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十四章
十四話 ツワブキ -先を見通す能力- その三
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「ふ、風紀委員と対決する?」
「そうだ。要は風紀委員に邪魔されずに、獅子王達を説得したいんだろ? なら、風紀委員を叩きのめして、それから獅子王先輩達を説得しろ。それで解決だ」
古見君と獅子王先輩のことで行き詰り、風紀委員からも敵視されている私の現状について、御堂先輩が出した打開策はとんでもないものだった。
風紀委員と対決? 私が?
「……帰ろう」
「おい、待て!」
屋上を出ていこうとした私の襟首を御堂先輩が掴む。
ぐえっ!
首が絞まり、むせかえってしまった。
もう、私を殺す気ですか、御堂先輩! もう少し年下をいたわってくださいよ!
「無理でしょ! 私なんかが風紀委員に勝てるわけないじゃないですか! 御堂先輩が代わりに相手してくれるんですか!」
「あまったれるな。それくらい、自分でどうにかしろ」
どうにもできないよ! やっぱり、御堂先輩の意見はあてにならない。
脳筋過ぎ! ついてけない! 真面目にきいて損した。
「おい、勝手に諦めるな。もし、それができたら橘達の知恵をかりれるだろうが」
「? 橘先輩達の知恵?」
「そうだ。獅子王先輩達を説得する為の知恵だ」
た、確かに橘先輩なら獅子王先輩達を言いくるめることができるかもしれない……のかな? 同性愛にあれだけ否定していた橘先輩の声があの二人の気持ちを動かせるとは思えないんですけど。
それ以前にどうやって、橘先輩の力を借りることができるの?
「で、でも、やっぱり無理ですよ。橘先輩が協力してくれるとは思いません。頼めたとしても、精々手を出さない程度だと思います」
「なら命令しろ。風紀委員には鉄の掟があってな。負けたヤツは勝ったヤツのいうことをきく。どうだ? シンプルでわかりやすいだろ?」
いやいやいや! 超体育系じゃん! そんなローカルルール、知りませんから!
こんな理不尽なこと、先輩が許すわけが……ないこともないか。先輩なら勝負に勝って、こんなバカげたことをやめさせるよう命令しそうだし。
「け、けど、橘先輩に勝てたとしても……二人だけじゃ……」
「なら、藤堂や朝乃宮、長尾達を頼れ。麗子や上春もいるだろ? 何人かよれば……かしましいっだっけ?」
「三人寄れば文殊の知恵ですね」
「それだ!」
私はつい苦笑してしまった。確かに、みんなそろえば賑やかだけどね。
みんなが力を貸してくれたら……うまくいくかもしれない。この状況を打開できるかもしれない。かもしれないけど……。
「……でも、みなさん、同性愛に否定的じゃないですか? うまくいきますかね? もしかしたら、失敗するかも……だったら……」
「だぁあああ! 愚痴愚痴とうるさいヤツだな! まずは行動してみろ! 当たって砕けろ!」
「でもでも、これ以上獅子王先輩達の迷惑になりたくないし、力になれないならやっぱりやめた方がいいかも……」
違う。本当は私が傷つきたくないだけ。体のいい言い訳だ。
そんな情けない私を、御堂先輩は容赦なく突っかかってくる。まるで、逃げるなと言いたげに。
「なら、やめるか?」
「それはイヤ」
ブチッ!
