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番外編 バットエンド_届かない声 前編 プロローグ
プロローグ 後悔 その二
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「はーい、ストップストップ! 喧嘩はダメですから」
「女がでしゃ……ってほのほのじゃねえか!」
な、なんだ?
伊藤が割り込んできた瞬間、因縁をつけてきた男の顔がいきなりだらしない顔になる。
なんなんだ、コイツは。伊藤をいやらしい目つきで見やがって。
伊藤はその視線に気づいているはずなのに、にこにことしてやがる。なぜか、男に絡まれたとき以上にむかっ腹が立った。
「お久しぶり、陸奥君。元気してた」
「最後に遊びに行ったのが夏休みだっけ? それよりほのほの、お前、風紀委員なんてやってるのか?」
「たはははっ……ちょっとね」
「なんかの罰ゲームか? 笑える。そういや、三股してたんだな、お前。最低だな」
コイツ……。
ヘラヘラと笑いやがって。伊藤のこと、何も知らないくせに見かけだけで判断しやがって。最低なのはお前だろうが。
風紀委員に所属することが罰ゲームだと? 俺達を馬鹿にしているのか? いいだろう、その喧嘩、買ってやる。
我慢できずに目の前の男子生徒の口を黙らせようとしたとき、伊藤が男子生徒から見えないように俺を制した。
なんだ? 何をしようとしているんだ、伊藤は?
「若さ故の過ちかな。だから、反省の意味を込めてこの腕章をつけてるわけ」
「若さ故って俺と同い年じゃん!」
何がおかしいのか、男子生徒はゲラゲラと笑っている。伊藤も笑顔を崩さないまま、男子生徒に話しかけている。
気にくわない……。
「それより、タバコ吸うのよくないから。みーちゃん、タバコの臭い、苦手だから嫌われちゃうよ」
「ま、マジか! でも、水樹、ワイルドな男が好きって……」
「違いますから。ミーちゃんは年上スキーなだけだから。だから、大人になりなよ」
「……分かった! 俺、大人の男になる! 待ってろよ、水樹ぃ!」
男子生徒は奇声を上げながら、走り去っていった。
なんなんだ、アイツは……。
俺は男子生徒の変わり身の早さに呆然としていた。周りの男子生徒もやれやれと言いたげに肩をすくめている。
残りの二人は俺達に頭を下げながら男子生徒を追っていった。あの二人、苦労してそうだが、どこか楽しげに見えた。
ムカつくヤツだったが、バカやれる友達がいるってことはいいところもあるのかもしれない。ほんの少しだけ怒りがおさまっていくのを感じた。
伊藤が得意げに俺を見つめてきた。
「どうです、先輩。私の手腕」
伊藤は胸を張って自分の手柄を自慢する。
それに対して俺は……。
「……余計な真似するな」
俺は思っていたことと反対の言葉が出てきた。ここは褒めるべきところなのに、口にした言葉は拒絶の言葉だった。
伊藤がショックを受けた顔つきになる。
不味い! 言い過ぎた。
「……ちょっと酷くないですか? 私、先輩の役に立つと思ってやったのに」
これは俺が悪い。すぐに謝罪しなければ。
「す、すま……」
「この際だからはっきり言わせてもらいますけど、先輩のやり方は間違っていると思います」
「……なんだと?」
思わぬ反論に、俺は謝罪の言葉を飲み込んでしまった。伊藤に意見されるとは思ってもいなかったからだ。
伊藤は真っ直ぐ俺を見つめている。それは俺のことを責めるような、心配げな表情が浮かんでいた。
「先輩は喧嘩がしたいんですか? 相手を挑発することばかりして、怒らせて……あんな言い方されたら誰だって反抗したくなりますよ。もっと要領よくいかないと」
「……だったら、媚びでも売れって言いたいのか? 伊藤のようにヘラヘラしろって言いたいのか? 冗談じゃない。そんなこと、できるか。それに、伊藤。お前はやめたんじゃなかったのか? 自分を偽るのを……バカにされても笑顔でいるなんて馬鹿馬鹿しいとは思わないのか? 前に辛いって言っていたじゃないか」
俺の言葉に伊藤が傷ついた顔をしている。それでも、俺は言葉を止めることが出来なかった。
やめて欲しかったんだ。伊藤が自分を傷つけるようなことをしてほしくなかった。無理に笑顔を浮かべる事をしてほしくなかった。
ただ、それだけなのに……。
「……ケースバイケースですよ、先輩。穏便に済ませるにはこういったことも大切ですから。それにこの程度で傷つくほど弱くありませんから、私。それより、先輩の事です。先輩のやり方では孤立してしまいますよ。みんな仲良くが一番じゃないですか。仲がよかったら喧嘩も揉め事もないですから。万々歳ですよ」
それは伊藤が俺に気遣っての言葉だった。きっと、伊藤は俺を想ってのことだろう。
それは感謝するべきことなんだ。だが、俺は……。
「お節介はやめろ。迷惑だ」
この一言が大喧嘩の幕開けとなってしまった。
売り言葉に買い言葉。
俺達は盛大にやりあった。伊藤を泣かせてしまった。
こうなった原因は……俺だな。
何が俺をムキにさせたのか?
