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次鋒戦、そして中堅戦

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 更に数分後、二刀流の男性プレイヤーが放ち続けていた《繚乱・鎌鼬》という技を放つ事が無くなった。理由は分かる、MPポーションを使い切ったのだ。先ほど最後のMPポーションを口に運んだのが見えた、残りのMPは懐に潜り込んでからの大技の為に温存しておくつもりなのだろう。

 アイアンゴーレムに対してのインファイトはここまで仕掛けられなかったが、彼はきちんとアイアンゴーレムの繰り出す動きをしっかりと見ていた。だからきっと、勝利するためのチャンスを手繰り寄せるのに何をすればよいのかを掴んでいる可能性はある。かなり集中している様子が見て取れるので、何かをする事は間違いない。後は、それが成功するか否か……

 そんな彼の姿にアイアンゴーレムも何かを感じ取った様で、こん棒を振るう手を止めて身構えていた。先ほどまでのようにこん棒をガンガン振りまわしていたら、まずいと感じたんだろう。双方がそんな状態に入ったため、武舞台の上は先ほどまでと打って変わって、静寂に包まれた。

 そんな静寂は、数秒の事だったはずだ。しかし、自分にとっては二十秒以上に感じられ、武舞台の上で戦っている二人にとってはそれ以上の長さに感じた事だろう。動き出したら、まさに一瞬だった。アイアンゴーレムは今までのように上から叩きつけるのではなく、下から二刀流の男性プレイヤーを薙ぎ払うかのような動きでこん棒を振りぬいた。

 そのアイアンゴーレムの攻撃に対して、二刀流の男性プレイヤーが取った行動は……カウンター技をそのこん棒攻撃に合わせる事だった。以前真同化がまだ健在だった時に何度か使ったカウンター技だが、カウンターを取れないと結構隙を晒すため使いにくさはあった。しかし、一方できっちり相手の攻撃に合わせて発動できれば──

「《秘技! 繚乱・刹那の翼》!」

 一瞬でカウンターを問った二刀から炎が噴き出し、アイアンゴーレムの横を駆け抜けて一瞬で消えた。もしかして、失敗した? そう自分が思ったその時……アイアンゴーレムが崩れだした。ゴーレムの胴体部分に二つの線が走って、そこから溶けている……あの一瞬の炎は一瞬でアイアンゴーレムを切断するだけの熱の刃を生み出していたのか。

 やがて胴体の上部が地に落ち、そのあと下部も地面に落ちて動かなくなった。一方で、先ほどのカウンター技を放った二刀流の男性プレイヤーも力なく両膝をついて荒い息を吐いている。集中していたことによる負荷があったのかもしれない……アイアンゴーレムが振るう巨大なこん棒で、もろに食らえば即死というプレッシャーの中、カウンター技を叩き込むのは相当に疲れただろう。

『そこまで! 先鋒VS次鋒の戦いも挑戦者側の勝利だ! 流石に交代するよな?』

 司会から決着がついた旨の発言で、間違いなく勝利を収めた事を確認できたのでほっとする。流石に三連戦はあの様子じゃ無理だ。ポーションも使い切っているし、二体勝ち抜きで彼は十分な仕事をしている。交代するのが妥当だろう──そう考えたのは自分だけではなく、同行しているパーティも同じだったはずだ。

 なのに。武舞台の上にいる彼が出した答えは続行だった。

「無茶だ! 秘技まで使った以上、体の負担は相当なものでかなりきついはずだ! 交代しろ!」「十分な仕事をした、交代して良いんだ!」「下がりなさい、それ以上は流石に無茶よ!」

 同行しているパーティが次々と交代しない彼に対して言葉を発しつつ、ジェスチャーでも交代するべきだと訴えている。それは司会者も同じだったようで……

『こちらが言うのもなんだが、君は二連戦を見事勝ち抜いている。更に疲労も激しいのは、少し見ただけで明白だ。交代するべきじゃないのかい?』

 という声をかけていた。だが、武舞台の上の彼は頑なに続行する意思を伝えている。なぜだ、そこまで無茶をしても仕方が無いだろうに。

「まさかあいつ、中堅戦の相手に勝つことが目的なんじゃなくて、俺達に動きを見せて少しでも情報を引き出す事が目的なんじゃ……」

 ──そうか、次は第五戦、ラストの試合だ。そしてポーションも使い切り、体力とMPが三割回復したとしても……消耗が激しい以上、第五戦に参戦メンバーとして立つことは難しい。ならば、まだこちらには控えがいる事を考えて、自分が落ちても残りの面子が残れば第五戦は五人メンバーでやれる。その可能性を上げるために、中堅の情報を少しでも引き出す。そう考えているのか。

「だからって、無茶をさせるのが良い訳がない! いいから交代しろ! もう十分だ!」

 そんな声も、彼には届かないようだ。司会者も念押ししているが、彼は続行の意思を崩さない。ダメだな、どうあっても彼は続けるつもりだ。

『分かった、ここまで念押ししても考えを変えないというのであれば続行させよう。ただし次の相手を出すまでに三分ほどかかる。それまでは休んでいて構わない』

 司会者──三分は明らかに嘘だろ。少しでも休んでおけと言っているようにしか聞こえないぞ。その後三分後、司会者の声が聞こえてきた。

『お待たせした、これから四回戦先鋒VS中堅、次の相手は、こいつだ!』

 司会者の声とともに現れたゴーレム……きらきらとその身は輝いていた。ダイヤモンドゴーレムか、これ?

『その体の輝きで分かった者もいるとは思うが、こいつはダイヤモンドゴーレムだ! ただし! 一般的なダイヤモンドの弱点は克服しているぞ! 常識にとらわれ過ぎると危ないぞ!』

 えーっと、ダイヤモンドの弱点は……確か衝撃、炎などによる熱、そして油にまみれやすい、だっけか? 時々RPGでダイヤモンドで作った鎧が出てきて、ダイヤモンドの特性を知っている人からは弱そうだなんて意見が飛んでくる。確かにダイヤモンドの特性を知っていれば、とてもじゃない防具として成り立たないだろう。

 しかし、そう言った弱点は克服していると司会者は口にした。ならば、アイアンゴーレムよりもより厄介な存在だと素直に考えた方が良いだろう。しかし、それにしても派手なゴーレムだ。現実に出てきたら、滅茶苦茶狙われるんではなかろうか。

『では、両者ともに準備が出来たら教えてくれ!』

 司会者の言葉に、ダイヤモンドゴーレムはすぐに『Chi……』と返答したが、二刀流の男性プレイヤーは返事がやや遅れた。十秒ぐらい後に「お待たせした、いつでも構わない」と口にする。その表情は、どうやって見ても疲労を隠せていない。

『両者の意思を確認した。では第四回戦、先鋒VS中堅、始め!』

 司会者の言葉と共に、ダイヤモンドゴーレムが内側から光輝いた。その光はダイヤモンドゴーレムの胴体中央辺りに集まって──あれは危ない!

「避けろー!」

 試合を見ている同行パーティの一人が叫ぶのが早かったか、それともゴーレムがその集めた光を二刀流の男性プレイヤーに放つ方が早かったか。とにかく、ビームのようにゴーレムから光が発射され、二刀流の男性プレイヤーのいたあたりの地面に着弾。回避は間に合ったのか? それとも直撃してしまったか? 砂煙が巻き上がっているが。

「うおおおおおっ!」

 そんな叫び声と共に、砂煙の中から姿を見せてダイヤモンドゴーレムに切りかかったのは二刀流の男性プレイヤー。だが、その姿は──左足のすねあたりの防具が吹き飛んでおり、足の内側からかなりの出血をしている事が分かった。アレでは走るどころか歩く事ですら大変だろう……なのに、彼は歯を食いしばってダイヤモンドゴーレムに肉薄し攻撃を仕掛けたのだ。

 その攻撃に対し、ゴーレムは……すぐさま光を集めて膜を形成して受け止めた。攻撃技術だけでなく、防御技術まで持っている事が判明か。やはり、先に出てきた二体とは全く違う。ゴーレムチームの中堅にふさわしい実力を持っている。

「ビームに光のシールドか……大太刀なら切れるか?」「あの光の膜のようなシールドは展開も早いようね……かなり厄介だわ」「あれだけ彼が片手剣を振るっても崩せない……あの膜柔軟性もあるみたいよ。斬撃に特化するなり、何らかの魔法を使うなりして弱体化させないと、突破できそうにないかも」

 それらの情報を引き出した後に、彼は敗れた。最後はダイヤモンドゴーレムが繰り出したパンチを受けてしまい、倒れた所に大きく左手を開いたのちにショットガンのような感じで多数のビームが撃ちだされ、回避するすべ無くやられてしまったのだ。だが、彼はダイヤモンドゴーレムの情報を幾つも引き出してくれた。これを無駄にしないようにしなければならない。
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