147 / 531
十章
十話 オキナグサ -告げられぬ恋- その八
しおりを挟む
「またまた言い負かされたし」
「……」
「状況ってどんどん悪化していくよね。ほのほの、手を引いた方がいいんじゃない?」
「……」
橘先輩と別れた後、私は明日香とるりかと合流し、図書室で勉強していた。
一人で考えてみたけど、答えが出なかったから明日香とるりかに相談してみた。
結果はやっぱり芳しくない。
「ねえ、ほのほの。引き際も肝心だよ。下手したら風紀委員、敵に回すことになる。藤堂先輩と対立してもいいの?」
るりかの問いに私は即座に否定する。
「それはイヤ! そんなことになったら、私、先輩の弱み握って脅迫して味方になってもらう! 好きな人と対立なんてひどいよ!」
「ほのかは人としてひどいし」
そうかな? って何度目だろう、自分に問いかけるの。好きな人と対立したくないから行動するのが、どうして悪いの?
「真面目な話、どうするつもりなの?」
「どうするって?」
るりかの言いたいことが分かるのに、つい聞き返してしまう。
「獅子王先輩の事。将来の事まで絡んでくると、下手なアドバイスしたら取り返しのつかないことになるよ。相手は獅子王財閥の一人息子。ごめんなさいでは済まされないから」
ううっ、るりか。プレッシャーかけないで。怖くなってきたじゃない。でも、それでも、あきらめたくない気持ちがある。
だって、その気持ちは先輩からもらったものだから。あきらめずに初志貫徹を貫くこと。
それをみせてくれた先輩に私は恋したから。
否定したくない。ぎゅっと手を握り、私は自分の意思をるりかたちに伝える。
「私、できるところまで頑張ってみる! もちろん、風紀委員に迷惑をかけない範囲で! 私だって橘先輩に迷惑かけたくないし」
「できるし?」
明日香の気遣うような、心配げな姿に私は笑って頷く。
「やってみる! 明日香、るりか、ありがとう! 私、ヤル気が出てきた!」
やってみる! ここでやめたら納得いかない! ですよね、先輩!
橘先輩には申し訳ないけど、これが私の答え。
橘先輩だってアドバイスくらいならいいって言ってくれたし。
橘先輩と先輩が協力してくれたら、どんな困難にも立ち向かえるって思うのに。押水先輩のときみたいに、また三人で一緒で頑張れたら……。
私は首を横に振り、今考えたことを無理矢理かき消す。
「その前に、ほのほの、勉強しようね。中間テスト、もうすぐだから。ほのかの好きな夢○咲子先生も言ってたでしょ? 恋愛ばかりしてないで勉強しろって」
「……ですよね」
はあ……せっかくびしっときめたのに、るりかの一言で台無し。
私は黙って、英単語を覚える作業に入る。テストが終わってから対応すればいいかなって思ってたけど、獅子王先輩達を取り巻く状況は待ってくれなかった。
テスト三日前。
雨が降る中、今日も図書室で勉強していた。
連日の勉強会は、明日香とるりかには耐えられなかったみたい。
勉強を始めてから十分で、
「あきた」
「自分探しの旅に出るし」
そう言い残して帰った。早いよ。
私は一人静かに勉強していた。周りにも私と同じく勉強している生徒がいる。
その中にカップルがいた。カップルは肩を寄せ合い、仲良く勉強している。
それを見ていると、古見君達の事を思い出してしまう。最近古見君と獅子王先輩に会っていないけど、大丈夫かな?
そのことが気になってしまい、ペンが止まってしまう。ちょっと、休憩しようかな。
自販機でジュースでも買おうかなと思っていた時、窓に人影が見えた。
外にいる人物は、雨が降っているのに傘も差さず、空を見上げている。
あれ? あの人、古見君?
ランニングじゃ……ないよね?
それに古見君の様子がおかしい。
そう感じた私は荷物をまとめ、古見君の元へと向かう。
外に出てのはいいけど、古見君、どこにいるのかな? 窓から見た景色は確かここだったと思うんだけど。
地面を見ると、雨で土がぬかるんで足跡が残っている。古見君のもの?
たどってみると……いた! 古見君だ。
古見君は空を見上げたたまま、立ち止まっていた。
古見君、ふるえているの? 泣いているの?
この雨の中、寒くてふるえているのか、泣いてふるえているのか分からなかった。分かるのは古見君に何かあったことくらい。
どうしよう?
橘先輩の言葉が甦る。
なんだかんだで橘先輩は私のこと、気にかけてもらってる。それを裏切ってまで、うまくいくか分からないことに首を突っ込むの?
図書室ではやれるって思ったけど、一人になって、冷静になって考えてみると、無理ではないかと思っていた。
このまま黙って背を向けても、誰も私を責めないよね。
逃げても……いいよね。
あっ、雨が……雨がやんだ。空は晴れてないけど、それでも、雨はやんだ。
雨やんでーー。
なつかしい。
私が落ち込んでいたとき、先輩が雨をとめてくれたんだよね。あれで私、元気が出たんだ。
私にだって、できるはずだよね、先輩? 私にも古見君の事、元気づけられるよね?
私は一度目をつぶり、気持ちを落ち着かせた。ゆっくりと、力強く一歩を踏み出す。
私が古見君に声をかけなきゃ。
「……」
「状況ってどんどん悪化していくよね。ほのほの、手を引いた方がいいんじゃない?」
「……」
橘先輩と別れた後、私は明日香とるりかと合流し、図書室で勉強していた。
一人で考えてみたけど、答えが出なかったから明日香とるりかに相談してみた。
結果はやっぱり芳しくない。
「ねえ、ほのほの。引き際も肝心だよ。下手したら風紀委員、敵に回すことになる。藤堂先輩と対立してもいいの?」
るりかの問いに私は即座に否定する。
「それはイヤ! そんなことになったら、私、先輩の弱み握って脅迫して味方になってもらう! 好きな人と対立なんてひどいよ!」
「ほのかは人としてひどいし」
そうかな? って何度目だろう、自分に問いかけるの。好きな人と対立したくないから行動するのが、どうして悪いの?
「真面目な話、どうするつもりなの?」
「どうするって?」
るりかの言いたいことが分かるのに、つい聞き返してしまう。
「獅子王先輩の事。将来の事まで絡んでくると、下手なアドバイスしたら取り返しのつかないことになるよ。相手は獅子王財閥の一人息子。ごめんなさいでは済まされないから」
ううっ、るりか。プレッシャーかけないで。怖くなってきたじゃない。でも、それでも、あきらめたくない気持ちがある。
だって、その気持ちは先輩からもらったものだから。あきらめずに初志貫徹を貫くこと。
それをみせてくれた先輩に私は恋したから。
否定したくない。ぎゅっと手を握り、私は自分の意思をるりかたちに伝える。
「私、できるところまで頑張ってみる! もちろん、風紀委員に迷惑をかけない範囲で! 私だって橘先輩に迷惑かけたくないし」
「できるし?」
明日香の気遣うような、心配げな姿に私は笑って頷く。
「やってみる! 明日香、るりか、ありがとう! 私、ヤル気が出てきた!」
やってみる! ここでやめたら納得いかない! ですよね、先輩!
橘先輩には申し訳ないけど、これが私の答え。
橘先輩だってアドバイスくらいならいいって言ってくれたし。
橘先輩と先輩が協力してくれたら、どんな困難にも立ち向かえるって思うのに。押水先輩のときみたいに、また三人で一緒で頑張れたら……。
私は首を横に振り、今考えたことを無理矢理かき消す。
「その前に、ほのほの、勉強しようね。中間テスト、もうすぐだから。ほのかの好きな夢○咲子先生も言ってたでしょ? 恋愛ばかりしてないで勉強しろって」
「……ですよね」
はあ……せっかくびしっときめたのに、るりかの一言で台無し。
私は黙って、英単語を覚える作業に入る。テストが終わってから対応すればいいかなって思ってたけど、獅子王先輩達を取り巻く状況は待ってくれなかった。
テスト三日前。
雨が降る中、今日も図書室で勉強していた。
連日の勉強会は、明日香とるりかには耐えられなかったみたい。
勉強を始めてから十分で、
「あきた」
「自分探しの旅に出るし」
そう言い残して帰った。早いよ。
私は一人静かに勉強していた。周りにも私と同じく勉強している生徒がいる。
その中にカップルがいた。カップルは肩を寄せ合い、仲良く勉強している。
それを見ていると、古見君達の事を思い出してしまう。最近古見君と獅子王先輩に会っていないけど、大丈夫かな?
そのことが気になってしまい、ペンが止まってしまう。ちょっと、休憩しようかな。
自販機でジュースでも買おうかなと思っていた時、窓に人影が見えた。
外にいる人物は、雨が降っているのに傘も差さず、空を見上げている。
あれ? あの人、古見君?
ランニングじゃ……ないよね?
それに古見君の様子がおかしい。
そう感じた私は荷物をまとめ、古見君の元へと向かう。
外に出てのはいいけど、古見君、どこにいるのかな? 窓から見た景色は確かここだったと思うんだけど。
地面を見ると、雨で土がぬかるんで足跡が残っている。古見君のもの?
たどってみると……いた! 古見君だ。
古見君は空を見上げたたまま、立ち止まっていた。
古見君、ふるえているの? 泣いているの?
この雨の中、寒くてふるえているのか、泣いてふるえているのか分からなかった。分かるのは古見君に何かあったことくらい。
どうしよう?
橘先輩の言葉が甦る。
なんだかんだで橘先輩は私のこと、気にかけてもらってる。それを裏切ってまで、うまくいくか分からないことに首を突っ込むの?
図書室ではやれるって思ったけど、一人になって、冷静になって考えてみると、無理ではないかと思っていた。
このまま黙って背を向けても、誰も私を責めないよね。
逃げても……いいよね。
あっ、雨が……雨がやんだ。空は晴れてないけど、それでも、雨はやんだ。
雨やんでーー。
なつかしい。
私が落ち込んでいたとき、先輩が雨をとめてくれたんだよね。あれで私、元気が出たんだ。
私にだって、できるはずだよね、先輩? 私にも古見君の事、元気づけられるよね?
私は一度目をつぶり、気持ちを落ち着かせた。ゆっくりと、力強く一歩を踏み出す。
私が古見君に声をかけなきゃ。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる