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三章
三話 対決! 伊藤ほのか VS 押水一郎 挫折と嘘 その四
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押水一郎普通化計画その二。
「ちょっと! これどういうこと!」
「説明してくれる!」
「い、いや、僕が説明して欲しいくらいなんだけど」
上級生二人が凄い剣幕で押水に迫っている。押水も何事かと首をかしげていた。
屋上でもめている押水達を、俺と伊藤は少し離れた場所から様子を見守っていた。
「『気持ちを伝えたいから屋上に来てください』って手紙、もらったんだけど」
「奇遇ね、私もよ」
二人の説明に、押水は悲鳴のような声で答える。
「ぼ、僕じゃない! 手紙なんて出してない!」
「そうなの?」
眉をひそめている女子二人に、押水は必死に訴える。
「そうだよ! 嘘はついていないよ!」
「おかしいわね……悪戯かしら」
「そうに決まっているじゃない! 信じてよ!」
彼女達の怒りが戸惑いに変わっていくのを見て、押水はほっとする。誤解は解けたと思っているようだ。
しかし、もう一人の上級生が押水を睨みつける。
「ねえ、この際だからはっきりしておきたいんだけど、私と春美、告白したらどっちと付き合うの?」
「えっ?」
雲行きが怪しくなってきたことに、押水はあせっているようだ。遠目からでも押水の動揺は分かる。
「私も気になってた。一郎君は私達に気のある態度をとってくれてるけど、実際どうなの? 私はあなたのことが好きよ。ゆずきも同じ気持ち。あなたのことを愛している。ねえ、一郎君答えて。私とゆずき、どっちをとるの? 一郎君は知ってるよね? 私とゆずきが親友だってこと」
「そ、それは……」
押水は口籠る。
上級生の女子はまっすぐに押水を見つめる。
「お互いキミのこと、好きになっちゃったわけだけど、はっきりさせておきたい。私達のうち、誰を選んでも恨まない。だから、答えが欲しいの。そうしないと、私達、親友でいられない」
「ねえ……」
「どっち?」
二人の真剣な目に押水は言葉が出てこない。
言葉からして、親友同士の二人が真剣に押水に気持ちを伝えている。もう、知らなかったでは済まされない空気が押水に答えを強要している。
二人の気持ちが空に反映されているかのように、どんよりと曇っている。
その問いに押水は……。
「修羅場、キタ――!」
「おい、どういうことだ?」
俺は未だに状況をつかめない。
次の作戦の説明は伊藤から事前に聞いていた。
この状況を作る為に裏工作をしてきたが、なぜ修羅場になったのか? 押水に答えを求めてくるのか?
親友同士だろ? 手を引くのがフツウじゃないのか? 片方が付き合うことになったら、友達でいられるのか?
俺にはこの事態が理解できない。
伊藤は得意げに説明する。
「これこそが彼から女性を引き剥がす、とっておきの秘策です。偽の手紙で呼び出して、強制的に告白の雰囲気を作りだし、彼に選択させることです」
「選択?」
押水に選択させることがどう引き剥がすことになるのだろう? 逆に女子と結ばれるのではないのか。
現に押水が告白したら必ずOKはもらえるだろう。意味が分からん。
いや、待て……必ずOKだと?
俺の中でまさに雷が落ちたような衝撃を受けた。いや、雷に打たれたことはないので、そのような疑似感覚だといいたい。
いやいや、そんなことはどうでもいい。
俺は思わずつぶやいた。
「伊藤……お前……天才か?」
伊藤はニッコリと微笑む。
俺は伊藤の腕をバンバンと叩いた。
「痛いです、先輩」
「す、すまん。だが、ナイスアイデアだ。これなら、押水に彼女が出来て、ジ・エンドだ」
「その通りです。先輩のご注文通り、これで彼の彼女ができあがりです。彼に彼女が出来れば、彼を慕う女の子は離れていくでしょう」
王手飛車取りだ。
押水は追い詰められている。押水を慕う女子二人に告白され、返答待ちだ。
後は押水の答えを聞き出し、その内容を噂で広めたら、何もしなくても自動的に問題は解決するはずだ。
「それにしても、運良く二人からの告白を引き出せたな」
「運ではないと思いますよ」
「どういうことだ?」
伊藤はあの二人が押水に告白すると自信があったのか?
俺達が押水達に出した手紙は、明らかに嘘だと分かるものだった。
現に三人が集まり、そこで嘘がバレてしまった。俺はてっきり、誰がこんな悪戯をしたのか、追求するものだと思っていた。
しかし、現実は伊藤の予測通りになった。
これはどういうトリックなのか?
