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八章
八話 シュウカイドウ -未熟- その四
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それは偶然だった。
体育の授業が終わり、更衣室に向かう最中に、私は不審な人物を目撃した。最初は気のせいだって思ったけど、気になったことがある。私を見た瞬間、その人物が逃げていったことだ。
「どうかしたし?」
逃げていった人影を睨んでいた私に、明日香が声をかけてきた。
「今ね、私を見て逃げた人がいたの」
「ついにほのほのの悪名が高まったんじゃない?」
悪名って何よ。
私はちゃんとした風紀委員……じゃないよね。サボってるし。でも、先輩と一緒に行動しているんだから、問題ないよね。
「茶化さないで。さっきの人、なんていうのかな……前を歩いていた女の子は気にしてなかったけど、私を見て逃げたんだよね。それって何かやましいことがあるんじゃないのかな?」
「ほのかに何か負い目があるってこと?」
るりかの意見に私は首を振る。
きっと、私にじゃない。私が所属している委員会に負い目があるんだ。それは……。
「そうじゃなくて、風紀委員の私に見られたら、都合の悪いことがあるから逃げたと思う」
「気にしすぎだし」
そうかな? それにあの人、どこかで見たような気がする。最近だったと思うんだけど、どこだったかな?
制服の上にフードをかぶっていたので、髪型や顔は見えなかった。体格からして、男の子ってことくらいしか分からない。でも、校舎内でフードをかぶるのはちょっと怪しい。
私は男の子がいた付近、靴箱を調べてみる。別段、おかしいところはないよね。
ん? 気のせいかな? いや、何? ちょっと臭うんですけど……。
臭い……生臭い! 何なの、これ! どこから臭っているの?
その臭いの元を探してみると……あっ! この靴箱からだ! 名前は……ふ、古見君? 臭いの元は古見君の靴箱からしてたんだ。
嫌な予感がする。
私は鼻をつまみ、そっと開けてみると、そこには……。
「な、なんなのコレ……」
ぱ、パン?
黒と深緑を混ぜ合わせたような変色したパンが靴箱につめてあった。
「うわ、臭っ! 何コレ?」
「カビパン? キモッ!」
明日香もるりかも、あまりの匂いに鼻を押さえて遠ざかる。
これって嫌がらせだよね。私もされたことがある。
私の場合はお菓子のゴミやティッシュ等、ちょっとしたゴミだった。
小さなゴミでも結構くるんだよね、精神的に。
この大量の腐ったパンには執念すら感じる。ここまで人は人に嫌がらせが出来るの? どうして、こんな酷いことが出来ちゃうの?
古見君って大人しい子で、恨みを買うような人じゃないのに。
許せない! 誰なの、こんなことをしたの!
でも、この腐ったパン、どうしよう? 掃除しても、匂いが残るよね。
それに、古見君は腐ったパンの中にある靴を履きたいって思うのかな。
どうしよう? このことを誰に伝えるべきか? 古見君に伝えると傷つくよね。先輩に相談したほうが……。
「あんた! 何してるのよ!」
急に大声をかけられ、ビクッとなってしまう。
声をかけてきたのは滝沢さんだった。険しい顔をして、私の腕を掴む。
「ひなたの靴箱に何を……って臭っ! な、なんなのコレ!」
そりゃ怒るよね。滝沢さんは古見君の幼馴染だもん。私だって怒ってるよ。
「腐ったパン? ちょっと、あなた、なんでこんなものが?」
「分からない。酷いよね」
「酷い! ひなたに何の恨みがあるのよ!」
どんな恨みがあったとしても、こんな陰湿なやり方は卑怯。風紀委員としても見過ごせない。
「ねえ、聞いてるの? 返事しなさいよ!」
「……どうしよっか。古見君に伝えた方がいいかな?」
「伝える? 伝えなくても分かるわよ! こんなに臭っていたら!」
そうだよね。やっぱり伝えなきゃいけないよね。
古見君の傷ついた顔が目に浮かび、憂鬱になる。
「こんなことをして、あなた、どう責任とる気!」
せ、責任? 私がとるの? いくら風紀委員でも万能じゃないんだよ? 防ぎたくてもこんなの防げるわけないじゃない。
「責任なんてとれないよ。でも……」
「あなた、逃げる気なの! 私、絶対にあなたのこと、許さないから! 先生にも報告させてもらうから!」
逃げる? 許さない? 先生に報告?
何で滝沢さんは私を睨みながら怒鳴るの?
「ほ、ほのほの」
「何よ、るりか」
「誤解されてるし。その子、ほのかがやったって思ってるし」
誤解されている? 私がやった?