あの男子生徒の態度が許せなかったのか?
それもある。
未成年の喫煙は法律違反だ。それを注意しただけで、やれ偉そうだとか底辺の人間だとかそんなこと言われる筋合いはない。
間違っていることを間違っていると言って何が悪い? なぜ、こっちが相手に気を遣わなければならない。納得いくわけないだろうが。
それにあの男、俺を無視して伊藤に話しかけた事も気にくわない。これが不良だったら絶対にありえないことだ。
アイツらはムカついた相手だけを睨みつける。よそ見なんてしないし、まっすぐにぶつかってくる。
不良を底辺扱いするヤツはカチンと来る。心底クズなヤツもいるが、それは不良でなくても同じだ。
クズはクズ。そこに不良や一般人といった境目はない。
逆に不良の方が根性があってシンプルでわかりやすい。
要は弱肉強食。弱いヤツの意見は聞く価値もないが、強いヤツの言うことは聞く。それがこの青島の不良達のルールだ。
言葉よりも実力を示せ。
その潔さにはある種の尊敬の念だってある。
そんな不良を知りもしないで底辺だというあの男、ぶっとばしてやりたかった。それを伊藤に止められ、そのことで伊藤にあたってしまった。
本当に伊藤には申し訳ないことをした。先輩失格だ。それでも、伊藤の言い分に素直に従えなかった。
今までは一人で対応してきた。だから、誰にも文句を言われなかった。
この一件はパートナーがいる弊害だな。
どんな物事も良いことも、悪いこともある。どちらも受け止めるべきなのに、俺は受け止めきれなかった。だから、伊藤に八つ当たりをしてしまった。
他愛のない小さな事なのに伊藤と喧嘩してしまった一番の理由、それは……。
「藤堂先輩! 藤堂先輩!」
「女がでしゃ……ってほのほのじゃねえか!」
な、なんだ?
伊藤が割り込んできた瞬間、因縁をつけてきた男の顔がいきなりだらしない顔になる。
なんなんだ、コイツは。伊藤をいやらしい目つきで見やがって。
伊藤はその視線に気づいているはずなのに、にこにことしてやがる。なぜか、男に絡まれたとき以上にむかっ腹が立った。
「お久しぶり、陸奥君。元気してた」
「最後に遊びに行ったのが夏休みだっけ? それよりほのほの、お前、風紀委員なんてやってるのか?」
「たはははっ……ちょっとね」
「なんかの罰ゲームか? 笑える。そういや、三股してたんだな、お前。最低だな」
コイツ……。
ヘラヘラと笑いやがって。伊藤のこと、何も知らないくせに見かけだけで判断しやがって。最低なのはお前だろうが。
風紀委員に所属することが罰ゲームだと? 俺達を馬鹿にしているのか? いいだろう、その喧嘩、買ってやる。
我慢できずに目の前の男子生徒の口を黙らせようとしたとき、伊藤が男子生徒から見えないように俺を制した。
なんだ? 何をしようとしているんだ、伊藤は?