「考えてもみてくださいよ。彼女達はお互い親友同士で同じ人を好きになったんですよ。その葛藤は想像に難くありません。それに覚悟していたはずです。どちらかが彼女になっても恨みっこなしと。そうすることで友情を保ってきたんです」
「だったら……」
「ですが、理性よりも感情を優先させるのが人という生き物です。何かきっかけがあれば、確かめずにはいられないと踏んでいました。パンドラの箱かもしれませんが、長い苦悩からは解放されます」
思っていたよりも重い話だった。一つだけ分かったのは、決着をつけたい気持ちだ。
苦痛を伴っても、答えを知りたい気持ちは理解できる。答えを知らなければ、前に進めないからな。
気持ちを切り替えるためにも、身を切る必要はある。
「押水は誰を選ぶんだろうな……」
せめて、三人が納得いく結果であって欲しいと願うばかりだ。
「それはCMの後かWEBで」
「おい」
「しっ! 始まりますよ」
黙って様子を見守ることにした。
押水はどんな答えを出すのか。せめて、この騒動の終止符は自分でつけろ。
「ねえ、はっきりさせてよ」
春美が真摯な眼差しで。
「どっちを選んでも恨みっこなしだから」
ゆずきが憂いのある目で。
「ねえ」
「「どっち?」」
二人が答えを求めてきた。
押水は誰か助けがこないか周りをきょろきょろと見渡している。しかし、誰もこの場にはあらわれなかった。逃げられない。
二人の視線に、押水はあらぬ方向を向いてつぶやく。
「僕は……」
「「僕は?」」
誰もが知りたい、押水の答え。それは……。
「……無理だ! どちらか一人を選ぶなんて無理だよ! 二人とも大事なんだ!」
押水は誰にも目を合わさずに答えた。
押水の返事に、俺は愕然としてしまった。俺はてっきり、あの二人のうち、誰かを選ぶと思っていたのだが……。
バカなのか、アイツは。彼女達の必死の告白に、あの返事はありえないだろ。他に好きなヤツがいるなら、そう言えばいいだろうが。二人ともってなんだ?
だが、押水にとっていい手のような気がする。押水に彼女はできなかったが、フラれたわけじゃない。今の関係が続くのだ。
男として最悪だと思うが。
「いやぁほぉおおおおおお~! バットエンドかく・じつ・だぁあああ!」
伊藤がガッツポーズをとって吼えた。俺はびくっと肩が震えた。
「ど、どういうことだ、伊藤? 俺にはよく分からないんだが」
押水は誰も選ばなかったってことだよな? それって、今のハーレム状態が続行されるってことじゃないのか? 問題は解決されなかったってことじゃないのか?
伊藤が喜んでいる理由が分からない。
「君子策に溺れるとはこのことです。一番選んではならない選択をしました。誰も選べないとは、誰も選ばないことです。つまり、二人とも好きじゃない、付き合えないと言っているのと同じことなんです! 恋愛ゲームではバットエンド直行の選択肢です! フラグたちました!」
「ば、バットエンド? 意味が分からん。日本語で説明をしろ」
フラグ? それがたつとどうなるんだ?
結局、作戦は成功したのか? 失敗したのか?
