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二章
二話 裏切り その一
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「昨日は大変だったね、正道」
「大変だったのは掃除ロッカーに閉じ込められた被害者だろう。で、どうなったんだ?」
俺は左近に昨日のことで問い詰める。
あれから、俺達は風紀委員の顧問である播磨先生に報告し、一度解散となった。
下校時間が近づいていた事と、鍵の壊れた掃除ロッカーを開ける場合、業者を呼ばなければならず、夜遅くまで時間がかかりそうだった事が理由だ。
俺は家に帰ってからも、事件のことが頭から離れなかった。
掃除ロッカーに閉じ込められていたのは誰か? 閉じ込めたのは誰か?
なぜ、掃除ロッカーに閉じ込めたのか? 良心の呵責は全くなかったのか?
考えても答えは見つからず、結局、眠れたのは夜が明ける時間帯だった。俺は朝一で学校に行き、風紀委員室を訪れた。
左近は晴磨先生から事の経緯を聞いているはずだ。どうしても、確認しておきたかった。
「もちろん、救出はしたんだけど、業者に連絡したのが午後六時過ぎてたからね。簡易的な鍵だし、すぐに開けてもらうことは出来たけど、それでも、救出できたのは正道から連絡を受けて一時間はかかったよ。救出後も大変でね、口はガムテープで塞がれてるし、両手は縛られていて、ちょっとした監禁状態だった。ちょっとお遊びにしては度が過ぎているね」
「全くだ……」
あんな狭いところに一時間も閉じ込められていたのか……いや、俺が発見してから一時間だ。
俺が発見する前にどれだけ時間がたっていたのかは分からない。それに、口はガムテープ、両手を縛られていてはかなりの恐怖があっただろう。
秋なので暑さは大丈夫だと思うが、暗くて狭い、誰もいない掃除ロッカーに閉じ込めていたのだから、精神的にも肉体的にも辛かっただろう。
どんな想いで中にいた被害者は俺達に音を出していたのか。きっと、必死で助けを求めていたに違いない。
事件を未然に防ぐ事はかなわなくても、もっと早く気づくことは出来たはずだ。やりきれない。
許せない……この事件を起こしたヤツを、俺は絶対に許せない。
「不幸中の幸いっていうか、中にいた被害者は憔悴していたけど、無事だったよ。今日一日は大事をとって休みを取っているから、事情聴取はまた明日ね」
「……そうだな」
俺は少し申し訳ない気持ちになる。俺はすぐにでも、閉じ込められた被害者から事情を聞いて、犯人を捕まえたいと思っていた。閉じ込められていた被害者のことを全然考えていなかった。
もどかしい気持ちには変わらないが、被害者にはゆっくりと休んで欲しい。
明日も、もし、被害者が疲れているようなら、後日に事情を聞こう。
今やれることをやればいい。
今必要なものは情報だ。まずは被害者の名前を知りたい。
「被害者の名前は一年F組平村真子さん」
「真子? 女子か?」
おいおい、よりにもよって女子があの掃除ロッカーに閉じ込められていたのか?
かなり辛かっただろうな。それにF組か。
「F組っていえば……」
「特別進学クラスの事やね」
「……朝乃宮か」
俺達の会話に割り込んできたのは朝乃宮だった。
朝乃宮の後ろには。
「おはようございます、藤堂先輩」
「おはよう、上春。昨日の件か?」
「はい! 掃除ロッカーに閉じ込められてきた人のことが気になってしまって」
俺は上春に左近から聞いた内容をそのまま伝える。
「無事に出ることができて本当によかったですね!」
確かに喜ばしいことだが、素直に喜べなかった。もちろん、無事なのは喜ばしい。だが、この事件が起こってしまったこと自体、嘆かわしいことだ。
二度とこんなバカげたことが起きないよう、早急に解決すべき事件である。
俺達は一度席に着き、左近は話を続ける。
「犯人はまだ不明だけど、同じクラスの白部奏水さんを調べてみて」
「白部奏水?」
「最有力容疑者」
「橘はんも人が悪いどすな。もう目星をつけてはるなんて」
全くだ。それにしても、犯人の候補が同じ女子とは。女子同士の諍いか?
