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徹夜した職人二人

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 翌日、今日も親方の隠し工房へと足を運ぶ。中に入るや否や、カーネリアンさんに呼び止められた。

「アースさんに渡す作品の試作が上がったわよ、早速試してちょうだい!」

 ──え、もう? 今回は元となる基礎設計が出来上がっているとはいえ、昨日の今日でもう小型化したパイルバンカーを作っちゃったの? カーネリアンさんに引っ張られる形で、工房の一室に入る。中には親方と小型化された杭を二本備えているパイルバンカーの姿があった。

「おう、アース。ひとまずシールドを付けない状態で見てもらおうと思ってな。動作テストはすでにやったが、お前さんから見てみたらまた問題点が見つかるかもしれん。早速試してくれ」

 最初に作ったパイルバンカーと比べて、サイズの縮小はもちろんだが全般的にパーツの厚みが減っている。右手に装備してみたが、かなり軽い。このぐらいの重量ならば、魔法に特化して筋力が低いプレイヤーでもない限り運用する事は十分可能だろう。

「かなり軽いですね」「ああ、ストラスと共同開発した合金がさらに進歩してな、重量をかなり減らす事に成功した……それに加えて耐久性も上がっている。だからこの薄さでも十分な耐久性を備えている事は保証するぜ」

 自分の感想に、親方がそう教えてくれた。更に今後、盾を作る時はこの合金がメインになると言う事であり、工房が作る盾の品質向上に一役買っているのだそうだ。と、そろそろ動作のテストをしてくれと言われたので安全装置を外してから的に向かって構える。射出の仕方も変わっておらず、ナックルガード兼トリガー部分で相手を殴って起動する。

 的に向かって接近し、右ストレートを放つ感覚でナックルガードを叩きつける。直後、爆発と同時に二本の杭が射出されて的に突き刺さるのが見えた。自分はバックステップし、直後の衝撃に備える。的に突き刺さった杭はきちんと爆発し、的を内部から破壊した。機構も正常に動いているな。

 さて、改めてこのパイルバンカーの姿を確認しよう。杭を二発同時に放つ形式の、単発式になっている。これは当然で、マガジンをしこむ場所もシリンダーを入れる場所の余裕も無いからだ。逆に言えばそう言った連射機能を捨てたからこそ小型化かつ軽量化に成功していると言える。

 リロード方法は後方から杭を差し込みセット、直後に火薬入りのカードリッチを所定の位置にセットする。杭を発射させたときにこのカードリッチの火薬が使われており、火薬の炸裂と同時にこのカードリッチは外れるようになっている。ハンドガンを発射した時に外に排出される薬莢のような感じだ。

「できる限りリロードは簡単に出来る様にしてみたわ。機構上連射は出来ないけど、少し後ろに下がれば戦闘中でも次の杭をセットして戦闘に復帰できるようにすることが狙いね」

 カーネリアンさんが言う通り、リロードにかかる時間はかなり短い。これも親方とカーネリアンさんが知恵を絞って作り上げたのだろう……しかし。

「素晴らしい出来栄えなのは間違いないのですが──親方とカーネリアンさん、ちゃんと睡眠をとりました?」

 とてもじゃないが、一時間二時間集中して作れば何とか、というレベルの出来栄えではない。貫徹してこのパイルバンカーの制作に没頭していたとしか思えない。自分がそう問いかけると、親方もカーネリアンさんもそっぽを向いた。図星かい!?

「いや、な。こういうギミックを考えるのって楽しいのな。しかも手本が目の前にあるとなったら、どこまで改良できるのかを試したくなるのが職人って奴でな?」

 親方……言いたい事は理解できるし気持ちの方も同意できる部分はある。しかし、だからと言って徹夜はだめだろうに。体は資本よ? 若い時は平気でも歳を重ねると過去の無茶が表に出てくるもんなのよ? 夜は出来る限り寝て欲しい所である。

