部の協力を得た後、俺は事の次第を風紀委員室で左近、上春、朝乃宮に話した。
三人の表情は様々で、上春は目を輝かせ、左近は感心するように、朝乃宮はつまらなさそうにしている。
本当にお前ら、わかりやすくて助かるよ。
「藤堂先輩! すごいです! 平村さんだけでなく、白部さんの協力を得ることが出来るなんて! イジメの問題は解決したも同然じゃないですか!」
確かに、二人の本心を知ることが出来たし、和解したとも言えなくもない。だが、俺は上春のように楽観的には思えなかった。
「それだといいんだけどね……」
俺の心中を察するかのように、左近は上春の意見を否定してきた。左近の見解に上春は眉をひそめている。
俺も上春も何も言わないことから、上春は更に戸惑っていた。
「えっ? 私の意見、間違ってます? だって、二人は仲直りしたかったんでしょ? それが叶ったって事じゃないんですか?」
上春の疑問に、左近が答える。
「表面上はね。正道は二人を説得出来たのは、共通の敵を作ったからなの。つまり、共通の敵がいなくなった場合、イジメが再発してしまう可能性が考えられるってわけ」
「共通の敵?」
上春は更に困惑している。俺はつい、苦笑してしまった。
左近らしい言い方だ。だが、的を射た表現だと言える。
「咲、橘はんが言う共通の敵っていうんは、腕時計を盗んだ犯人のことです。二人の仲を切り裂くきっかけになった憎き犯人を捜し出すため、白部はんと平村はんは一時的に手を組んだだけなんや」
「どういうこと? 共通の敵がいるとどうして、手を組むことになるの?」
朝乃宮は優しく、言葉を選びながら上春に説明している。
共通の敵を作ることで、どうして白部と平村は手を組むことになるのか?
お互いに敵、排除する対象の存在を作り出すことは、共感が深まり団結しやすい効果がある。
この方法は古来から仲の悪い者同士が手を組む、団結力を高める方法として用いられてきた。
しかし、短所もある。
共通の敵がいなくなった場合、手を組む必要がなくなり、また敵対する関係に戻ってしまうことだ。
それでも、白部はもう平村をイジメることはないと思っている。理由はただの直感だ。
伊藤の甘さがうつったのかもしれない。だが、悪い気はしなかった。
朝乃宮の説明が終わり、上春は内容を理解はしたが、納得はしてないようだ。
「私はもう、白部さんは平村さんをイジメるようなことはしないと思うんですけど。二人はやはり親友だと思いますし」
「そうだな、俺もそう思う」
俺の言葉に、上春は嬉しそうにうなずき、左近と朝乃宮は目を丸くしている。俺が上春の意見を肯定するとは思わなかったのだろう。
物事は最悪な事態を想定し、行動すべきだと俺は思っていた。イジメを止めるためには非情になるべきだと思っていた。
けど、俺は平村と白部の友情を信じることができる。きっと大丈夫だと楽観的になれる。
事件当初は怒りやイジメを止めなければという使命感で肩肘を張っていたが、今は肩の力が抜け、心の余裕がある。
全力で白部達をサポートしつつ、腕時計盗難事件の真相を解明してみせる。
「それやと、もう風紀委員の出番は必要あらへんと違います? 事件の真相を解明してもしなくても、イジメを止められたわけやし」
朝乃宮の意見に俺は首を振る。
なぜなら……。
「そうはいかない。イジメを止めることは出来たが、第三者の介入で再発でもされたらかなわんからな」
「第三者の介入?」
上春は不安げに俺に尋ねてきた。俺は苦々しい思いで言葉を漏らす。
「腕時計盗難事件の真犯人だ」
白部と平村に仲違いする気はもうないのかもしれない。だが、第三者の介入で二人が望まなくても、また憎しみあう事が起こるかもしれないのだ。
それに事件を解決しない限り、しこりが残る可能性が高い。二人の心のどこかで裏切られたことを消化しきれないものが残ってしまう。
やはり、仲直りさせるには、きちんと事件の真相を解明するべきだ。
「全く厄介だね、この事件は。容疑者は二人いるんでしょ?」
「……ああっ」
実は左近の罠にかかった人物が二人いる。
一人は俺と上春、朝乃宮が一年F組に向かったときに罠に引っかかった。もう一人は……。
もしかすると、ようやくスタートラインに立てたのかもしれない。白部のイジメは序章で、これからが本番といっても過言ではない気がしてきた。
俺は気合いを入れ直し、掃除ロッカー……いや、腕時計盗難事件から始まった陰湿な事件の解決に全力を注ぐことを決意した。
真犯人、首を洗って待ってろよ。必ず、お前を引きずり出してやるからな。白部と平村を傷つけた罪、償ってもらうぞ。
俺は風紀委員室の窓から見えた、西の空に沈む太陽に向かって決意表明した。
-To be continued-
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
番外編は一旦終了です。後半は『第五部 愛しいキミの為に私ができること 後編』終了後、投稿予定です。
