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十一章
十一話 アネモネ -恋の苦しみ- その二
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納得いかない。なんで、二人は別れなきゃいけないの?
別れてほしくない。だけど、古見君が決めたことだし……どうしたらいいの?
獅子王先輩が去った後、自分でも分からないまま、足は自然と古見君の教室に向かっていた。
お互い好きなのに、想い合っているのに……こんな結果はおかしい!
古見君に確かめたい。
これでいいのって。あのときの涙は、想いはなんだったのって。
古見君の教室の前に立つと、足が止まってしまった。教室に入らないと古見君をさがすことができないのに、動けない。不安で、逃げたくなる。
古見君にはっきりと言われたらどうしよう。もう、獅子王先輩の事、あきらめたって言われたらお手上げ。
いや、お手上げじゃない。そもそも、これで問題は解決されるはず。
古見君への嫌がらせもなくなって、私は橘先輩に頭を下げて風紀委員に戻り、先輩とまた一緒に行動できる。
先輩との仲を本気で進めることができるじゃない。
いいことずくめなのに……それなのに、心の奥がざわついて前に進めない。ふんぎりがつかない。
二人の判断に任せるんじゃなかったの? そう橘先輩にも顧問にも話したはずなのに……。
「おう、伊藤。なに? 俺に会いに来てくれたの?」
「え、あ、あの……」
古見君の教室から出てきた男の子に話しかけられ、私はどもってしまう。目の前にいる男の子は以前よく遊びにいった仲のいい男の子。
ちょっとちゃらいけど、気さくで話しやすい。
私はおどおどしながらも、ここに来た目的を果たそうとした。
「ふ、古見君、いる?」
「古見? 古見……ああっ! アイツか! アイツ、ずっと学園に来てないぞ」
「古見君が来ていない?」
古見君がいなかったことに、少しの安心したけど、すぐに不安が押し寄せてくる。
そんな私の様子に気づかず、男の子は古見君のことを話してくれる。
「ああ、テストのちょい前から休んでるぜ。テストも来なかったな」
「もしかして、古見君が来なくなったの、テスト二日前から?」
「……たぶんそんくらい。よく知らねえけど」
古見君が学園を休んでいるのはあの雨の日からずっと? 風邪じゃないよね? もう一週間以上たってるし。
インフルエンザだって休むとしても、一週間くらいだよね。
テストも休むなんておかしい。進級にも関わってくるのに。古見君、無理して獅子王先輩と別れたんじゃ……。
古見君の泣いた顔が忘れられない。やっぱり、会いにいかなきゃ。
「教えてくれてありがとう」
「いいって。それより、また遊びにいかない? 星空さんと山川さんも一緒に」
「キミにはもう彼女いるでしょ! あまり泣かすようなことしたらダメだよ!」
「やっ! 違うし! 浮気じゃないし! 彼女も一緒に遊びにいけばOKだろ! みんなで遊びにいきたいんだよ!」
「一応、明日香とるりかに伝えておくね!」
私は軽く手を振って、その場を後にした。
ボクシング部の顧問に頼み込んで古見君の住所を訊いたけど、生徒の個人情報は教えてもらえなかった。
顧問も古見君に連絡してくれているけど、古見君と連絡がとれないと落ち込んでいた。
顧問からしてみれば、この結果は好ましいことだ。それでも気落ちしているのは、やっぱり先生だからだよね。
獅子王先輩は話しかけにくい雰囲気があって、古見君の住所を訊くことができない。
どうしよう……。
「ほのかさん!」
「伊藤さん、さがしましたわよ」
「サッキーに黒井さん」
声をかけてきたのは、同じ風紀委員の黒井さんとサッキー。
同じ一年生で女の子同士だから仲が良かったんだけど、獅子王先輩の事で私が風紀委員から離れてしまい、二人とは疎遠になっていた。
き、気まずい。
風紀委員をサボっているから余計に顔をさわせづらい。黒井さんが真剣な表情で私に尋ねてくる。
「まだ、獅子王先輩に関わっていますの? このまま風紀委員をおやめになられるつもりですの?」
「わ、私も一緒に橘風紀委員長に謝りますから、戻りましょうよ」