「流石に今日はきちんと寝るわよ……でも昨日はアースさんが立ち去った後でもテンションが上がりまくっちゃって。一旦ログアウトはしたのよ? でも布団に入っても浮かんでくるのはパイルバンカーの事ばかり。もういっそのこと開き直って徹夜で小型版パイルバンカーを作っちゃおうって感じで」

 カーネリアンさん……まあ、今日はきちんと寝ると言っているからそれを信じよう。実際こうして試作品を作り上げた事である程度は落ち着いてくれるだろうし。で、再びログインしてきたカーネリアンさんと工房に残っていた親方が深夜テンションでやっちまうかって感じになったんだろうな。で、その勢いのままつくっちゃった、と。

(それでもこの出来栄えになるんだから、流石は親方とそのお弟子さんって所か。一度完成品を見ればどういう形で作る事で仕掛けをうまく動かせるかの理屈を理解できちゃうんだろうな)

 そうじゃなきゃ、ここまでスムーズに動く一品をポンと出してくれるはずがない。試作品だと言う事だが、細かいチェックをさせて貰った後は盾としての機能を追加すればそれで完成と言ってもいい。機構がかなり小型化しているので盾で覆い隠す事は簡単だし、新しい合金による盾なら防御力も期待できる。

「なんにせよ、ホントに今日は寝て下さいね? 自分はこの後この子の事をいくつかチェックだけさせていただきますけど……正直手直しする部分はおそらくないかと。万が一あった場合はレポートみたいに書いて提出させてもらいます」

 試射も終わったので一度杭と火薬入りカードリッチを取り外し、違和感ならびに構造上問題がある点はないかのチェックを行う。親方直々に手掛けた作品に自分がチェックを入れるなんて正直恐れ多いみたいな感情があるんだけど、最初に作った人間である以上やっておくべきであると思う。

 そうしてパーツ一つ一つチェックしたんだが……流石は親方という言葉しか出てこなかった。負荷がかかる場所はすべて手ぬかりなく対策がしてあったし、改善点、ならびに問題点なんか一つも見つからず。親方の今までの経験が、たとえギミック込みの新しい武器であったとしてもこういった見極めを可能としているのだろう。

(細かくチェックしたけど、問題点なんか見つからないな。流石は親方だ、武具の事となれば経験が少なくてもこれだけの品質に仕上げてしまうのだから)

 チェックを終えた自分は、ここでようやくこのパイルバンカーのステータスを確認する。そこにはこう出ていた。


 特殊刺突兵装二連式

 特殊な刺突を行う機構によって敵を貫く特殊兵装。直撃を受ければ、並の鎧など何の意味もなさない火力を誇る。

 ATK+2450×2 (刺突攻撃直撃時)

 制作評価 10


 威力の低下は杭の小型化故避けようがない事だ。それでも二四〇〇を越え、二発同時に放つため威力の低下はかなり抑えられている。そして何より軽いというメリットは無視できない。無論これに盾として運用できるパーツが乗る為一定の重量は増すが、それを考慮しても最初に作ったパイルバンカーと比べると軽いのだ。

 このぐらいの重量ならば、自分の動きを阻害しない。今後は右腕にスネークソードを仕込んた盾と、パイルバンカーを仕込んだ盾を状況に応じて変える事になる。最終決戦前に、魔力に頼らない大ダメージ武装を手に入れることが出来た。これは大きい。遠慮なく使わせてもらうことにしよう。

(と、それは良いとして……これはまだ未完成品なんだから、こちらのチェックした内容を基にした感想などを親方とカーネリアンさんに伝えないとダメだな。二人はどこ行ったのかな?)

 そう考えて親方を探したんだが……見つからなかったのでお弟子さんの一人に聞いてみると、親方は今日はログアウトしたとの事。なら明日で良いかと考え、自分はログアウトするまでお弟子さん達の仕事を手伝う事に決めた。パイルバンカーの件でお世話になっちゃった分はお返ししないといけない。

 そして作業も終わりに差し掛かった時──お弟子さん達の会話が切っ掛けで、もともと頼まれていたハサミギミックを仕込んだ盾の制作に取り抱えるようになるとは、この時は思ってもいなかった。
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