上 下
496 / 738
連載

WEB版限定SS、お正月

しおりを挟む
と銘打ったは良いが、あんまりお正月らしくないかも。
********************************************

 年は明けてお正月。龍の国では恒例の餅つき大会が開催されていた。龍族の職人がつくお餅はとてもおいしいために、お客さんが多数詰めかけて来ていた。そして何より、のどに詰まらせることがないという事で、年配の方が多数この世界に訪れていた事も蛇足ながら付け足させていただく。また、体が思うように動かなくなったリアルを忘れて餅つきをする事が出来るとあって、飛び入り参加者にも年配の方は多い。

 そんな餅つき大会の会場の中央には、お正月という事て晴れ着を着たフェアリー・クィーンと龍姫が並んで座り、会場を訪れた人に笑顔を振りまき、餅つきに飛び入り参加した人には、声援を送っていた。なお、フェアリー・クィーンのレアな着物姿をみれるとあって、記念のSSを取る人も多数いる。

 そんな会場のど真ん中に居る二人がにこやかな表情を浮かべつつ何を話し合っていたかと言うと、こんなことを小声で喋っていた。


「のう、馬鹿姉」

「なによ、バカ妹」

「なんでわらわ達、こんな場所でこう並んで座っとるんじゃろうのう」

「だからあなたはバカなのよ。先日行われた私と龍王様の会談、貴女も出席していたでしょ。その時の話を右から左に聞き流していたから、そんな質問が出て来るのよ。いい? 先日の会議で妖精族と龍族、これからは過去の遺恨をいい加減捨て去り、手を取り合って進もうと決まったでしょ。まさか、そんな肝心な部分まで聞き流してたとか言わないわよね?」

「さすがにそれは無いの。妖精族との戦も過去の話。以前のゲヘナクロスと似通った連中がいつ、どこで湧いてくるとも限らんからの。今の侵略心の無い妖精達とはいがみ合うよりも、手を取り合った方がはるかに建設的だからの」

「良かったわ、さすがにそこまで聞いてなかったとなったら、この場であなたを滅多打ちにしなければならないと思っていたから。人前であるとか関係なく」

 ここで、餅つきの飛び入り参加者が現れたので、一旦小声の会話を終了して声援を送る二人。無事につき終わり、肩で息をしながら戦利品と言う名のお餅を持ち帰る参加者を見送った後……

「それは解っておる。しかし、何故わらわがこんな馬鹿姉と並ばねばならんのじゃ。しかも馬鹿姉は我が国の晴れ着を着ておるし……普段のドレスはどうしたんじゃ」

「はぁ、これだから……龍王様や奥方様の苦労が忍ばれるわね。あのね、時期も近いという事で、これから妖精と龍人が手を取り合っていく最初のきっかけとして、このお正月のお餅つき大会に私が出席するって事に決まったんでしょうが。そして、私が龍の国でお正月に着る事が多い晴れ着を着て、妖精国は龍の国と融和しながら上手くやって行きますよってアピールなのよ。ただ、私一人だとバランスが悪いから、龍の国のトップにも出て貰うって事に決まっていたでしょうに……」

「なら、ここに座っているべきなのは父上ではないか。何故わらわがここに縛り付けられねばならぬのじゃ?」

「これだから全く……あのね、そこで龍王様が『しかし、やはり華は一つでも多い方が良かろう。ならば、儂よりも我が娘の方が華やかになるじゃろう。娘も次期龍王なのだから、釣り合いが取れぬと言うことは無かろう』って提案を出して、妖精側と龍人側両方の同意を得て決定したでしょ。その時貴女も同意の拍手をしていたじゃない。なに? まさか大事な会談の場で、寝ていたとか言わないでしょうね?」

 この時、龍姫の背中にはつつーっと冷たい汗が流れた。そう、そんな大事な会談中に、退屈でしょうがなかった(実際は大切な話ばかりで、眠くなる余地は一切なかったのだが……理解することを龍姫は早々に放棄していた)龍姫は、舟を漕がずに眠ると言う変な特技を使用して眠っていたのである。当然、その間に行われた大切な会議の内容は抜け落ちているので……ばれれば大変なことになる。幸いにして、妖精国と龍の国がこれから協力態勢を取っていくという事は最初に決められた事だったので、龍姫もその点は無事理解していたのだが。

