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十四章
十四話 ツワブキ -先を見通す能力- その五
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「それでは始めましょうか。黒井さん、ジャッジ、お願いします」
「承知いたしましたわ。それでは……」
「ま、待った!」
いざ、勝負を始めようとしたとき、御堂先輩が待ったをかけてきた。
もしかして、他の勝負にしたいとかいいださないよね? それだと、御堂先輩に勝てる気がしない。
「なんですの、お姉さま。まさか、この土壇場で勝負内容を変えたいなんて、我儘をおっしゃるつもりですの?」
ナイスフォロー、黒井さん! やはり、頼りになる! 黒井さんを選んでよかった! 私の慧眼だよね、これ!
「違う! 一度受けた勝負は逃げねえよ。逃げないけど」
「けどなんですの?」
黒井さんが迷惑そうに御堂先輩を睨んでいる。御堂先輩は、苦々しい顔で黒井さんに頼み込む。
普段もこうなのかな? イメージとしては、御堂先輩が堂々として前を歩いて、それを黙って付き従うのが黒井さんって感じなんだけど。
黒井さんに両手を合わせて頼み込む御堂先輩を見ていると、可笑しくて笑ってしまう。
話を聞き終わり、黒井さんはため息をついた後、私に話しかけてきた。
「伊藤さん。お姉さまがじゃんけんの勝敗を三回勝負で二回勝ったら勝ちと言っているのですが」
「いいですよ。勝負の方法はこっちで決めさせていただきましたし、ルール変更くらいかまわないですよ。他にはありませんか?」
「……最初はグーでいいか?」
真面目な顔で何を言うかと思えば……ギャップがあってつい笑ってしまった。
黒井さんは呆れている。
「お姉様……」
「いいですよ、最初はグーから始めて、それ以降は黒井さんの声に合わせてじゃんけんすることでいいですか?」
「ああ、それでいい。黒井、頼む」
「任されましたわ」
「ちょっと待って! ちょっと精神統一するから!」
私は黒井さんに待ったをかける。
黒井さんに睨まれるけど、私は笑ってごまかした。
緊張のあまり、つい待ったをかけてしまった。私はある方法で緊張をほぐす。
「もういいですの?」
「はい! では勝負しましょう!」
私は全神経を集中させる。気持ちが高まっていく。
特訓の成果をみせるときがきた。練習通りにするば何も問題はない。
私と御堂先輩は、黒井さんの掛け声を今か今かと待ち続ける。心臓の音がドッグンドッグンと聞こえてくる。
早く……早く……。
この緊張感から逃げたい。早くして、黒井さん。
黒井さんが私達の間に立ち……。
「それでは、始めますの。最初はグー、じゃんけん……」
黒井さんの声で戦いの火蓋が切って落とされた。
お互いグーを出した後、勝負が始まる。
私が知る限り、じゃんけんに必勝法はない。でも、例外はある。
それは……御堂先輩とのじゃんけん。御堂先輩に勝つための条件はそろっている。
私は目を大きく見開き、御堂先輩を観察した。
……間違いない。
私は確信した。
この勝負、私の勝ち!
「ポン!」
「ポン!」
「ポン!」
息をつく間もなく、じゃんけん勝負が繰り返された。
勝者は……。
「勝負あり! 勝者、伊藤!」
「やった!」
「……」
勝った! 勝ったよ!
私は両手を上げ、その場でくるくると回り、喜びをあらわにした。
御堂先輩がその場で跪き頭を垂れる。
これってレアだよね! あの御堂先輩を跪かせた女の子って私くらいじゃない? 私が初じゃない? ちょっと誇らしい気分!
