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 数年ぶりの領地は穏やかな風と長閑な空気でレインティアを迎え入れた。

 田舎とまでは行かずそれなりに発展してはいるが王都のように密集した家屋や店舗はなく、畑や牧場が点在している。

 幼い頃は通年領地で過ごし、10の頃から王都と行き来が始まり、15の年で王宮にほぼ軟禁になった。

 レインティアは数日屋敷でゆっくり過ごして、近隣を散歩して過ごした。

「やっぱり故郷はいいわね」
「そんな枯れたことを仰るお年ではないでしょう」

 後ろについて歩いている侍女のネネが笑う。

「年は関係なくてよ?」

 牧場では牛や羊が自由に駆け回ったり草を喰んだりしている。

 動物は自由気ままで良いだなんて言う気はないけれど、王宮での日々と比べたらここで寝そべってぼんやりして過ごす日々が羨ましいとレインティアは思ってしまう。

 でも今は解放されたのだ。
 
 いざ自由を得るとあれこれやってみたかったのについ「明日にしよう」と流してしまう。

 この自由が有限であったらもっと焦るのかも知れないけれど今は先が何も決まっていないから・・・は言い訳だろうか?

 友人たちが遊びにきてくれたらきっと予定がびっしり埋まるわね?とレインティアは楽しみにしている。

 屋敷に戻ると家令が手紙を渡してきた。

「あら?」

 友人たちの名前の他にも数枚封筒がある。

「まぁ、ディライト卿からも来てるわね」

 彼の帰国後に開催された茶会は、お誘いがあったようだけど、母たちが今は見合い的なものに参加させる気はないとお断りしてくれたので、彼に会うことはなく王都を離れたのだ。

 急ぎではないと判断したのでまずは両親のいる居間に顔を出すことにした。

「あら、お帰りなさい」
「おかえり」

 父と母は手紙や書簡を手に何やら話し込んでたようだ。

「ふぅ、ティアはしばらく休養をさせると言っておるのに見合いだ茶会だ夜会だの色々誘いがあってな」

 婚約破棄などがあったのに?と首を傾げた。

「ティアに非があったわけではないからな。まぁそれでもバカにしたのか傷があるなら格下でも良いだろうと男爵家や後妻になどと話にもならない話もくるがな」

 身分で差をつけたくはないけれど、家格が釣り合わないと言うのは両家にとって碌なことにならないので避けるのは仕方がない。

 後妻も別に構わないけど、どういった離別理由かに寄ると思うが、父が静かに怒っているところを見ると良い意味では無さそうだ。

 せっかく気楽になったのに訳アリな問題を抱えた相手はゴメンなのである。

「うふふ、私の可愛いティアを安く見たお家はちょっと痛い思いをしておいた方が良いわね」
「ははは、放っておいても自爆で消えそうだがな」

 久しぶりに共に暮らせるようになった両親は随分と過激になってしまった気がする。
 よほどストレスを抱えてしまっていたのだろうか?

 夕食までは自室にいると伝えてて部屋に戻るとナーシャとネネがお茶を用意してくれた。

 先ほどの手紙を開いていけば、友人たちからは近日我が家に向かう旨が書かれていて。

 学友たちからはご機嫌伺いと近況報告。

 ディライトからは領地に訪ねても良いかと簡素な伺いだった。

 それぞれに返事を認めて、ディライトには近いうちに旅行に出るだろうから日程が合えばと返した。

「ナーシャ、ネネ、エリアーナたちがもう数日で訪ねて来るそうよ」
「まぁ予想の範囲ですね。すでにいつでも大丈夫なように整えておりますよ」
「さすが私のナーシャとネネは敏腕ですことね」

 

 両親も兄も王都にいる時よりゆったりとしながらも事業や領地の視察にと充実した日々を送っている。

 時折、王都に残っている貴族から懇願や嘆願が届いたりしているようだが引き継ぎに
の要件以外は撥ねつけている。

 レインティアは何もしなくても良いと言われているのでそれに甘えているけど、少し手持ち無沙汰になってきていた。 

 家令の仕事を覗いたりして暇を潰していたら、まずはミシェルが我が家に到着した。

「レインティアさま、お久しぶりにございます。お元気でいらっしゃいましたか?」

 出迎えると早速小走りで抱きついてきた。

「ええ、元気よ。ミシェルこそ元気でしたの?」
「全然!元気じゃありませぇん」
「ええ!?大丈夫なの?」
 思わずミシェルを引き剥がして顔を見ると、
「レインティアさまと会えない日々が続いたら元気でいられるわけないじゃないですか~」
 わぁわぁと泣き出してしまったミシェルに困惑しながらも真っ直ぐな愛情をぶつけられて喜びを感じる。

「ナナミーもミシェルも婚約者を待たずに出発しましてよ」
「あらあら」

 二人とも領地が遠いから一旦帰っているとここまで来るのに半月以上かかりそうだ。

「ネイサンはウィンフォース家の騎士団に自分の部下を任せるからってしばらく訓練に付き合うって言うからしばらく来られないの」
 
 ミシェルが少し寂しそうにしている。レインティアにべったりといってもちゃんと愛情を持っている関係で羨ましいと思っている。

「あら?そう言えばネイサンさまはご実家のウィンフォース騎士団かあなたのアイスバーグ騎士団に所属しなくてよろしいのかしら?」

 先ほどのミシェルの話ではしばらくと言っていた。

「ティアさまと共に仕事をする方が幸せなので騎士団は他の兄弟に任せますのよ!ネイサンは私の婿ですもの、一蓮托生ですわ」

 ミシェルにベタ惚れなネイサンを知っているので無理矢理ではないことはわかっているけれど、将来有望な騎士であるネイサンをと思うとこれでいいのかと心配になる。

「王国騎士団に残っていたら泥舟ですし、我が家もウィンフォース家も実力が揃いなので心配いりませんわ。ネイサンには私たちを護るって仕事が出来て騎士団で頑張った甲斐があったと喜んでもらってますのよ」

 そこまで言ってもらえれば納得するしかない。

「お茶をお持ちしました」

 侍女ナーシャがティーワゴンを押して入ってきた。

「まぁ!久しぶりにサンダーホーク家のケーキが食べられますのね」

 主人の友人たちの好みを熟知しているナーシャがしっかりミシェルの大好物のショコラケーキとラズベリーティーをテーブルにセットして下がった。

 
 


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