「ま、まさかそんなはずは無かろう。いくら何でもそんなことは無いぞ」

 当然その言葉には何の重みも無い。クィーンはとっさに自分の顔半分を事前にもらっていた扇子で覆い隠してからため息を吐き出した。

「確認のため、後日龍王様を交えた三人でもう一度軽い話し合いを行います。逃げられると思わない様に」

 容赦ないクィーンの言葉に、固まる龍姫。が、すぐさま再起動して……

「い、いやいや。それには及びませんぞ女王殿。その辺は十分熟知しておるゆえに、ゆねに」

 言葉使いが滅茶苦茶になりつつも、何とか取り繕うとする龍姫。しかし、その言葉自体がもう取り繕うどころか穴を思いっきり広げている事に全く気がついていない。当然気がついていないのは龍姫本人だけであり、クィーンは、ここが人前でなかったら頭を抱えたいと言う心境になっていた。

「はあ、なんでこんなのが妹なのかしら。アース様にもメールで報告しておきましょう。うちのバカ妹は仕事を放りだして遊びほうけるだけの、だらしない存在だと」

「ち、ちょっと馬鹿姉、それは無いじゃろ……アースの名前をこの場で出して来るのは反則じゃろ?」

「反則も何もありません……正直呆れてるんですよ。そんないい加減な人って事を、アース様には伝えておく義務が私にはあります」

 ないない。

「の、のう。今日は正月なんじゃ。新年のめでたい日に、そう言う話をするのはどうかと思うのじゃが」

 冷や汗が背中だけではなく、表に出て来る一歩手前になっている龍姫である。それでも表に出さないのは、人前に居るからと言う一点のみ。一応これでも次期龍王、多くの人の前で冷や汗を流すような真似はしないようにと、あの厳しい奥方様から躾られている。もっとも、この一件で更なる躾(と言う名のおしおき)が待っているのは確定しているのだが、それを今の龍姫は知らない。

「逆です、新年だからこそ気をは引き締めるべき所はしっかりと引き締めないといけません。ましてや、貴女が龍王になる日もそう遠い事ではないと現龍王様より聞かせて頂いております。だからこそ、矯正は出来るだけ早い方が良い、違いますか?」

「そ、そうかも知れぬがの。それらは明日からでもよいではないか。今日は穏やかに声援を送りたいのじゃが?」

「そうですね、今日はそう言う日ですから此処までに致しましょうか。(もっとも、後日には龍王様と奥方様に報告しますが。このバカ妹は、私が少しの間龍城に逗留して交流を深める予定だって事すら聞いてなかったのでは……良い機会です、少し絞って頂きましょう)」

 こんな話をしていても、表面上は二人とも実ににこやかな笑みを浮かべており、餅つきの参加者には声援を送っていたりする。まあ、国のトップやそれに近い立場なら、それぐらいの腹芸は朝飯前位の感じでやれないとやっていけないのは事実ではあるが。

 そして当然ながらそんなアホなやり取りが行われていると知る由もない周囲の皆様は、「クィーンの着物姿って新鮮だな」「次は龍姫様のドレス姿を見てみたい」「二人が並ぶと華があっていいな」「餅は美味いし、美女の応援付きと来たもんだ。悪くねえ」などと、気楽な会話を交わしていたりする。特に華やかでいいと言う点は、龍王様の読みが当たったと言って良いだろう。もっとも、変な部分での大当たりもついてきたが。

 そして後日。クィーンの言葉によって龍王様と奥方様の逃げられないタッグの前で、先日の会談内容をほとんど覚えていなかった(寝てたわけだから当然である)龍姫は、早速奥方様に首根っこ掴まれて悲鳴を多数あげる事になったのである……ちゃんちゃん。
************************************************
こんな世界がワンモアです。今年も宜しくお願いします。

蛇足ながら今年の自分の抱負。

『人より文章をもって傾く事』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。