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明かされる秘密(ただし半分ぐらい攻略とは関係ない)

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 腰を下ろして一息つく。ようやく最後の四〇〇〇体を引っ張り出せた。この試練もついに終わりが見えてきた事になる……だが、予想以上にここで足止めされている。塔の残りも考えると、これ以上の足止めは勘弁してほしいというのが本音だが……そうはいかないんだろうなぁ。そう内心でため息をつく。

 残り体と四〇〇〇体とはどう戦おうかといろいろイメージを浮かべながら考えていると、自分の前に一人の分身体が進み出てきた。恐らくこの分身体が最後の隊長格だろう。流石に座ったままでは無礼かと思い、自分は立ち上がった。

「よくぞここまで来た。正直、ここまで来られるとは思っていなかった。貴殿はパーティを組まずたった一人、こちらは四〇〇〇。そんな圧倒的不利をひっくり返し続けて貴殿はここまで来た。その強さ、何より何度倒されても諦めぬ心に対して敬意を表し、多少情報を渡しておこう。無論、主からは許可を得ているから心配しなくてよい」

 情報か、貰えるというのであるならば非常に助かる。先の予定が立てやすくなるからな。しっかりと聞いて忘れないようにしよう。

「まず、この試練は塔に挑める時間が残り一ヶ月を切った時点で強制終了となる。最後の最後までここで足止めするつもりは最初からなかった、と言う事だ。恐らくほかにもここのような厳しすぎる試練に立ち向かっていた他の者達も、こうして試練の最終局面にまで到達すれば同じことを聞いている事だろう」

 あ、そうなの? と言う事はこの後何にもしなくても試練自体は終わるのか……無論、そんな怠惰な行動を行ったら守護者からは怒られるだろうが。何というか、シューティングゲームのボスとの戦闘で時間切れが存在するみたいな感じだなぁ。これも、心を折り過ぎない為の処置だろうか?

「言うまでもないが、強制終了した場合は報酬は何も与えられない。試練を突破したわけではない以上、報酬を渡す訳にはいかないからな。これは理解して欲しい」

 それもまた当然の話だな。報酬ってのは勝者に与えられるものだからね。この点に対してもいちいち文句を言うような真似はしない。

「そして、残り一月で登り切れるのか? という疑問にも答えておこう。まず、残り一月になると二五階ごとにあった試練は全て無くなる。無論記録は出来るからな? 記録するため、先に進むために必要な試練がなくなるというだけだ。そして百階ごとの試練も簡略化される。ここまでこれた猛者なら問題なく超えられるレベルにしかならない」

 なるほど、試練の免除&簡略化でガンガン登れって事か。残り一月なら援軍に頼れなくても問題ない状況を作り出す環境にすると。これはおそらく、最初から決まっていた事なんだろうなぁ。

「ただし、九九五階の試練だけは簡略化されない。故に、できるだけ早く到達する事を進める。九九五階の試練を越えれば、後は一〇〇〇階、つまりこの塔の頂上まで登るのみだからな……まさに最終試練の場となる。心しておくべきだろう」

 すでに登頂したプレイヤーは結構いるけど、九九五階で苦戦したって話は掲示板にあったかな? この後確認してみるか……記憶にないような気がするんだよね。

「さて、ここから先の話はこれぐらいで良いだろう。これからは残りの試練の内容を伝える。私が率いる最後の分身体、四三八四名が行う試練は六人で貴殿に立ちふさがる。そして一人が倒されるとすぐさま補充が入る形で常に六人を維持し続ける。この形を最後まで行い、貴殿が全てを倒せるまで戦い続ける持久戦だ。それを乗り越えた先に私との戦いがあり、それに勝てばいよいよ守護者で私達の本体との戦いとなる」

 持久戦かぁ……だが、同時に襲ってくるのは六体までというのは今までと比べるとかなり楽な話かもしれない──その分、一体一体がこれまで以上に強いってのも予想がつくんだけどさ。だが、それでも今までの様に四〇〇〇体が一気に襲ってこないという分、気持ち的にはかなり役な話だ。

「私の本来は素直ではないから私から言っておくが、本来この試練は六人でパーティを組んでいる事を前提とした難易度だ。故に貴殿一人にやらせる内容ではない。しかし、しかしだ。貴殿は二五〇、そして五〇〇の階層で最難関の試練をたった一人だけで突破してこられた。故に、その強さを己の目で見てみたいという願望を本体は抑えられなかった」

 ぜひ抑えて欲しかったところである。ソロでこんなことをやらなきゃいけないのはやっぱりおかしかったんだ。それでも今までの得てきた経験の上に、意地と根性と自棄を入り混じらせた感情でここまで来ちゃったんだけどさ。ここまでくると、何が何でもやってやるという気持ちしかないからね。

