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カザミネの試練

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 ツヴァイの先導で移動した先には、いつものブルーカラーの面子がいた。自分が挨拶すると、彼等や彼女達も返事を返してくれる。

「で、カザミネとカナさんが自分に用事がある、みたいなことをツヴァイから聞いたんだけど。何か手伝ってほしい事でもあるのかな?」「そうですね、アースさんにちょっと力を貸してもらいたい事があるんですよ」

 カザミネ曰く、次の試練は純粋なタイマン戦。で、パーティメンバー全員が一回づつ戦って四回勝てればクリアとなるらしい。そしてカザミネとカナさんに割り当てられた相手というのが……

「どうも、アースさんのドッペルゲンガーみたいな感じなんですよ。どうやらこの塔、大勢の挑戦者の戦い方などを記録しているみたいで……特にインパクトがあるプレイヤーをこうして試練に用いるようになってきたみたいなんです」

 なんでも、この試練が九〇〇階に到達するための壁になっているとの事。で、当然何度も挑んでいるそうなんだが……

「私とカナなんですが、今の所全敗中なんです。なので、アースさん本人と戦って経験を積ませてほしいんです」「私からもお願いします、このままでは私たち二人がブレーキになってしまいます。お忙しいとは思いますが、なにとぞ……」

 力を貸すのは良いけど……自分のドッペルゲンガーだって? 対戦する前に、どういう戦い方をしているのかを教えてもらわないと。それにあわせてこちらがどう動けば訓練になるかを考えないといけない。

「相手の戦い方ですか? 弓とスネークソードの二刀流で、アースさんのように道具まで使って攻撃してきます。からめ手を大の得意としているようで、フェイントも絡ませてきますしカウンター攻撃も遠慮なしに仕掛けてきますね」

 なんじゃそれ。装備やバトルスタイルなど、何から何まで自分のコピーにかなり近いじゃないか。なんとなく、いい気分はしないな。そんな相手にカザミネが苦しんでるとなると、何とかして勝ってもらいたくなってくる。そうだな、こっちも五〇〇階の試練との戦闘ばっかりで遠距離攻撃以外をほとんどやってないし、久々に全部を使う機会だ。

「分ったよ、じゃあ早速やろうか。でも今日は時間が残り少ないからあまりできないかもしれないが」「それでも買いません、お願いします」

 ブルーカラーの中でも、カザミネとは一番PvPやってるよな。やる価値がお互いにあるからなんだろうけど……さて、それはいったん横に置いて。集中しないとな……コピーであるドッペルゲンガーより弱い、なんて言われたら流石にショックだ。そう言われない為にも、遠慮なくやらせてもらう。

 なお、対戦の様子はブルーカラーのメンバーのみ閲覧可能状態にしてある。不特定多数には見せたくない──カザミネの方も同じ意見だったので問題ない。さて、カウントダウンが始まった。意識をカザミネに向けて、集中。

 カウントダウンがゼロになると同時に、カザミネが一気に距離を詰めてくる。無効からしたら、距離を開けておく理由は無いに等しいからな。大太刀の間合いで動かなければ、自分の持ち味の大半が機能しないのだから。が、こっちだってそれに付き合う理由はない。大太刀の間合いから半歩ぐらい後で矢を放つ。

 矢を放つと言っても、一本二本じゃない。五百階のあいつ相手に嫌でも鍛え上げられた複数の矢を同時に番えて一気に放つ技術。今の自分は七本、八本同時発射が当たり前。そのうえで、狙いもつけられるようになった、というかなってしまったと表現すべきだな。それが出来なきゃ、電撃が封じられてる水球を喰らってすぐに負けるのだから。

 狙いはカザミネの心臓を中心に、顔、首、左手あたりにも矢が飛ぶように調整してから発射。が、流石はカザミネ。すぐさま再度ステップでこの矢を回避する。その着地点を予測して右手に装備している盾、ドラゴン・スネーククリスタルシールドに仕込まれているスネークソードを伸ばしてカザミネに攻撃。

 この一撃をカザミネは大太刀で弾く事で対処した。が、自分は弾かれた刃を引き戻しつつ次の射撃を行う。まだアーツは使わない、もう少しカザミネを揺さぶってからじゃなきゃ当たらないだろうからね。牽制なら、この射撃攻撃で十分だろう──牽制ではあるが、直撃すれば倒せるだけの力を込めているが。

 二射、三射と攻撃を行うがカザミネはすべて対処。お互いにノーダメージな状況は変わらず……っと、ここでカザミネが焦れたのか、大太刀の先から闘気を飛ばす事で遠距離攻撃を可能とするアーツである《刀迅》を放ってきた。攻撃されっぱなしは面白くないから、攻撃を仕掛けてきたとも言えるか。

 が、今の自分にとってはこのアーツぐらいの速度は見慣れている。向こうもそれは分かっているはず──だからこの技は一種の目くらまし。このアーツに意識を向けさせて、自分は別の方向から……やっぱり、な。

「がはっ!?」「甘いぞ、カザミネ」

 アーツの硬直が解けた直後に動いたと思われるカザミネの動きは、アーツで生み出した刃の左側から自分に攻撃を仕掛けてきていた。その一撃を回避した後に、こちらが腕につけているシールドを裏拳の要領で鈍器としてカザミネの顔面を殴りつけたのだ。もちろんその直後にシールドからスネークソードの刃を伸ばして追撃を行う。

「くっ!?」

 この追撃をカザミネは回避した──とは言えないな。鮮血が宙に舞った。浅いがカザミネの右頬に一筋の紅が走っている。好機と見た自分はそこに、レガリオンと八岐の月による変則二刀流でラッシュを仕掛ける。カザミネも対応してくるが、大太刀の間合いよりも内側に自分がいるため、防戦一方になる。

「この間合いでは……!」「相手の間合いに入らないのも潰すのも戦略、だろう?」

 レガリオンの独特な剣筋と、八岐の月の爪によってカザミネの体が徐々に紅色に染まっていく。カザミネも反撃はしてくるが、大太刀の勢いが乗る前に自分が受け止めたり弾いたりしているので、有効な一撃は自分に来ない。今回は自分のドッペルゲンガーと言う事なので、普段の対戦ではやらないこういった動きもやらせてもらう。

「このままでは……」

 カザミネも大太刀の柄などを利用した攻撃を繰り出してどうにか間合いを少しだけ離し、大太刀を振るえる間合いにすべくあがいてくる。それを自分はことごとく叩き潰してよりダメージを与えていく。もちろん合間合間にフェイントを入れてより焦りを生み出させるように仕組んでいる。そして、ここに今まで使っていなかった蹴りを追加した。

「しまった!」「そこ!」

 不意を突いて、強くカザミネの足を蹴るローキックを右足で叩き込んだ事によりカザミネが体勢を大きく崩してしまい、動きが止まる。当然、自分は首を狙っての一撃を放ち──それは通った。カザミネの首が飛び、PvPは終了した。今回はカザミネの持ち味を一切発揮させずに畳みかける形で勝つことになったが……カザミネの感想はどうだろうか?

「──これです、これですよ! これを求めていたんです!」

 と、突然PvPが終わって自分の両手を見つめていたカザミネが大きな声を出した。一体どうした!?

「相手の持ち味をとことん潰して、勝利をもぎ取っていく。アースさんのドッペルゲンガーと思われる相手もこれをやってきたんです。しかも、ドッペルゲンガーはアーツや道具を使って私の行動を封じてきましたが、アースさん本人は道具もアーツも使わずに私の攻撃を封じてきた。これに対抗できるようになれば……あいつに勝てるでしょう!」

 カザミネがここまで興奮する姿を見せるのも珍しいな。それだけ自分がカザミネの望んだ物を出せたって事なんだろう。つまり、これぐらい容赦ない攻めとフェイントを交えた焦りを誘発するような戦い方をもっと経験したいって事で良いんだろう。

「アースさん、もう一戦……」「ダメですよ、次は私です」「次は俺ともやってくれ」「私も、たまにはアースさんと戦ってみたいですね~」

 カザミネの言葉をカナさんが制止し、ついでツヴァイやミリーまで……ログアウトまでPvPに付き合う形だなこれは。でも、こちらの訓練にもなるからやる価値は十分にある。予定していたログアウト時間はまず間違いなく越えてしまうが……やっておこうか。
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