「結論から言いますと、ハーレム状態は解消されませんでしたが、あの二人は彼から離れていくでしょう」
「なぜだ?」
「女の一大決心を受け止められなかった彼の惰弱さがはっきりと彼女達に伝わりましたから。そんな男と付き合いたい女はまずいません。ありえません。正直、ふざけるなとビンタされるのがオチです。いや~オチがわかってしまうと面白くありませんな~。今日は彼の不幸でメシウマです!」
伊藤は万馬券が当たったかのようなはしゃぎようだ。
確かに普通なら伊藤の言うとおりだろう。しかし、相手は押水だ。どんな結果になるのか予測がつかない。
「ふふっ、始まりますよ。エンディングが見えちゃいました!」
俺達は再度成り行きを見守る。
「一郎君……」
「一郎……」
「……」
沈黙が屋上を支配する。永遠に時が止まったかのような感覚に、押水はもじもじしていた。
空はまだ雲で覆われている。彼女達は目をつぶり、一息ついた。
二人の発した言葉は……。
「……優しいのね」
「えっ?」
「私達を傷つけたくなかったから選らばなかったってこと?」
「そ、そうだよ! 先輩達の友情にヒビをいれたくなかったんだ! 僕は二人とも好きだ!」
「ステキ!」
「大好き!」
三人は仲良く抱き合っていた。
そのとき、一陣の風が吹き抜けた。雲の隙間から光が差しこみ、三人を照らしている。まるで天が三人を祝しているかのようだった。
「……」
「ありえねぇえええええええええええええええええええ! どんだけ! どんだけご都合主義なのぉおおおおおおおおおおおおおお! こんな展開、ダレトクなの! もっとプライド持てよ、女なんだからさぁああああああああああああああああ!」
伊藤の拳が壁に高速に叩きつけられる。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
「おい、伊藤! 拳から血が!」
「うるさい! 女の努力をあざ笑うような結果に、この拳は血の涙を流しているんじゃぁあああああああああ!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
伊藤の拳が止まらない。
「落ち着け! 俺としてはこの結果を予測していたのだが」
「予測していた? 予測できませんよ、こんな結末! エスパーなの? エスパー○美なの! テレポーテーションしてなさいよ! ほわちょ!」
伊藤の八つ当たり満々の攻撃を、俺は逆に腕固めで返り討ちにする。
「あいたたたたたたた! ギブギブ!」
「落ち着いたか?」
俺は少し力を込め、伊藤の抵抗を抑えつけた。
「お、女の子の腕を決めるなんて、容赦なさすぎですよ、先輩!」
「俺的にはこれ以上、伊藤が怪我をしないようにする為の処置なんだが」
「ぼ、暴力反対! もうしませんから!」
伊藤はきまりが悪くなったのか、心配されたことにテレたのか暴れるのをやめた。耳が真っ赤だ。
「こんなはずじゃなかったのに……」
伊藤は落ち込んでいる。連続で失敗、しかも秘策がうまくいかなかったのだから無理もない。
うまい言葉がみつからない。
「まあ、その……仕方なかったな」
陳腐な言葉しか出てこなかった。
落ち込んでいるかと思っていたが、伊藤は不適な笑みを浮かべている。
「ふっ……でも、次こそ終わりですよ」
「……」
俺は白い目で伊藤を見つめる。
「ああっ! 失敗するためのフラグがたったと思っていますね! 違いますから! 失敗は予測できませんでしたが、王手であることは間違いないです。この秘策には第二の牙がありますから」
「牙?」
「そうです。ふっふっふ……絶対に逃しませんからね。女の子をもてあそぶ不定な輩に鉄槌を!」
伊藤は高らかに拳をあげた。その姿を見て、俺はますます不安になる。
本当に大丈夫か?
「ちょっと! これどういうこと!」
「説明してくれる!」
「い、いや、僕が説明して欲しいくらいなんだけど」
上級生二人が凄い剣幕で押水に迫っている。押水も何事かと首をかしげていた。
屋上でもめている押水達を、俺と伊藤は少し離れた場所から様子を見守っていた。
「『気持ちを伝えたいから屋上に来てください』って手紙、もらったんだけど」
「奇遇ね、私もよ」
二人の説明に、押水は悲鳴のような声で答える。
「ぼ、僕じゃない! 手紙なんて出してない!」
「そうなの?」
眉をひそめている女子二人に、押水は必死に訴える。
「そうだよ! 嘘はついていないよ!」
「おかしいわね……悪戯かしら」
「そうに決まっているじゃない! 信じてよ!」
彼女達の怒りが戸惑いに変わっていくのを見て、押水はほっとする。誤解は解けたと思っているようだ。
しかし、もう一人の上級生が押水を睨みつける。
「ねえ、この際だからはっきりしておきたいんだけど、私と春美、告白したらどっちと付き合うの?」
「えっ?」
雲行きが怪しくなってきたことに、押水はあせっているようだ。遠目からでも押水の動揺は分かる。
「私も気になってた。一郎君は私達に気のある態度をとってくれてるけど、実際どうなの? 私はあなたのことが好きよ。ゆずきも同じ気持ち。あなたのことを愛している。ねえ、一郎君答えて。私とゆずき、どっちをとるの? 一郎君は知ってるよね? 私とゆずきが親友だってこと」
「そ、それは……」
押水は口籠る。
上級生の女子はまっすぐに押水を見つめる。
「お互いキミのこと、好きになっちゃったわけだけど、はっきりさせておきたい。私達のうち、誰を選んでも恨まない。だから、答えが欲しいの。そうしないと、私達、親友でいられない」
「ねえ……」
「どっち?」
二人の真剣な目に押水は言葉が出てこない。
言葉からして、親友同士の二人が真剣に押水に気持ちを伝えている。もう、知らなかったでは済まされない空気が押水に答えを強要している。
二人の気持ちが空に反映されているかのように、どんよりと曇っている。
その問いに押水は……。
「修羅場、キタ――!」
「おい、どういうことだ?」
俺は未だに状況をつかめない。
次の作戦の説明は伊藤から事前に聞いていた。
この状況を作る為に裏工作をしてきたが、なぜ修羅場になったのか? 押水に答えを求めてくるのか?