サッキーが上目遣いで、私の制服の袖を弱々しく引っ張ってくる。黒井さんもいつもの皮肉はなく、少し心配げに私を見つめている。
私の事、心配してくれているの? 嬉しい……。
私のわがままで二人には迷惑をかけているのに、まだ心配してもらえるんだ。
二人に同意して、このまま前の生活に戻りたい。逃げ出してしまいたい。でも、やっぱり無理。だって、納得いかないから……。
私はサッキーの手を優しく握り、首を横に振る。
「ごめんね、サッキー、黒井さん。橘先輩には、私一人で頭を下げるよ。それがケジメだし。でも、まだ頭を下げることはできないの。古見君達の恋を見届けたいから」
「まだ、関わるつもりですの? お節介も度が過ぎればただの迷惑ですわよ?」
「ひ、人の恋路に関わり過ぎるのはよくないと思いますよ。こ、こういうのは……その、お互いの気持ちが大切ですよね? 古見君は同意したんですか?」
呆れた表情をしている黒井さんと、顔を真っ赤にして私を引き留めようとするサッキーに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
だから、私は正直に答える。
「同意してません。古見君達は話し合った結果、別れることになりました」
「……」
「……」
この回答を予測していなかったのか、黒井さんもサッキーも戸惑っている。
「でも、分からないんです。お互い好きなのに、どうして、別れることになったのか? 確認したいんです。それまでは、風紀委員に戻れません」
私は胸の内を話した。
黒井さんとサッキーは困った顔をしている。
ごめんね、迷惑掛けて。でも、ここで終わりたくない。古見君の気持ち、確かめないと、きっと私は後悔すると思う。
しばらくお互い見つめ合っていたけど、黒井さんが呆れたようにため息をついた。
「はあ……相変わらず頑固ですわね。好きになさい」
「く、黒井さん? ま、待ってください! ほのかさん、橘風紀委員長もそう長くは待ってくれませんよ? 私からもこのまま様子を見て欲しいとはお願いしてみますけど、早くしてくださいね」
黒井さんの後をサッキーが走って追いかけていく。私はその二人の向かって頭を深く下げた。
本当にごめんね、二人とも。
別れてほしくない。だけど、古見君が決めたことだし……どうしたらいいの?
獅子王先輩が去った後、自分でも分からないまま、足は自然と古見君の教室に向かっていた。
お互い好きなのに、想い合っているのに……こんな結果はおかしい!
古見君に確かめたい。
これでいいのって。あのときの涙は、想いはなんだったのって。
古見君の教室の前に立つと、足が止まってしまった。教室に入らないと古見君をさがすことができないのに、動けない。不安で、逃げたくなる。
古見君にはっきりと言われたらどうしよう。もう、獅子王先輩の事、あきらめたって言われたらお手上げ。
いや、お手上げじゃない。そもそも、これで問題は解決されるはず。
古見君への嫌がらせもなくなって、私は橘先輩に頭を下げて風紀委員に戻り、先輩とまた一緒に行動できる。
先輩との仲を本気で進めることができるじゃない。
いいことずくめなのに……それなのに、心の奥がざわついて前に進めない。ふんぎりがつかない。
二人の判断に任せるんじゃなかったの? そう橘先輩にも顧問にも話したはずなのに……。
「おう、伊藤。なに? 俺に会いに来てくれたの?」
「え、あ、あの……」
古見君の教室から出てきた男の子に話しかけられ、私はどもってしまう。目の前にいる男の子は以前よく遊びにいった仲のいい男の子。
ちょっとちゃらいけど、気さくで話しやすい。
私はおどおどしながらも、ここに来た目的を果たそうとした。
「ふ、古見君、いる?」
「古見? 古見……ああっ! アイツか! アイツ、ずっと学園に来てないぞ」
「古見君が来ていない?」
古見君がいなかったことに、少しの安心したけど、すぐに不安が押し寄せてくる。
そんな私の様子に気づかず、男の子は古見君のことを話してくれる。
「ああ、テストのちょい前から休んでるぜ。テストも来なかったな」
「もしかして、古見君が来なくなったの、テスト二日前から?」
「……たぶんそんくらい。よく知らねえけど」