「お、抑えてください、御堂先輩!」
「離せ! このガキ、黙って聞いてれば我儘ばかり言いやがって! 殴って修正してやる!」
「き、気持ちは分かりますけど、何も解決しないし!」
そんなこと言われたって。それに、私が風紀委員に勝つことが前提じゃない。
勝てなきゃ意味がないよ。それに勝負を挑んで負けたら、私は風紀委員をクビになるかもしれないし、第一、勝負してくれるかも分からない。
私が橘先輩なら勝負を受けないよ。メリットがないもん。
私は溜息をつく。もちろん、御堂先輩から十メートル距離をとっている。出口も確保済み。
「ほのほの、完全にいじけてるよ。ああなると面倒くさいんだよね」
「だから、殴ればいいだろ?」
「ブラウン管のテレビじゃないし。それに、御堂先輩も原因の一つだし」
「……んじゃあ、どうしたらいいんだよ」
御堂先輩までふてくされている。
申し訳ありません。私、きっと前世がミジンコだったんです。
ミジンコはミジンコらしく、静かに生きていきます。おとなしく光合成でもしてます。
「ここは」
「私達にまかせるし」
御堂先輩を明日香とるりかがなだめてから、私に近づいてくる。
ううっ、悪いけど、何を言われてもやらないからね。だって、無理だもん。
「ほのほの、頑張ろうよ」
「無理」
「メリットあるし」
「全然ないよ。無茶だもん」
風紀委員に私が勝てるわけないし、説得も絶対無理。
「でも、風紀委員に勝てば、藤堂先輩と仲良くなれるんじゃない?」
「なんで? どうして? 理由は? ソース何?」
「食い付きよすぎだし」
だって、先輩と仲直りできるなんてどういうことなの? 知りたいじゃん。
先輩、本気で怒ってた。今でも先輩の怒った顔、思い出せる。
あんな先輩、初めて見た。
きっと許してもらえないよ。
それに……裏切られたし。迷惑ってどういうこと? 先輩は私に謝るべきだよね。
でもやっぱり、先輩ともう一度、話をしたい。
「い、一応聞きたいの! どうして!」
「だって、藤堂先輩が怒っているのって、ほのほのの我儘だって思ってるわけでしょ? そうでないことを証明して、ほのほののやっていることは正しいって藤堂先輩に分かってもらえたら、許してくれるって。藤堂先輩ってそういう人でしょ?」
「……」
確かに。先輩は石頭だけど、私のやってることが正しいと証明すれば、先輩は許してくれるはず。
先輩、なんだかんだで真面目だもん。納得いくなら素直に受け入れてくれるはず。
でも……。
「やっぱり、無理だもん」
「無理かどうか確かめるし」
「どうやって?」
「携帯にかけてみるし」
ちょ! なんで明日香が私の携帯持ってるの!
明日香が私の携帯を使って先輩に電話している。
や、やめてよ!
私は超特急で携帯を奪い取った。
「もしもし、伊藤か?」
繋がってるよ! ど、どうしよう!
先輩の声がきこえる! どうしてだろう、ちょっと嬉しい。
この電話の先に先輩がいる。私は……。
ピッ!
通話を切った。
「ふう……これでよし」
「何がいいの! 切っちゃダメでしょ、ほのほの!」
「バカじゃないし!」
だ、だって、仕方ないじゃない! 今は無理だよ! 無理無理!
手の中で携帯が震えてる。着メロが流れている。
私のお気に入りの曲で、先輩用の着メロ。
美女と野獣の主題歌。
「……ベタだね、ほのほの」
「ほのかが美女とか、藤堂先輩が野獣とか……それって、自分で自称美少女戦士って言うくらい痛いし」
「うっさいな! 普通にいい曲でしょ!」
「早くとれ」
御堂先輩に睨まれ、私は渋々電話をとる。
ううっ、絶対に怒られるよ。
「……はい」
「伊藤、どうかしたか?」
怒って……ない? 先輩の声は私を気遣うかのような、少し柔らかい口調だった。
「な、なんで電話をかけなおしてくれたんですか? 私、その……電話、きっちゃったし……ご迷惑をおかけしたままなのに……」
「何か困ったことがあったから電話してきたんだろ? なら話してみろ」
なぜ、先輩は私の事、気にかけてくれるんだろう? 前はあんなに怒っていたのに。
それが嬉しくもあり、寂しくもあった。
「どうしてですか? 怒ってないんですか?」
「怒ってる。でもな、後輩が俺を頼って電話してくれたんなら応えたいだろ? 前にも同じようなことあったからな」
あっ……。
私はふと思い出した。
そうだ。各部のBLの件がバレて先輩に怒られたけど、古見君のことがあったから先輩に相談したんだっけ。
先輩は怒らずに、私の悩みを真剣に聞いてくれたんだよね。
