71 / 531
二章
二話 伊藤ほのかの挑戦 M5の逆襲編 その八
しおりを挟む
試合が再開され、私にボールがまわってくる。
うまくいってよ。
私はそのままシュートした。
やる気のない青巻君は当然ブロックしない。私のシュートが失敗することを見ただけでわかるから。
スカッ!
シュートはゴールネットにも触れることなく、落ちる。
この距離じゃない。
「?」
赤巻君だけが、私の行動を不審に思っているみたい。
相手に気づかれるのが早すぎると、作戦が失敗してしまう。気を付けていかないと。
こっちの思惑がバレたら終わり。早く、距離を測らないと。
作戦通り、私にボールがまわってくる。
今度はこの距離だ。
私はまたシュートした。
ガン!
ゴールリングに当たった!
「!」
先輩が近づいてきて、小声で伝えてくれる。次はいけるかもしれない。
もう一度。
「青巻! 彼女のシュートを止めろ!」
もう気づいたの? でも……。
「! こいつ!」
「いかせるか」
先輩と長尾先輩が青巻君をスクリーンで足止めしてくれている。これなら!
「いっけええ!」
私は思いっきり力を込めてシュートを放つ。
ガン! ガンガン!
おしい! もう少しなのに!
でも、これでお膳立ては整った。赤巻君もこちらの意図に気付いて対応してくれるはず。
次が勝負!
私にパスがきた!
一世一代の演技、やり遂げてみせます! 距離はここ!
いっけぇええええ!
「僕が行く!」
赤巻君が近づいてくる!
先輩と長尾先輩が赤巻君の進路を邪魔しようとするけど、
「邪魔だ」
赤巻君がフェイントを使い、先輩達を抜く。でも、それは想定内のこと。だから、手は打ってある!
「何?」
須藤先輩と橘先輩がフォローにはいって、赤巻君の進路の邪魔をした。これには赤巻君も足が止まってしまう。
先輩達は赤巻君を足止めしてくれたんだ。
先輩達のファインプレイを無駄にはできない!
「ッ! 青巻!」
「俺にまかせてほしいっス!」
黄巻君が近づいてくる。でも、焦っちゃダメ!
私はタイミングを計る。チャンスは一回だけ。次はきっと、対策を練ってくるはず。だから、失敗はできない。
「! 待て、黄巻! 何かがおかしい!」
「大丈夫っスよ!」
赤巻君の忠告に、黄巻君は私を止める自信があるのか、耳を貸さなかった。
条件はそろった!
タイミングを見計らって……今だ!
ドン!
ピピー!
「あっ痛ぁ!」
「プッシング! 白8番! フリースロースリーショット!」
「はっああ?」
黄巻君が審判に食って掛かる。私が勝手に倒れたとアピールしてる。
それはそうだよね。ごめんね、黄巻君。
×××
「へえ、あの子、おもろいこと考えはるね」
朝乃宮は目を細め、ほのかを見つめている。
「? ほのかさんがどうかしたんですか?」
小首をかしげる上春に、朝乃宮は後ろから抱きしめる。
「咲はホンマかわいいわ~、お姉さんが何でも答えてあげます」
「も、もう! からかわないでください! 髪が乱れます!」
じゃれあっている二人をよそに、黒井と御堂が今のプレイについて話し合う。
「伊藤さんの本領発揮っといったところでしょうか。猫かぶりが相変わらずお上手ですの」
「それだけじゃない。ファールにもっていくまでのプロセスがうまい。度胸あるじゃねえか」
「偶然ファールをもらったんじゃないんですか?」
上春は口を挟むが、朝乃宮が嬉しそうに上春の頬をつっついて邪魔をする。
上春は逃れようとするが、朝乃宮にがっちりと捕まれ、逃げられない。
上春の疑問に、朝乃宮が答えた。
「伊藤はんはただシュートしていただけやない、ワンゴールを狙ってたんや」
「で、でも、あんな遠くからじゃあ入らないじゃないですか?」
上春の指摘はもっともだ。
現にほのかのフリースローはリングにすらかすっていない。フリースローラインよりも遠くからだと余計に入らないはず。
「せやけどな、咲。伊藤はんのシュート、ゴールリングにボール当たってたやない。入りそうやったとは思わんかった?」
朝乃宮の問いに上春は頷いた。入りそうになった時、上春は息をするのも忘れて見入っていた。
このゲームは風紀委員がワンゴールすれば勝ちなのだ。一本たりとも見逃せない。
「で、でも、フリースローの時はかすりもしなかったのに。何をしたのですか?」
「簡単や。力いっぱい投げただけ」
「そ、それだけですか? コントロールは?」
上春の疑問に朝乃宮は優しく微笑み、説明を続ける。
「コントロールは必要ありません。ゴールの直線上から真っ直ぐ投げるだけやし、力いっぱい投げるから力加減は必要ないんや。飛ぶ距離も大体同じになるから、後は距離間の問題。藤堂はんも伊藤はんにアドバイスしてたしね」
