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二章

400話

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 会議の場じゃないから、リックさまに紹介された人と少しずつお話ししていく。
 基本的には基金設立に賛成してくれている人達なので和やかで安心した。

 この国で足りないのは魔導師だけじゃない。騎士も技術者も色々足りていない地域もたくさんある。
 なので自領に欲しい人材を育てたいって話が多い。

 ネイマーシェだけじゃなく、それこそデレード海洋国で外交術や隣国グリーンリバーで鍛治など望む技術のある国に留学するのもどうかとか。

 ちょっと意地悪くネイマーシェには「ナタリアさまのツテであちらのご実家にご協力頂く方が安く手っ取り早いのでは」という人もいた。
「良い人材を向こうに引き抜かれる口実になりかねませんね?」
 私の見た目のせいか舐められてるな~って目線がイラッとしちゃう。
 全くケチケチしたいならお話に乗らなくても良いのだ。
 そんな人はお祖母様とかお義母さまが笑顔で毒舌を喰らってた。

 グレーデンで平民に塾や学校での勉強する場を作ってると話すと興味深げに聞いてもらえた。
 領地で雇う際の初期教育の期間が少なくなることとか、引退してる人を教師に雇うことなど説明すると取り入れてみたいと賛同してもらえた。

「成果は子供達の成長次第ですが、後半年もすれば学園に入学出来るレベルの子がいるそうなのですわ」
 お義母さまの華やかな笑顔で聴き入ってくれてた伯爵が、
「それは素晴らしい」
って頬を染めてしまったので横にいる奥様に足を蹴られてた。

「しかし定期的に寄付を募るとして安定した資金が入れねば続かんであろう?」
「基金への寄付以外に投資運用と奨学生を雇う家からの謝礼など・・・細かいことはもっと色々取り決めないとですが常に安定を図る組織作りはしないとです」
 学生たちも借金ではなくても労力で返還なので、契約期間の給金は低くなるかもだし設定が難しい。

 どのみち人権問題とかかなり綿密に取り決めしないと搾取されちゃう。

「ふむ、ワシは慈善家ではないからな、我が領に還元できる人材を育てたい」
「寄子や領民の能力のある子を育てるのも手だと思います」
 別に基金だけじゃなく自分の管轄で育てるのも良いと思う。
「それで平民に学校が・・・」
 
 学校が貴族だけっていうのが人不足になる問題だよ。優秀な平民は独学で立派な商人になったりしてるんだから。

「しかしグレーデン辺境伯夫人、あなたは魔術科などで学べなくとも魔道具の大家になっておられる。独学で学べるものではないのかね?」
 一通り挨拶を済ませてきたアンダーソン侯爵が聞いてきた。

「私は母からの手ほどきとネイマーシェの魔導書、そしてカンダルー教授の慈悲で基礎を学べましたが、かりに一般の家庭教師がついてたとかだったら魔道具製作などは身につけられなかったと思います」
 リーシャはたまたますごい母と優しい教授と出会えたから運が良かったんだ。
「僭越ながらリーシャさまには私も多少お教えしましたよ」
 リックさまが会話に入ってきた。
「おお、リック君の弟子でもあるのか」
 弟子ってほどではないかな?まぁスパルタされたけど。
「私の弟がここまで頑張ってくれて、さらに素晴らしい弟子を持つなんて鼻が高いわね」
 ユーリア夫人がリックさまに手を添えて弟自慢のついでに私に縁があるって周りに思わせる。
「リーシャさまはセラーナさまの才を引き継いでいるので今後も期待していますよ」
 お祖母様の名前は大きい。年配のおじさんたちが私を期待の目で見てくる。
 リックさまめ。使える物は全部使って基金設立したいのはありがたいけど、私のバックグランドが重い。お祖母様とお母さまの名が重いよ。

「見栄だけで気分良く賛成してくれるんだからうまいこと持ち上げておけば良いのよぉ」
 お義母さまがこっそりと慰めてくれる。

「あとは噂でグレーデンに恩を売れるとか思い込んで一枚噛もうと協力者が増えると思うから問題ないのよぉ」
 初期に集めたお金で投資を始めて安定させれば良いって。
 投資って失敗したら大変なんだけど、失敗したくない国と魔導師団がいるから心配いらないんだそうだ。

 国の機関が運用に失敗とか普通にありそうなんだけど・・・?
 
 ある程度聞きたいことが聞けたと判断されたあとはビュッフェで軽食をとりながら歓談になった。

 グレーデンの最近の豊作とか魔道具の発表、料理のレシピとかとにかく怒涛に聞かれた。

 そしてご夫人たちはやっぱり化粧品について熱く聞かれて、お義母さまが自慢しつつも今後発売することやカイダールの薬草を使った化粧品のこと、温泉の計画など目一杯宣伝してくれた。
 なるほど、ものすごい社交力。
 私は聖徳太子の耳は持ってないので笑顔を貼り付けて頷く人形になって聞いてた。

 途中でお茶を飲もうとそっと離れたらアンダーソン侯爵と同じ年頃のピカート男爵が声をかけてきた。なぜかスピネルさんが一緒に。

「あー、あー、その・・・罪人に鉱山で飲ませているポーションに増毛効果が一瞬あったと聞いたのですが・・・」
 男爵が非常にしどろもどろに聞いてきた。そんなん言われたら目線が上に行きそうになるから!!必死に耐える羽目になるから!
「いや・・・一瞬では困るんだがそれなりに保つものなんかは出来ないのだろうか・・・」
 うーん!ヘドロを改良するとか嫌だな。
「それは作れたらとても良さそうですが偶然の産物でしたので・・・」
 大儲け出来そうだけど、まず味がヘドロかもしれないのよ?
「やはりそうか・・・そうだな」
 そんな落ち込まれると心が痛むよ。
 一瞬の効果じゃダメでしょ!?
「あー、なれば夫人、ホーン領で振る舞われたと言う栄養剤は販売予定はないのだろうか?」
 アンダーソン侯爵とスピネルさんが揉み手で言ってくる。スピネルさん、侯爵と元からお知り合いの関係なの!?

「・・・百目の肝を使ってますのでお高めになると思いますが」
「なんと百目か!!それはすごい。ぜひ飲んでみたい」
 なんて言うかセクハラ一歩手前だからね!
 栄養剤は全部出しちゃってるので後日作ってお送りすることになった。男爵も栄養剤に気持ちが移ったようで良かったね!

 
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