つい顔がにやけてしまう。
「御堂先輩、私の勝ちですから、協力してくださいね」
私はにっこりと笑って、御堂先輩の肩を叩いた。
「……なあ、伊藤。約束は守る。だから、教えてくれ。私の何が悪いんだ? なぜ、私はじゃんけんに勝てない」
「それは……」
「それは……」
すがるような目で私に助けを求める御堂先輩に、私はとびっきりの笑顔で教えてあげた。
「運が悪いからです」
「……」
ふふっ、ちょっと気持ちいい! 頑張った甲斐があった。
口を開けて呆然とする御堂先輩に背を向け、私は黒井さんに声をかけた。
「いきましょうか、黒井さん」
「そうですわね」
「ま、待ってくれ!」
私と黒井さんは御堂先輩を無視して、その場を後にした。
「ありがとね、黒井さん。おかげで勝てました」
本当に黒井さんにはお世話になった。黒井さんがいてくれたから勝てたんだ。
黒井さんは肩をすくめ、首を横に振る。
「私は何もしてませんわ。お姉さまに勝てたのは伊藤さんの実力ですの」
私はうまくいったことに安堵の吐息をもらした。
じゃんけん勝負。
運だけでなく、相手がなにを出すのか予測、もしくはコントロールして勝ちにいくゲーム。
もちろん、じゃんけんに必勝法なんてものはない。いや、あるかもしれないけど、私には想像もつかない。
ただ、御堂先輩に限り、勝つ確率がかなり高くなる方法がある。
御堂先輩には致命的な弱点がある。それは、じゃんけんで次に何を出すのか教えてくれること。
もちろん、御堂先輩の意思で教えてくれるわけじゃない。無意識の行動、クセで教えてくれるわけ。
自分のクセって、意外と本人は気づいていない。特定の条件化でのクセだから御堂先輩は気付かない。
ネタばらしをすると、御堂先輩がじゃんけんをするとき、左利きなので左手でじゃんけんする。
そのとき、右手が次に出すものを無意識に形をとっている。
例えば、御堂先輩がグーを出そうとしたとき、グーを出す前に右手を握りしめる。チョキならピース、パーなら全ての指を広げる。
じゃんけんで次に何を出すのか分かるので、それにあわせて勝つ型を出せばいい。
事前にそんなことしてるなんて信じられる? でも、ホントなの。
理屈では簡単に思えるけど、いくつか問題があった。
まず、クセは御堂先輩が動揺していないと出ない。
それに、じゃんけんをする直前にそのクセがでるので、確認できるのは一秒もない。
その一瞬で判断して勝つ型を出さなければならない。
ぶっつけ本場でできることじゃないので、長尾先輩に特訓をつけてもらった。長尾先輩を御堂先輩と見立てて何度も練習をした。
長尾先輩は御堂先輩のクセを知っていたので真似ができる。
何回か練習して勝てるようになってから、御堂先輩に勝負を挑んだ。
不安はあった。
もし、御堂先輩のクセが直っていたら、クセに気づいていたら、うまく私が反応できなかったら……色々と不安材料はあったけど、なんとか御堂先輩に勝つことができた。
肩の力が抜けていくのが分かる。
御堂先輩に相手に落ち着いて対処できたのは、先輩のおかげ。
じゃんけんをする前に、私はカバンにつけたぬいぐるみをそっと握りしめた。ゲームセンターで先輩にもらったぬいぐるみ。
そのぬいぐるみを握り締めたとき、勇気が湧いてきた。押し寄せる不安と緊張を取り除けた。
恋ってすごいと思う。
一人では無理なことでも、好きな人を想うだけで力が湧いてきて、不可能と思っていたことが可能になっちゃうんだから。
恋を知らなかった私なら、御堂先輩に勝とうだなんて想像すらできなかったし、やる前からあきらめていた。
でも、実際に私は御堂先輩に勝てた。私でもやれることを証明できた。これならきっと、全てがうまくいきますよね、先輩。
残りは三人。絶対に負けない!
「承知いたしましたわ。それでは……」
「ま、待った!」
いざ、勝負を始めようとしたとき、御堂先輩が待ったをかけてきた。
もしかして、他の勝負にしたいとかいいださないよね? それだと、御堂先輩に勝てる気がしない。
「なんですの、お姉さま。まさか、この土壇場で勝負内容を変えたいなんて、我儘をおっしゃるつもりですの?」
ナイスフォロー、黒井さん! やはり、頼りになる! 黒井さんを選んでよかった! 私の慧眼だよね、これ!
「違う! 一度受けた勝負は逃げねえよ。逃げないけど」
「けどなんですの?」
黒井さんが迷惑そうに御堂先輩を睨んでいる。御堂先輩は、苦々しい顔で黒井さんに頼み込む。
普段もこうなのかな? イメージとしては、御堂先輩が堂々として前を歩いて、それを黙って付き従うのが黒井さんって感じなんだけど。
黒井さんに両手を合わせて頼み込む御堂先輩を見ていると、可笑しくて笑ってしまう。
話を聞き終わり、黒井さんはため息をついた後、私に話しかけてきた。
「伊藤さん。お姉さまがじゃんけんの勝敗を三回勝負で二回勝ったら勝ちと言っているのですが」
「いいですよ。勝負の方法はこっちで決めさせていただきましたし、ルール変更くらいかまわないですよ。他にはありませんか?」
「……最初はグーでいいか?」
真面目な顔で何を言うかと思えば……ギャップがあってつい笑ってしまった。
黒井さんは呆れている。
「お姉様……」
「いいですよ、最初はグーから始めて、それ以降は黒井さんの声に合わせてじゃんけんすることでいいですか?」
「ああ、それでいい。黒井、頼む」
「任されましたわ」
「ちょっと待って! ちょっと精神統一するから!」
私は黒井さんに待ったをかける。
黒井さんに睨まれるけど、私は笑ってごまかした。
緊張のあまり、つい待ったをかけてしまった。私はある方法で緊張をほぐす。
「もういいですの?」
「はい! では勝負しましょう!」
私は全神経を集中させる。気持ちが高まっていく。
特訓の成果をみせるときがきた。練習通りにするば何も問題はない。
私と御堂先輩は、黒井さんの掛け声を今か今かと待ち続ける。心臓の音がドッグンドッグンと聞こえてくる。
早く……早く……。
この緊張感から逃げたい。早くして、黒井さん。
黒井さんが私達の間に立ち……。
「それでは、始めますの。最初はグー、じゃんけん……」
黒井さんの声で戦いの火蓋が切って落とされた。
お互いグーを出した後、勝負が始まる。
私が知る限り、じゃんけんに必勝法はない。でも、例外はある。
それは……御堂先輩とのじゃんけん。御堂先輩に勝つための条件はそろっている。
私は目を大きく見開き、御堂先輩を観察した。
……間違いない。
私は確信した。
この勝負、私の勝ち!
