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新しい敵の存在

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 そう皆で気合を入れて向かった次の階層なんだが……何というか、拍子抜けだった。アスレチックエリアが無かったうえに、モンスターの大量強襲という出来事もなく。まるで前の階層がきつすぎたことに対するバランス調整とでも言おうか……とにかく非常に簡単だった。当然そんなレベルで止まる面子ではない為、三階層は数分でクリアしてしまった。

「なんか、簡単すぎない?」「前の階がきつすぎたから、この階は手を抜いたのかもな」

 そんな軽口を皆でたたき合った後に、次の階層へ転送される。あと残りは二階層、クリアが見えてきた。その考えは自分だけではないようで、他の面子魔全員が気合を入れている。今日こそクリアしてやる! という感情がひしひしと伝わってくるな。そうしてやってきた第四階層。今度は一転してモンスターの反応がかなり多い。そのことをもちろん同行しているパーティへと伝えた。

「やっぱり三階層目は一休みに過ぎなかったと言う訳だな。だが、休めたおかげで気力は充実している。役目は十分に果たせるだろう」

 タンカー役の女性プレイヤーの表情には余裕がある。アスレチックエリアでなければ、彼女は十分な働きを見せることが出来る腕がある事はもうわかっている。だから、この発言は信用していい。

「モンスターの場所さえわかれば、また俺の雷魔法をお見舞いしてモンスターを一気に弱らせられる。だから、場所の特定は頼んだ」

 二杖流の男性プレイヤーの言葉に、自分は頷く。彼の魔法は詠唱時間が長い代わりに、高火力&広範囲のモノを多く習得しているそうだ。もう一人の金の杖を持った魔法使い男性プレイヤーの方は、便利系、詠唱短め中火力な魔法がメインらしい。そうやって立ち位置を変える事で、お互いの強みを出し合っているのだろう。

「とりあえず、最初の山場は二つ島を移動した先ですね。そこに潜んでいます」

 数は大体五十ほど。不意打ちされたらかなり厳しい数だが、それはあくまで不意打ちされたらの話だ。こちらがすでに見破っている以上、不意打ちは成立しない。むしろこちら側が仕掛けられる。島を移動し、潜んでいる島の前まで来たところで、今回も雷魔法で感電させて弱らせる作戦を実行。しかし──

 魔法が詠唱され、電撃魔法が海を走った。そしてモンスターが浮かび上がってきたわけだが……感電して動けない、弱っているモンスターは全体の半分ほどに留まった。もう半分は大したダメージを負っていない様子であり、不意打ちが失敗したことで怒り心頭といった表情を浮かべながら首を次々と出してきた。

「何だこいつら!? あの雷魔法を喰らってこんなに軽傷で済んでいるっておかしいだろ!?」「絶縁体持ちなのかもしれない! それでも数は当初に比べればかなり減っている、後は実力で倒すしかない!」

 おかしいだろう!? と叫んだ短弓使いの男性プレイヤーに、自分は絶縁体かもしれないという予測を立てて返答を返しながら目についた一体の首長竜もどきに対して矢を射かける。とりあえず様子見を兼ねて五割ぐらいの力で放ったんだが、矢は突き刺さることなく勢いを殺されて海に落ちる。

「ゴムのような体質か! だから雷魔法の効きが悪かったっていう理屈か!」

 八岐の月から放った矢を、五割ほどの威力しか込めなかったとはいえ刺さらずに済ませたあのゴムのような皮膚は馬鹿にできない。タンカーの女性プレイヤーがタウント系列のアーツを放って、モンスター集団の衆目を一気に引いた。その隙に大剣使いの女性プレイヤーが近くに居た首長竜もどきに対して剣を振るったのだが、刃が通っていない。

「間違いない、こいつらゴムみたいな体をしてる! エンチャント頂戴、切れ味がとにかく鋭くなる奴!」「任せろ、そう来ると思って用意は済んでいる、掛けるぞ!」

 大剣使いの女性プレイヤーの呼びかけに対し、すぐさま魔法を発動したのは金の杖を持っていた男性魔法使いプレイヤー。彼の魔法が発動するとほぼ同時に、前衛の女性プレイヤー二人の獲物が激しく銀色に輝いていた。武器にバフ系の魔法がかかったっていう事を示しているのだろう。

「ダメだ、短弓じゃ火力が足りねえ! 全力まで弦を引き絞って撃っても矢が刺さらねえ!」「一番値が張る投刃しか刺さらないでござる! しかし、拙者特製の毒を塗っている故、しばし後に動きが鈍るはずでござる! それまで耐えてほしいでござるう!」

 短弓使い男性プレイヤーは火力が足りず、ニンジャさんは出費のでかさに泣きながらもケチらず投げ苦無のような投刃を次々とモンスターの群れに突き刺している。自分は……七割ほど引き絞ればゴムのような皮膚を貫けたので、次々とモンスターの目や謝を狙った射撃を行っている。

「雷が効かなくても、生物であることに変わりはないはず。ならば《ナイトメア・ブリザード》!」

 広範囲氷系の上位魔法である《ナイトメア・ブリザード》が発動。恐らく発動したのは二杖流の方の魔法使い男性プレイヤー。強烈な冷気で範囲内のターゲットに持続的な大ダメージを与える事はもちろん、その急激な温度低下で眠りを誘うという効果もある相当な上位魔法だったと記憶している。目の前にいるモンスター達に、その強烈な吹雪が襲い掛かった。

 この猛吹雪を受けながら攻撃できるような個体は居なかったらしい。なので自分とニンジャさんの二人は吹雪の影響で影しか見えないモンスターに対して遠距離攻撃を続行。タンカーの女性プレイヤーはいつ何が起きてもいい様に盾を持って身構え、大剣も血女性プレイヤーは遠距離攻撃が出来るアーツをほどほどに発動し攻撃。短弓男性プレイヤーは、完全に観測役に回っていた。

「攻撃は効いているぞ、反応が確実に減っている! そのまま攻撃を続行してくれ!」「投刃の数が心もとないでござる! ううっ、もう一回作るのに高価な素材が飛ぶでござるぅ!」

 自分の〈危険察知〉でもモンスターの数が確実に減っているのが分かる。《ナイトメア・ブリザード》の影響もあってか、モンスターの動きが大きく鈍っており、攻撃をあてるのは実に容易い。ただ、それでも四匹ほど動きが鈍っていない奴がいる。ニンジャさんの投刃をそいつらは避けている……なので自分が矢を突き立てているが……まだ倒せない。かなりタフだな。

 やがて、《ナイトメア・ブリザード》による猛吹雪が収まると、生存しているモンスターは残り三匹となっていた。動き回っていた四匹のうちの一匹は、自分が与えたダメージと魔法による冷気ダメージで沈んだようだ。さて、生き残った残り三匹だが・……自分の矢がいくつも首や頭に突き刺さっているんだが、まだまだ体力があるようでこちらに対してブレスを吐いてきた。

 ブレスの内容も、毒と電撃と水。それらがターゲットを取っていたタンカーの女性プレイヤーに降り注いだ。普通のタンカーなら、電撃で金属の鎧を通じて感電して動けなくなり、水のブレスで電撃ダメージがより増加し、毒であっという間に体力を削られるという極悪な組み合わせだ。まさにタンカーを殺すための攻撃だ。

 しかし、彼女は普通のタンカーではない。全てのブレスを盾だけに集中させて、体への影響をほぼカットしていた。あれなら大したダメージは受けずに済む。逆にブレスを吐いた首長竜もどき達にとっては想定外の状況だったようで、混乱したらしく動きが鈍る。

「隙あり!」「で、ござる!」

 そんな首長竜もどきに対して、両手剣の女性プレイヤーとニンジャさんが切りかかった。ニンジャさんは小太刀のような剣を右手に持っていて、それを振るった。刀系列は大太刀しかワンモアにはないから多分魔剣だと思われる。そんな二人のタイミングもぴったりな攻撃は──ブレスを吐き終わった首長竜もどきの首を見事に跳ね飛ばした。多分、金色の杖を持つ魔法使い男性プレイヤーの支援魔法あってこその切れ味だろう。

「残存兵力は!?」「なし!」「いないでござる!」「確認できず!」

 タンカーの女性プレイヤーの確認に、短弓使いの男性プレイヤー、ニンジャさん、自分の順で各自報告。念の為《百里眼》も併用して周囲を確認するが、モンスターの存在は確認できなかった。よっぽどレベルの高い隠蔽系列のスキルを持っている奴がいなければ、周囲にモンスターはいないだろう。

 その直後、誰かが倒れる音が後ろから聞こえたので振り返ると、二杖流の魔法使い男性プレイヤーがぶっ倒れていた。何事!? と思って慌てて近寄ってみると……

「え、MPが枯渇した。《ナイトメア・ブリザード》でがっつり持っていかれて一瞬失神した」

 と言う事らしい。あまりにも急速にMPを使い過ぎたため、短時間の失神が起きたらしい。地面に倒れたことでほんのわずかにダメージを受けたらしいが、そっちは一〇秒も休めば回復するぐらいの軽い物とのこと。

「ポーションを飲んですぐ行動を開始するか?」「いや、小休止した方が良いだろう。さっきの戦いで誰もが一定のMPを使っているだろうし、彼は新しい投刃を作る時間がいるだろう? 一〇分ほど休む方が良い」

 ポーションによる回復を取るのか? と短弓使いの男性プレイヤーが聞いたが、二杖流の魔法使い男性プレイヤーは休憩をした方が良いと提案した。それに、かなりの激闘だったしプレイヤー自体の精神力も結構消耗したはず。確かにここで休息を取るというのは理にかなっている判断だろう。

「自分も休息した方が良いと考えます。先ほどの戦いはなかなか大変でした。先走って肝心なところで判断を誤るようなことになったら誰もが悔やむことになるはず。プレイヤー自身の休息の為にも、一息つくのは良いと考えます」

 反論は出ず、ここでいったん休息を取る事に。正直、あそこまで消耗する魔法だったとは……そりゃ中に入ったモンスターが反撃できずにやられていく訳だ。そして、それを生き残ったあの三匹は、ここのエリアの上位モンスターだった可能性がある。でも、八岐の月の攻撃は奴らの皮膚を貫通出来る事はもうわかっている。

(次は、彼の負担があそこまで重くならないように立ち回らないとな。八岐の月の力も、もっと出していこう)

 毎回ぶっ倒れさせるわけにはいかない。次はもっと活躍して魔法使い二人の負担を減らそう。
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