ようやく話がかみ合っていないことに気付いた。私のこと、犯人だって思ってるの、滝沢さんは。
「はあ? なんで私が古見君の靴箱に酷いことしなきゃいけないのよ!」
「してたでしょ! 靴箱開けてたでしょ! 誤魔化してるんじゃないわよ!」
なんで靴箱開けたら犯人なのよ。おかしいでしょ!
滝沢さん、会ったときから私の事、目の敵にしている気がする。私の何が気に入らないのよ!
ふつふつと怒りがこみあげてくる。
「誤魔化してないわよ、この早とちり女! 私は怪しい人影を見たんだから! ソイツが犯人よ!」
「でっち上げてるんじゃないわよ! 人に罪を押し付けるなんて最低よ、あなた!」
押しつけなんてしていない! 事実なんだから! 本当に分かってないよね、この子。先輩以上の石頭!
「だから、違うっていってるでしょ! 分からず屋!」
「なんですって!」
「ちょ、ちょっと」
「落ち着くし」
明日香とるりかが止めに入るけど、知ったことじゃない。絶対に許せない!
いつの間にか私たちの周りにギャラリーが集まっていた。
私達を見て、周りの生徒がひそひそと話している。
「おいおい、なんだアレ?」
「痴話喧嘩か? 私の男をとるなって。女は怖いね」
「クサッ! なんだ、この臭い?」
「うわ! あれってパンか?」
「誰があんなことを?」
「あの茶髪の子だって」
「酷いよね」
な、なんで私が犯人になってるのよ! 勘違いしないで!
「いい加減に白状しなさいよ! あなたなんでしょ!」
「違うっていってるでしょ! 勝手に犯人にしないで!」
「じゃあ、誰が犯人なのよ!」
「知らないわよ!」
「しらばっくれるんじゃないわよ! あんたが犯人なんでしょうが!」
だから、なんで私なのよ! 勝手に勘違いして! いい加減、我慢の限界。
犯人? そんなに知りたいなら教えてあげる。
「……分かった、そんなに犯人を知りたいの?」
「ようやく認める気になった? 自分が犯人だって」
「証明してみせるわ」
「証明?」
私は胸に手を当て、この場にいる全員に聞こえるよう怒鳴る。
「私が犯人じゃないって! 真犯人を捕まえるって言ってるのよ!」
私はギャラリーと滝沢さんの前で宣言した。滝沢さんの勘違いにも困ったものだけど、一番許せないのは卑劣な犯人。
絶対にぜぇ~たいに、犯人を捕まえてやる!
体育の授業が終わり、更衣室に向かう最中に、私は不審な人物を目撃した。最初は気のせいだって思ったけど、気になったことがある。私を見た瞬間、その人物が逃げていったことだ。
「どうかしたし?」
逃げていった人影を睨んでいた私に、明日香が声をかけてきた。
「今ね、私を見て逃げた人がいたの」
「ついにほのほのの悪名が高まったんじゃない?」
悪名って何よ。
私はちゃんとした風紀委員……じゃないよね。サボってるし。でも、先輩と一緒に行動しているんだから、問題ないよね。
「茶化さないで。さっきの人、なんていうのかな……前を歩いていた女の子は気にしてなかったけど、私を見て逃げたんだよね。それって何かやましいことがあるんじゃないのかな?」
「ほのかに何か負い目があるってこと?」
るりかの意見に私は首を振る。
きっと、私にじゃない。私が所属している委員会に負い目があるんだ。それは……。
「そうじゃなくて、風紀委員の私に見られたら、都合の悪いことがあるから逃げたと思う」
「気にしすぎだし」
そうかな? それにあの人、どこかで見たような気がする。最近だったと思うんだけど、どこだったかな?
制服の上にフードをかぶっていたので、髪型や顔は見えなかった。体格からして、男の子ってことくらいしか分からない。でも、校舎内でフードをかぶるのはちょっと怪しい。
私は男の子がいた付近、靴箱を調べてみる。別段、おかしいところはないよね。
ん? 気のせいかな? いや、何? ちょっと臭うんですけど……。
臭い……生臭い! 何なの、これ! どこから臭っているの?
その臭いの元を探してみると……あっ! この靴箱からだ! 名前は……ふ、古見君? 臭いの元は古見君の靴箱からしてたんだ。
嫌な予感がする。
私は鼻をつまみ、そっと開けてみると、そこには……。
「な、なんなのコレ……」
ぱ、パン?
黒と深緑を混ぜ合わせたような変色したパンが靴箱につめてあった。
「うわ、臭っ! 何コレ?」
「カビパン? キモッ!」
明日香もるりかも、あまりの匂いに鼻を押さえて遠ざかる。
これって嫌がらせだよね。私もされたことがある。
私の場合はお菓子のゴミやティッシュ等、ちょっとしたゴミだった。
小さなゴミでも結構くるんだよね、精神的に。
この大量の腐ったパンには執念すら感じる。ここまで人は人に嫌がらせが出来るの? どうして、こんな酷いことが出来ちゃうの?
