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二章

二話 裏切り その二

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 お互いの諍いがなくなったところで、左近の説明が始まる。

「正道の情報から校門付近の防犯カメラを確認させてもらったけど、不審人物は映っていなかった。これで外部犯の可能性は消えた。正道が見た女の子なんだけどね、カメラに女の子は映っていたけど、部活帰りの女の子が多くて犯人の特定はできなかったよ。でも、その中に白部さんが映っていた」
「左近。どうして、白部を怪しいと思っているんだ?」

 左近のことだ、理由があってのことだろうが、それでは上春が納得しないだろう。あえて、俺から質問を投げかけた。また、諍いが起こっては面倒だからな。主に朝乃宮の相手が面倒くさい。
 俺の意図を読み取って、左近は俺の疑問に答える。

「掃除ロッカーに入っていた女の子、平村さんはね、リストに入っていたから、そこから割り出したわけ」
「?」

 上春は首をかしげているが、俺には左近が何を言っているのかすぐに気づいた。

「……リストというのは、問題のある生徒のリストか?」
「そう。正道や朝乃宮は知っていると思うけど、問題を起こした生徒、問題のある生徒は教師の間でリスト化されているんだ。あっ、これオフレコだから」

 これは公にされていない情報なので、上春は知らないだろう。
 このリストには問題を起こした生徒、例えば器物破損、暴力、恐喝等といった生徒が問題行動を起こした者がリストアップされる。
 問題を起こした生徒だけでなく、問題のある生徒もリストに載る。不登校者、いじめにあっている者、成績が悪い者等といった学園生活に支障がありそうな人物もリスト化されるのだ。

 要は生徒と接するにあたって、先生方が円滑に生徒と接する事ができるようにするための情報がリストというわけだ。
 ちなみにリストは色で分別されている。

「そのリストにね、平村さんの名前があったの。彼女、イジメにあっていたらしくてね、そこから調べていったら、イジメの主犯である白部さんにたどり着いたわけ。実際に白部さんは防犯カメラに映っていたからクロだと判断したわけ」

 ほぼ決まりだな。
 第三者って可能性もあるが、俺が昨日見かけた、バールを落とした女子が犯人である可能性が高い。白部はイジメの主犯で女子だ。
 ここまで合致すれば、可能性はほぼクロだろう。

 しかし、白部が素直に掃除ロッカーの件を認めるだろうか? 限りなくクロだったとしても、証拠がなければ知らぬ存ぜぬで押し切られてしまうのではないか。
 とぼけられた場合、証拠を突きつけない限り、手も足も出せない。
 はらわたえくりかえる想いだが、そんなときこそ冷静に対処しなければ。

「正道、悩んでいるみたいだね。白部さんにどうやって認めさせるか。でもね……」
「分かっている。決めつけや思い込みで調査したら痛いしっぺ返しがあるってことだろ?」

 左近は満足げに頷く。
 白部が限りなくクロだと思うのだが、もし、白部が犯人ではなかった場合、大変なことになる。
 風紀委員が無実の生徒に濡れ衣を着せてしまい、冤罪を作ってしまう可能性があるのだ。

 もし冤罪だった場合、白部に多大な迷惑をかけてしまう。そうなっては本末転倒だろう。
 責任が重いため、風紀委員は生徒間の諍いに介入することはまずない。だが、今回の一件は度が過ぎている。見過ごせない。
 左近の忠告は、そこらへんを重々気をつけろと言ったところだろう。

「分かっているのなら、これ以上僕から言うことはないよ。ささやかだけど、僕からプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」

 左近は俺達にある情報を教えてくれた。
 それを聞いて、上春はほえぇと感嘆の声を上げ、朝乃宮は苦笑している。俺は苦笑いを浮かべていた。
 この情報は左近が犯人に対して仕掛けた罠だ。左近の罠は時間がたつにつれて効果を失ってしまうが、今なら絶大な武器になる可能性がある。

 時間との勝負になるかもな。だが、早期に問題を解決できるのなら、短期決戦は望むところだ
 早速、白部に会いに行くか。だが、その前にやっておきたいことがある。

「左近。今回の件、俺一人で調査したいのだが」
「それって伊藤さん抜きで調査するってこと?」
「そうだ」
「優しいね、正道。伊藤さんの事、大切に思っているんだ」

 うっさい。
 俺は心の中で悪態つく。左近の見透かされている態度はいつも、居心地が悪くなるのだ。

「いいよ。伊藤さんには僕から説明しておくから。御堂に面倒をみてもらうよう手配しておいてあげる」
「……恩に着る」

 これで心置きなく行動できる。
 調査開始だ。今から一年F組にいけば、HR前に白部と出会えるかもしれない。
 そう思ったとき、意外な人物が俺を呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待ってください! 私も行きますから!」
「? どうして、上春がついてくるんだ?」
「えっ?」

 お互い首をかしげてしまう。上春がなぜ、この件に首を突っ込むのか理解できない。
 俺は興味本位で関わろうとしているのではと思い、上春を睨んでしまう。上春は慌てて弁解してきた。

「だ、だって放っておけるわけないじゃないですか。藤堂先輩だってそう思ったから調査するんですよね?」
「……だな」

 全くその通りだ。正義感があれば誰でもそう思うだろう。
 上春は立派だと思う。なのに、俺は興味本位で関わろうとしたと勘違いしてしまった。
 俺は自分の考えを恥じい、謝罪の意味を込め、了承する。

「そうだな。変なことを聞いて悪かった。手伝ってくれるか?」
「はい!」

 上春の天真爛漫てんしんらんまんな笑顔に、ドス黒い気持ちが和らいでいくのを感じる。
 適度に力が抜け、リラックスできた。

「ウチも参加しますから」
「? どうして、朝乃宮がやる気を出しているんだ? いつもどおりサボってくれれば良いのに……って、うおっ!」

 あぶなっ!
 このアマ、木刀で俺の顔面を突いてきやがった! 当たったら鼻血程度では済まないぞ!
 相変わらず頭のイカれた女だ。仲間だろうが、気にくわなければ、即攻撃をしてくる。
 ただ、例外は存在するようで……。

「もう、千春! 暴力はダメだって言ってるでしょ!」
「……暴力やないもん。手が滑っただけやもん」
「ウソです! 大体、いつもサボっているから、藤堂先輩にバカにされるんです。いつもいつもちーちゃんは……」

 上春のお説教が開始される。朝乃宮は笑顔を浮かべながら、黙ってなすがままにされていた。
 何度見ても不思議な光景だ。
 この風紀委員で一番力の弱い上春が、一番危険人物である朝乃宮を説教している。力関係は上春の方が高いのだ。

 もちろん、朝乃宮の方が強いし、何かあったとき、朝乃宮は率先して上春を護る。だが、普段は上春がしっかり者の妹、朝乃宮がだらしない姉を演じているように思える。まるで仲の良い姉妹のようだ。
 そして、上春に怒られたことで、朝乃宮の怒りの矛先はなぜか俺に向く。

 その証拠に朝乃宮は笑顔だが、殺気は俺に向けられている。自業自得だろうが。
 正当な理由も朝乃宮の前では意味をなさない。自由奔放じゆうほんぽうな性格だからな、朝乃宮は。

 今はかなりマシになったが、昔は洒落にならなかった。上春の姉のおかげで、朝乃宮の凶暴性は改善されたが、まだ残り火のようなものが時々、牙をみせる。
 だから、油断できない。
 なぜ、朝乃宮の性格は破綻しているのか?
 理由は分からない。知りたいとも思わないが、ただ……。

「いつになったら、調査にいけるんだ?」

 それだけが懸念けねんしていた事だった。
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