男だろうが女だろうが、悪意に性別は関係ない。まだ白部が犯人と決まったわけではないが、もし犯人なら容赦はしない。
もう二度とこんなふざけた真似をしないよう、徹底的に取り締まってやる。
決意を新たに、俺は調査を開始する。
「よし、白部奏水を調べてみるか」
「正道、くれぐれも冷静に対応してね。行き過ぎはダメだから」
「……それは相手次第だ」
もし、遊び半分でやったことなら、絶対に後悔させてやる。自分が何をしたのか、体にたたき込んでやるからな。
「ちょ、ちょっと待ってください! どうして、白部奏水さんって人が犯人だって分かるんですか? 外部の犯行だってあるかもしれないのに。もし間違っていたらどうする気なんですか?」
左近の推測に上春が異を唱える。
左近は気にすることなく、笑顔で上春に告げる。
「上春さん、僕が何の根拠もなく白部さんの名前を告げると思ってるの? 僕のこと、ナメてるのかな?」
「ご、ごめんなさい!」
「はぁ……別にいいんだけどね。それにしても、同じ委員の仲間に信頼されてないって悲しいね」
お、おい。上春が泣きそうな顔をしてうつむいているぞ。
何か上春が泣かせるようなこと、左近が言ったか?
俺も左近も上春の態度に戸惑っていると、朝乃宮がため息をつきながら、理由を話し出した。
「橘はん、言い方がキツすぎ。あんな突き放された態度をとられたら、女の子なら泣いてしまいますえ」
「……そうなの、正道?」
それは俺が言いたい。
左近はこんなヤツだ。口は悪くても、やるべきことはしっかりとやる。
この短時間でも容疑者を洗い出す情報収集能力は脱帽させられるし、正確だ。だからこそ、左近を信頼できる。左近は結果で応えてくれる男なのだ。
それを知っているからこそ、左近の言い方に別段腹を立てることはないし、左近の指示に素直に従うことができる。
だが、左近のことを知らない人間なら、左近の態度をどう思うのか?
上春のように傷つくのだろうか? 想像つかないな。こういうときは身近な人間に置き換えて考えてみるか。
俺の身近な人物で上春と同じような条件を満たす女子といえば……。
「……伊藤なら左近にごますりそうな気がするがな。賄賂も渡してそうだ」
「そういえば、伊藤さんが正道とコンビを組みたいってお願いされたとき、お菓子をもらった気がする。それとスカートをめくって色仕掛けもね」
「本当にしていたのか……あのバカ!」
冗談で言ったつもりが、まさか本当にごまをすっていたとは……あの命知らず、よく左近に賄賂なんて渡せるよな。
しかも、色仕掛けとは……ますますアホだな、伊藤は。
アイツの度胸はたいしたものだと感心する反面、呆れてしまった。お仕置きが必要だな、伊藤には。
バギッ!
「いい加減にしてくれます? これ以上、咲を泣かせたら許しませんえ」
「「……」」
この女、笑顔で木刀を使って机をたたき壊しやがった!
毎度思うのだが、どこから木刀を持ちだしてやがるんだ、この危険人物は。左近よりもお前の方が酷いだろうが!
ほんと、左近の態度に何も感じないのは、朝乃宮のような危険人物がいるからじゃないかと思ってしまった。
朝乃宮の前では、左近の態度なんて可愛いものだろうが。
さて、今考えるべき事はこの状況をどう切り抜けるかだ。朝乃宮はやるといったら本気でやる。朝から流血沙汰は勘弁して欲しい。
どう切り抜けるか、本気で悩んでいると。
「ぷっ……」
この状況で笑い出したのは、上春だった。
俺も左近も上春も唖然としてる。
俺達の視線に気づき、上春は恥ずかしそうにうつむく。
「ご、ごめんなさい。屈強な藤堂先輩と何事にも動じない橘風紀委員がコロコロと態度が変わるのがおかしくて」
年下の女の子に笑われるのは、なんともばつが悪い。
俺は左近と目が合った。
――正道。
――分かっている。
これは好機だ。場の流れを変えるチャンスは今しかない。
俺は咳を一つつき、仕切り直しを試す。
「なあ、左近。状況を再認識する意味を込めて、みんなに説明してくれないか? 白部がなぜ怪しいのか、そこに至った経緯を」
ここでみんなという言葉を使ったのは、上春を名指しすれば、気に病むと思ったからだ。
「そうだね。説明不足だったよ」
「い、いえ! 私こそ、橘先輩のお手を煩わせてしまい、ごめんなさい」
これで手打ちになっただろう。朝乃宮の殺気は完全に失せていた。
やれやれだ。
「大変だったのは掃除ロッカーに閉じ込められた被害者だろう。で、どうなったんだ?」
俺は左近に昨日のことで問い詰める。
あれから、俺達は風紀委員の顧問である播磨先生に報告し、一度解散となった。
下校時間が近づいていた事と、鍵の壊れた掃除ロッカーを開ける場合、業者を呼ばなければならず、夜遅くまで時間がかかりそうだった事が理由だ。
俺は家に帰ってからも、事件のことが頭から離れなかった。
掃除ロッカーに閉じ込められていたのは誰か? 閉じ込めたのは誰か?