そのことを思い出して、胸の奥が熱くなる。
なつかしい。まだそんなに日にちはたっていないのに、凄く懐かしく感じる。
「……っ」
「ど、どうした? 何かあったのか!」
いけない。こんなことで泣くな。泣き虫な自分が嫌になる。
涙をこらえ、私はなるべく明るい声で返事した。
「いえ、大丈夫です。すごく懐かしく思えて。先輩、あの頃のようにまた仲良くできないんでしょうか?」
「……できるさ。獅子王先輩達の事のことから手を引けばいい。二人のことは忘れて……いや、距離をとってみないか? そうすれば、左近も許してくれるさ。そしたら、前みたいに俺達と風紀委員の活動を一緒にしよう。伊藤は俺の後輩だ。だから、しっかり面倒みてやる。間違っていたら叱る。困っていたら助ける。それが先輩ってもんだろ? だから……帰ってこい」
「……先輩」
もう……ほんと……先輩は空気読めないんだから。あまり泣かせるようなこと、言わないでくださいよ。
好きな人に心配してもらえることがうれしくて、こそばゆくて……やっぱり、涙が出てくる。
女の子を泣かすなんて、本当に先輩はダメな人だよね。
でも、力が湧いてくる。前に進む為の力が。
私、先輩と仲直りしたい! それに認められたい! だから……。
「先輩、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「ああ、なんだ、その……俺も前は少し言いすぎた。だけどな、いい加減聞き分けてくれ。俺や左近も伊藤のことが憎くて言っているわけじゃないんだ」
「分かっていますから。ねえ、先輩。また、ハーレム騒動のときのように、みんなで力を合わせて頑張ることができますか? もちろん、私が正しいことをするためになら、私のことを先輩や橘先輩が認めてくれたなら、また力を貸してくれますか?」
「もちろんだ」
先輩……ありがとうございます。
私、やってみせます!
「先輩、ありがとうございます。後で風紀委員室にいきます」
「そっか。待ってる」
私は電話を切った。携帯を胸の前で握りしめる。
先輩……ありがとうございます。
心の中でお礼を言う。迷惑かけてしまうけど、ごめんなさい。
やっぱり、私、諦めきれない! 先輩にもみせてあげたい! 先輩が望んだ本当の絆を! だから……。
私は御堂先輩と向き合う。今度は御堂先輩の目をまっすぐ見据えて、はっきりと宣言した。
「御堂先輩。私、勝ちます!」
私の宣言に御堂先輩もるりかも明日香も呆れながらも、笑ってくれた。
御堂先輩は一言、頑張れよって言い残して去っていった。
涙でメイクが崩れたので、ちゃんと直して落ち着いてから、私は風紀委員室に向かった。
橘先輩に宣戦布告する為に。
「そうだ。要は風紀委員に邪魔されずに、獅子王達を説得したいんだろ? なら、風紀委員を叩きのめして、それから獅子王先輩達を説得しろ。それで解決だ」
古見君と獅子王先輩のことで行き詰り、風紀委員からも敵視されている私の現状について、御堂先輩が出した打開策はとんでもないものだった。
風紀委員と対決? 私が?
「……帰ろう」
「おい、待て!」
屋上を出ていこうとした私の襟首を御堂先輩が掴む。
ぐえっ!
首が絞まり、むせかえってしまった。
もう、私を殺す気ですか、御堂先輩! もう少し年下をいたわってくださいよ!
「無理でしょ! 私なんかが風紀委員に勝てるわけないじゃないですか! 御堂先輩が代わりに相手してくれるんですか!」
「あまったれるな。それくらい、自分でどうにかしろ」
どうにもできないよ! やっぱり、御堂先輩の意見はあてにならない。
脳筋過ぎ! ついてけない! 真面目にきいて損した。
「おい、勝手に諦めるな。もし、それができたら橘達の知恵をかりれるだろうが」
「? 橘先輩達の知恵?」
「そうだ。獅子王先輩達を説得する為の知恵だ」
た、確かに橘先輩なら獅子王先輩達を言いくるめることができるかもしれない……のかな? 同性愛にあれだけ否定していた橘先輩の声があの二人の気持ちを動かせるとは思えないんですけど。
それ以前にどうやって、橘先輩の力を借りることができるの?
「で、でも、やっぱり無理ですよ。橘先輩が協力してくれるとは思いません。頼めたとしても、精々手を出さない程度だと思います」
「なら命令しろ。風紀委員には鉄の掟があってな。負けたヤツは勝ったヤツのいうことをきく。どうだ? シンプルでわかりやすいだろ?」
いやいやいや! 超体育系じゃん! そんなローカルルール、知りませんから!