古見君が学園を休んでいるのはあの雨の日からずっと? 風邪じゃないよね? もう一週間以上たってるし。
インフルエンザだって休むとしても、一週間くらいだよね。
テストも休むなんておかしい。進級にも関わってくるのに。古見君、無理して獅子王先輩と別れたんじゃ……。
古見君の泣いた顔が忘れられない。やっぱり、会いにいかなきゃ。
「教えてくれてありがとう」
「いいって。それより、また遊びにいかない? 星空さんと山川さんも一緒に」
「キミにはもう彼女いるでしょ! あまり泣かすようなことしたらダメだよ!」
「やっ! 違うし! 浮気じゃないし! 彼女も一緒に遊びにいけばOKだろ! みんなで遊びにいきたいんだよ!」
「一応、明日香とるりかに伝えておくね!」
私は軽く手を振って、その場を後にした。
ボクシング部の顧問に頼み込んで古見君の住所を訊いたけど、生徒の個人情報は教えてもらえなかった。
顧問も古見君に連絡してくれているけど、古見君と連絡がとれないと落ち込んでいた。
顧問からしてみれば、この結果は好ましいことだ。それでも気落ちしているのは、やっぱり先生だからだよね。
獅子王先輩は話しかけにくい雰囲気があって、古見君の住所を訊くことができない。
どうしよう……。
「ほのかさん!」
「伊藤さん、さがしましたわよ」
「サッキーに黒井さん」
声をかけてきたのは、同じ風紀委員の黒井さんとサッキー。
同じ一年生で女の子同士だから仲が良かったんだけど、獅子王先輩の事で私が風紀委員から離れてしまい、二人とは疎遠になっていた。
き、気まずい。
風紀委員をサボっているから余計に顔をさわせづらい。黒井さんが真剣な表情で私に尋ねてくる。
「まだ、獅子王先輩に関わっていますの? このまま風紀委員をおやめになられるつもりですの?」
「わ、私も一緒に橘風紀委員長に謝りますから、戻りましょうよ」
サッキーが上目遣いで、私の制服の袖を弱々しく引っ張ってくる。黒井さんもいつもの皮肉はなく、少し心配げに私を見つめている。
私の事、心配してくれているの? 嬉しい……。
私のわがままで二人には迷惑をかけているのに、まだ心配してもらえるんだ。
二人に同意して、このまま前の生活に戻りたい。逃げ出してしまいたい。でも、やっぱり無理。だって、納得いかないから……。
私はサッキーの手を優しく握り、首を横に振る。
「ごめんね、サッキー、黒井さん。橘先輩には、私一人で頭を下げるよ。それがケジメだし。でも、まだ頭を下げることはできないの。古見君達の恋を見届けたいから」
「まだ、関わるつもりですの? お節介も度が過ぎればただの迷惑ですわよ?」
「ひ、人の恋路に関わり過ぎるのはよくないと思いますよ。こ、こういうのは……その、お互いの気持ちが大切ですよね? 古見君は同意したんですか?」
呆れた表情をしている黒井さんと、顔を真っ赤にして私を引き留めようとするサッキーに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
だから、私は正直に答える。
「同意してません。古見君達は話し合った結果、別れることになりました」
「……」
「……」
この回答を予測していなかったのか、黒井さんもサッキーも戸惑っている。
「でも、分からないんです。お互い好きなのに、どうして、別れることになったのか? 確認したいんです。それまでは、風紀委員に戻れません」
私は胸の内を話した。
黒井さんとサッキーは困った顔をしている。
ごめんね、迷惑掛けて。でも、ここで終わりたくない。古見君の気持ち、確かめないと、きっと私は後悔すると思う。
しばらくお互い見つめ合っていたけど、黒井さんが呆れたようにため息をついた。
「はあ……相変わらず頑固ですわね。好きになさい」
「く、黒井さん? ま、待ってください! ほのかさん、橘風紀委員長もそう長くは待ってくれませんよ? 私からもこのまま様子を見て欲しいとはお願いしてみますけど、早くしてくださいね」
黒井さんの後をサッキーが走って追いかけていく。私はその二人の向かって頭を深く下げた。
本当にごめんね、二人とも。
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