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七章

七話 決戦! 藤堂正道 VS 押水一郎 真実と願い その五

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 屋上のドアを閉めた途端とたんひざの力が抜け、俺はその場に座り込んだ。膝が震えている。吐き気がする。頭痛が止まらない。
 あの日の親友の言葉がリフレインする。


「ごめんな……正道……」


 歯を食いしばり、襲ってくる痛みを必死に耐える。鍛え上げた肉体もその痛みには耐えられそうになかった。
 俺は信じていた。
 親友や親子の絆はそう簡単には切れないと。でも、簡単に切れてしまった。勝手な思い込みだった。
 それが理解できず、絆が切れたとき、俺は泣き叫んでいた。もう、あのときの絆が戻らないことを知りながらも、いまだに求めている。失った絆が戻る日を夢見て、幻想にしがみついている。
 なのに、俺は……俺は……なんてことを……。


「それでいいんだな?」


 押水が桜井を選ばなかったとき、俺はつい確認してしまった。懇願《こんがん》したと言ってもいい。
 桜井を選ぶ……そうなると思っていた……愛した人を選ぶと思っていた……なのに……なのに……アイツは……。
 俺は壁を思いっきり叩いた。

 はははっ……。
 乾いた笑いが出てくる。俺は何をしたかったんだ? 人様の絆なんか見て、お涙ちょうだいの展開を夢見て、どうしたかったんだ? それで、俺の過去が変わるのか? あの出来事がなかったことになるのか?
 これでは、ただのデキの悪い喜劇だ。こんなコメディを誰が望んでいるんだ?
 それが分かったとき、誰がこのハーレム騒動で一番茶番を演じていたのか、はっきりと分かってしまった。自覚してしまった。
 やはり、愚者《ぐしゃ》が誰かを助けることに何て出来なかったんだ……代弁者《だいべんしゃ》ぶったピエロは誰も救えずに全員を不幸にしてしまった。
 こんなはずではなかった……俺はなんてことをしてしまったんだ。
 激しい後悔で押しつぶされそうになる。

「終わったかい?」

 左近の言葉に、俺は現実に引き戻された。
 俺は押し寄せる後悔を我慢《がまん》し、無表情に答えた。

「ああ」

 うつむきながら、終わったことを左近に報告する。

「だから、僕に任せればよかったんだ。そうすれば傷つかなくて済んだのに」

 そんなことはできない。この一件に関わった者として、それだけは譲れない。

「俺が始めたことだ。なら、俺が見届けなくてどうする?」

 本当は知りたかっただけだ。押水達の絆を。そして……。

「見たかったんでしょ? 押水君が桜井さんを選ぶところを……いや、選んでほしかったんだよね?」
「……」

 左近の問いに答えず、俺は黙ったままうつむく。左近は呆《あき》れながらも、俺にねぎらいの言葉をかけてきた。

「お疲れさん」
「ああ、本当に疲れた……」

 これで、作戦は完了だ。
 押水の周りから女の子を引きはがす。一番の難題《なんだい》だった、幼馴染と姉の関係もこれで壊れただろう。
 後は事後処理《じごしょり》だけだ。この騒動での俺の責任を果たそう。それがせめてもの贖罪《しょくざい》だ。
 俺は立ち上がり、屋上を後にした。
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