「そして貴殿はついにここまで来た。本体は表面こそ取り繕っているが、内心では拍手喝さいしているぞ。よくぞここまでめげずに来てくれたと」「なんでばらすかな!? そんな事教えなくても良いでしょうが!」

 あ、分身の部隊長の言葉に本体が我慢しきれなくなって突っ込みを入れてきた。まあ、そりゃまさか分身が自分の本心をばらしに来るとか予想外だよな。つい口をはさみたくなる気持ちも分かるという物。しかし、分身体の方の口は止まらない。

「試練を投げ出されちゃったらどうしようとか思っているくせに、試練の難易度を下げたらそれは試練じゃなくなっちゃうなどと自問自答を繰り返していたのだよ。だからこそ、ここまで貴殿が試練をこなしてくれて内心でほっとしているというのが実情でな」「だから! そんな事を教えなくていいでしょう! 分身なんだから本体に従いなさい!」「面倒なので嫌だな」

 なんでこう、無駄にいい顔で「面倒なので嫌だな」と本体からの言葉を断るかな。しかも即決で。本体の顔が怒りか羞恥心なのか、とにかく真っ赤になっている。一方で分身体の部隊長は平然とどこ吹く風だ。本体からしたらたまった物じゃないなぁ……

「面白いだろう? 私の本体は」「それに同意を求められても、こちらからは何とも言葉にし難いのですが」

 なんで同意まで求めてくる。試練上ではあるが貴女と自分は一応敵同士ですよ? こんな妙に緩んだ空気を作っていいのかな? こちらとしては良い休憩になっているから助かっているけれども。

「忘れなさい! 忘れられないというのであれば頭を叩かせなさい! 古来より人は気絶すれば直前の記憶を失うものという情報があるわ!」「それ、失うのは記憶じゃなくて命じゃないかと思うのですが」

 本体がこちらに向かってきて全力で殴るというオーラを出してきたので、ついそう突っ込んでしまった。どう見ても相手を気絶させるじゃなくて殺すという気配しか感じられないんだよなぁ……それに殺されても、自分はあくまでアバターなんだから蘇生するよ? だから絶対記憶を失う事はないんだよなぁ、その方法では。

「これだから私の本体は。一皮むけば守護者じゃなくてただの暴れん坊にすぎぬのがな。七五〇階を任されたのもその戦闘力の高さがあってこその話なのだ……はぁ、嘆かわしい」「なんで自分の分身にここまで言われなきゃならないのかしら……腹が立つわね」

 よよよ、なんて声まで出してあからさまなウソ泣きの演技まで始めた部隊長に、守護者はいら立ちを隠せない。でもこれ、ある意味1人漫才だよねぇ? 分身との掛け合いをやっている訳なのだから。そんな物を見せられても、コメントに困るな。

「まったく、こんな乱暴者でも将来の夢があってな。それが強き者の嫁になる事だというのだから驚くだろう? この塔の試練が終わったら、旦那を探しに世界を回る事を塔の主に認めさせたほどだ。可愛い所があるのだ」「そんな事を、彼に伝える必要性は欠片もないわよね!? どうしてそんなどうでもいい事をべらべらと喋るのよ、その口調で!!」

 口喧嘩だけでなく、肘打ちを含めた肉体言語(と書いて話し合いと読ませるパターン)まで始まっているし……良いのかな、ダメージが溜まったら自分が有利になるだけなんだけど……まあ、もうしばらく様子を見よう。下手に合いの手を入れたらろくでもない事になりそうだから。

「すでに気合を入れたウェディングドレスを用意している事は分身であるこちらにも筒抜けになるのだがな? 未来の旦那はどんな人になるのだろうとあれこれ妄想を繰り広げている意識まで流れ込んでくるのを見させられる身にもなって欲しいものだ。他の者も、少女趣味が過ぎると言っていたぞ?」「ぐぐぐ……後で覚えておきなさい」

 分身の方が優勢になってきたな。これ自分が勝つにしろ負けるにしろ、ここを立ち去った後に本気の大げんかが始まるんじゃなかろうか? むしろ今やってお互い疲弊して欲しいなぁ、なんて事もちらっと考えたが流石にそれは無いだろう。それにしても、こうも人前に自分の隠したい事? とせいだいにばらされるのはつらいだろうなぁ。もちろん言いふらしたりしないけどさ、それは最低限の紳士としての心構えだろう。

「本当に、旦那を見つけるのに一〇〇〇年以上はかかるだろうな。いや、それだけ時間をかけでも強くて物好きな男性がいるかどうか……」「言いたい放題、どころかよくもそこまで言ってくれたわね……彼の試練が終わった後、覚悟しておきなさい」「私を殴ったところで、何の意味もないと思うがな」

 さて、この喧嘩はいつ終わるのだろうか? まあ、終わるまではのんびりしていることにしよう……とりあえず座って何か食べていよう。アイテムボックス内に何が残っているかなーっと。
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