26 / 531
四章
四話 藤堂正道の宣戦布告 届かぬ想いの先にあるもの その四
しおりを挟む
「?」
何か視線を感じ、俺は周りを見渡した。
俺達を見つめていた人物はすぐに見つかった。というか、俺達を見て、隠れるわけでもなく、じっと見つめている。
小柄な女子で、青島の制服を着ていた。
誰だ? 伊藤の知り合いか?
小柄な女子はトコトコとこっちに歩いてくる。
俺はつい身構えてしまう。
「どうしたんですか、先輩? 鳩がデザートイーグルを食ったような顔しちゃって」
「豆鉄砲な。鳥獣保護法違反に引っかかるぞ。そんなことより、あの子、伊藤の知り合いか?」
「先輩、その前に銃砲刀剣類所持等取締法とか、女の子がマニアックな銃の名前知ってる事へのツッコミがほしかったんですけど……あの子、どこかで……」
俺はコツンと伊藤のおでこをはたく。
……やっぱり、ただのお調子者の後輩だ。
さきほど感じたあたたかいものは消え去り、脱力してしまう。
馬鹿なやりとりをしている間に、女子が俺達の元へとついてしまった。
女子の視線は俺……というよりも、コロッケに向けられていた。
……おなかすいているのか?
「キミも食べるか?」
俺は女子におずおずとコロッケを差し出した。
女子はびっくりしたように目を丸め、俺を見つめている。くっ、やりにくいな……やはり、女の子は苦手だ。
どうしていいのか分からず、立ち尽くしていると……。
「あ、いえ、私はいいです。食べられませんので」
「食べられない? アレルギーか何かか?」
伊藤は肘でつついてくる。
「先輩、違います。彼女は……」
「ダイエ……いや、すまん」
「いえいえ、先輩先輩! マジボケはいいですから。アンドロイドですよ、彼女」
「はぁ?」
「HRX-12、プロトタイプのユーノといいます」
そ、そうか。全然気づかなかった。
おかっぱ頭の背の小さい女の子。これが目の前にいる少女に感じた感想だ。よく見ると、肌や関節がちょっとだけ人と違う。
後輩にボケてると言われても文句言えないな。データで確認していたが、まさか、これほどとは……。
マジマジと見つめているとユーノは俺の視線が恥ずかしいのか、もじもじとしている。伊藤が目の前に立ちふさがる。
「女の子の体をじっと見つめるなんて失礼ですよ、先輩」
「す、すまない。本当に見分けがつかないな」
感心していると、伊藤が怒ってきた。
「もう、先輩! デリカシー!」
「いえ、嬉しいです。お父さんは私を、普通の女の子をモチーフにして作りましたから、それが認められるのは光栄です」
「お父さん?」
「はい! 私を開発してくれた主任です」
にこにこしているユーノは本当に人間の女の子としか思えない。高度な科学は魔法と区別がつかない、まさにこのことだろう。
「お二人はもしかしてデートですか?」
「いやいやいや。違いますよ、ねえ、先輩?」
「そうだな。ユーノさんは買い物か?」
「はい! あっ、私のことは呼び捨てで結構ですよ」
ユーノの提案を、俺は首を振って断る。
「すまない。女の子を呼び捨てにするのは抵抗がある。さんづけさせてもらえると助かる」
ユーノは目を丸くしているが、すぐに笑顔になる。
「分かりました。私は藤堂先輩とお呼びしてもいいですか?」
「俺を知っているのか?」
「はい。一郎さんからお噂をかねがね」
ユーノの指摘に、俺は渋い顔になる。
アイツ、俺のことを話しているのか。どうせ、ロクな事ではないだろう。
「悪口だろ?」
「はい。でも、お会いして分かりました。今回も一郎さんの誤解だってことが。藤堂先輩はいい人です」
ユーノの無垢な笑みに、つい赤面してしまった。
この子は本当にロボットなのか? 普通に人と……女の子と話をしている感覚だ。
ちょんちょん。
伊藤が上目遣いで背中をつっついてくる。
「……」
伊藤が頬を膨らませているが、無視することにした。
ちょんちょん。
「……」
ちょんちょん。
「……」
ちょんちょん。
「しつこいぞ」
「あがががががががが!」
