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VSジャグドその4

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 そんな自分の考えが顔に出てしまったのだろうか? ジャグドの立ち回りに変化が見られた。無理に離れようとはしないが手数を減らして防御に回る事が増え、明確にこちらを警戒する様子がうかがえる。こちらの連撃は継続しているとはいえ、手数が急に増えたりなんて事はない……今のジャグドには、シザーズを放っても多分避けられる。

(顔に出たか、これまでの戦闘経験から来る勘か。どちらにせよ厄介だ、こういうジャグドの勘の良さは)

 先ほどまでの動き慣らしかけられるチャンスはそのうち生み出せただろう。だが、こうも警戒されてしまっているとそう言ったチャンスを生み出す事が難しくなる。何とかして警戒を解くなり、他の事に注意を向けて注意を分散させるなりしないとダメだ。しかし、そう簡単に次の手が思い浮かぶわけもない。

 結局、今の連撃を続けてジャグドを何とかもう一回崩す機会がやってくるまで耐えるほかないのか。そう思っていた所にジャグドからの反撃が飛んできた。それを回避できたのはほぼ偶然。だが、なんか危ないという直感がジャグドの着ている鎧、その右手の隙間から飛んできた何かを回避する事に成功させた。

「暗器か!」「マジかよ、これを初見でよけんのかよ!? 存在を知っているグラッドでも結構喰らうってのによ!」

 鎧の手甲付近に、そう言った暗器を射出できる機構をジャグドも作っていたようだ。自分も暗器のように盾などに仕込んだ武器を使う事があるからこそ、勘づく事が出来たんだろう。多分、そうなると左手側にもあるな? 右側だけって事はまずないだろう。流石にマシンガンのように乱射は出来ないと信じたいが、実際はどうか分からない。

(なんて面倒な武器だ。それに多分だがただの飛翔体って事は無いだろう。毒の一つも塗ってあると考える方が自然だ)

 剣などと違って、その小ささからその攻撃単体で大きなダメージを取る事は出来ない。ならば毒などに侵す事で相手の体力を削ろうと考えるのが普通だろう。まあ、自分には状態異常は意味がないんだが。蒼杯三の一件で宿った左目の魔眼で、状態異常を吸収する事が出来るのだから。もちろんそんな事をジャグドに教えるつもりはない。

(左目が見えなくても、多分その効果は発動する、よな?)

 左目そのものをくりぬかれた訳ではないのだから、たぶん大丈夫だろう。それに能力的にも『相手を凝視する必要がある』系統じゃないからね。発動しなかった場合は……まあポーションで回復だな。能力を過信して状態異常の治療系ポーションを持ってこないなんて選択は自分にはない。能力を封じてくるモンスターなんていくらでもいるんだし。

 それはさておき──攻撃を継続しているがやはりジャグドに明確な一撃を加えられてはいない。それに加えてジャグドがこちらに向かって右手を向けてきたらこちらは回避体勢を取らざるを得ず……踏み込みが浅くなりつつあった。当然ジャグドもそんな事は分かっているだろう。フェイントとして見せてくるのは当然のことだ。

 だが、そのフェイントが一つ加わるだけでも非常にやりづらくなった。間違いなく戦いの主導権をジャグドが握りつつある。だからこそこちらも主導権を取り戻すべく動かなければならないのだが、オイルはもう取り出した直後に反応されるしシザーズの間合いには入ってこない。パイルバンカーも撃つ機会がない。

 その結果戦闘距離が開きやすくなり、ジャグドの弓矢攻撃が飛んでくる回数が明確に増える一方だ。その攻撃すべてを捌き切る事が左目をやられている自分には出来ず、じりじりとHPをこちらだけが減らされている。もちろん自分は再び距離を詰めるべく動くのだが、その動きを察するとジャグドはすかさず右手を自分に向けてくる。そのため最初の時のように思い切って突っ込むことが難しい。

 もちろんフェイントだけでなく、実際に撃ってくる事も数回あった。盾で弾いたり回避したりで直撃こそ受けていないが、そう言った防御行動をとらされると再び距離が開く。自分が用いるのは中盾や大盾のようなガード面積が大きい盾ではない為、盾を構えて突っ込むシールドチャージはやりずらい。強引に突っ込む事は出来ないのだ。

 無論スライディングで飛翔体を放たれてもその下をくぐると言う事も考えたが──その動きに反応できないジャグドではない。それに対処も手馴れている感じがする……恐らく、グラッドパーティの紅一点で格闘家のゼラァ相手にやられた経験があるのかもしれない。何せこちらがスライディングしようかと動きを見せたとたんに反応するのだから。

「厄介な装備を鎧に取り付けたものだ!」「は、参考にしたのはアースの装備だがな! お前の盾に仕込んだ暗器は良いヒントになったぜ! そこから発展させたのがこいつって訳だ!」

 ああー、そうなのか。自分の過去が今のジャグドの装備強化に一役買ってしまっていたのか。そのうえで機構も小さく取り回しが良好で、厄介さは非常に大きく相手の行動を制限する……理想的な武器だな。変な武器ばかり作る自分ではたどり着かない方向性だ。

「その厄介さはグラッドを始めとした面々も認めてるぜ? 流石に鉄板を身にまとっているような装備のザッドにだけは通じねえけどな!」

 グラッドが認めてるのか、それは非常に厄介だ。まさにお墨付きというやつだろう。実際こうやって対峙すると非常に厄介なのは身にしみてわかる。しかも手に持つ武器ではなく右手を向けるだけで良いようだし、矢を放つ時と暗器を射出するときのタイムラグも非常に少ない。だ知らが飛んでくるのかがさっぱり読めないと言うだけで、本当に面倒だ。

 だがそれでも、自分は距離を詰めるしかない。一応弓による射撃攻撃も何度かしてみたがやはり矢が明後日の方向に飛んでしまってジャグドに当たらない。それはそれで牽制にはなるのだが、逆に言えばそれ以上にはならない。自分のメイン火力の一つが牽制にしかならないと言うのはすさまじく辛い展開だ。

(今後は左目をやられるようなへまは絶対にしないと誓おう。唯一の救いは、これがPvP中の出来事であったことだ。有翼人とかの重要な戦いの最中で発生した事ではなかった事だけは救いだ)

 この失敗は次に生かそうと心に決めつつ、ここからどうやってジャグドに勝とうかと頭を動かすが、まだいい案は浮かんでこない。今はとにかくもう一度接近戦に持ち込んでそこから崩す、しか思いつかない。接近戦に持ち込んで機会を作れれば、ジャグドがまだ見た事のない武器が二つある。どちらかが刺されば、状況はひっくり返る。

 と言うこちらの考えを当然ジャグドは分かっている。だからこそ距離をしっかり保ってフェイントを織り交ぜての遠距離攻撃をしているのだから。が、こうも戦っていれば流石に行けるタイミングを掴むことはできる。後三回……後三回ジャグドにフェイントをやらせたら突撃する。癖みたいなものを見つけたのだ。

 それは、実際に飛翔体を撃ってきた時だけは、フェイントとして腕を上げる高さが微妙に低い事。本当に微妙な差だからジャグドが気が付いていない可能性がある。もしこれもジャグドの誘いだったら、それは素直に褒めるしかない。それをはっきりさせるためにも、仕掛けるほかない。

 フェイント攻撃が一回、二回、三回。そして──腕が高めに上がった。それを確認した自分は全力で前に出る。ジャグドが自分の動きを見て珍しい驚愕の表情を浮かべている。まさに読まれた!? と驚いている感じだ。ここで距離を詰めて主導権を取り戻す!
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