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111:勘違い

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「この性悪女!」
「ビッチ!」

 ドォ……。

「……紫苑しゃん、ぎぶあっぷ……」
「プッ! クスクスクス! 伊藤さん、今日は1.1024458秒もちましたね~。新記録じゃないですか~? 藤堂先輩との特訓の効果が出てますね~プププッ! それじゃあ失礼しますね~」
「……」

「……伊藤」
「ちっくしょぉおおおおおおおおおおおお! また負けた! あと一歩だったのに!」
「……」
「……ごめんなさい、先輩……先輩に特訓をつけてもらったのに……足下をすくわれてしまいました……私では役不足なんでしょうか……」
「……伊藤」
「……先輩」

「間違っているぞ」
「はい?」
「足下ではなく、足な。足をすくわれるとは、卑劣なやり方で失敗させられるって意味だ。紫苑は正々堂々と戦った。そもそも、卑劣な手を使うまでもないしな。それに役不足もその人の能力に対して,与えられた役や役目が軽すぎること、だ。あきらかに格上の相手に使う言葉じゃないな」
「……はぁ、先輩ってほんと、空気が読めないですよね。それ、病気ですか?」
「コールドゲームで負けたのに、紙一重で負けたような空気を出すのは流石だな、伊藤」

「というわけで、今日は勘違いしそうな言葉、慣用句のお話です!」
「すぐに気持ちを切り替えられるのは才能なんですかね~藤堂先輩?」
「紫苑の言うとおりだな。それでこそ、伊藤だって思うぞ」

「そこ! おもむろに話題が変わったからって浮き足立たない!」
「おもむろはゆっくりと、だ。急にじゃない」
「浮き足立つは不安で落ち着きがなくなるって意味です。浮かれてるわけではないですよ~って、少し強引ですね~」

「まあまあ、少し強引なのは王道じゃないですか! 確信犯とも言いますけど!」
「王道は安易な方法だな。定番、お決まりじゃない」
「確信犯は悪いと思いつつも行動するってわけではなく~政治的、宗教的、思想的な信念に基づいて自ら正しいと信じて行動するって意味です」

「佳境に入りましたし、そろそろ潮時ってことで」
「佳境に入る。物語の終わりはなく、物語が最も興味深い部分に入ることだ」
「潮時はちょうどいい時期ですね~。これ以上は無理と判断した時期ではなく……って、あれ? 使い方あってません?」

「とにかく! 日本語は正しく使おうね! ほのかとの約束だよ!」
「強引にしめやがったな……」
「伊藤さんらしい傍若無人っぷりでしたね~」
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