アイアンクロ―で黙らせる俺を見たユーノがおろおろしている。
「はわわ~! 藤堂先輩!」
「大丈夫だ。伊藤からかまってほしいとサインがあったからしているだけだ」
「そ、そうなのですか?」
不安そうに上目遣いで見つめてくるユーノに、俺は諭すように優しい声で説明する。
「ああ。これが先輩後輩のコミュニケーションなんだ」
「奥が深いんですね~」
ユーノが感嘆の声を上げる。
「全くだ」
俺もしみじみと返事をする。コミュニケーションとは奥が深い。人間でさえ、分からないときがあるのだから。
俺とユーノの間に和やかな雰囲気が包み込む。ほのぼのとしていると、
「ちが~~~~っう! 違うから! いたいけな女の子に嘘を教えないでください!」
手を放すと伊藤は懲りずに蹴りをいれようとする。
そう何度も当たるかよ。
伊藤の蹴りをかわし、デコピンをカウンターで伊藤のおでこに叩き込む。
伊藤はのけぞり、大袈裟に痛がっている。
「買い物なら場所は分かるか? 分からないなら案内するが」
「いえ、大丈夫です。それに何を買うのかまだ決めてませんので」
「決めてない?」
「はい、プレゼントを買いにきました。一郎さんに受け取っていただきたくて」
ユーノの発言に、俺達は少し困った顔になる。ユーノは無邪気な笑顔で、嬉しそうに話してくれる。
「私、一郎さんにはいつもお世話になっていて、恩返しがしたいんです。お父さんに相談したら、プレゼントしてみたらって助言をいただきまして」
嬉しそうに話すユーノに、俺は訊かずにはいられなかった。ユーノを傷つけるかもしれないと分かっていても……。
「それでいいのか? 押水の周りには沢山の女子がいるぞ。ユーノさんも彼のこと好きなんだろ?」
ユーノは笑顔で頷く。
「はい。でも、みなさん、本当にいい人達なんです。私はロボットですし、恋愛ができません。だから、みなさんが一郎さんと仲良くなって欲しいと思っています。一郎さんに教えていただいた優しさに、私は恩返しがしたいんです。だから、プレゼントを贈りたいんです」
ユーノの気持ちを知り、これ以上追求できなかった。できるはずもなかった。
もどかしい気持ちを抑え、俺は言葉を振り絞るようにつぶやいた。
「そっか、喜んでもらえるといいな」
「はい! では失礼します!」
ユーノは俺達にお辞儀して、笑顔で去っていった。
「凄いですね、彼女」
「ああ」
凄すぎてこっちがへこんでしまった。ユーノが立ち去った後、俺達はその場から動けなかった。彼女の愛にどう反応していいのか分からなかったからだ。
あんな愛もあるのか。人以上の、人でないからこそ思いやれるのだろうか。
もしかすると、彼女こそが一番理解できているのかも知れない。人の愛を。
俺には理解できない……。
「……い……ぱい……せん……ぱい……先輩!」
「ん? ああ」
伊藤の声に我に返る。伊藤は心配そうに俺の顔を見つめていることに気づき、心配ないと頭を左右に振る。今は次の事を考えよう。
何か視線を感じ、俺は周りを見渡した。
俺達を見つめていた人物はすぐに見つかった。というか、俺達を見て、隠れるわけでもなく、じっと見つめている。
小柄な女子で、青島の制服を着ていた。
誰だ? 伊藤の知り合いか?
小柄な女子はトコトコとこっちに歩いてくる。
俺はつい身構えてしまう。
「どうしたんですか、先輩? 鳩がデザートイーグルを食ったような顔しちゃって」
「豆鉄砲な。鳥獣保護法違反に引っかかるぞ。そんなことより、あの子、伊藤の知り合いか?」
「先輩、その前に銃砲刀剣類所持等取締法とか、女の子がマニアックな銃の名前知ってる事へのツッコミがほしかったんですけど……あの子、どこかで……」
俺はコツンと伊藤のおでこをはたく。
……やっぱり、ただのお調子者の後輩だ。
さきほど感じたあたたかいものは消え去り、脱力してしまう。
馬鹿なやりとりをしている間に、女子が俺達の元へとついてしまった。
女子の視線は俺……というよりも、コロッケに向けられていた。
……おなかすいているのか?
「キミも食べるか?」
俺は女子におずおずとコロッケを差し出した。
女子はびっくりしたように目を丸め、俺を見つめている。くっ、やりにくいな……やはり、女の子は苦手だ。
どうしていいのか分からず、立ち尽くしていると……。
「あ、いえ、私はいいです。食べられませんので」
「食べられない? アレルギーか何かか?」
伊藤は肘でつついてくる。
「先輩、違います。彼女は……」
「ダイエ……いや、すまん」
「いえいえ、先輩先輩! マジボケはいいですから。アンドロイドですよ、彼女」
「はぁ?」
「HRX-12、プロトタイプのユーノといいます」
そ、そうか。全然気づかなかった。
おかっぱ頭の背の小さい女の子。これが目の前にいる少女に感じた感想だ。よく見ると、肌や関節がちょっとだけ人と違う。
後輩にボケてると言われても文句言えないな。データで確認していたが、まさか、これほどとは……。
マジマジと見つめているとユーノは俺の視線が恥ずかしいのか、もじもじとしている。伊藤が目の前に立ちふさがる。
「女の子の体をじっと見つめるなんて失礼ですよ、先輩」
「す、すまない。本当に見分けがつかないな」
感心していると、伊藤が怒ってきた。
「もう、先輩! デリカシー!」
「いえ、嬉しいです。お父さんは私を、普通の女の子をモチーフにして作りましたから、それが認められるのは光栄です」
「お父さん?」
「はい! 私を開発してくれた主任です」
にこにこしているユーノは本当に人間の女の子としか思えない。高度な科学は魔法と区別がつかない、まさにこのことだろう。
「お二人はもしかしてデートですか?」
「いやいやいや。違いますよ、ねえ、先輩?」
「そうだな。ユーノさんは買い物か?」
「はい! あっ、私のことは呼び捨てで結構ですよ」
ユーノの提案を、俺は首を振って断る。
「すまない。女の子を呼び捨てにするのは抵抗がある。さんづけさせてもらえると助かる」
ユーノは目を丸くしているが、すぐに笑顔になる。
「分かりました。私は藤堂先輩とお呼びしてもいいですか?」
「俺を知っているのか?」
「はい。一郎さんからお噂をかねがね」
ユーノの指摘に、俺は渋い顔になる。
アイツ、俺のことを話しているのか。どうせ、ロクな事ではないだろう。
「悪口だろ?」
「はい。でも、お会いして分かりました。今回も一郎さんの誤解だってことが。藤堂先輩はいい人です」
ユーノの無垢な笑みに、つい赤面してしまった。
この子は本当にロボットなのか? 普通に人と……女の子と話をしている感覚だ。
ちょんちょん。
伊藤が上目遣いで背中をつっついてくる。
「……」
伊藤が頬を膨らませているが、無視することにした。
ちょんちょん。
「……」
ちょんちょん。
「……」
ちょんちょん。
「しつこいぞ」
「あがががががががが!」
アイアンクロ―で黙らせる俺を見たユーノがおろおろしている。
「はわわ~! 藤堂先輩!」
「大丈夫だ。伊藤からかまってほしいとサインがあったからしているだけだ」
「そ、そうなのですか?」
不安そうに上目遣いで見つめてくるユーノに、俺は諭すように優しい声で説明する。
「ああ。これが先輩後輩のコミュニケーションなんだ」
「奥が深いんですね~」
ユーノが感嘆の声を上げる。
「全くだ」
俺もしみじみと返事をする。コミュニケーションとは奥が深い。人間でさえ、分からないときがあるのだから。
俺とユーノの間に和やかな雰囲気が包み込む。ほのぼのとしていると、
「ちが~~~~っう! 違うから! いたいけな女の子に嘘を教えないでください!」
手を放すと伊藤は懲りずに蹴りをいれようとする。
そう何度も当たるかよ。
伊藤の蹴りをかわし、デコピンをカウンターで伊藤のおでこに叩き込む。
伊藤はのけぞり、大袈裟に痛がっている。
「買い物なら場所は分かるか? 分からないなら案内するが」
「いえ、大丈夫です。それに何を買うのかまだ決めてませんので」
「決めてない?」
「はい、プレゼントを買いにきました。一郎さんに受け取っていただきたくて」
ユーノの発言に、俺達は少し困った顔になる。ユーノは無邪気な笑顔で、嬉しそうに話してくれる。
「私、一郎さんにはいつもお世話になっていて、恩返しがしたいんです。お父さんに相談したら、プレゼントしてみたらって助言をいただきまして」
嬉しそうに話すユーノに、俺は訊かずにはいられなかった。ユーノを傷つけるかもしれないと分かっていても……。