それまで、しばらくお待ちください。
平村と白部の協力を得た後、俺は事の次第を風紀委員室で左近、上春、朝乃宮に話した。
三人の表情は様々で、上春は目を輝かせ、左近は感心するように、朝乃宮はつまらなさそうにしている。
本当にお前ら、わかりやすくて助かるよ。
「藤堂先輩! すごいです! 平村さんだけでなく、白部さんの協力を得ることが出来るなんて! イジメの問題は解決したも同然じゃないですか!」
確かに、二人の本心を知ることが出来たし、和解したとも言えなくもない。だが、俺は上春のように楽観的には思えなかった。
「それだといいんだけどね……」
俺の心中を察するかのように、左近は上春の意見を否定してきた。左近の見解に上春は眉をひそめている。
俺も上春も何も言わないことから、上春は更に戸惑っていた。
「えっ? 私の意見、間違ってます? だって、二人は仲直りしたかったんでしょ? それが叶ったって事じゃないんですか?」
上春の疑問に、左近が答える。
「表面上はね。正道は二人を説得出来たのは、共通の敵を作ったからなの。つまり、共通の敵がいなくなった場合、イジメが再発してしまう可能性が考えられるってわけ」
「共通の敵?」
上春は更に困惑している。俺はつい、苦笑してしまった。
左近らしい言い方だ。だが、的を射た表現だと言える。
「咲、橘はんが言う共通の敵っていうんは、腕時計を盗んだ犯人のことです。二人の仲を切り裂くきっかけになった憎き犯人を捜し出すため、白部はんと平村はんは一時的に手を組んだだけなんや」
「どういうこと? 共通の敵がいるとどうして、手を組むことになるの?」
朝乃宮は優しく、言葉を選びながら上春に説明している。
共通の敵を作ることで、どうして白部と平村は手を組むことになるのか?
お互いに敵、排除する対象の存在を作り出すことは、共感が深まり団結しやすい効果がある。
この方法は古来から仲の悪い者同士が手を組む、団結力を高める方法として用いられてきた。
しかし、短所もある。
共通の敵がいなくなった場合、手を組む必要がなくなり、また敵対する関係に戻ってしまうことだ。
それでも、白部はもう平村をイジメることはないと思っている。理由はただの直感だ。
伊藤の甘さがうつったのかもしれない。だが、悪い気はしなかった。
朝乃宮の説明が終わり、上春は内容を理解はしたが、納得はしてないようだ。
「私はもう、白部さんは平村さんをイジメるようなことはしないと思うんですけど。二人はやはり親友だと思いますし」
「そうだな、俺もそう思う」
俺の言葉に、上春は嬉しそうにうなずき、左近と朝乃宮は目を丸くしている。俺が上春の意見を肯定するとは思わなかったのだろう。
物事は最悪な事態を想定し、行動すべきだと俺は思っていた。イジメを止めるためには非情になるべきだと思っていた。
けど、俺は平村と白部の友情を信じることができる。きっと大丈夫だと楽観的になれる。
事件当初は怒りやイジメを止めなければという使命感で肩肘を張っていたが、今は肩の力が抜け、心の余裕がある。
全力で白部達をサポートしつつ、腕時計盗難事件の真相を解明してみせる。
「それやと、もう風紀委員の出番は必要あらへんと違います? 事件の真相を解明してもしなくても、イジメを止められたわけやし」
朝乃宮の意見に俺は首を振る。
なぜなら……。
「そうはいかない。イジメを止めることは出来たが、第三者の介入で再発でもされたらかなわんからな」
「第三者の介入?」
上春は不安げに俺に尋ねてきた。俺は苦々しい思いで言葉を漏らす。
「腕時計盗難事件の真犯人だ」
白部と平村に仲違いする気はもうないのかもしれない。だが、第三者の介入で二人が望まなくても、また憎しみあう事が起こるかもしれないのだ。
それに事件を解決しない限り、しこりが残る可能性が高い。二人の心のどこかで裏切られたことを消化しきれないものが残ってしまう。
やはり、仲直りさせるには、きちんと事件の真相を解明するべきだ。
「全く厄介だね、この事件は。容疑者は二人いるんでしょ?」
「……ああっ」
実は左近の罠にかかった人物が二人いる。
一人は俺と上春、朝乃宮が一年F組に向かったときに罠に引っかかった。もう一人は……。
もしかすると、ようやくスタートラインに立てたのかもしれない。白部のイジメは序章で、これからが本番といっても過言ではない気がしてきた。
俺は気合いを入れ直し、掃除ロッカー……いや、腕時計盗難事件から始まった陰湿な事件の解決に全力を注ぐことを決意した。
真犯人、首を洗って待ってろよ。必ず、お前を引きずり出してやるからな。白部と平村を傷つけた罪、償ってもらうぞ。
俺は風紀委員室の窓から見えた、西の空に沈む太陽に向かって決意表明した。
-To be continued-
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