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黒い騎士の底
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さて、とりあえず突っ込んできた黒い騎士を右に飛んで攻撃を回避した。が、それは予想通りと言わんばかりに、黒い騎士は地面に両手剣を突き立てて柱代わりにし、掴まって回る事で無理やり方向転換を行ってきた。方向転換して此方を捉えた黒い騎士は、大きく振りかぶって剣の切っ先を地面に叩きつける──そこから、津波の様に衝撃波が飛んでくる。
この衝撃波をジャンプで回避すると、黒い騎士はこちらの着地点を見極めて高速移動した後に両手剣を振り上げてきた。自分に対して両手剣の刃が迫ってくる。
「これでお終いだ、簡単すぎるぜ」「何がお終いなのか、教えてくれないかな」
黒い騎士が決着はついたとばかりに言い放った言葉に、そう返答した。自分は今、黒い騎士の両手剣の切っ先の上に立っている。《フライ》を用いて態勢を整え、振り上げられた両手剣が止まる直前に着地。自分が着地したことで黒い騎士は重量を感じ取って、自分の体を切り裂いたと勘違いしたのかな? 実際上を見ずに言い放っていたし。
「な!? なんでお前がお俺の両手剣の上に立っている!? あの状況からじゃ、お前の動きじゃ回避できねえはずだろうが!」
そんなこと言われてもねえ。そっちの見積もりが甘すぎただけなんだがな──勝手にこちらの力量を決めつけて、勝手に決着したと思い込まないで欲しいものだ。この黒い騎士は、パワーは素晴らしいし、スピードもそれなりにあるけど、戦いにおける観察眼は三流以下かな? もしくは自分の都合の良いように思いこむ性格なのか?
「だが、現に回避してお前の両手剣は自分の足場になっている。それが結果なんだが」
お前の考えが甘すぎるんだよと煽りを込めてそう口にすると、黒い騎士は分かりやすい行動に出る。自分事両手剣を上にぶん投げ、さらにもう一本両手剣を呼び出して装備。こちらの落下を見計らって攻撃する態勢に入った。なんでこっちが大人しく落ちてくると思うのか……自分はアイテムボックスから強化オイルを六つ取り出し、両手に三本づつ持つ。
その後は当然黒い騎士に向かって投げつける。強化オイルの瓶が割れ、爆発が発生。黒い騎士の悲鳴と共に激しい音が響き渡る。更に追撃で、矢を三本番えて黒い騎士の陰に向けて放つことを三セットやっておいた。手ごたえはあったから、命中はしたはず。着地直後にすかさずバックステップで距離を取ると、爆発後の煙の中から、胴体にドラゴンの矢が刺さった姿の黒い騎士が両手剣を振りかぶった姿で自分に向かって飛び出してきていた。
「ぶっ殺してやる!」
分かりやすい殺意と共に振り下ろされる両手剣だが……振り下ろしの速度が乗る前に、左手に装備している盾の食らいつく者のギミックを始動。アンカーが黒い騎士の右腕の肘よりやや前に命中し、腕を締め上げる。当然その後は風の魔力を乗せた弾が、砲塔から射出される。ドワーフの鍛冶屋、クラネス師匠の魔法威力を跳ね上げる効果もついているんだ、ただでは済まない。
「ファイア!」
自分の声と共に、風の弾が三発、黒い騎士の腕に叩き込まれる。三発目の風の弾が、腕を貫通したのが見えた。直後に自分は振り下ろされた両手剣の切っ先を回避。黒い騎士の両手剣による攻撃は再び武舞台を抉るだけに終わる。食らいつく者のアンカーはもちろんすぐに回収している。次弾装填しておかなきゃいけないからね。
「な……んだってんだ、その盾はよぅ!? 盾だけじゃねえ、爆発物に鎧をぶち抜いて抜けない矢! てめえは一体何なんだ!!」
兜で見えないが、もし見えていたら血走った眼を自分に向けている黒い騎士の顔が見えただろう。ここでさらに挑発を重ねて、念入りに相手の冷静さを奪っておこうか。こういうパワー系が冷静さを失って猪突猛進になれば、こちらの罠に嵌めやすくなる。
「それが分からないから、お前は今そうして無様な姿を晒しているんだろうが。先ほどまで戦っていた赤い騎士ならこんな奇策は通じないが、お前みたいな阿呆には効果てきめんだろう?」
赤い騎士を引き合いに出し、より念入りに煽る。煽りじゃなくても、赤い騎士なら見切ってきそうなんだよね。どっしりと構えて冷静に、かつこちらの全体を俯瞰するようにしていた。多分、盾の仕込み武器も気が付いていたんじゃないかな? 仕込み武器とか暗器は、バレていない状態じゃないと本領を発揮しにくいから……使っても多分ここまできれいに決まらなかっただろう。だからこそ、あんな真っ向勝負になってたわけで。
が、赤い騎士を引き合いに出された黒い騎士は、分かりやすく激高した。黒い騎士にとって、赤い騎士がよほど気に入らない存在なのかがよく分かる。俺の方が上だ、あいつの方が強いなんてことはないと一言で表現するだけで終わる事を散々喚き散らした上で、再びこちらに両手剣を向ける。腕をぶち抜いたのにアームブレイクは発動していなかったか、結構タフだな。
「確かに、お前はパワーはすごい。スピードも鎧をつけた状態と考えれば十分に速い方だろう。だが、逆に言えばそれだけだ。力押しが通じなければ何もできずに負ける脆い部分が丸見え、それがお前という存在の総評だ」
偉そうな言い方になってしまったが、正直な意見がこれだ。単純なぶつかり合いならこいつは確かに大将級だろう、そこは素直に認める。だが、そればっかりに走り過ぎている。からめ手の一つも持たず、ただ両手剣を力任せにぶん回すだけ。ワンモアの初期で初めてPvPを行った男を思い出す。名前はもうとっくに忘れてしまったが、あいつもこの手のやり方しか知らなかった。
「だったら俺に勝ってみろ! 出来ねえだろうがな!」
黒い騎士はそう吐き捨てるように叫ぶと、今までの一番のスピードでこちらに突っ込んできた。速度を上げれば、こちらが対処できないと考えたんだろう……そこが甘いとこちらは言っているのに。適当なタイミングでレガリオンの刃をスネーク・モードにして伸ばし、黒い騎士の足を切り裂く。これだけで黒い騎士はバランスを崩し、速度もあって自分から自滅する形で転がっていく。当然自分は巻き込まれないように避けている。
(真面目に修練し、心技体を鍛えていれば、たぶん自分じゃても足も出ない一流の武人になっただろうな。そうすれば、あの赤い騎士も一目、いや二目はあいつに置いただろう。だが、奴はそうならなかった。やっぱり、巡り合わせという奴は大事なんだな)
自分は世界をめぐる過程で何人もの師に出会い、鍛えてもらった事でここまで戦えるようになった。技だけでなく基本もみっちりと鍛えてもらったおかげで、先ほどの強襲にもこうして慌てることなく対処できている。あいつも、そんな師とめぐり会えていればこんな一方的な展開には絶対にならなかった。
「もう終わりにしよう。これ以上続けるのはただ嬲っているだけになるからな」
この自分の言葉に、黒い騎士は手に持った両手剣を地面に突き刺しながら立ち上がってくる。
「は、俺がこれで全ての力を出したとでも思ってんのか? 次の試合の事を考えて使うのはやめておこうと思ったんだがなぁ……まあいい。負けるよりゃはるかにマシだぜ!」
そう黒い騎士は口にしたかと思うと、体から赤い霧を発し始めた。ふむ、切り札をここまで温存していたという事か。それと、あいつは大事な事を忘れているな。勝っても負けても、あいつの試合はお終いだと言う事に。まあいい、ならば相手の切り札ごと斬り捨てるまで。やがて準備が終わったらしい黒い騎士は、赤い霧というより血そのものを体全体に纏わせるかのようにどす黒い赤色に染まっていた。
「これが俺の本気だ。今までとはパワーもスピードも段違いだぜ? 技なんか必要ねえんだ! 圧倒的な力と速度の前には、何もできずに潰されるんだよ!」
ふむ、その意見は一理ある。確かに圧倒的なパワーとスピードがあれば、一瞬で何もできずに相手を潰すなりなんなりすることは容易く出来るだろう。そこまで隔絶した差があれば、技が入り込む余地は確かにない。極端なたとえをすれば、象相手にノミが武芸百般になっても潰されて終わってしまう、みたいな話だ。
だが、ならばその差が小さくなれば技が入り込むだけの余地が生まれるとも言える。ならば、こちらも使うか。使うのは本当に久々だが……行くぞ《偶像の魔王》発動だ。自分の外見が大きく変わり、より力がみなぎってくるのが分かる。
「なら、その圧倒的な力と速度の差を埋めればいいだけだ。それでそちらの論理は破綻する」
黒い騎士だけじゃなく、いろんな方面からあっけにとられているような空気を感じる。あー、この姿はやっぱり色々と目立つから仕方がないっちゃないんだが。戦いが終わったら、同行パーティにできる限り黙っていて欲しいと頼んでおかないとね。
「な、なんだその姿は!」「応える義務はない、という奴で。さて、お互い切り札も出した。決着をつけて終わりにしよう」
黒い騎士は動揺を隠せない声を上げたが、自分はそれをさっくり無視して弓に矢を番えた。この番えた矢、四本でこの戦いを終わりにする。
この衝撃波をジャンプで回避すると、黒い騎士はこちらの着地点を見極めて高速移動した後に両手剣を振り上げてきた。自分に対して両手剣の刃が迫ってくる。
「これでお終いだ、簡単すぎるぜ」「何がお終いなのか、教えてくれないかな」
黒い騎士が決着はついたとばかりに言い放った言葉に、そう返答した。自分は今、黒い騎士の両手剣の切っ先の上に立っている。《フライ》を用いて態勢を整え、振り上げられた両手剣が止まる直前に着地。自分が着地したことで黒い騎士は重量を感じ取って、自分の体を切り裂いたと勘違いしたのかな? 実際上を見ずに言い放っていたし。
「な!? なんでお前がお俺の両手剣の上に立っている!? あの状況からじゃ、お前の動きじゃ回避できねえはずだろうが!」
そんなこと言われてもねえ。そっちの見積もりが甘すぎただけなんだがな──勝手にこちらの力量を決めつけて、勝手に決着したと思い込まないで欲しいものだ。この黒い騎士は、パワーは素晴らしいし、スピードもそれなりにあるけど、戦いにおける観察眼は三流以下かな? もしくは自分の都合の良いように思いこむ性格なのか?
「だが、現に回避してお前の両手剣は自分の足場になっている。それが結果なんだが」
お前の考えが甘すぎるんだよと煽りを込めてそう口にすると、黒い騎士は分かりやすい行動に出る。自分事両手剣を上にぶん投げ、さらにもう一本両手剣を呼び出して装備。こちらの落下を見計らって攻撃する態勢に入った。なんでこっちが大人しく落ちてくると思うのか……自分はアイテムボックスから強化オイルを六つ取り出し、両手に三本づつ持つ。
その後は当然黒い騎士に向かって投げつける。強化オイルの瓶が割れ、爆発が発生。黒い騎士の悲鳴と共に激しい音が響き渡る。更に追撃で、矢を三本番えて黒い騎士の陰に向けて放つことを三セットやっておいた。手ごたえはあったから、命中はしたはず。着地直後にすかさずバックステップで距離を取ると、爆発後の煙の中から、胴体にドラゴンの矢が刺さった姿の黒い騎士が両手剣を振りかぶった姿で自分に向かって飛び出してきていた。
「ぶっ殺してやる!」
分かりやすい殺意と共に振り下ろされる両手剣だが……振り下ろしの速度が乗る前に、左手に装備している盾の食らいつく者のギミックを始動。アンカーが黒い騎士の右腕の肘よりやや前に命中し、腕を締め上げる。当然その後は風の魔力を乗せた弾が、砲塔から射出される。ドワーフの鍛冶屋、クラネス師匠の魔法威力を跳ね上げる効果もついているんだ、ただでは済まない。
「ファイア!」
自分の声と共に、風の弾が三発、黒い騎士の腕に叩き込まれる。三発目の風の弾が、腕を貫通したのが見えた。直後に自分は振り下ろされた両手剣の切っ先を回避。黒い騎士の両手剣による攻撃は再び武舞台を抉るだけに終わる。食らいつく者のアンカーはもちろんすぐに回収している。次弾装填しておかなきゃいけないからね。
「な……んだってんだ、その盾はよぅ!? 盾だけじゃねえ、爆発物に鎧をぶち抜いて抜けない矢! てめえは一体何なんだ!!」
兜で見えないが、もし見えていたら血走った眼を自分に向けている黒い騎士の顔が見えただろう。ここでさらに挑発を重ねて、念入りに相手の冷静さを奪っておこうか。こういうパワー系が冷静さを失って猪突猛進になれば、こちらの罠に嵌めやすくなる。
「それが分からないから、お前は今そうして無様な姿を晒しているんだろうが。先ほどまで戦っていた赤い騎士ならこんな奇策は通じないが、お前みたいな阿呆には効果てきめんだろう?」
赤い騎士を引き合いに出し、より念入りに煽る。煽りじゃなくても、赤い騎士なら見切ってきそうなんだよね。どっしりと構えて冷静に、かつこちらの全体を俯瞰するようにしていた。多分、盾の仕込み武器も気が付いていたんじゃないかな? 仕込み武器とか暗器は、バレていない状態じゃないと本領を発揮しにくいから……使っても多分ここまできれいに決まらなかっただろう。だからこそ、あんな真っ向勝負になってたわけで。
が、赤い騎士を引き合いに出された黒い騎士は、分かりやすく激高した。黒い騎士にとって、赤い騎士がよほど気に入らない存在なのかがよく分かる。俺の方が上だ、あいつの方が強いなんてことはないと一言で表現するだけで終わる事を散々喚き散らした上で、再びこちらに両手剣を向ける。腕をぶち抜いたのにアームブレイクは発動していなかったか、結構タフだな。
「確かに、お前はパワーはすごい。スピードも鎧をつけた状態と考えれば十分に速い方だろう。だが、逆に言えばそれだけだ。力押しが通じなければ何もできずに負ける脆い部分が丸見え、それがお前という存在の総評だ」
偉そうな言い方になってしまったが、正直な意見がこれだ。単純なぶつかり合いならこいつは確かに大将級だろう、そこは素直に認める。だが、そればっかりに走り過ぎている。からめ手の一つも持たず、ただ両手剣を力任せにぶん回すだけ。ワンモアの初期で初めてPvPを行った男を思い出す。名前はもうとっくに忘れてしまったが、あいつもこの手のやり方しか知らなかった。
「だったら俺に勝ってみろ! 出来ねえだろうがな!」
黒い騎士はそう吐き捨てるように叫ぶと、今までの一番のスピードでこちらに突っ込んできた。速度を上げれば、こちらが対処できないと考えたんだろう……そこが甘いとこちらは言っているのに。適当なタイミングでレガリオンの刃をスネーク・モードにして伸ばし、黒い騎士の足を切り裂く。これだけで黒い騎士はバランスを崩し、速度もあって自分から自滅する形で転がっていく。当然自分は巻き込まれないように避けている。
(真面目に修練し、心技体を鍛えていれば、たぶん自分じゃても足も出ない一流の武人になっただろうな。そうすれば、あの赤い騎士も一目、いや二目はあいつに置いただろう。だが、奴はそうならなかった。やっぱり、巡り合わせという奴は大事なんだな)
自分は世界をめぐる過程で何人もの師に出会い、鍛えてもらった事でここまで戦えるようになった。技だけでなく基本もみっちりと鍛えてもらったおかげで、先ほどの強襲にもこうして慌てることなく対処できている。あいつも、そんな師とめぐり会えていればこんな一方的な展開には絶対にならなかった。
「もう終わりにしよう。これ以上続けるのはただ嬲っているだけになるからな」
この自分の言葉に、黒い騎士は手に持った両手剣を地面に突き刺しながら立ち上がってくる。
「は、俺がこれで全ての力を出したとでも思ってんのか? 次の試合の事を考えて使うのはやめておこうと思ったんだがなぁ……まあいい。負けるよりゃはるかにマシだぜ!」
そう黒い騎士は口にしたかと思うと、体から赤い霧を発し始めた。ふむ、切り札をここまで温存していたという事か。それと、あいつは大事な事を忘れているな。勝っても負けても、あいつの試合はお終いだと言う事に。まあいい、ならば相手の切り札ごと斬り捨てるまで。やがて準備が終わったらしい黒い騎士は、赤い霧というより血そのものを体全体に纏わせるかのようにどす黒い赤色に染まっていた。
「これが俺の本気だ。今までとはパワーもスピードも段違いだぜ? 技なんか必要ねえんだ! 圧倒的な力と速度の前には、何もできずに潰されるんだよ!」
ふむ、その意見は一理ある。確かに圧倒的なパワーとスピードがあれば、一瞬で何もできずに相手を潰すなりなんなりすることは容易く出来るだろう。そこまで隔絶した差があれば、技が入り込む余地は確かにない。極端なたとえをすれば、象相手にノミが武芸百般になっても潰されて終わってしまう、みたいな話だ。
だが、ならばその差が小さくなれば技が入り込むだけの余地が生まれるとも言える。ならば、こちらも使うか。使うのは本当に久々だが……行くぞ《偶像の魔王》発動だ。自分の外見が大きく変わり、より力がみなぎってくるのが分かる。
「なら、その圧倒的な力と速度の差を埋めればいいだけだ。それでそちらの論理は破綻する」
黒い騎士だけじゃなく、いろんな方面からあっけにとられているような空気を感じる。あー、この姿はやっぱり色々と目立つから仕方がないっちゃないんだが。戦いが終わったら、同行パーティにできる限り黙っていて欲しいと頼んでおかないとね。
「な、なんだその姿は!」「応える義務はない、という奴で。さて、お互い切り札も出した。決着をつけて終わりにしよう」
黒い騎士は動揺を隠せない声を上げたが、自分はそれをさっくり無視して弓に矢を番えた。この番えた矢、四本でこの戦いを終わりにする。
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