「若さ故の過ちかな。だから、反省の意味を込めてこの腕章をつけてるわけ」
「若さ故って俺と同い年じゃん!」
何がおかしいのか、男子生徒はゲラゲラと笑っている。伊藤も笑顔を崩さないまま、男子生徒に話しかけている。
気にくわない……。
「それより、タバコ吸うのよくないから。みーちゃん、タバコの臭い、苦手だから嫌われちゃうよ」
「ま、マジか! でも、水樹、ワイルドな男が好きって……」
「違いますから。ミーちゃんは年上スキーなだけだから。だから、大人になりなよ」
「……分かった! 俺、大人の男になる! 待ってろよ、水樹ぃ!」
男子生徒は奇声を上げながら、走り去っていった。
なんなんだ、アイツは……。
俺は男子生徒の変わり身の早さに呆然としていた。周りの男子生徒もやれやれと言いたげに肩をすくめている。
残りの二人は俺達に頭を下げながら男子生徒を追っていった。あの二人、苦労してそうだが、どこか楽しげに見えた。
ムカつくヤツだったが、バカやれる友達がいるってことはいいところもあるのかもしれない。ほんの少しだけ怒りがおさまっていくのを感じた。
伊藤が得意げに俺を見つめてきた。
「どうです、先輩。私の手腕」
伊藤は胸を張って自分の手柄を自慢する。
それに対して俺は……。
「……余計な真似するな」
俺は思っていたことと反対の言葉が出てきた。ここは褒めるべきところなのに、口にした言葉は拒絶の言葉だった。
伊藤がショックを受けた顔つきになる。
不味い! 言い過ぎた。
「……ちょっと酷くないですか? 私、先輩の役に立つと思ってやったのに」
これは俺が悪い。すぐに謝罪しなければ。
「す、すま……」
「この際だからはっきり言わせてもらいますけど、先輩のやり方は間違っていると思います」
「……なんだと?」
思わぬ反論に、俺は謝罪の言葉を飲み込んでしまった。伊藤に意見されるとは思ってもいなかったからだ。
伊藤は真っ直ぐ俺を見つめている。それは俺のことを責めるような、心配げな表情が浮かんでいた。
「先輩は喧嘩がしたいんですか? 相手を挑発することばかりして、怒らせて……あんな言い方されたら誰だって反抗したくなりますよ。もっと要領よくいかないと」
「……だったら、媚びでも売れって言いたいのか? 伊藤のようにヘラヘラしろって言いたいのか? 冗談じゃない。そんなこと、できるか。それに、伊藤。お前はやめたんじゃなかったのか? 自分を偽るのを……バカにされても笑顔でいるなんて馬鹿馬鹿しいとは思わないのか? 前に辛いって言っていたじゃないか」
俺の言葉に伊藤が傷ついた顔をしている。それでも、俺は言葉を止めることが出来なかった。
やめて欲しかったんだ。伊藤が自分を傷つけるようなことをしてほしくなかった。無理に笑顔を浮かべる事をしてほしくなかった。
ただ、それだけなのに……。
「……ケースバイケースですよ、先輩。穏便に済ませるにはこういったことも大切ですから。それにこの程度で傷つくほど弱くありませんから、私。それより、先輩の事です。先輩のやり方では孤立してしまいますよ。みんな仲良くが一番じゃないですか。仲がよかったら喧嘩も揉め事もないですから。万々歳ですよ」
それは伊藤が俺に気遣っての言葉だった。きっと、伊藤は俺を想ってのことだろう。
それは感謝するべきことなんだ。だが、俺は……。
「お節介はやめろ。迷惑だ」
この一言が大喧嘩の幕開けとなってしまった。
売り言葉に買い言葉。
俺達は盛大にやりあった。伊藤を泣かせてしまった。
こうなった原因は……俺だな。
何が俺をムキにさせたのか?
あの男子生徒の態度が許せなかったのか?
それもある。
未成年の喫煙は法律違反だ。それを注意しただけで、やれ偉そうだとか底辺の人間だとかそんなこと言われる筋合いはない。
間違っていることを間違っていると言って何が悪い? なぜ、こっちが相手に気を遣わなければならない。納得いくわけないだろうが。
それにあの男、俺を無視して伊藤に話しかけた事も気にくわない。これが不良だったら絶対にありえないことだ。
アイツらはムカついた相手だけを睨みつける。よそ見なんてしないし、まっすぐにぶつかってくる。
不良を底辺扱いするヤツはカチンと来る。心底クズなヤツもいるが、それは不良でなくても同じだ。
クズはクズ。そこに不良や一般人といった境目はない。
逆に不良の方が根性があってシンプルでわかりやすい。
要は弱肉強食。弱いヤツの意見は聞く価値もないが、強いヤツの言うことは聞く。それがこの青島の不良達のルールだ。
言葉よりも実力を示せ。
その潔さにはある種の尊敬の念だってある。
そんな不良を知りもしないで底辺だというあの男、ぶっとばしてやりたかった。それを伊藤に止められ、そのことで伊藤にあたってしまった。
本当に伊藤には申し訳ないことをした。先輩失格だ。それでも、伊藤の言い分に素直に従えなかった。
今までは一人で対応してきた。だから、誰にも文句を言われなかった。
この一件はパートナーがいる弊害だな。
どんな物事も良いことも、悪いこともある。どちらも受け止めるべきなのに、俺は受け止めきれなかった。だから、伊藤に八つ当たりをしてしまった。
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