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六章

六話 伊藤ほのかの再戦 勝率0パーセントのリベンジ編 その四

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「で、まだ話してないと」
「うん」
「ダメじゃん」

 明日香とるりかは呆れかえっているけど、私にだって言い分はある。
 だって、先輩の前に立つと、やっぱり、恥ずかしい。ただでさえ、気が滅入めいっているのに、先輩の態度がそっけないのと避けられている、このダブルパンチがきついもん。
 好きな人に冷たくされるのって、ここまで辛いことなんだって初めて知った。

「でも、戦う理由ってなんだろね? 誰のためかな?」
「それはもちろんわた……」
「他の女の子の為かも」

 バキッ!

「やだな、るりか。私、怒ってないよ?」
「箸を片手でへし折られても説得力ないし。でも、ライバルがいないとも限らないから早くカタつけるし」

 ライバル、いるのかな? 嫌だな、いたらどうしよう?
 ううっ、おなかが痛い。でも、おなかはすいた。ストレスで太りそう。

「どうしたらいいのかな?」
「いっそ、ラジオ番組に応募してみたら?」
「ラジオ番組?」
「そっ。第三者の意見が聞けるし、もしかして、藤堂先輩が聞いてたらほのかの気持ちに気づいてくれるかも」

 そうかな? 都合よくハガキ、もしくはメール読んでくれるかな?
 それ以前に、先輩の家にラジオあるのかな? ラジオ、知ってるかな?

 テレビは絶対にあると思うけど、先輩、何見てるんだろう?
 恋愛ドラマ……なわけないよね、先輩だし。ドキュメントかな?
 もし、正座しながらプリ○ュアみてたら嫌だな~。

 スーパー戦隊シリーズならまだしも……いや、女幹部ってやけに扇情的せんじょうてきなデザインの服着てなかったかな?
 嫌だな~鼻の下伸ばしてたら……で、でも、先輩も男の子だし、イケメンヒーローに目を奪われることも……あるかも! 心配かも! 
 でも、見てみたいかも! こ、恋のライバル、いいかも!

「あれ、どう思う?」
「ほっとくし。超くだらない理由で悩んでるだけだし」

 悩む私の顔を見て、二人は顔を見合わせて、溜息ためいきをついていた。



 結局、先輩と話し合いが出来ないまま、獅子王先輩のリベンジマッチの日が来てしまった。
 橘先輩が話をつけていたらしい。様子見だって言ってたのにすぐにリベンジなんて、余計なことをしないで。
 先輩との関係は微妙だし、先輩の欠点も分からないまま。

 ボクシング場には、獅子王先輩と古見君、ボクシング部の顧問がいる。風紀委員側は先輩、橘先輩、御堂先輩、長尾先輩、朝乃宮先輩。
 後、黒人一人……ってあの黒い人、誰? 気になったけど、今は先輩のことが心配。

「ねえ、橘先輩。先輩は勝てますよね?」
「ん? 勝てないよ」

 即答されてしまった。
 勝てないのにどうしてリベンジマッチを組むかな……こめかみがぴくぴくしてきた。

「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か・た・ち・ば・な・せ・ん・ぱ・い!」
「く、くるし……た、たお……るで首……しめないで」

 フン! 少しは先輩の痛みを思い知るがいい! リングで戦って、痛い思いをするのは先輩なのに。橘先輩は誰の味方なの?
 先輩が勝てないのってやっぱり……。

「先輩に欠点があるからですか?」
「よく知ってるね。誰からか聞いたの?」
「答えてください。先輩の欠点って?」

 不思議に思っていた。欠点があるなら、みんな知っているのならなぜ、先輩に教えてあげないのか。
 『不良狩り』の異名を持つ、強い先輩に欠点があるのか? 先輩は自分の欠点に気付いていないのか?
 気づいていたとして、その欠点を克服すれば勝てるかもしれないのに、なぜ放置しているのか。

「それは……」

 橘先輩は溜息をつきながら答えてくれた。

「正道は本気で人を殴れない」
「本気で……殴れない?」
「正確にいえば、顔面に向かって本気で殴れないってこと」

 本気で殴れないってどういうこと? それって、やっぱり……。

「殴れない理由ってあれですか? 顔を殴ると痕が残るから腹を殴るみたいな感じですか?」
「いや、女の子殴るみたいなノリじゃないから。中学生みたいな言い訳じゃないから」

 じゃあ、なんで?
 よく思い出してみれば、先輩のフィニッシュブローってボディーブローだったような気がする。
 前の悪羅死あらしのメンバーも、最後はボディーブローだったっけ?

 ん? 待って。
 先輩って不良の顔を殴ったことあったっけ?
 お仕置きで私の頭を叩かれたことやアイアンクロ―があったけど、先輩が誰かの顔を殴ったところは見たことない。

「正道をいじめていた相手を病院送りにしたとき、正道は顔面を殴り続けて相手を殺しかけている。それがトラウマになって、顔を本気で殴れないの。普通に殴るのも極力避けてる。ボクシングでは致命的ちめいてきでしょ?」

 少年Aの影響がこんなところにまで影響しているなんて。先輩は本気で顔を殴ることができない。それって不利以前の問題だよ!
 勝てない理由がはっきりと分かった。でも、尚更なおさら分からないことがある。

「なんで先輩を戦わせるのですか! 先輩、またボコボコにされちゃいますよ!」
「正道がどうしてもって言うからね。正道、頑固だから」

 ああ、分かってしまった。そりゃあ、止めるなんて無理だよね。
 先輩は古見君をいじめないよう、獅子王先輩に挑んだけど負けた。阻止できなかったことを納得していないんだ。

「まあ、男の意地ってヤツだよ」
「理解できません」

 先輩の考えは分かったけど、私は理解できない。
 他人の為になぜ、そこまで意地を張るのか。負けると分かっている戦いに、なぜ挑むのか。男の意地なんてただの見栄じゃない。
 全然理解できない。

「だよね。でも、負けるのはしゃくだよね?」

 そ、それって勝つ秘策があるってこと?
 やっぱり、大逆転の策があって、先輩が勝てるってこと?
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