なぜ、掃除ロッカーに閉じ込めたのか? 良心の呵責は全くなかったのか?
考えても答えは見つからず、結局、眠れたのは夜が明ける時間帯だった。俺は朝一で学校に行き、風紀委員室を訪れた。
左近は晴磨先生から事の経緯を聞いているはずだ。どうしても、確認しておきたかった。
「もちろん、救出はしたんだけど、業者に連絡したのが午後六時過ぎてたからね。簡易的な鍵だし、すぐに開けてもらうことは出来たけど、それでも、救出できたのは正道から連絡を受けて一時間はかかったよ。救出後も大変でね、口はガムテープで塞がれてるし、両手は縛られていて、ちょっとした監禁状態だった。ちょっとお遊びにしては度が過ぎているね」
「全くだ……」
あんな狭いところに一時間も閉じ込められていたのか……いや、俺が発見してから一時間だ。
俺が発見する前にどれだけ時間がたっていたのかは分からない。それに、口はガムテープ、両手を縛られていてはかなりの恐怖があっただろう。
秋なので暑さは大丈夫だと思うが、暗くて狭い、誰もいない掃除ロッカーに閉じ込めていたのだから、精神的にも肉体的にも辛かっただろう。
どんな想いで中にいた被害者は俺達に音を出していたのか。きっと、必死で助けを求めていたに違いない。
事件を未然に防ぐ事はかなわなくても、もっと早く気づくことは出来たはずだ。やりきれない。
許せない……この事件を起こしたヤツを、俺は絶対に許せない。
「不幸中の幸いっていうか、中にいた被害者は憔悴していたけど、無事だったよ。今日一日は大事をとって休みを取っているから、事情聴取はまた明日ね」
「……そうだな」
俺は少し申し訳ない気持ちになる。俺はすぐにでも、閉じ込められた被害者から事情を聞いて、犯人を捕まえたいと思っていた。閉じ込められていた被害者のことを全然考えていなかった。
もどかしい気持ちには変わらないが、被害者にはゆっくりと休んで欲しい。
明日も、もし、被害者が疲れているようなら、後日に事情を聞こう。
今やれることをやればいい。
今必要なものは情報だ。まずは被害者の名前を知りたい。
「被害者の名前は一年F組平村真子さん」
「真子? 女子か?」
おいおい、よりにもよって女子があの掃除ロッカーに閉じ込められていたのか?
かなり辛かっただろうな。それにF組か。
「F組っていえば……」
「特別進学クラスの事やね」
「……朝乃宮か」
俺達の会話に割り込んできたのは朝乃宮だった。
朝乃宮の後ろには。
「おはようございます、藤堂先輩」
「おはよう、上春。昨日の件か?」
「はい! 掃除ロッカーに閉じ込められてきた人のことが気になってしまって」
俺は上春に左近から聞いた内容をそのまま伝える。
「無事に出ることができて本当によかったですね!」
確かに喜ばしいことだが、素直に喜べなかった。もちろん、無事なのは喜ばしい。だが、この事件が起こってしまったこと自体、嘆かわしいことだ。
二度とこんなバカげたことが起きないよう、早急に解決すべき事件である。
俺達は一度席に着き、左近は話を続ける。
「犯人はまだ不明だけど、同じクラスの白部奏水さんを調べてみて」
「白部奏水?」
「最有力容疑者」
「橘はんも人が悪いどすな。もう目星をつけてはるなんて」
全くだ。それにしても、犯人の候補が同じ女子とは。女子同士の諍いか?
男だろうが女だろうが、悪意に性別は関係ない。まだ白部が犯人と決まったわけではないが、もし犯人なら容赦はしない。
もう二度とこんなふざけた真似をしないよう、徹底的に取り締まってやる。
決意を新たに、俺は調査を開始する。
「よし、白部奏水を調べてみるか」
「正道、くれぐれも冷静に対応してね。行き過ぎはダメだから」
「……それは相手次第だ」
もし、遊び半分でやったことなら、絶対に後悔させてやる。自分が何をしたのか、体にたたき込んでやるからな。
「ちょ、ちょっと待ってください! どうして、白部奏水さんって人が犯人だって分かるんですか? 外部の犯行だってあるかもしれないのに。もし間違っていたらどうする気なんですか?」
左近の推測に上春が異を唱える。
左近は気にすることなく、笑顔で上春に告げる。
「上春さん、僕が何の根拠もなく白部さんの名前を告げると思ってるの? 僕のこと、ナメてるのかな?」
「ご、ごめんなさい!」
「はぁ……別にいいんだけどね。それにしても、同じ委員の仲間に信頼されてないって悲しいね」
お、おい。上春が泣きそうな顔をしてうつむいているぞ。
何か上春が泣かせるようなこと、左近が言ったか?
俺も左近も上春の態度に戸惑っていると、朝乃宮がため息をつきながら、理由を話し出した。
「橘はん、言い方がキツすぎ。あんな突き放された態度をとられたら、女の子なら泣いてしまいますえ」
「……そうなの、正道?」
それは俺が言いたい。
左近はこんなヤツだ。口は悪くても、やるべきことはしっかりとやる。
この短時間でも容疑者を洗い出す情報収集能力は脱帽させられるし、正確だ。だからこそ、左近を信頼できる。左近は結果で応えてくれる男なのだ。
それを知っているからこそ、左近の言い方に別段腹を立てることはないし、左近の指示に素直に従うことができる。
だが、左近のことを知らない人間なら、左近の態度をどう思うのか?
上春のように傷つくのだろうか? 想像つかないな。こういうときは身近な人間に置き換えて考えてみるか。
俺の身近な人物で上春と同じような条件を満たす女子といえば……。
「……伊藤なら左近にごますりそうな気がするがな。賄賂も渡してそうだ」
「そういえば、伊藤さんが正道とコンビを組みたいってお願いされたとき、お菓子をもらった気がする。それとスカートをめくって色仕掛けもね」
「本当にしていたのか……あのバカ!」
冗談で言ったつもりが、まさか本当にごまをすっていたとは……あの命知らず、よく左近に賄賂なんて渡せるよな。
しかも、色仕掛けとは……ますますアホだな、伊藤は。
アイツの度胸はたいしたものだと感心する反面、呆れてしまった。お仕置きが必要だな、伊藤には。
バギッ!
「いい加減にしてくれます? これ以上、咲を泣かせたら許しませんえ」
「「……」」
この女、笑顔で木刀を使って机をたたき壊しやがった!
毎度思うのだが、どこから木刀を持ちだしてやがるんだ、この危険人物は。左近よりもお前の方が酷いだろうが!
ほんと、左近の態度に何も感じないのは、朝乃宮のような危険人物がいるからじゃないかと思ってしまった。
朝乃宮の前では、左近の態度なんて可愛いものだろうが。
さて、今考えるべき事はこの状況をどう切り抜けるかだ。朝乃宮はやるといったら本気でやる。朝から流血沙汰は勘弁して欲しい。
どう切り抜けるか、本気で悩んでいると。
「ぷっ……」
この状況で笑い出したのは、上春だった。
俺も左近も上春も唖然としてる。
俺達の視線に気づき、上春は恥ずかしそうにうつむく。
「ご、ごめんなさい。屈強な藤堂先輩と何事にも動じない橘風紀委員がコロコロと態度が変わるのがおかしくて」
年下の女の子に笑われるのは、なんともばつが悪い。
俺は左近と目が合った。
――正道。
――分かっている。
これは好機だ。場の流れを変えるチャンスは今しかない。
俺は咳を一つつき、仕切り直しを試す。
「なあ、左近。状況を再認識する意味を込めて、みんなに説明してくれないか? 白部がなぜ怪しいのか、そこに至った経緯を」
ここでみんなという言葉を使ったのは、上春を名指しすれば、気に病むと思ったからだ。
「そうだね。説明不足だったよ」
「い、いえ! 私こそ、橘先輩のお手を煩わせてしまい、ごめんなさい」
これで手打ちになっただろう。朝乃宮の殺気は完全に失せていた。
やれやれだ。
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