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一章

祈りのあと

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 約束があるからとお祈りを終わらせて貰えば、祭壇の隅っこで神父とシスターが号泣ってくらい涙を流していた。

 なんで!!

 俺が祭壇から離れると二人は両手を差し出しながら「お・・・お・・・」とか言いながら近付いてくる。
 ゾンビかカオナシに遭遇したような光景だ。

 俺の元に辿り着くと俺に縋るように崩れ落ちて祈り始めた。

 何!!?怖い!!

「ああああ!!神子さまぁあああ!!」
「うううっ、うっ、御使さまぁ・・・」

 えええ!俺いつそんな物になったでゴザイマスカ!!

「俺、ちょっとお祈りに来たイッパンジン?です」
 困惑のまま、未だ二人は俺に縋り付いてる。
「ハァハァ!そう言う設定でございますね!ふぅふぅ」
 神父は納得した?のにシスターが。

「こんなに熱心にお祈りくださって珍しいお方だと感動しておりましたら貴方様が暖かな光りに包まれ始めたのです。御使様に違いありません!」

 光り??
 おい!神様よ!何してくれてんだ!
 祈ってたのは数分のはず。
 時の流れが神域とは違うって言ってたからな。
 数分の間に神子認定されてたってなんでやねん!

「だから俺はちょっと祈ろうと思っただけのイッパンジンです!」

 号泣してるオジサンと若いけど信仰心厚いシスターに迫られても嬉しくない。

 とにかく神子とかじゃないって言い切って、お布施に中金貨一枚渡して逃げてきた。

 中金貨一枚は教会的には大きかったようで「おお、神よ!」ってまた泣き崩れた。

 その神様たち、俺に金貨何枚分かわからん贈り物要求してくるんだぞ!
 〈お取り寄せ〉がありがたいから良いけど。

 もう神殿も教会も来ないからな。光るとかヤバすぎんだろ。
 贈り物はスマホから出来るし、一方的にメール届くし。

 ボルクとの約束に遅れそうだから早足。

 宿の入り口でボルクが待ってた。

「ごめん!待たせたかな」
「いや大丈夫だ」
 ボルクは蓋をした鍋を持ってた。まさか試食持ち込み?

 身体が大きなボルクと並んで歩く俺。ますます遠巻きにされてる。
 知らない人に絡まれるより良いけど、俺的最高なイケメンになってるのに微妙な顔されるの辛くね?

「登録ってどこ行くの?」
「商業ギルドだ」

 無口なボルク、会話が続かない。良いけど。

 商業ギルドは冒険者ギルドとは趣が違って一階が石造り、二階三階が木造の建物だ。

「レシピ登録に来た」
 ボルクが受付に言うと少し待てと扉の向こうに消えた。

「・・・」

 戻ってきた受付は二階に行けって言うので向かう。

 商業ギルドって、ようは商売の大元だろ?愛想が悪くていかんなと思うのは日本基準か?

 扉の前に待機していた人が扉を開けて一緒に入る。

「久しぶりだね。ボルク。レシピ登録だって?」
「食品科で済む話だ。お前が出て来なくとも良いだろう」
 椅子に座っていたのは狐耳?のロン毛のオジサン?かなり綺麗めのオジサンだ。
 見た目的にはボルクと同年代、六十代かな。

「坊やは初めての顔だね。私はこのカナンの商業ギルドのマスター、ロレンツォだ。どうぞ、よしなに」

 ここでも坊や!!!なんでだ。

「俺はジェイル。冒険者だ」

 椅子を勧められてボルクと二人で座る。
 高級そうな板張りの椅子。クッションはないのか。

「とっとと済ませてくれ」
「せっかちだねぇ」

 扉を開けた人ミルコ(と言うらしい)が木製コップでお茶を運んできた。
 お茶じゃなくて果汁??

「レシピ登録したいのはその鍋の中身かい?」
 ボルクが無言で蓋を開けると大葉とチーズ入りウサギ肉の料理が入ってる。
 盛り付けとかは気にしないんだ。

「この葉っぱは・・・」
 ミルコが皿を持ってきて取り分け、ロレンツォに渡す。
「ペッラを食べるのか?」
 大葉は鑑定では食用、薬用って出てるのになぜ食べなかったのか。

「・・・うまいな。ペッラとチーズは相性がいいのか」
 ミルコも一口食べて固まっている。

 俺、焼き鳥屋大好きでねぎまと鶏の紫蘇巻きが特に好きなんだよね。
 梅しそがこの世界にあるかわからないので言わない。

 大葉食べただけでギルド連れ込まれたから、もうこれ以上言わない。
 って言うかタバコ吸いたい。
 どう考えてもタバコを売る話になるから出せない。

 とっとと終わらせて草原かルーム行きたい。

 ロレンツォがボルクと契約をまとめてる間、果汁を飲む。温いし、甘い。
 
「レシピの売り上げの一割が君のものになる。ギルド登録をして口座を作って欲しい」 

 大葉をチーズと食べただけでお金が入ってくる!!
 すごい世界だ。

 ここでも年齢と出身と名前だ。

「フ、フニャバシ?」
 なんて言うか、不思議そうに俺を見るから、俺のアレがフニャってると言われてる気がする。言っておくが今は若さが痛いんだぞ!

「この国では無いのですね」
 あ、全ての地名を知ってる感じですか。そうですか。でも嘘書くとバレるんでしょ。困ったね。
 無言で頷いておく。

 お金は一ヶ月締めで入って、ギルドタグで商業ギルドならどの国でも引き出せるって。
 当面は当てにしないで放置。

 入金が継続的なら、冒険者ギルドみたいな期限がないらしい。
 俺が商人じゃないからの措置みたい。

「他にも何かあれば登録してくださいね?」
 ロレンツォは半獣人なので耳と尻尾、目の虹彩だけ表に現れてるらしい。
 その目がハンターっぽくて怖いぞ。

 どうせケモ耳と出会うなら可愛い女の子が良かったなぁ。

 今のところ、エンマさんとプティさんとシスターと女神しか女性と接してない。
 ラブに発展しないじゃないか。

 用事は済んだので帰ろうと思ったら、
「香りの良いブツ、いつか私も吸ってみたいものですねぇ」
と言われた。
 だからブツって言うなって。
 ギルマスやランガたちがわざわざ話すわけ無いだろうから、情報を仕入れてるんだろう。

「今は自分の分しかない」
「そうですか。残念。余分があるときはわけてくださいね」

 ウォ、めっちゃ獲物見つめる目をしている。
 
 早めにこの町出よう。

 なんとかボルクと商業ギルドを出ると、
「お前は慎重に見えてそうでもない。もう少し世間を見ろ」
って言われた。

 レシピ登録しに来なければ、良かったと思うんだけどなぁ。

「今日も仕事するのか?」
「うん、薬草採取行ってくる」
「時間を取らせて悪かった」
「いいよ」

 自分の手柄に出来たことしなかったし、ロレンツォに合わせたかったわけでも無さげだし。

 ギルドの前で分かれて、ワイドさんに「今日はおせぇな」と言われて外に出た。

 岩陰から採取ポイントに飛んで、やっと一服出来た。

「ふぃー」

 
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