「ポン!」
「ポン!」
「ポン!」
息をつく間もなく、じゃんけん勝負が繰り返された。
勝者は……。
「勝負あり! 勝者、伊藤!」
「やった!」
「……」
勝った! 勝ったよ!
私は両手を上げ、その場でくるくると回り、喜びをあらわにした。
御堂先輩がその場で跪き頭を垂れる。
これってレアだよね! あの御堂先輩を跪かせた女の子って私くらいじゃない? 私が初じゃない? ちょっと誇らしい気分!
つい顔がにやけてしまう。
「御堂先輩、私の勝ちですから、協力してくださいね」
私はにっこりと笑って、御堂先輩の肩を叩いた。
「……なあ、伊藤。約束は守る。だから、教えてくれ。私の何が悪いんだ? なぜ、私はじゃんけんに勝てない」
「それは……」
「それは……」
すがるような目で私に助けを求める御堂先輩に、私はとびっきりの笑顔で教えてあげた。
「運が悪いからです」
「……」
ふふっ、ちょっと気持ちいい! 頑張った甲斐があった。
口を開けて呆然とする御堂先輩に背を向け、私は黒井さんに声をかけた。
「いきましょうか、黒井さん」
「そうですわね」
「ま、待ってくれ!」
私と黒井さんは御堂先輩を無視して、その場を後にした。
「ありがとね、黒井さん。おかげで勝てました」
本当に黒井さんにはお世話になった。黒井さんがいてくれたから勝てたんだ。
黒井さんは肩をすくめ、首を横に振る。
「私は何もしてませんわ。お姉さまに勝てたのは伊藤さんの実力ですの」
私はうまくいったことに安堵の吐息をもらした。
じゃんけん勝負。
運だけでなく、相手がなにを出すのか予測、もしくはコントロールして勝ちにいくゲーム。
もちろん、じゃんけんに必勝法なんてものはない。いや、あるかもしれないけど、私には想像もつかない。
ただ、御堂先輩に限り、勝つ確率がかなり高くなる方法がある。
御堂先輩には致命的な弱点がある。それは、じゃんけんで次に何を出すのか教えてくれること。
もちろん、御堂先輩の意思で教えてくれるわけじゃない。無意識の行動、クセで教えてくれるわけ。
自分のクセって、意外と本人は気づいていない。特定の条件化でのクセだから御堂先輩は気付かない。
ネタばらしをすると、御堂先輩がじゃんけんをするとき、左利きなので左手でじゃんけんする。
そのとき、右手が次に出すものを無意識に形をとっている。
例えば、御堂先輩がグーを出そうとしたとき、グーを出す前に右手を握りしめる。チョキならピース、パーなら全ての指を広げる。
じゃんけんで次に何を出すのか分かるので、それにあわせて勝つ型を出せばいい。
事前にそんなことしてるなんて信じられる? でも、ホントなの。
理屈では簡単に思えるけど、いくつか問題があった。
まず、クセは御堂先輩が動揺していないと出ない。
それに、じゃんけんをする直前にそのクセがでるので、確認できるのは一秒もない。
その一瞬で判断して勝つ型を出さなければならない。
ぶっつけ本場でできることじゃないので、長尾先輩に特訓をつけてもらった。長尾先輩を御堂先輩と見立てて何度も練習をした。
長尾先輩は御堂先輩のクセを知っていたので真似ができる。
何回か練習して勝てるようになってから、御堂先輩に勝負を挑んだ。
不安はあった。
もし、御堂先輩のクセが直っていたら、クセに気づいていたら、うまく私が反応できなかったら……色々と不安材料はあったけど、なんとか御堂先輩に勝つことができた。
肩の力が抜けていくのが分かる。
御堂先輩に相手に落ち着いて対処できたのは、先輩のおかげ。
じゃんけんをする前に、私はカバンにつけたぬいぐるみをそっと握りしめた。ゲームセンターで先輩にもらったぬいぐるみ。
そのぬいぐるみを握り締めたとき、勇気が湧いてきた。押し寄せる不安と緊張を取り除けた。
恋ってすごいと思う。
一人では無理なことでも、好きな人を想うだけで力が湧いてきて、不可能と思っていたことが可能になっちゃうんだから。
恋を知らなかった私なら、御堂先輩に勝とうだなんて想像すらできなかったし、やる前からあきらめていた。
でも、実際に私は御堂先輩に勝てた。私でもやれることを証明できた。これならきっと、全てがうまくいきますよね、先輩。
残りは三人。絶対に負けない!
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