親友同士だろ? 手を引くのがフツウじゃないのか? 片方が付き合うことになったら、友達でいられるのか?
俺にはこの事態が理解できない。
伊藤は得意げに説明する。
「これこそが彼から女性を引き剥がす、とっておきの秘策です。偽の手紙で呼び出して、強制的に告白の雰囲気を作りだし、彼に選択させることです」
「選択?」
押水に選択させることがどう引き剥がすことになるのだろう? 逆に女子と結ばれるのではないのか。
現に押水が告白したら必ずOKはもらえるだろう。意味が分からん。
いや、待て……必ずOKだと?
俺の中でまさに雷が落ちたような衝撃を受けた。いや、雷に打たれたことはないので、そのような疑似感覚だといいたい。
いやいや、そんなことはどうでもいい。
俺は思わずつぶやいた。
「伊藤……お前……天才か?」
伊藤はニッコリと微笑む。
俺は伊藤の腕をバンバンと叩いた。
「痛いです、先輩」
「す、すまん。だが、ナイスアイデアだ。これなら、押水に彼女が出来て、ジ・エンドだ」
「その通りです。先輩のご注文通り、これで彼の彼女ができあがりです。彼に彼女が出来れば、彼を慕う女の子は離れていくでしょう」
王手飛車取りだ。
押水は追い詰められている。押水を慕う女子二人に告白され、返答待ちだ。
後は押水の答えを聞き出し、その内容を噂で広めたら、何もしなくても自動的に問題は解決するはずだ。
「それにしても、運良く二人からの告白を引き出せたな」
「運ではないと思いますよ」
「どういうことだ?」
伊藤はあの二人が押水に告白すると自信があったのか?
俺達が押水達に出した手紙は、明らかに嘘だと分かるものだった。
現に三人が集まり、そこで嘘がバレてしまった。俺はてっきり、誰がこんな悪戯をしたのか、追求するものだと思っていた。
しかし、現実は伊藤の予測通りになった。
これはどういうトリックなのか?
「考えてもみてくださいよ。彼女達はお互い親友同士で同じ人を好きになったんですよ。その葛藤は想像に難くありません。それに覚悟していたはずです。どちらかが彼女になっても恨みっこなしと。そうすることで友情を保ってきたんです」
「だったら……」
「ですが、理性よりも感情を優先させるのが人という生き物です。何かきっかけがあれば、確かめずにはいられないと踏んでいました。パンドラの箱かもしれませんが、長い苦悩からは解放されます」
思っていたよりも重い話だった。一つだけ分かったのは、決着をつけたい気持ちだ。
苦痛を伴っても、答えを知りたい気持ちは理解できる。答えを知らなければ、前に進めないからな。
気持ちを切り替えるためにも、身を切る必要はある。
「押水は誰を選ぶんだろうな……」
せめて、三人が納得いく結果であって欲しいと願うばかりだ。
「それはCMの後かWEBで」
「おい」
「しっ! 始まりますよ」
黙って様子を見守ることにした。
押水はどんな答えを出すのか。せめて、この騒動の終止符は自分でつけろ。
「ねえ、はっきりさせてよ」
春美が真摯な眼差しで。
「どっちを選んでも恨みっこなしだから」
ゆずきが憂いのある目で。
「ねえ」
「「どっち?」」
二人が答えを求めてきた。
押水は誰か助けがこないか周りをきょろきょろと見渡している。しかし、誰もこの場にはあらわれなかった。逃げられない。
二人の視線に、押水はあらぬ方向を向いてつぶやく。
「僕は……」
「「僕は?」」
誰もが知りたい、押水の答え。それは……。
「……無理だ! どちらか一人を選ぶなんて無理だよ! 二人とも大事なんだ!」
押水は誰にも目を合わさずに答えた。
押水の返事に、俺は愕然としてしまった。俺はてっきり、あの二人のうち、誰かを選ぶと思っていたのだが……。
バカなのか、アイツは。彼女達の必死の告白に、あの返事はありえないだろ。他に好きなヤツがいるなら、そう言えばいいだろうが。二人ともってなんだ?
