上 下
677 / 723
連載

パイルバンカーお披露目

しおりを挟む
 翌日。親方を始めとした工房にいるプレイヤーの皆さん全員にパイルバンカーをお披露目する時が来た。なお、的として粘土で作った上半身のマネキンに出来上がりに満足いかなかったミスリルの鎧を六つ用意して頂けた。もちろんお披露目が終わった後にこれらはもう一回鋳溶かして再利用されることになっている。

 さらにこの部屋も、外に音を漏らさないようにする為の補強をして頂いている。パイルバンカーが轟音を上げるからね。今まででもすでに防音効果がある素材をこの工房は壁などに使っていたのだが、それ以上のガッチガチに固めて頂いた。

「準備はできてるぞ」「ありがとうございます、親方。さて、ここ数日少々──処ではなかったかもしれませんが、とにかくお騒がせしておりました。まず、これが試作品ではありますが一定の形になったパイルバンカーです」

 メンテを終えた試作四号機改を親方とお弟子さん達の前にお披露目する。その外見におお、とかへえー、みたいな声がいくつも上がる。

「細かい説明はあとにして、まずは武器としてどういう感じなのかを直接見て頂ければと思います。用意して頂いた的ですが、これらの内容は皆さまの方が詳しいと思いますので……説明は不要ですよね?」

 自分の言葉に反論は出ず。まあ、そりゃそうだ。ハッキリ言って的にするのはもったいない物ばかりだ。だが防具を作ったお弟子さん達はどうにも気に入らない部分があると言う事で商品にはしないと決めたそうだ。気に入らない所がある防具を売ると、肝心な時に着用者を防具が護ってくれないと言う事があるからだと。

 事実、それは今までの鍛冶屋としての体験から来るものだったのだろう。その理由を教えてくれた時のお弟子さんの表情には、苦い物が多分に含まれていた。だからこそ同じ轍を踏まない為にそう言う考えを持ち、妥協は絶対にしないと決めていると言う事がひしひしと伝わってきた瞬間だった。なので、的として使うと言う事を決めた時に派手にやっちゃってくれとすら言われた。

「では、行きます!」

 自分の言葉に、この場が静かになる。自分は一番左端の的に狙いを定めて軽くステップを踏んでから突進。ナックルガードを通じてパイルバンカーのトリガーを引いた。そして轟音が周囲に響き渡る──手ごたえはあった。杭が弾かれたりせずに突き刺さったと思える感覚が返ってくる。すぐさま自分はバックステップ、直後に二回目の轟音が響き渡った。

(ミスリルの鎧が、木っ端みじんか……)

 自分が後ろに下がりながら見た物は、内部からはじけ飛びパラバラの破片となって飛んでいく元ミスリルの鎧だった。もちろんそれに混じって粘土の破片も周囲に散らばっていく。パイルバンカーの威力を見せつけるには十分すぎる光景だろう。シリンダーが回転し、第二射目の準備が整う。すぐさま自分は次の的に狙いを定めてパイルバンカーを起動させる。

 という光景を合計で三回繰り返し、的として用意された六つの粘土にミスリル鎧を着せたマネキンの半分を吹き飛ばした。シリンダーを動かし、火薬を入れていたカードリッチを排出。新しい杭とカードリッチをアイテムボックスから取り出して再びセットする。それらが終わってから、後ろにいる親方やお弟子さん達の姿を見る。

「とりあえず半分の試射が終わりましたが、いかがでしょうか?」

 声をかけたんだが、なんか呆然としていらっしゃる? あまりにもパイルバンカーの轟音に耳をやられて聞こえないのかな? 自分は慣れてしまったので大した問題ではないのだが……大丈夫かな? と首を傾げているとストラストカーネリオンさんからの声が聞こえてきた。

「最高だ! なあ、俺にも撃たせてもらえないか!?」「うーん、この爆発はロマンよねー。火力という意味でも満足が行く内容で火薬の研究者としては満足がいく結果が出たわー」

 ストラスがやってみたそうにしてるので、左手に装着してもらい安全装置の外し方や軌道の方法を教えてから残りの的の破壊はストラスにやってもらう事にした。ストラスもパイルバンカーを構え、ミスリルの世酔いのど真ん中を打ち抜くような感じでナックルガードを通じてパイルバンカーを起動させた。

 第三者視点から見ると、打ち出された杭がミスリルの鎧を貫いていく瞬間を見ることが出来た。打ち出された杭は一瞬でミスリルの鎧をぶち抜き深々と突き立つ。そこから杭内部の爆薬が反応し、ミスリルの鎧と粘土のマネキン両方を吹き飛ばす。圧倒的破壊力、そして圧倒的な無慈悲さ。まさにこれこそがパイルバンカー。

(相手の鎧を容易く穿ち、内部から無慈悲に吹き飛ばす。うーん、痺れる)

 今まで変な武器をあれこれ作り、クラネス師匠から教えてもらったドワーフの技術の一部も使い、ここに一つの武器が完成した。この火力ならば、並のモンスターを一撃必殺する事は容易いだろう。自分も昨日白の塔のモンスターに試したが、その圧倒的な火力を改めて実感する。ロマン要素こそあれど、一定の実用性も持たせる事に成功したと多分言っていいはずだ。

 なんて事を考えていたら、ストラスが残りの的三つをすべて破壊し終わっていた。そのストラスが浮かべる表情はまさに恍惚の二文字がぴったりくるだろう。もう目がきらっきらと輝いており、口元は少々だらしなく開いている。そして自分の所にやってきた。

「アースさん、これだよこれ! この手ごたえは最高だ! ぶち抜いた瞬間と、その後の内部爆発で感じられるこの手ごたえ! もう気持ちよすぎだ!」

 と、撃ち終わったパイルバンカーを撫でながらストラスが力説する。気持ちはまあわかる、ずんと腹にまで響く爆発の感じとかがすごくいいんだよね。なので自分は何度も頷いてストラスに同意する。

「これ、私でも使えるかしら?」

 そこにカーネリアンさんもやってくる。なので一回装着してもらって運用できるかを確かめてもらった。

「うーん、ちょっと重いけど。でもなんとかやれそうって感じはするわ。ストラス、もう少し軽量化できない? 強度は保ったままで」「今新しい合金の研究してるが、もう少しかかりそうだ。アースさんに渡した奴は、現時点では一番いい出来になった奴なんだ。研究が進めば、もう少し軽く出来ると計算上では出てる」

 何とか持てると言う事なので、重量をできるだけ抑えるためにシリンダーに入れる杭は一本だけにした。そして大慌てで粘土でマネキンもどきを作り、ストラスには処分して良い鎧を急遽一着だけ持ってきてもらった。もう威力の方は証明できたから、これはあくまでカーネリアンさんがパイルバンカーを体験出来れば良し、というだけなのだから。

 そしてちょっと危なっかしい形ではあったが、カーネリアンさんも無事パイルバンカーを起動しその手ごたえを感じてもらう事は出来た。一本しか杭を入れないならシリンダーなんかの部品がデットウェイトになりかねないなぁ。そう言う機構を取っ払って、一発だけしか打てないが出来るだけ軽くしたバージョンも考えてみようかな? 威力の方は──見事な物なのだから。

「いいわね、これこそ私達が求めたロマン装備じゃない? 打ち抜いた瞬間、そしてその後の爆発。すごく気持ちが良かったわ!」

 興奮ししているカーネリアンさんに、先ほど思いついた一発しか打てない分重量をできる限り軽くしたバージョンの制作も考えてみたんだが欲しい? と聞いたら、リロードが出来るだけ簡単に出来る様になっていれば凄く欲しいという返答が。こちらも後で考えてみる価値は十分にあるな。今はこのリボルバー型をもう少し詰めて、その後に考えよう。そして、ここでようやく親方の声が聞こえてきた。

「アース、お前またとんでも武器を作り上げたな……ファンタジーにパイルバンカーを持ち込むとはな。しかもしっかり機能してると来たもんだ。その威力を見ると、欲しがるお偉いさんが何人いるかわかんねえぞ……」

 その親方の表情は、苦笑いだった。そして、親方の頭の中にはこのパイルバンカーを見れば欲しくなる人物に複数心当たりがあると。これ、商品にするの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

測量士と人外護衛

胃頭
BL
環境汚染により人類滅亡かと思われた時、突如現れた謎の新大陸。未知の大陸の地図作りを依頼された測量士と政府から護衛として派遣された人外軍人の冒険譚。

仄暗い灯が迷子の二人を包むまで

霞花怜(Ray)
ファンタジー
※長くなってしまったので好きな章の好きな話から読んでいただけたらと思います※ ネットの求人広告からバイトの面接に行った大学四年生の瀬田直桜は後悔した。これは怪異に関わる仕事だ。そういう類は避けて生きてきたのに。バディを探しているという化野護にはその場で告白まがいのことを言われる始末。鬼の末裔のくせに邪魅に憑かれている化野が気になって、清祓だけならと引き受けるが、化野の上司の藤埜清人に押し切られ結局バディを組む羽目になる。直桜は体内に神を宿す惟神として三カ月だけ化野とバディを組んで怨霊の浄化の仕事をすることになった。化野の中にある魂魄が化野を苦しめている。それなのに化野自身は魂魄を離そうとしない。その現状に直桜は苛々を募らせる。自分でも驚くほど化野に惹かれてしまう。仕事の関係で同棲することになり、余計に距離が縮まる。そんな時、大学の同級生枉津楓にも動きがあり……。【カクヨム・小説家になろう・ムーンライトノベルズ・fujossy・アルファポリスに同作品掲載中】

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

セリフ&声劇台本

まぐろ首領
ライト文芸
自作のセリフ、声劇台本を集めました。 LIVE配信の際や、ボイス投稿の際にお使い下さい。 また、投稿する際に使われる方は、詳細などに 【台本(セリフ):詩乃冬姫】と記入していただけると嬉しいです。 よろしくお願いします。 また、コメントに一言下されば喜びます。 随時更新していきます。 リクエスト、改善してほしいことなどありましたらコメントよろしくお願いします。 また、コメントは返信できない場合がございますのでご了承ください。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。