こんな理不尽なこと、先輩が許すわけが……ないこともないか。先輩なら勝負に勝って、こんなバカげたことをやめさせるよう命令しそうだし。
「け、けど、橘先輩に勝てたとしても……二人だけじゃ……」
「なら、藤堂や朝乃宮、長尾達を頼れ。麗子や上春もいるだろ? 何人かよれば……かしましいっだっけ?」
「三人寄れば文殊の知恵ですね」
「それだ!」
私はつい苦笑してしまった。確かに、みんなそろえば賑やかだけどね。
みんなが力を貸してくれたら……うまくいくかもしれない。この状況を打開できるかもしれない。かもしれないけど……。
「……でも、みなさん、同性愛に否定的じゃないですか? うまくいきますかね? もしかしたら、失敗するかも……だったら……」
「だぁあああ! 愚痴愚痴とうるさいヤツだな! まずは行動してみろ! 当たって砕けろ!」
「でもでも、これ以上獅子王先輩達の迷惑になりたくないし、力になれないならやっぱりやめた方がいいかも……」
違う。本当は私が傷つきたくないだけ。体のいい言い訳だ。
そんな情けない私を、御堂先輩は容赦なく突っかかってくる。まるで、逃げるなと言いたげに。
「なら、やめるか?」
「それはイヤ」
ブチッ!
「お、抑えてください、御堂先輩!」
「離せ! このガキ、黙って聞いてれば我儘ばかり言いやがって! 殴って修正してやる!」
「き、気持ちは分かりますけど、何も解決しないし!」
そんなこと言われたって。それに、私が風紀委員に勝つことが前提じゃない。
勝てなきゃ意味がないよ。それに勝負を挑んで負けたら、私は風紀委員をクビになるかもしれないし、第一、勝負してくれるかも分からない。
私が橘先輩なら勝負を受けないよ。メリットがないもん。
私は溜息をつく。もちろん、御堂先輩から十メートル距離をとっている。出口も確保済み。
「ほのほの、完全にいじけてるよ。ああなると面倒くさいんだよね」
「だから、殴ればいいだろ?」
「ブラウン管のテレビじゃないし。それに、御堂先輩も原因の一つだし」
「……んじゃあ、どうしたらいいんだよ」
御堂先輩までふてくされている。
申し訳ありません。私、きっと前世がミジンコだったんです。
ミジンコはミジンコらしく、静かに生きていきます。おとなしく光合成でもしてます。
「ここは」
「私達にまかせるし」
御堂先輩を明日香とるりかがなだめてから、私に近づいてくる。
ううっ、悪いけど、何を言われてもやらないからね。だって、無理だもん。
「ほのほの、頑張ろうよ」
「無理」
「メリットあるし」
「全然ないよ。無茶だもん」
風紀委員に私が勝てるわけないし、説得も絶対無理。
「でも、風紀委員に勝てば、藤堂先輩と仲良くなれるんじゃない?」
「なんで? どうして? 理由は? ソース何?」
「食い付きよすぎだし」
だって、先輩と仲直りできるなんてどういうことなの? 知りたいじゃん。
先輩、本気で怒ってた。今でも先輩の怒った顔、思い出せる。
あんな先輩、初めて見た。
きっと許してもらえないよ。
それに……裏切られたし。迷惑ってどういうこと? 先輩は私に謝るべきだよね。
でもやっぱり、先輩ともう一度、話をしたい。
「い、一応聞きたいの! どうして!」
「だって、藤堂先輩が怒っているのって、ほのほのの我儘だって思ってるわけでしょ? そうでないことを証明して、ほのほののやっていることは正しいって藤堂先輩に分かってもらえたら、許してくれるって。藤堂先輩ってそういう人でしょ?」
「……」
確かに。先輩は石頭だけど、私のやってることが正しいと証明すれば、先輩は許してくれるはず。
先輩、なんだかんだで真面目だもん。納得いくなら素直に受け入れてくれるはず。
でも……。
「やっぱり、無理だもん」
「無理かどうか確かめるし」
「どうやって?」
「携帯にかけてみるし」
ちょ! なんで明日香が私の携帯持ってるの!
明日香が私の携帯を使って先輩に電話している。
や、やめてよ!
私は超特急で携帯を奪い取った。
「もしもし、伊藤か?」
繋がってるよ! ど、どうしよう!
先輩の声がきこえる! どうしてだろう、ちょっと嬉しい。
この電話の先に先輩がいる。私は……。
ピッ!
通話を切った。
「ふう……これでよし」
「何がいいの! 切っちゃダメでしょ、ほのほの!」
「バカじゃないし!」
だ、だって、仕方ないじゃない! 今は無理だよ! 無理無理!
手の中で携帯が震えてる。着メロが流れている。
私のお気に入りの曲で、先輩用の着メロ。
美女と野獣の主題歌。
「……ベタだね、ほのほの」
「ほのかが美女とか、藤堂先輩が野獣とか……それって、自分で自称美少女戦士って言うくらい痛いし」
「うっさいな! 普通にいい曲でしょ!」
「早くとれ」
御堂先輩に睨まれ、私は渋々電話をとる。
ううっ、絶対に怒られるよ。
「……はい」
「伊藤、どうかしたか?」
怒って……ない? 先輩の声は私を気遣うかのような、少し柔らかい口調だった。
「な、なんで電話をかけなおしてくれたんですか? 私、その……電話、きっちゃったし……ご迷惑をおかけしたままなのに……」
「何か困ったことがあったから電話してきたんだろ? なら話してみろ」
なぜ、先輩は私の事、気にかけてくれるんだろう? 前はあんなに怒っていたのに。
それが嬉しくもあり、寂しくもあった。
「どうしてですか? 怒ってないんですか?」
「怒ってる。でもな、後輩が俺を頼って電話してくれたんなら応えたいだろ? 前にも同じようなことあったからな」
あっ……。
私はふと思い出した。
そうだ。各部のBLの件がバレて先輩に怒られたけど、古見君のことがあったから先輩に相談したんだっけ。
先輩は怒らずに、私の悩みを真剣に聞いてくれたんだよね。
そのことを思い出して、胸の奥が熱くなる。
なつかしい。まだそんなに日にちはたっていないのに、凄く懐かしく感じる。
「……っ」
「ど、どうした? 何かあったのか!」
いけない。こんなことで泣くな。泣き虫な自分が嫌になる。
涙をこらえ、私はなるべく明るい声で返事した。
「いえ、大丈夫です。すごく懐かしく思えて。先輩、あの頃のようにまた仲良くできないんでしょうか?」
「……できるさ。獅子王先輩達の事のことから手を引けばいい。二人のことは忘れて……いや、距離をとってみないか? そうすれば、左近も許してくれるさ。そしたら、前みたいに俺達と風紀委員の活動を一緒にしよう。伊藤は俺の後輩だ。だから、しっかり面倒みてやる。間違っていたら叱る。困っていたら助ける。それが先輩ってもんだろ? だから……帰ってこい」
「……先輩」
もう……ほんと……先輩は空気読めないんだから。あまり泣かせるようなこと、言わないでくださいよ。
好きな人に心配してもらえることがうれしくて、こそばゆくて……やっぱり、涙が出てくる。
女の子を泣かすなんて、本当に先輩はダメな人だよね。
でも、力が湧いてくる。前に進む為の力が。
私、先輩と仲直りしたい! それに認められたい! だから……。
「先輩、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「ああ、なんだ、その……俺も前は少し言いすぎた。だけどな、いい加減聞き分けてくれ。俺や左近も伊藤のことが憎くて言っているわけじゃないんだ」
「分かっていますから。ねえ、先輩。また、ハーレム騒動のときのように、みんなで力を合わせて頑張ることができますか? もちろん、私が正しいことをするためになら、私のことを先輩や橘先輩が認めてくれたなら、また力を貸してくれますか?」
「もちろんだ」
先輩……ありがとうございます。
私、やってみせます!
「先輩、ありがとうございます。後で風紀委員室にいきます」
「そっか。待ってる」
私は電話を切った。携帯を胸の前で握りしめる。
先輩……ありがとうございます。
心の中でお礼を言う。迷惑かけてしまうけど、ごめんなさい。
やっぱり、私、諦めきれない! 先輩にもみせてあげたい! 先輩が望んだ本当の絆を! だから……。
私は御堂先輩と向き合う。今度は御堂先輩の目をまっすぐ見据えて、はっきりと宣言した。
「御堂先輩。私、勝ちます!」
私の宣言に御堂先輩もるりかも明日香も呆れながらも、笑ってくれた。
御堂先輩は一言、頑張れよって言い残して去っていった。
涙でメイクが崩れたので、ちゃんと直して落ち着いてから、私は風紀委員室に向かった。
橘先輩に宣戦布告する為に。
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