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十二章

十二話 シャガ -決心- その一

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「……というわけなの。どうしよう」
「はあ……ほのほの、事態が悪化しすぎでしょ? なんでここまでややこしくできるの? トラブルメーカーなの?」
「あきらめるし。今なら風紀委員長に泣きつけば許してもらえるかもしれないし」

 親友二人に泣きついてみたけど、明日香もるりかも困り果てている。
 だよね。難しいよね。
 でもやっぱり、何度考えても古見君達のこと、あきめられない。
 お昼休み、私はるりか達と教室で現状打破げんじょうだはの作戦をたてようとしたけど、いい案が出てこない。
 まあ、明日香とるりかだから仕方ないよね。私はため息をつく。

「ねえ、喧嘩売ってるの?」
「誰の為に頭悩ませてるか考えるし」
「ごめんなさい」

 本当に申し訳ない。申し訳ないんだけど、私にはもう、この二人しか頼れない。
 だから、お願い。
 二人は呆れているけど、付き合ってくれるみたい。だから、私は本音を告げる。

「明日香、るりか。私、もう一度、獅子王先輩と古見君と話してみたいの。もし、まだ好きって想いが残っているのなら、その恋を成就させたいの」

 私は、二人はまだ想いあっていると確信している。だって、獅子王先輩の辛い顔、古見君の涙を見たら分かる。
 どうでもいいことで落ち込んだり、涙を流すことなんて絶対にありえない。
 だから、あきらめ……。

「あきらめろ」

 私達の会話に、抑揚よくようのない声が割り込んできた。
 こ、この声って、まさか……。
 私はそっと声の方を見上げる。

 そこには……御堂先輩が立っていた。けわしい顔をしてこっちを見ている。

 ひぃ! お、怒っていらっしゃる。こわっ!
 思わず腰が引けてしまう。

「伊藤、お前、橘に喧嘩売ったんだってな。いい度胸してる。それとも橘のこと、ナメてるのか? 一人で勝てると思ってるのか?」
「ナ、ナメてません! それに一人じゃありません! 私には頼りになる仲間が……」

 そうよ! 私には友がいる! 頼もしい友が!
 振り返るとヤツが……いない! あれ? 二人がいないよ!
 逃げたな! 友達を見捨てた! ひどい! ひどいよ! 前にもあったよね!

「……い、いませんけど! いませんけど! それでも、一人でやりとげます!」

 ううっ、泣きたい。一人だと余計にみじめに感じる。
 そんな私を見て、御堂先輩はため息をつく。

「あのな、伊藤。意地を張るなよ。一人じゃ何もできないだろ?」
「できます! 一人でも頑張ります! 御堂先輩は一人だと怖いんですか? 誰かいないと問題に立ち向かえないんですか?」

 私の挑発に御堂先輩はすぐにのってきた。

「ああん! そんなわけないだろ!」
「私だってそうです。古見君達のこと、あきらめたくないんです! 大切なことなんです! 御堂先輩にはありませんか? 譲れないものが」

 御堂先輩の顔に苦悩の表情がみえる。御堂先輩にもあるんだ。
 だったら、分かってくれるはず。

「……ある。そうだな。譲れないよな」

 御堂先輩が呆れながらも笑ってくれた。

「ですよね!」
「……伊藤、頑張れよ」
「はい!」
「お待ちなさい。お姉さまが説得されてどうなさいますの? 真面目にやってくださいまし」

 いつの間にか黒井さんが御堂先輩の隣に立っていた。黒井さんは呆れたようにため息をついている。
 黒井さんだけじゃない。

「ほのかさん」
「サッキー」

 サッキーまで。
 サッキーは困り切った顔で私を見つめている。

「ごめんなさい。私、橘風紀委員長に伊藤さんのこと、許してもらおうとお願いしたんですけど……」
「ううん。こっちこそ迷惑かけてごめんね、サッキー、黒井さん。仕事も肩代わりしてもらって」

 私は黒井さんとサッキーに深く頭を下げる。
 迷惑をかけていることを謝っておきたかった。

「そう思うのなら、さっさと帰ってきなさいな。いい迷惑ですわ」
「本当にごめんなさい」
「はあ……調子が狂いますわね。止める気、ないようですわね」
「うん」

 私はまっすぐに、黒井さんたちから目をそらさずにはっきりと答える。

「ほんま、頑固やね。周りに迷惑かけてでもやらなあかんことやの?」

 このやわらかい口調の関西弁は……。
 あ、朝乃宮先輩まで来たよ!