古見君って大人しい子で、恨みを買うような人じゃないのに。
許せない! 誰なの、こんなことをしたの!
でも、この腐ったパン、どうしよう? 掃除しても、匂いが残るよね。
それに、古見君は腐ったパンの中にある靴を履きたいって思うのかな。
どうしよう? このことを誰に伝えるべきか? 古見君に伝えると傷つくよね。先輩に相談したほうが……。
「あんた! 何してるのよ!」
急に大声をかけられ、ビクッとなってしまう。
声をかけてきたのは滝沢さんだった。険しい顔をして、私の腕を掴む。
「ひなたの靴箱に何を……って臭っ! な、なんなのコレ!」
そりゃ怒るよね。滝沢さんは古見君の幼馴染だもん。私だって怒ってるよ。
「腐ったパン? ちょっと、あなた、なんでこんなものが?」
「分からない。酷いよね」
「酷い! ひなたに何の恨みがあるのよ!」
どんな恨みがあったとしても、こんな陰湿なやり方は卑怯。風紀委員としても見過ごせない。
「ねえ、聞いてるの? 返事しなさいよ!」
「……どうしよっか。古見君に伝えた方がいいかな?」
「伝える? 伝えなくても分かるわよ! こんなに臭っていたら!」
そうだよね。やっぱり伝えなきゃいけないよね。
古見君の傷ついた顔が目に浮かび、憂鬱になる。
「こんなことをして、あなた、どう責任とる気!」
せ、責任? 私がとるの? いくら風紀委員でも万能じゃないんだよ? 防ぎたくてもこんなの防げるわけないじゃない。
「責任なんてとれないよ。でも……」
「あなた、逃げる気なの! 私、絶対にあなたのこと、許さないから! 先生にも報告させてもらうから!」
逃げる? 許さない? 先生に報告?
何で滝沢さんは私を睨みながら怒鳴るの?
「ほ、ほのほの」
「何よ、るりか」
「誤解されてるし。その子、ほのかがやったって思ってるし」
誤解されている? 私がやった?
ようやく話がかみ合っていないことに気付いた。私のこと、犯人だって思ってるの、滝沢さんは。
「はあ? なんで私が古見君の靴箱に酷いことしなきゃいけないのよ!」
「してたでしょ! 靴箱開けてたでしょ! 誤魔化してるんじゃないわよ!」
なんで靴箱開けたら犯人なのよ。おかしいでしょ!
滝沢さん、会ったときから私の事、目の敵にしている気がする。私の何が気に入らないのよ!
ふつふつと怒りがこみあげてくる。
「誤魔化してないわよ、この早とちり女! 私は怪しい人影を見たんだから! ソイツが犯人よ!」
「でっち上げてるんじゃないわよ! 人に罪を押し付けるなんて最低よ、あなた!」
押しつけなんてしていない! 事実なんだから! 本当に分かってないよね、この子。先輩以上の石頭!
「だから、違うっていってるでしょ! 分からず屋!」
「なんですって!」
「ちょ、ちょっと」
「落ち着くし」
明日香とるりかが止めに入るけど、知ったことじゃない。絶対に許せない!
いつの間にか私たちの周りにギャラリーが集まっていた。
私達を見て、周りの生徒がひそひそと話している。
「おいおい、なんだアレ?」
「痴話喧嘩か? 私の男をとるなって。女は怖いね」
「クサッ! なんだ、この臭い?」
「うわ! あれってパンか?」
「誰があんなことを?」
「あの茶髪の子だって」
「酷いよね」
な、なんで私が犯人になってるのよ! 勘違いしないで!
「いい加減に白状しなさいよ! あなたなんでしょ!」
「違うっていってるでしょ! 勝手に犯人にしないで!」
「じゃあ、誰が犯人なのよ!」
「知らないわよ!」
「しらばっくれるんじゃないわよ! あんたが犯人なんでしょうが!」
だから、なんで私なのよ! 勝手に勘違いして! いい加減、我慢の限界。
犯人? そんなに知りたいなら教えてあげる。
「……分かった、そんなに犯人を知りたいの?」
「ようやく認める気になった? 自分が犯人だって」
「証明してみせるわ」
「証明?」
私は胸に手を当て、この場にいる全員に聞こえるよう怒鳴る。
「私が犯人じゃないって! 真犯人を捕まえるって言ってるのよ!」
私はギャラリーと滝沢さんの前で宣言した。滝沢さんの勘違いにも困ったものだけど、一番許せないのは卑劣な犯人。
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