「それでいいのか? 押水の周りには沢山の女子がいるぞ。ユーノさんも彼のこと好きなんだろ?」
ユーノは笑顔で頷く。
「はい。でも、みなさん、本当にいい人達なんです。私はロボットですし、恋愛ができません。だから、みなさんが一郎さんと仲良くなって欲しいと思っています。一郎さんに教えていただいた優しさに、私は恩返しがしたいんです。だから、プレゼントを贈りたいんです」
ユーノの気持ちを知り、これ以上追求できなかった。できるはずもなかった。
もどかしい気持ちを抑え、俺は言葉を振り絞るようにつぶやいた。
「そっか、喜んでもらえるといいな」
「はい! では失礼します!」
ユーノは俺達にお辞儀して、笑顔で去っていった。
「凄いですね、彼女」
「ああ」
凄すぎてこっちがへこんでしまった。ユーノが立ち去った後、俺達はその場から動けなかった。彼女の愛にどう反応していいのか分からなかったからだ。
あんな愛もあるのか。人以上の、人でないからこそ思いやれるのだろうか。
もしかすると、彼女こそが一番理解できているのかも知れない。人の愛を。
俺には理解できない……。
「……い……ぱい……せん……ぱい……先輩!」
「ん? ああ」
伊藤の声に我に返る。伊藤は心配そうに俺の顔を見つめていることに気づき、心配ないと頭を左右に振る。今は次の事を考えよう。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
初めて本気で恋をしたのは、同性だった。
芝みつばち
恋愛
定食屋のバイトを辞めた大学生の白石真春は、近所にできた新しいファミレスのオープニングスタッフとして働き始める。
そこで出会ったひとつ年下の永山香枝に、真春は特別な感情を抱いてしまい、思い悩む。
相手は同性なのに。
自分には彼氏がいるのに。
葛藤の中で揺れ動く真春の心。
素直になりたくて、でもなれなくて。
なってはいけない気がして……。
※ガールズラブです。
※一部過激な表現がございます。苦手な方はご遠慮ください。
※未成年者の飲酒、喫煙シーンがございます。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?
早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。
物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。
度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。
「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」
そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。
全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
後悔するのはあなたの方です。紛い物と言われた獣人クォーターは番の本音を受け入れられない
堀 和三盆
恋愛
「ああ、ラジョーネ! 僕はなんて幸せなのだろう! 愛する恋人の君が運命の番と判明したときの喜びと言ったらもう……!!」
「うふふ。私も幸せよ、アンスタン。そして私も貴方と同じ気持ちだわ。恋人の貴方が私の運命の番で本当に良かった」
私、ラジョーネ・ジュジュマンは狼獣人のクォーター。恋人で犬獣人のアンスタンとはつい先日、お互いが運命の番だと判明したばかり。恋人がたまたま番だったという奇跡に私は幸せの絶頂にいた。
『いつかアンスタンの番が現れて愛する彼を奪われてしまうかもしれない』……と、ずっと心配をしていたからだ。
その日もいつものように番で恋人のアンスタンと愛を語らっていたのだけれど。
「……実はね、本当は私ずっと心配だったの。だからアンスタンが番で安心したわ」
「僕もだよ、ラジョーネ。もし君が番じゃなかったら、愛する君を冷たく突き放して捨てなきゃいけないと思うと辛くて辛くて」
「え?」
「ん?」
彼の口から出てきた言葉に、私はふとした引っ掛かりを覚えてしまった。アンスタンは番が現れたら私を捨てるつもりだった? 私の方は番云々にかかわらず彼と結婚したいと思っていたのだけれど……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる