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八章
八話 藤堂正道の罪 橘左近の思惑 伊藤ほのかの希望 その四
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「少年Hは未だに苦しんでいる。最初から自分が強ければ、親友も家族も失うことはなかったのではないかと。集団殺人も防げたのではないかと責め続けている。だからじゃない? 正道は押水君と桜井さんの絆を試した。そして、失敗した。自分ができなかったことを他人に押し付けているだけなんだよ、正道は。そして、納得するまで繰り返す。多くの人を不幸にしてね」
そんなの悲しすぎる。そんなことをしても決して報われることはないし、救われない。
「そんな正道だからこそ、僕らは手を組むことができたんだけどね」
僕ら?
「伊藤さん、さっき言ったよね。『誰も幸せにならないし……』って。知ってた? 風紀委員の顧問、生徒指導主事になったんだって。顧問だけがスクールアイドルの件、反対してたんだ。押水君には問題があるって。でも、学年主任も教頭も顧問の反対に耳を貸さなかった。ハーレム発言で問題になったとき、顧問は正道を使って早期に解決してみせた。その功績が認められて、学園始まって以来最年少で生徒指導主事に就任した。この人事に誰も文句は言えなかった」
ハーレム問題の裏でそんなことがあったなんて。
橘先輩の話はまだ続いている。
「顧問の提案で、生徒会は当面活動を自粛。生徒会長の押水先輩はクビで、新しい生徒会長が決まるまでの間、風紀委員が代行、フォローをすることになった。そうなると、自動的に風紀委員長の僕の権限が上がり、やりたいことができるようになった。正道は独断で押水君に制裁をくわえることができた。制裁内容は伊藤さんが知ってのとおりだよ。押水君は全てを失った」
楽しそうに語る橘先輩。私は怖くて声が出なかった。
「ほら、得した人ならいるでしょ、伊藤さんの目の前と身近に。これが風紀委員の実態だよ。僕達はゆずれない願いのため、誰かの不幸を最大限に利用する。そんな委員会に伊藤さんは入りたい? 正道と一緒にいると火傷じゃすまないよ。その前に手を引いたほうがいいんじゃない?」
橘先輩の言葉に、体の震えが止まらない。
最低だ……ついていけない……人の不幸をなんだと思ってるの? 誰もが傷ついていたのに、先輩達はそれを利用していたなんて……。
先輩や橘先輩が別人のように思えて、怖い。どうしよう……。
風紀委員に入るのをやめようと思ったとき、私の右腕の一部が熱を帯びるのを感じた。
震えが止まる。熱を帯びた場所は、先輩の手が触れたところだ。先輩が相棒と言ってくれたときに、ぽんと触られた場所。
このぬくもりが私に教えてくれる。
大丈夫……大丈夫だよね。うん!
「もちろん入りたいです! だって、そんな理由で諦めるなんて、納得いきませんから」
「そうかい。歓迎するよ。伊藤ほのかさん」
橘先輩の差し伸べた手を。私は力強く握り返す。
先輩が暴走するなら私が止めればいい。私が必ず止めてみせます。
橘先輩、覚えていますか? 先輩は最初から彼らの絆を壊そうとしていませんでした。押水先輩に彼女を作らせて、円満に解決できるよう行動していました。悪役を演じてでも最後まで押水先輩に彼女を作らせようとしました。
暴走した後、丸坊主になって罪を償おうとしている先輩の顔には、自責の念がありました。
後悔しているのなら、反省する気があるのならきっと、まだ大丈夫です。
先輩の中で、人として大切なものはまだ残っています。それならやり直せるはずです。
私が風紀委員になる理由はそれだけじゃありません。
これは誰にも話していない私だけの秘密。
先輩は雨を止めて、私に奇跡をみせてくれました。単純な事だったけど、奇跡なんて呼ぶには小さな事だったけど、私、とても嬉しかったです。
地味と言われてから、ずっと作り笑いをしてきました。でも、雨がやんだときは心の底から笑うことができました。
先輩は弱気だった私の手を引っ張ってくれましたね。そのとき、握ってくれたぬくもりを今も覚えています。弱気になったとき、この熱のぬくもりが私を奮い立たせてくれます。
私が作戦をたてて何回も失敗したときも、先輩は最後まで付き合ってくれました。
心が折れそうになったとき、私の過去を話して弱音を吐いたとき、先輩は慰めることじゃなく、初志貫徹する姿を、やり遂げる強い意志を私にみせてくれました。
先輩は私を信じて押水先輩を任せてくれました。相棒って認めてくれて……それが嬉しくてこそばゆくて……。
だから、三股の事件後、私は男の人が怖かったけど、嫌だったけど、頑張って好きでもない人に色仕掛けをして、押水先輩にハーレム発言させることができました。一矢報いることができました。
結果は望んだものじゃなかったけど、みんな不幸になってしまったけど……。
でも、次こそは望んだ結果を、納得のいく結果を先輩にみせてあげたいです。
私、先輩の姿をみて、少しは変われたと思います。流されて生きていくことに、ちょっとだけ抵抗できたと思います。
先輩はいろいろなものを私に与えてくれました。これって、女の子ならフラグがたってもおかしくないですよ。
これが私の秘密。誰にも打ち明けていない、先輩も橘先輩も知らない私だけの秘密。
Love to woman the girl upcoming hidden.(秘めたる恋は女の子を女にする)
覚悟してくださいね、先輩。私、スパルタなんで!
「ああ、忘れていたよ。押水君、今日、転校したよ」
「そ、それって大丈夫なんですか?」
今までの苦労が無駄になっちゃう! 橘先輩はそれでいいの?
橘先輩は肩をすくめている。
「この学園で問題を起こさなかったらいいよ。それに爆弾しかけてあるし」
「爆弾?」
「時限式のね」
橘先輩は窓の外を眺めながら呟いた。
「次の学校ではキミの願い、叶うといいね」
◎◎◎
そんなの悲しすぎる。そんなことをしても決して報われることはないし、救われない。
「そんな正道だからこそ、僕らは手を組むことができたんだけどね」
僕ら?
「伊藤さん、さっき言ったよね。『誰も幸せにならないし……』って。知ってた? 風紀委員の顧問、生徒指導主事になったんだって。顧問だけがスクールアイドルの件、反対してたんだ。押水君には問題があるって。でも、学年主任も教頭も顧問の反対に耳を貸さなかった。ハーレム発言で問題になったとき、顧問は正道を使って早期に解決してみせた。その功績が認められて、学園始まって以来最年少で生徒指導主事に就任した。この人事に誰も文句は言えなかった」
ハーレム問題の裏でそんなことがあったなんて。
橘先輩の話はまだ続いている。
「顧問の提案で、生徒会は当面活動を自粛。生徒会長の押水先輩はクビで、新しい生徒会長が決まるまでの間、風紀委員が代行、フォローをすることになった。そうなると、自動的に風紀委員長の僕の権限が上がり、やりたいことができるようになった。正道は独断で押水君に制裁をくわえることができた。制裁内容は伊藤さんが知ってのとおりだよ。押水君は全てを失った」
楽しそうに語る橘先輩。私は怖くて声が出なかった。
「ほら、得した人ならいるでしょ、伊藤さんの目の前と身近に。これが風紀委員の実態だよ。僕達はゆずれない願いのため、誰かの不幸を最大限に利用する。そんな委員会に伊藤さんは入りたい? 正道と一緒にいると火傷じゃすまないよ。その前に手を引いたほうがいいんじゃない?」
橘先輩の言葉に、体の震えが止まらない。
最低だ……ついていけない……人の不幸をなんだと思ってるの? 誰もが傷ついていたのに、先輩達はそれを利用していたなんて……。
先輩や橘先輩が別人のように思えて、怖い。どうしよう……。
風紀委員に入るのをやめようと思ったとき、私の右腕の一部が熱を帯びるのを感じた。
震えが止まる。熱を帯びた場所は、先輩の手が触れたところだ。先輩が相棒と言ってくれたときに、ぽんと触られた場所。
このぬくもりが私に教えてくれる。
大丈夫……大丈夫だよね。うん!
「もちろん入りたいです! だって、そんな理由で諦めるなんて、納得いきませんから」
「そうかい。歓迎するよ。伊藤ほのかさん」
橘先輩の差し伸べた手を。私は力強く握り返す。
先輩が暴走するなら私が止めればいい。私が必ず止めてみせます。
橘先輩、覚えていますか? 先輩は最初から彼らの絆を壊そうとしていませんでした。押水先輩に彼女を作らせて、円満に解決できるよう行動していました。悪役を演じてでも最後まで押水先輩に彼女を作らせようとしました。
暴走した後、丸坊主になって罪を償おうとしている先輩の顔には、自責の念がありました。
後悔しているのなら、反省する気があるのならきっと、まだ大丈夫です。
先輩の中で、人として大切なものはまだ残っています。それならやり直せるはずです。
私が風紀委員になる理由はそれだけじゃありません。
これは誰にも話していない私だけの秘密。
先輩は雨を止めて、私に奇跡をみせてくれました。単純な事だったけど、奇跡なんて呼ぶには小さな事だったけど、私、とても嬉しかったです。
地味と言われてから、ずっと作り笑いをしてきました。でも、雨がやんだときは心の底から笑うことができました。
先輩は弱気だった私の手を引っ張ってくれましたね。そのとき、握ってくれたぬくもりを今も覚えています。弱気になったとき、この熱のぬくもりが私を奮い立たせてくれます。
私が作戦をたてて何回も失敗したときも、先輩は最後まで付き合ってくれました。
心が折れそうになったとき、私の過去を話して弱音を吐いたとき、先輩は慰めることじゃなく、初志貫徹する姿を、やり遂げる強い意志を私にみせてくれました。
先輩は私を信じて押水先輩を任せてくれました。相棒って認めてくれて……それが嬉しくてこそばゆくて……。
だから、三股の事件後、私は男の人が怖かったけど、嫌だったけど、頑張って好きでもない人に色仕掛けをして、押水先輩にハーレム発言させることができました。一矢報いることができました。
結果は望んだものじゃなかったけど、みんな不幸になってしまったけど……。
でも、次こそは望んだ結果を、納得のいく結果を先輩にみせてあげたいです。
私、先輩の姿をみて、少しは変われたと思います。流されて生きていくことに、ちょっとだけ抵抗できたと思います。
先輩はいろいろなものを私に与えてくれました。これって、女の子ならフラグがたってもおかしくないですよ。
これが私の秘密。誰にも打ち明けていない、先輩も橘先輩も知らない私だけの秘密。
Love to woman the girl upcoming hidden.(秘めたる恋は女の子を女にする)
覚悟してくださいね、先輩。私、スパルタなんで!
「ああ、忘れていたよ。押水君、今日、転校したよ」
「そ、それって大丈夫なんですか?」
今までの苦労が無駄になっちゃう! 橘先輩はそれでいいの?
橘先輩は肩をすくめている。
「この学園で問題を起こさなかったらいいよ。それに爆弾しかけてあるし」
「爆弾?」
「時限式のね」
橘先輩は窓の外を眺めながら呟いた。
「次の学校ではキミの願い、叶うといいね」
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