 朝乃宮先輩。
 先輩や御堂先輩と同じ、風紀委員で武闘派の一員。噂では京都で古武術をたしなんでいるとか。
 腰まで伸びている艶やかな細い髪、しなやかな腰に豊かな胸……綺麗な姿勢だから更にスタイルが良く見える。
 御堂先輩は男気のある堂々とした魅力があるんだけど、朝乃宮先輩は凛としていて、穏やかなところが魅力。

 朝乃宮先輩には御堂先輩のようにノリで押し切ることができない。
 風紀委員が集まってきて、状況がどんどん悪化していく。

「咲もこれ以上ワガママはよし。聞き分け悪いで」
「わ、ワガママはちーちゃんのほうでしょ! 私のお菓子、勝手に食べるし、仕事サボるし、買い食いばかりして。大体、ちーちゃんは……」

 サッキーに怒られて、朝乃宮先輩があさっての方向を見つめている。
 お、押し切られる心配はないかな?
 朝乃宮先輩の唯一の弱点、それがサッキー。
 サッキーとは幼馴染らしい。どうやって知り合ったのか、なぜ朝乃宮先輩はサッキーを溺愛できあいしているのか、私にはわからないけど、今はありがたかった。

 頑張れ、サッキー。そのまま朝乃宮先輩を無力化して!
 私は心の中でサッキーにエールを送るが、なぜか朝乃宮先輩が反応した。

「い~と~う~は~ん! あんた、ほんま疫病神やくびょうがみや。伊藤はんのせいで、咲に怒られてしもうたわ。今後のうれいをなくすためにも、いっそこのまま排除したいわ」

 あ、朝乃宮先輩の笑顔、超怖い!
 強制手段に訴えてきたよ!

「千春!」
「……冗談や、咲。本気にせんといてください。でも、伊藤はん。真面目な話、獅子王先輩のこと、どないしはるん?」

 どうするかなんてまだわからない。でも、何か言わなきゃ。その場しのぎでもここを切り抜けないと。
 ここで引くわけにはいかない。

「まずは、獅子王先輩に会って、それから……」
「ウチが聞きたいんは橘はんと藤堂はん、長尾はんをどうするのかっていてます」

 ふ、風紀委員対策のことね。
 橘先輩と先輩はともかく……。

「えっ? 長尾先輩も! あの、裏切者!」
「ひどい言われようだよ、伊藤氏。僕、伊藤氏のために頑張ってるのに」

 な、長尾先輩! っていうか、私の教室にどんだけ風紀委員が来るのよ! クラスのみんな、引いてるんですけど。

 長尾先輩。
 彼もまた、風紀委員で武闘派の一人だ。
 体格は風紀委員で一番大きくて体格がいい。穏やかな顔と相まって、やさしいクマさんのようなイメージを私はもっている。
 長尾先輩は全国都道府県中学生相撲選手権の無差別級で、三年連続の優勝記録保持者だ。かなり凄いらしい。
 そんなすごい人がどうして相撲をやめて、こんな田舎の学園にいるのか、さっぱりわからない。

 ええっと、考えがそれちゃった。
 長尾先輩が私の為に頑張っているってどういうこと?

「実際はどうなんだ、長尾? どれくらいもちそうだ?」

 御堂先輩の問いに長尾先輩はため息をつく。

「三日くらいだね。左近は交渉の余地はあるけど、正道がね。頑固だから」
「あの石頭」
「藤堂はんらしいわ」

 御堂先輩も朝乃宮先輩もため息をついて呆れている。
 もう! やっぱり、先輩が一番空気読めてない!

「伊藤氏、獅子王先輩達のこと、あきらめるって選択肢ないの? が悪いとは思わない? 今なら僕達がなんとかするからさ」

 私なんかの為に気を使ってくれているのはうれしい。それを裏切っているのも百も承知。
 でも、あきらめたくない。ママからもらった勇気をふりしぼり、この最悪な状況をあがいてみせる。
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