藤堂正道と伊藤ほのかのおしゃべり

124:鏡開き

「あれ、紫苑さん？　鏡餅を見つめて、どうしたんですか？」
「だって、今日は鏡開きじゃないですか～？　やっと、食べられると思って」
「何を言ってるんです？　鏡開きは餅を食べるイベントじゃないですよ？」
「……えっ？」

「そもそも鏡餅の意味知ってます？　鏡には神が宿るとされていて、お餅を鏡に見立てたのが、鏡餅なんです。つまり、お餅に宿った神を食べることは不敬とされ、不幸になるんだそうです。だから、食べるのではなく、お焚き上げするのが本当の鏡開きなんです。ほら、お餅を焼くとパカッと開けるじゃないですか？　それが鏡開きなんです！」
「そ、そんな……お汁粉……きなこ餅……磯辺焼き……お雑煮……藤堂先輩に作ってもらえるようお願いしようと思ってたのに……」
「残念なのはお前の適当な嘘だ！」

　ごつん！

「あ痛ぁ！」
「ウソをつくな！　天誅だ」
「人誅じゃないですか！」
「あ、あの……ということは……」

「紫苑の思っているとおり、食べるのが正解だ」
「……バチが当たることはないんですか？」
「ない。鏡餅を食べることは年神様と一緒に食べる『共食』を意味する。そうすることで年神様の力をいただけるといわれているらしい。そのご利益は五穀豊穣、疫病退散。その一年の健康と豊作にあやかれるよう鏡開きをするんだ」

「では、祟られることは本当にないんですね？」
「まあ、鏡開きは切ったり、割るといった表現するのは縁起が悪い、というのがあるな」
「安心したらお腹がすきました～。藤堂先輩、ご馳走してくださいよ～」
「いいぞ。鏡餅は残さず食べるのが礼儀だからな。たっぷりご馳走してやる」
「やった！」
「それなら、私も！」

「伊藤、お前はダメだ。嘘をついたからな」
「そ、そんな！　先輩、酷いっす！　鬼！　悪魔！　ケダモノ！」
「……はぁ……今度からはくだらない嘘をつくなよ」
「はい！　それでは一緒にいただきましょう！　紫苑さん！」
「私への謝罪はないんですね……」
「仲良くお餅を食べられたらそれでいいじゃないですか！」
「……それもそうですね。今日は特別に許してあげます。なんたって、ご馳走にありつけるわけですし」