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第二章『しまねこと、夏を連れた旅人』

第6話『なっちゃんの誕生会と、記念撮影 後編』

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 ケーキを頂いたあとは、たこ焼きパーティーが始まる。

 今の時期、タコがめちゃくちゃ穫れるので、漁師さんからもらったおすそ分けが冷凍庫に大量にストックされているのだ。

「ねぇねぇ、このタコ、余ったりしない?」

「余ってもあげないわよ。猫にタコは厳禁なんだから」

 あらかじめ小さく切り分けておいたタコの身と生地のタネを持って和室へ移動していると、みゅーちゃんが物欲しそうに訊いてくる。今日はこの子も、村長さんの家からやってきていた。

「正直言うと、テンメンジャンの三匹も来たがってたよ。大騒動になるから止めたけど」

 みゅーちゃんはそのままついてきて、テーブルに置いたタコに狙いを定めていた。

「だから駄目って言ってるでしょ。前足を伸ばさない!」

 思わず注意すると、不服そうな顔で退散していった。

「……目の前の獲物をただ狙うのは未熟者のすること。ここは、タコ焼きに乗せるカツオブシの袋が開くのをじっと待つ」

「トリコさん、聞こえてるからねー。裕二ゆうじ、その鰹節見といて。狙われてるわよ」

「う、うん。猫たち、相変わらずおしゃべりだね」

 鰹節の入ったパックを抱きしめるようにしながら、裕二が言う。

 猫たちはそんな彼の周囲を、ぐるぐると回り続けていた。

 ……これは、あとで猫たちにもごちそうを用意してあげないといけないわね。

小夜さよちゃんから聞いたけど、わたし、ハナグロさんからお嬢なんて呼ばれてたんだね」

 タコ焼きが焼けるのを待っていると、なっちゃんが膝の上のハナグロさんを撫でながらそう口にする。

「お嬢、残念ですが、今更呼び方を変えるなんてできませんぜ」

 しっぽをピョコピョコと動かしながら彼は言う。あたしはそのままをなっちゃんに伝えた。

「はぁ……まだ子猫の頃に、お父さんと一緒に昔の映画見てたからかなぁ。口調がうつっちゃったのかも」

 ハナグロさんの返答を聞いたなっちゃんは苦笑したあと、「まあ、いいけどね」とだけ続けた。

 その後、焼きたてのタコ焼きを皆で楽しむ。

「あちちっ……ふーっ、ふーっ」

 ソースと青のり、そして鰹節がたっぷりかかったタコ焼きを前に、ヒナは悪戦苦闘していた。

 かなり冷ましてあげたのだけど、どうやら彼女は猫舌のようだった。

 そして集まってくれた猫たちにも、カリカリや猫缶、ちょ~るを振る舞ってあげる。

 ネネ、ココア、トリコさん、ハナグロさんに、ミミとハナ、神社三兄弟に、みゅーちゃん……今日のしまねこカフェは大賑わいだった。

「……そういえばさ、あの写真家さんのこと、誰か知ってる?」

 タコ焼きを口に入れたまま、裕二が誰となく訊いてくる。

「写真家さん?」

「そうそう。立派なカメラで、島のあちこちを撮影してるんだよ。新也しんやと釣りをしてたら、写真撮られてさ」

「あ、わたし、見かけたかも。黒い帽子を被って、眼鏡をかけた男の人。世界的な写真家だって噂」

 黒い帽子に、眼鏡……?

「それって、青柳あおやぎさんのことじゃないの?」

 食べかけのタコ焼きを器に戻しながら、あたしは皆の会話に割って入る。

「小夜ちゃん、知ってるの?」

「知ってるも何も、うちの簡易宿泊所に泊まってる人だけど」

「そうなんだね。どこに宿取ってるのか、皆不思議がってたんだよ」

 あたしがそう伝えると、皆は興味津々といった様子だった。

 それにしても、あの人が世界的な写真家? おじーちゃんとの会話を聞いた限り、そんなふうには見えなかったけど。

「やあ、なんだか賑やかだね」

 ……噂をすればなんとやら。まさかのタイミングで、青柳さんがしまねこカフェにやってきた。

「小夜ちゃん、こんにちは。月島つきしまさんはいるかな?」

「あー、おじーちゃん、今は出かけているんです。いつ戻るかも、ちょっとわからなくて」

「ああ、そうなんだ」

「……あの、お兄さんは世界的な写真家なんですか?」

 その時、裕二が右手を上げ、おずおずと話に入ってきた。

「いやいや、そんなものじゃないよ。写真は趣味ってだけさ」

 ひらひらと手を振りながらそう答え、「ところで、これはなんの集まりなのかな?」と訊いてくる。

「今日、なっちゃん……この子の誕生日なんですよ」

「そうなんだ。それはめでたいね。おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

 あたしが説明すると、なっちゃんは少し恥ずかしそうに会釈をしていた。

「写真家のにーちゃん、よかったらさ、俺たちの写真を撮ってくれよ」

「ちょっと新也くん、さすがにそれは厚かましいよ」

 新也の言葉を聞いたなっちゃんは申し訳なさそうな顔をするも、当の本人は気にする素振りも見せない。

「はっはっは、せっかくの誕生日だし、構わないさ。じゃあ、並んで」

「あの! 猫たちも入っていいですか!?」

「もちろんさ。好きなだけ連れてきて」

 ヒナが尋ねると、青柳さんはカメラを操作しながら快諾してくれた。

「あんたたち、おいでー」

 そしてあたしが声をかけると、そこらじゅうに散らばっていた猫たちがわらわらと集まってくる。

「す、すごい数だね。さすがにフレームに収まりきらないから、人も猫ももっと寄ってほしいかな」

 その予想外の数に驚いたのか、彼はファインダーを覗きながら苦笑していた。

 その姿を見ながら、あたしたちはカメラの中央に向けて身を寄せる。

「うーん、もう少し。両端の男の子二人が見切れちゃうかな」

 新也となっちゃん、あたし、ヒナ、裕二の順で並ぶも、まだ収まりきれないようだった。

「じゃあ、わたしはサヨのお膝にいきます!」

 言うが早いか、ヒナがあたしの膝に乗ってきた。軽いし、全然問題はない。

「それなら、僕は裕二の膝に乗るとしよう」

「あっしの目と鼻が黒いうちは、ナツミお嬢の膝の上は死守するっす!」

 それを見て、トリコさんやハナグロさんが同様の動きを見せる。

「じゃあ、ボクはヒナの膝に乗ろーっと」

「やれやれ、新也の肩で我慢してやろうかネ」

 ココアやネネもそれに続き、なかなかに混沌とした状況になってきた。

 ……その直後、背中に重さを感じた。

「こら、みゅーちゃん、あたしの背中に乗るな! 頭もだめ! 神社三兄弟もテーブルに乗らない! 主役のなっちゃんが隠れちゃうでしょ! ミミとハナはこっち!」

 それをきっかけに堪忍袋の緒が切れたあたしは、声を荒らげながら猫たちに指示を出す。

「……すごいね。猫たち、小夜ちゃんの言うことをきちんと聞いてる。まるで島猫の調教師だ」

 それを見ながら、青柳さんは驚いた顔をしていた。

 ……しまった。つい、いつもの調子で猫たちに接してしまった。

「そ、そんなんじゃないですよー。友達です」

「はは、仲が良いのはいいことだね。それじゃ、撮るよー」

 そう誤魔化した直後にフラッシュが焚かれ、あたしたちは笑顔で写真に収まる。

 騒がしくも楽しい今日という一日も、いい思い出になりそうだった。
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