だが、押水にとっていい手のような気がする。押水に彼女はできなかったが、フラれたわけじゃない。今の関係が続くのだ。
男として最悪だと思うが。
「いやぁほぉおおおおおお~! バットエンドかく・じつ・だぁあああ!」
伊藤がガッツポーズをとって吼えた。俺はびくっと肩が震えた。
「ど、どういうことだ、伊藤? 俺にはよく分からないんだが」
押水は誰も選ばなかったってことだよな? それって、今のハーレム状態が続行されるってことじゃないのか? 問題は解決されなかったってことじゃないのか?
伊藤が喜んでいる理由が分からない。
「君子策に溺れるとはこのことです。一番選んではならない選択をしました。誰も選べないとは、誰も選ばないことです。つまり、二人とも好きじゃない、付き合えないと言っているのと同じことなんです! 恋愛ゲームではバットエンド直行の選択肢です! フラグたちました!」
「ば、バットエンド? 意味が分からん。日本語で説明をしろ」
フラグ? それがたつとどうなるんだ?
結局、作戦は成功したのか? 失敗したのか?
「結論から言いますと、ハーレム状態は解消されませんでしたが、あの二人は彼から離れていくでしょう」
「なぜだ?」
「女の一大決心を受け止められなかった彼の惰弱さがはっきりと彼女達に伝わりましたから。そんな男と付き合いたい女はまずいません。ありえません。正直、ふざけるなとビンタされるのがオチです。いや~オチがわかってしまうと面白くありませんな~。今日は彼の不幸でメシウマです!」
伊藤は万馬券が当たったかのようなはしゃぎようだ。
確かに普通なら伊藤の言うとおりだろう。しかし、相手は押水だ。どんな結果になるのか予測がつかない。
「ふふっ、始まりますよ。エンディングが見えちゃいました!」
俺達は再度成り行きを見守る。
「一郎君……」
「一郎……」
「……」
沈黙が屋上を支配する。永遠に時が止まったかのような感覚に、押水はもじもじしていた。
空はまだ雲で覆われている。彼女達は目をつぶり、一息ついた。
二人の発した言葉は……。
「……優しいのね」
「えっ?」
「私達を傷つけたくなかったから選らばなかったってこと?」
「そ、そうだよ! 先輩達の友情にヒビをいれたくなかったんだ! 僕は二人とも好きだ!」
「ステキ!」
「大好き!」
三人は仲良く抱き合っていた。
そのとき、一陣の風が吹き抜けた。雲の隙間から光が差しこみ、三人を照らしている。まるで天が三人を祝しているかのようだった。
「……」
「ありえねぇえええええええええええええええええええ! どんだけ! どんだけご都合主義なのぉおおおおおおおおおおおおおお! こんな展開、ダレトクなの! もっとプライド持てよ、女なんだからさぁああああああああああああああああ!」
伊藤の拳が壁に高速に叩きつけられる。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
「おい、伊藤! 拳から血が!」
「うるさい! 女の努力をあざ笑うような結果に、この拳は血の涙を流しているんじゃぁあああああああああ!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
伊藤の拳が止まらない。
「落ち着け! 俺としてはこの結果を予測していたのだが」
「予測していた? 予測できませんよ、こんな結末! エスパーなの? エスパー○美なの! テレポーテーションしてなさいよ! ほわちょ!」
伊藤の八つ当たり満々の攻撃を、俺は逆に腕固めで返り討ちにする。
「あいたたたたたたた! ギブギブ!」
「落ち着いたか?」
俺は少し力を込め、伊藤の抵抗を抑えつけた。
「お、女の子の腕を決めるなんて、容赦なさすぎですよ、先輩!」
「俺的にはこれ以上、伊藤が怪我をしないようにする為の処置なんだが」
「ぼ、暴力反対! もうしませんから!」
伊藤はきまりが悪くなったのか、心配されたことにテレたのか暴れるのをやめた。耳が真っ赤だ。
「こんなはずじゃなかったのに……」
伊藤は落ち込んでいる。連続で失敗、しかも秘策がうまくいかなかったのだから無理もない。
うまい言葉がみつからない。
「まあ、その……仕方なかったな」
陳腐な言葉しか出てこなかった。
落ち込んでいるかと思っていたが、伊藤は不適な笑みを浮かべている。
「ふっ……でも、次こそ終わりですよ」
「……」
俺は白い目で伊藤を見つめる。
「ああっ! 失敗するためのフラグがたったと思っていますね! 違いますから! 失敗は予測できませんでしたが、王手であることは間違いないです。この秘策には第二の牙がありますから」
「牙?」
「そうです。ふっふっふ……絶対に逃しませんからね。女の子をもてあそぶ不定な輩に鉄槌を!」
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