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十四章

十四話 ツワブキ -先を見通す能力- その二

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 ガチャ。

 屋上のドアが開く音がした。
 入ってきたのは目的の人物であることを確認し、私は仁王立ちの状態で、不敵ふてきな笑みを浮かべておむかえする。

「お待ちしていました、御堂先輩!」
「……」

 あれ? 御堂先輩の顔が少し不機嫌そうな顔をしているけど、どうしたのかな?

「おい、伊藤」
「はい?」
「あれはなんだ?」

 あれ? あれって何? 御堂先輩を不機嫌にさせるようなこと、何かあったのかな?
 首をかしげていると、更に御堂先輩の機嫌が悪くなる。

「あの果たし状のことだ」
「果たし状?」

 ええっと、御堂先輩を呼び出すときに使った手紙の事かな? 我ながら自信作なんだけど、問題があったっけ?
 御堂先輩が怒りを抑え、目をつぶっている。

「何か問題ありました? 結構力作なんですけど」
「……丸文字の可愛い文字でややこしいこと、書きやがって」

 それの何が悪いの? あまり仰々ぎょうぎょうしくならないようにソフトに書いてみたんだけど。
 御堂先輩の拳が震えている。

「なあ、客観的にみてよ……あんな手紙もらったら、私は女の子に……こ、告白……されたかと思うじゃねえか! ややこしい!」

 御堂先輩の怒りが爆発しちゃった!
 私は怒らせないよう、冷静な声で否定する。

「いや、そんなこと言われても……私、百合に興味はありませんから」

 バスッ!

「あんでぶ!」

 御堂先輩が投げた手紙が私の顔面にクリティカルヒットした。
 ひ、酷い! 明日香とるりかの三人で必死に考えた苦心の作なのに! ちょっと……ちょっとだけラブレターっぽかったような気はするけど、そこまで怒らなくてもいいよね?



 回想中。

「ほのほの、何してるの?」
「ん~? 御堂先輩を呼び出すための手紙、書いてるの」

 お昼休み、私は御堂先輩に勝つ見通みとおしが立ったので、彼女を屋上に呼び出すための手紙を書こうとしていた。
 御堂先輩のメアド知らないし、面向かって屋上に来てくださいと言う勇気は私にはない。

 だから、顔を合わせずに呼び出せる方法、手紙を思いついた。
 我ながらヘタレだなって思うけど、御堂先輩を呼び出すとか無理ですから!
 さっきからシャーペンだけはくるくる手で回しているんだけど、紙には何も表記できていない。

「ついに、御堂先輩と対決するし?」
「うん、特訓したからね」

 返事も上の空で手紙とにらめっこしている。
 御堂先輩を呼び出すための手紙、どう書いたらいいのかな? シンプルに屋上にきてください、にしようかな。

 でも、御堂先輩は元レディースだし、気合の入った文がいいのかな?
 悩むな~。長尾先輩とは仲がいいから気軽に会いにいけたけど、御堂先輩って少し苦手なんだよね。それにきっと、御堂先輩も先輩のこと……。

「なに? 苦戦してるの?」
「相談のるし」

 私は友達の優しさにあまえることにした。
 御堂先輩と勝負がしたいけど、どう呼び出せばいいのか考えていること、手紙で呼び出そうとしていること、何を書けばいいのかわからないこと、すべて話した。

「るりか、明日香、どうしたらいいと思う? 目上の人を呼び出すわけだし、丁寧ていねい簡潔かんけつに書いた方がいいよね?」
「そうかな? 同じ委員の人だからもっとフランクでいいんじゃない?」
「そうだし。他人行儀たにんぎょうぎは傷つくし。フランクにした方がリラックスできて対決がしやすくなるし」

 御堂先輩が書き方一つで傷つくような繊細せんさいさはないと思うけど。逆に失礼なことを書いたら激怒するタイプじゃない?
 でも、硬すぎるのも問題だと思うし。
 フランクか……どう書こうかな?

「丸文字がいいんじゃない?」
「いいかも!」
「手紙だし、どうせならラブレターっぽくしたらどうだし?」
「それあり!」

 つい楽しくなっちゃって、いろんなアイデアが出てきちゃう。
 なつかしいな……押水先輩の時も、私と先輩と橘先輩がいろんなアイデアを出したっけ。
 また、あのころのように楽しくやり取りしたいな……そのためにも、頑張らないと。

「花の香りがする便箋にする?」
「ピンクの便箋がいいし」
「ハートマークのシールで封を閉じるのはお約束だよね?」
「それならシールの裏に名前書いちゃう?」
「あ、それ知ってる! YOUR BIRTHDAYに書いてあったハートのシールのおまじないだよね? アレ、私もやったよ!」

 話が盛り上がり、それをまとめて、ついに渾身の作品が完成した。
 その手紙は、御堂先輩の靴箱にそっと忍ばせた。

 回想終了。



 手紙を置いたとき、ちょっとドキドキしたんだよね。私も先輩に告白するときはあんな感じなのかな……。
 私は落ちた手紙を拾い上げ、何が悪かったのか考えてみる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
               御堂先輩へ

突然のお手紙にびっくりされていると思います。だけど、どうしても伝えたいことがあり、思いを届けたくてお手紙を捧げました。
べ、別に心臓まで捧げる気はないんだからね! って、御堂先輩には通じませんよねwww

 実は私、御堂先輩に折り入ってお話ししたいことがあります。
 御堂先輩の前だと胸がDOKI☆DOKI☆ ハートはBAGU♪ BAGU♪ まるで恋のシ・ン・キ・ン・コ・ウ・ソ・ク!
みたいなカンジなので、お手紙にしました❤

今日の放課後、屋上で待っています。
そのとき、私の想いを伝えるから、御堂先輩も応えてね♪ 約束だよ!

あなたの可愛い後輩、H・Iより

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……これのどこがダメなんですか? ちょっとしたジョークも通じないんですか? 御堂先輩って見かけによらず真面目……ウソウソウソ! ウソですから! グーは勘弁してくださいお願いします!」
「……はあ、お前は度胸があるというか、命知らずというというか……」
「私ってそんなに勇気があるように見えます?」
「……藤堂の苦労が分かる気がする」

 御堂先輩が疲れ切ったようにため息をつく。
 むっ! そんなことはない! これは訂正していただかないと気が済まない!

「ちょっと待ってください! 私の方が苦労している自信があります! 空気読めないし、お説教ばかりだし、危なっかしいし」
「……確かにな。説教が長いんだよな、アイツは」
「でしょでしょ! 真面目っていうか、石頭っていうか、融通が全く利かないというか……」

 やっぱり、御堂先輩とは気が合う。特に先輩の悪口に関しては!
 私は日頃の鬱憤を兼ねて、先輩の悪いところを指摘する。御堂先輩も思うところがあるのか、私に負けないくらい先輩のことを罵った。
 御堂先輩と話していて分かる。御堂先輩は人の悪口は本人の前で言うタイプ。陰で言うタイプじゃない。

 それに御堂先輩の先輩への悪口は、どこか先輩のことを気遣っている節がある。ああっ、やっぱり御堂先輩は先輩のことを……。
 それはさておき、これ以上時間を費やすのはよくないよね。黒井さんを待たせてるし。
 先輩の事を話せる楽しい時間だけど、そろそろ本題に入らないと。でも、その前に……。

「御堂先輩」
「ん? なんだ? 急に真面目な顔になりやがって」
「勝負させていただく前にお礼を言わせてください。アドバイス、ありがとうございました」

 私はぺこりと頭を下げる。御堂先輩には本当に感謝している。だから、一言、お礼を言いたかった。
 そう、私と風紀委員の対決は、御堂先輩の提案だ。
 私は御堂先輩に呼び出された日のことを思い出す。
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