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ゴーレム陣営の副将

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 次に現れた相手は、最初から男性を模った人型ゴーレムだった。ただし、でかい。少なくとも二メートル以上ある筋肉もりもりのマッチョメン。下半身はプレートメイルを着込んだような姿になっており、上半身は心臓部分などの急所の身をより厚い金属で覆う軽鎧を着ている姿を模したと思われる。頭部は何もつけていない。

 更にぶっとい腕には一対の両手斧が握られている。そう、両手斧の二刀流という武装を現れたゴーレムはしているのだ。これだけで、トチ狂ったパワーを持っている事は容易に想像がつく。あんな重量級の両手斧による攻撃を一発でももろに貰ってしまったら、着ている鎧ごと無理やり引き裂かれて即死してしまいそうだ。

『さあ、ゴーレム側の副将はミスリルゴーレムだ! 両手斧を二刀流している姿から予想できるだけのパワーを持ち、武術も嗜んでいるというゴーレムの中でもとびっきりの変わり者だぞ! では双方準備が出来たら宣言してくれ!』

 ミスリルゴーレムか。ついにゴーレムの中でも上位に位置することが多いミスリル製のゴーレムが出てきた。しかもただのミスリルゴーレムじゃない。そんな奴が副将なら、大将は一体どんな奴がという考えがちらっと頭に浮かんだが、今は横に置いておこう。とにかく、こいつがどんな戦い方をするのかをしっかりと見ておかなければ。もちろん今対峙している大太刀使いのプレイヤーである彼が勝ってくれるのが一番良いのだが……

(先ほどのダイヤモンドゴーレムとの戦いでプレイヤー本人が精神的に披露しているはず。それだけじゃなく、先の戦いでキャラクターも相当のダメージを受けていたから、ポーションを飲んではいたがダメージは残っている可能性は高い。かなり厳しいのではないだろうか?)

 他の人も、自分と同じような考えになったようだ。対峙している彼を心配する声が小さいながらも複数上がった。が、ここでミスリルゴーレムが予想外の行動に出た。戦闘開始の声がかかっていないにもかかわらず左手を斧から手を離し、その後に対峙している彼に向かって手を伸ばし、光球を放ったのだ。

 不意を突かれたプレイヤーは回避できず、その光球をまともに食らった。ちょっと待て、フライングなんてありか!? なんて声が上がったがどうも様子がおかしい。光球の光が収まった後、彼がダメージを受けた様子が無いのだ。

『先ほどの戦いで受けた傷、精神力の消耗を回復した。貴殿の様な戦士が消耗したまま戦うのは、納得がいかぬ。故に勝手ながら回復行為をさせて貰った、これで存分に戦えるだろう』

 時代劇にでてくるような、年老いた武技の達人が発するような声でミスリルゴーレムがそう告げた。あー、たまにいるボスでありながら戦闘前にプレイヤーパーティを全快させてから戦いに入る武人系がこう言う事をやる事がある。行く手は阻む、が、戦いはお互い全力を出せる状態でやるモノと言った考えを持っているといった理由などで、消耗したプレイヤー側を回復させるのだ。

 ただし、そう言う行為をやるだけあって基本的にその手のボスは強い。対策などを立てていないとあっさり全滅したりする。また、作品によってはこのボスの特定の行動や技を使った後に主人公が特定の技を使うと、覚醒してまさに超必殺技と呼べる技を身につけたりする──と、いろんなことが詰め込まれることが多いボス戦だ。

『それでは、こちらは何時でもよい。そちらの心構えが出来次第始めよう』

 再び左手に斧を握り直し、自然体に構えるミスリルゴーレム。こうやって武舞台の外から見ているだけでも、その圧を強く感じるのだ。対峙している彼はより強烈な圧力を感じているだろう。それでも、彼は大太刀をゆっくりと構えた。浮かべている表情には、焦りも恐怖もない。

「ならば、こちらも全力で応えるのみ! こちらも準備は出来た。始めてくれ!」

 圧に負けないようにと、自然に大きな声が出たのだろうか? 武舞台の上のプレイヤーも大きな声で準備が整った事を宣言した。その声を聴いてミスリルゴーレムは『素晴らしい戦いになりそうだ』と一言つぶやいていた。

『了解した、双方の宣言が出たからさっそく始めるぞ! 四回戦 次鋒VS副将戦、開始だ!』

 司会者の試合開始の声と共に、大太刀を構えて前に出るプレイヤー。彼の最初の一手は、ごまかしも策もない、純粋な一刀を浴びせようとする行動から始まった。綺麗な太刀筋を描いて、ミスリルゴーレムに向かっていくその一太刀は、ミスリルゴーレムの左手に持つ両手斧によって防がれた。

 もちろん、大太刀使いの彼だって最初の一発は挨拶のようなもの。当たるとは欠片も思っちゃいなかっただろう。防がれたが、大きな隙を晒すことなく少し後ろに引いている。そして分かった事は、ミスリルゴーレムの獲物である両手斧だが……プレイヤーが使う片手剣ぐらいの速さで先ほどの攻撃を防いでいる。それだけのパワーと、正確に防げる技術を持っているって事だ。

 だが、ここで間髪入れずにミスリルゴーレムが動いた。早い、あの巨体があそこまで滑らかかつ早く動く物なのか? 下手すると先ほどのダイヤモンドゴーレムのフィギュア姿よりもずっと……その速度のまま、両手に持った一対の両手斧を大太刀使いの男性プレイヤーに向かって振り下ろす。この攻撃を、男性プレイヤーはバックステップで回避。

 だが、その叩きつけた衝撃によって武舞台が激しく揺れる。バックステップ後に着地した大太刀使いのプレイヤーはその振動で足を取られて体勢を崩してしまった。そこに、すかさずミスリルゴーレムは斧の先端を突き出すような動きで追撃をかけた。まずい、あれは避けられない!

「《妖刀・朧影の太刀(おぼろかげのたち)》!」

 不安定な体制ながらも、大太刀使いのプレイヤーはアーツを発動、迫ってきた二つの両手斧の先端を大太刀で受ける……とその直後、姿を消した後にミスリルゴーレムのやや前方上空に姿を現した。そこから縦に刀身が紫色に輝く大太刀を躊躇する事なく降りぬいた。攻撃はミスリルゴーレムの頭部に命中、ミスリルゴーレムの頭部に刀傷が刻まれる。

 だが、ミスリルゴーレムは頭突きでとっさに反撃。アーツを出し終わった硬直中で、大太刀使いの男性プレイヤーは回避行動も防御行動もとれない。もろに食らって、軽く吹き飛ばされる──が、すぐに起き上がる。大きなダメージにはなっていないようだ。まあ、とっさになんでもいいから反撃をという感じの動きだったからな、あれで大ダメージだったら詐欺だろう。

 内容はともかく、お互い一回は攻撃をあてた。この時点では大太刀使いのプレイヤーの方が一手上回っていると言った所か。だがまだまだお互い最初の挨拶が済んだ、ぐらいの感覚でしかない。そう考えると、アーツを一つ使わされた大太刀使いのプレイヤーの方がまずいのかもしれない。

『やはりよい戦士だ。並みの者では既に先ほどの交戦ですでに動けなくなっているだろう。だが、貴殿は反撃すらして見せた。存分に戦えそうだ』

 そう喋った後に、にぃっとミスリルゴーレムは笑った。それと同時に、持っている両手斧の両方から紫電が走り始めた。まさに、様子見はここまで。ここからは本気でやる、という宣言そのものだ。これらの行動に、大太刀使いの男性プレイヤーは大太刀をよりしっかりを握りこむことで応えた。

 そこから一拍の空白の時間を経て、両者が同時に前にでた。両者の武器が激しくぶつかり合い、幾つもの火花を空中に舞い散らせる。しかし、大太刀使いの男性プレイヤーの技量は素晴らしい、次々と襲い来る両手斧の猛攻を、大太刀一本と体の動きだけで次々と対処して自らの体にさわらせない。受け流し、弾き、体捌き、どれも一級品だ。

 武舞台の上は、お互いの武器が振るわれるときに起こる風斬り音とぶつかり合った時の金属音に支配されていた。お互い一歩も引かず、一歩も押せず。まさに戦いは拮抗していた。次の一手はどちらが取るのかは、全く読めない。

(もはやゴーレムというより、流体のような体をした別の何かだな。体のベースはミスリルでできているのかもしれないが、普通のミスリルで製作されたものがああもしなやかに動くはずがない)

 戦いの最中、そんな事を考えてしまった。そう感心させられるだけの動きを、あのミスリルゴーレムはしている。人間よりも滑らかに動き、一対の両手斧をああも見事に操る。戦いの前に司会者が武術を嗜んでいるという言葉も納得がいく。今戦っている大太刀使いのプレイヤーが見せている今の鋭い動きの前に、普通のゴーレムならとっくに切り裂かれて終わっているのは間違いない。

 だが、今戦って入りミスリルゴーレムは攻撃をかわし、弾き、反撃し、また防御する。何という戦いだ、種族の違いこそあれ、これは武人同士の戦いと言って間違いない。息をするのさえ忘れかけるほどに、見入ってしまう。それと同時に、自分ならどう戦うかのイメージも浮かぶ。あの攻撃にはこうする、ああするとイメージがいくつも浮かぶ。

 だが、このような状態は何時までも続くはずがない。均衡を破るのは、どっちだ?
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