試合中、藤堂はほのかに話しかけていた。どこからシュートすれば入るか、アドバイスをしていたのだ。
「もちろん、それだけで点をとれるわけありません。逆に入る方が難しい。でも、この試合は一点でも入れたら終わり。相手からすれば伊藤はんのシュートは無視できなくなる。そうなると、ブロックする必要が出てきますなぁ」
「あっ!」
上春は気づいたようだ。
朝乃宮はよしよしと上春の頭をなでる。
「ブロックに来た相手に、伊藤はんはそれに合わせてわざと倒れて、ファールをとる。これが伊藤はん達が考えたシナリオやね。フリースローなら誰にも邪魔されずにシュートを打てるし、ファールの位置から今回は三本うてる。時間的にラストチャンスやね」
言うのは簡単だが、実際やってみるのは至難の業だろう。
失敗すれば警戒されてしまうので、もう二度とチャンスはこない。練習なしのぶっつけ本番で挑まなければならなかったが、ほのかは見事成功させた。
その度胸は称賛に値されるだろう。
「で、でも、ほのかさん、フリースローは失敗してるよ? すぐに入るようにはならないと思うんだけど、どうするつもりなの?」
「なあ、咲?」
「なに、千春?」
「その千春って呼びかた、やめてほしいんやけど。さっきみたいにちーちゃんって呼んでほしいわ」
朝乃宮に全く関係ないことを指摘され、上春が呆れたように弁解する。
「千春、もう私達はいい大人だし、子供の頃のような呼び方は……は、離れてください!」
頬ずりする朝乃宮に、上春が逃れようと身をよじる。二人の馴れ合いに御堂は呆れ果てていた。
御堂は視線をほのか達に戻す。
「伊藤の作戦は橘も藤堂も長尾も賛成している。勝算はあってのことだな」
「そうですわね。伊藤さんがフリースローをどう攻略するか、お手並み拝見ですの」
風紀委員女子から離れた場所で明日香とるりかは今後の予想をしている。
「ねえ、明日香。ほのほの、バスケ得意だっけ?」
「ダメっしょ。ほのか、ダンクしようとして、跳び箱使ってダンクしたけど、リング掴んだまま、降りれなくなって泣いてたし」
「……」
「……」
「ダメだし」
「ほのほの、やればできる子だってこと、見せてよね」
勝負の勝敗を決める運命のフリースローが始まろうとしていた。明日香とるりかに出来ることはただ、祈ることだった。
×××
うまくいってよ。
私はそのままシュートした。
やる気のない青巻君は当然ブロックしない。私のシュートが失敗することを見ただけでわかるから。
スカッ!
シュートはゴールネットにも触れることなく、落ちる。
この距離じゃない。
「?」
赤巻君だけが、私の行動を不審に思っているみたい。
相手に気づかれるのが早すぎると、作戦が失敗してしまう。気を付けていかないと。
こっちの思惑がバレたら終わり。早く、距離を測らないと。
作戦通り、私にボールがまわってくる。
今度はこの距離だ。
私はまたシュートした。
ガン!
ゴールリングに当たった!
「!」
先輩が近づいてきて、小声で伝えてくれる。次はいけるかもしれない。
もう一度。
「青巻! 彼女のシュートを止めろ!」
もう気づいたの? でも……。
「! こいつ!」
「いかせるか」
先輩と長尾先輩が青巻君をスクリーンで足止めしてくれている。これなら!
「いっけええ!」
私は思いっきり力を込めてシュートを放つ。
ガン! ガンガン!
おしい! もう少しなのに!
でも、これでお膳立ては整った。赤巻君もこちらの意図に気付いて対応してくれるはず。
次が勝負!
私にパスがきた!
一世一代の演技、やり遂げてみせます! 距離はここ!
いっけぇええええ!
「僕が行く!」
赤巻君が近づいてくる!
先輩と長尾先輩が赤巻君の進路を邪魔しようとするけど、
「邪魔だ」
赤巻君がフェイントを使い、先輩達を抜く。でも、それは想定内のこと。だから、手は打ってある!
「何?」
須藤先輩と橘先輩がフォローにはいって、赤巻君の進路の邪魔をした。これには赤巻君も足が止まってしまう。
先輩達は赤巻君を足止めしてくれたんだ。
先輩達のファインプレイを無駄にはできない!
「ッ! 青巻!」
「俺にまかせてほしいっス!」
黄巻君が近づいてくる。でも、焦っちゃダメ!
私はタイミングを計る。チャンスは一回だけ。次はきっと、対策を練ってくるはず。だから、失敗はできない。
「! 待て、黄巻! 何かがおかしい!」
「大丈夫っスよ!」
赤巻君の忠告に、黄巻君は私を止める自信があるのか、耳を貸さなかった。
条件はそろった!
タイミングを見計らって……今だ!
ドン!
ピピー!
「あっ痛ぁ!」
「プッシング! 白8番! フリースロースリーショット!」
「はっああ?」
黄巻君が審判に食って掛かる。私が勝手に倒れたとアピールしてる。
それはそうだよね。ごめんね、黄巻君。
×××
「へえ、あの子、おもろいこと考えはるね」
朝乃宮は目を細め、ほのかを見つめている。
「? ほのかさんがどうかしたんですか?」
小首をかしげる上春に、朝乃宮は後ろから抱きしめる。
「咲はホンマかわいいわ~、お姉さんが何でも答えてあげます」
「も、もう! からかわないでください! 髪が乱れます!」
じゃれあっている二人をよそに、黒井と御堂が今のプレイについて話し合う。
「伊藤さんの本領発揮っといったところでしょうか。猫かぶりが相変わらずお上手ですの」
「それだけじゃない。ファールにもっていくまでのプロセスがうまい。度胸あるじゃねえか」
「偶然ファールをもらったんじゃないんですか?」
上春は口を挟むが、朝乃宮が嬉しそうに上春の頬をつっついて邪魔をする。
上春は逃れようとするが、朝乃宮にがっちりと捕まれ、逃げられない。
上春の疑問に、朝乃宮が答えた。
「伊藤はんはただシュートしていただけやない、ワンゴールを狙ってたんや」
「で、でも、あんな遠くからじゃあ入らないじゃないですか?」
上春の指摘はもっともだ。
現にほのかのフリースローはリングにすらかすっていない。フリースローラインよりも遠くからだと余計に入らないはず。
「せやけどな、咲。伊藤はんのシュート、ゴールリングにボール当たってたやない。入りそうやったとは思わんかった?」
朝乃宮の問いに上春は頷いた。入りそうになった時、上春は息をするのも忘れて見入っていた。
このゲームは風紀委員がワンゴールすれば勝ちなのだ。一本たりとも見逃せない。
「で、でも、フリースローの時はかすりもしなかったのに。何をしたのですか?」
「簡単や。力いっぱい投げただけ」
「そ、それだけですか? コントロールは?」
上春の疑問に朝乃宮は優しく微笑み、説明を続ける。
「コントロールは必要ありません。ゴールの直線上から真っ直ぐ投げるだけやし、力いっぱい投げるから力加減は必要ないんや。飛ぶ距離も大体同じになるから、後は距離間の問題。藤堂はんも伊藤はんにアドバイスしてたしね」
試合中、藤堂はほのかに話しかけていた。どこからシュートすれば入るか、アドバイスをしていたのだ。
「もちろん、それだけで点をとれるわけありません。逆に入る方が難しい。でも、この試合は一点でも入れたら終わり。相手からすれば伊藤はんのシュートは無視できなくなる。そうなると、ブロックする必要が出てきますなぁ」
「あっ!」
上春は気づいたようだ。
朝乃宮はよしよしと上春の頭をなでる。
「ブロックに来た相手に、伊藤はんはそれに合わせてわざと倒れて、ファールをとる。これが伊藤はん達が考えたシナリオやね。フリースローなら誰にも邪魔されずにシュートを打てるし、ファールの位置から今回は三本うてる。時間的にラストチャンスやね」
言うのは簡単だが、実際やってみるのは至難の業だろう。
失敗すれば警戒されてしまうので、もう二度とチャンスはこない。練習なしのぶっつけ本番で挑まなければならなかったが、ほのかは見事成功させた。
その度胸は称賛に値されるだろう。
「で、でも、ほのかさん、フリースローは失敗してるよ? すぐに入るようにはならないと思うんだけど、どうするつもりなの?」
「なあ、咲?」
「なに、千春?」
「その千春って呼びかた、やめてほしいんやけど。さっきみたいにちーちゃんって呼んでほしいわ」
朝乃宮に全く関係ないことを指摘され、上春が呆れたように弁解する。
「千春、もう私達はいい大人だし、子供の頃のような呼び方は……は、離れてください!」
頬ずりする朝乃宮に、上春が逃れようと身をよじる。二人の馴れ合いに御堂は呆れ果てていた。
御堂は視線をほのか達に戻す。
「伊藤の作戦は橘も藤堂も長尾も賛成している。勝算はあってのことだな」
「そうですわね。伊藤さんがフリースローをどう攻略するか、お手並み拝見ですの」
風紀委員女子から離れた場所で明日香とるりかは今後の予想をしている。
「ねえ、明日香。ほのほの、バスケ得意だっけ?」
「ダメっしょ。ほのか、ダンクしようとして、跳び箱使ってダンクしたけど、リング掴んだまま、降りれなくなって泣いてたし」
「……」
「……」
「ダメだし」
「ほのほの、やればできる子だってこと、見せてよね」
勝負の勝敗を決める運命のフリースローが始まろうとしていた。明日香とるりかに出来ることはただ、祈ることだった。
×××
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
今日も殿下に貞操を狙われている【R18】
毛蟹葵葉
恋愛
私は『ぬるぬるイヤンえっちち学園』の世界に転生している事に気が付いた。
タイトルの通り18禁ゲームの世界だ。
私の役回りは悪役令嬢。
しかも、時々ハードプレイまでしちゃう令嬢なの!
絶対にそんな事嫌だ!真っ先にしようと思ったのはナルシストの殿下との婚約破棄。
だけど、あれ?
なんでお前ナルシストとドMまで併発してるんだよ!
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる