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08:台風

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「先輩、先輩、先輩! 雨、雨が降ってます! 台風ですよ! 雨シリーズは終わったと思っていたそばからコレですよ! ほら、見てください、先輩。雨に濡れてびしょ濡れです!」
(ブラウスが濡れて下着が透けて見えちゃってるけど、今日のブラは大人っぽいし、先輩だって気にしてくれるよね? これで気にならなかったら、先輩はモーホとしか……いや、先輩がモーホでも、それはそれでよし! さあ、先輩! 私を見てください! 少しは女の子として意識してください!)
「ちょっと待ってろ。使え」
「……いいんですか。タオルと体操着の上着、貸してもらって。濡れちゃいますよ?」
「かまわない。それより、さっさとタオルで体を拭いて着替えてこい。風邪引くぞ」
「は、はい。ありがとうございます……」
(先輩って、ときどき紳士なんだよね。たまに優しくされるから、そこにドキっとさせられちゃうっていうか……これって女の子扱いしてくれたって事かな? 予想とは違ったけど、いいよね。それに、この上着、先輩の匂いがする……)

「お待たせしました、先輩。今日は流石に見回りはなしですよね?」
「当たり前だ。ひどくなる前に帰れよ」
「……そういえば、台風なんですけど」
「おい、人の話を聞いていたのか?」
「(帰ったら先輩とお話しできなくなるじゃないですか)まあまあ、少しだけ。先輩は台風の名前の付け方について知っていますか?」
「……少しだけだぞ。確か、日本では毎年1月1日以降に最も早く発生した台風を第1号として発生順に番号をつけていくだったな。北西太平洋または南シナ海の領域で発生する台風は確か、名前が用意されているんだったな」
「そうですね。140個の名前が順番でつけられていて、台風が発生した順番にその名前がつけられていきます。140を超えた場合はまた1から戻るって寸法ですね。でも、アメリカだと台風に女性の名前をつけてますけど、これってデリカシーがないと思いません?」
「確かにな。台風で死人が出る可能性があるんだ。自分の名前と同じだったら嫌な思いをするだろうに」
「先輩って本当、真面目ですよね」
「ほっとけ。それより、さっさと帰るぞ。これからもっと、酷くなるからな」
「……は~い。帰ればいいんでしょ、帰れば……って、きゃ!」
「!」
「ううっ、風が強くてスカートが……せ、先輩、見ました?」
「……」
「見たんだ! えっ、ちょっと! 信じられないんですけど! えっち!」
(コイツ、なんてパン……いや、下着を着けているんだ! 破廉恥か! 風紀委員あるまじき行為だ。これは俺の監督不行き届きになるか? それだけならいいが、世間にバレたら左近や風紀委員にも迷惑が……)
「先輩、聞いています? 何かお詫びの言葉はないんでしょうかね~? 『ご』から始まって、『い』で終わる六文字の言葉が……」
「すまなかった、伊藤」
「……た、確かに六文字で謝罪の言葉ですけど、先輩ってひねくれてますね~。さて、まさか謝罪だけで終わりじゃないですよね? 責任、とってくれるんですよね~。(私が悪いんだけど、たまにはいいよね? いつも、先輩にやられてばかりだし。このままだと見られ損だし)」
「ああっ、きっちりと責任を取らせてもらう」
「えっ? それって……(せ、先輩が私の腕を握ってきた! 責任ってなに? も、もしかして、先輩と恋人になれ……)」
「手加減なしだ」
「えっ?」
「本気で指導してやる。ふざけた下着を着けてこないよう、風紀委員としての自覚を持てるよう、徹底的に教育してやる」
「よ、用事を思い出したので失礼しま……」
「あせることはないだろ? 外は大雨だ。上がるまでたっぷりと時間はある。覚悟しろ、伊藤」
「しぇえええええええええええ! 見られた側がとんでもないことに! た、助けて!」
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