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恋心≒愛
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僕は佐藤隆之《さとうたかゆき》38歳。
母子家庭に生まれて、下には2歳下の弟と5歳下の妹がいる。
もう中年だが、日々どうにか過ぎゆく年月に逆らいながら、過ごしている何処にでもいるおじさんだ。
そんな僕には死ぬまで、忘れたくない気持ちがある。
それは恋心。
恋心と聞くと、ただ男女が本能にかられて子孫繁栄の為に……なんてこという解釈もあることだろう。
ですが、今回お話させて頂く恋心は少し違うのです。
いや、人によっては同じじゃないか? なんて思われるかも知れません。
それでも今一度、恋心について考えて頂けると嬉しいです。
では、どうぞ。
🌟🌟🌟
あれは僕が5歳の頃、家庭の事情で私立の幼稚園から、保育所へ転園した日のこと。
幼稚園から保育所に転園したことは、幼い自分にとって、とても大きな変化で気を張っていたのを今でもはっきりと覚えています。
それはそうですよね。
周囲の子たちは、赤ちゃんの頃から知り合いでお友達。
でも、僕には友達はおろか、話す相手すらいなかったのですから。
これは子供だからこその、仲間内の絆の強さと残酷さといったものでしょうか?
もし、これが3歳くらいでしたら、まだ周囲に溶け込めたのかも知れません。
ですが、5歳となるとしっかり自分たちを認識しており、あとから来た僕のことは仲間とは違う外から来た子といった見方をしていたのだと思います。
実際、僕以外の子供たち同士は、名前で呼び合い僕だけ「佐藤くん」や「佐藤」などの苗字呼びでした。
それでも、僕は元々負けず嫌いだった為、かけっこなどで必死に人気を得ようと頑張ります。
とはいうものの、そう簡単に上手くいくことはなく。
かけっこで運動場の走る方向が違ったり、保育所にくるまでしたことがなかったドッジボールのルールを知らなかったりなど、そんな保育所ならではのルールに戸惑い、間違ったことをよく笑われてしまっていました。
かなしいものですよね。
本人は至って本気だったのですが……。
それでも、僕は踏ん張って過ごしていきます。
弟や妹にカッコいい姿を見せたい。
ひとりで僕を育ててくれている母に心配をかけたくない。などの理由で。
今思うと、当時の自分の方が打たれ強かったような気もします……うんうん。
今なら、しっかりと「出来ないものはできません!」という自信があります。
なんと言っても、社会の荒波を乗り越えてきたおじさんですからね。
出来ないことを「できる」と言ってしまうことの恐ろしさは身を持って理解しています。
だというのに、幼き日の僕は「できる!」と言ってしまいます。
そうやって、気を張りながら過ごしていた保育所生活であることが起きました。
それは、先生からの「自分たちで縄跳びの縄を作りましょう」というお話でした。
この保育所では年長組になると、紅白の布地で自分の体の大きさにあった縄跳びを作るというイベントが存在していたのです。
ここで素直な子であれば、「せんせいつくったことがないのでわかりません」と言えばいいのですが、当時の僕は絵に描いたような意地っ張りで、カッコつけでした。
なので何も言わず、他の子供たちと同じように「できます!」元気よく返事をしてしまいます。
今、思うとその縄は作りは簡単なものでした。
それは紅と白の布地できた紐をそれぞれ1本ずつ用意し、それらを捻りながら互い違いに重ね合わせて1本の縄にしていく単純な作業。
しかし、経験の無い作業でしたので、戸惑っていました。
(できるってこたえちゃったけど……できるかな……でも、やってみないとわからないよね……)
そして、その後。
お昼寝を終えてから、一斉に作業を始めました。
「せんせーい! できたから、あそんできていいですか?」
「わたしもー!」
「ぼくもー!」
「オレもできた!」
「はい、皆さん出来ていますね! その縄跳びを持って運動場に行って下さいー!」
先生の言葉を受けた子供達は元気よく返事をして、1人、また1人と順番に運動場に出ていきます。
「じゃあ、いってきまーす!」
「せんせいもきてねー」
「まってるからなー」
その光景を見た、当時の僕はこんな事を考えていました。
(なんで、うまくむすべないの……わかんないよ。これじゃまた、なかまはずれになっちゃう)
🌟🌟🌟
そして、日が傾きワックスと木の香りがする教室の中。
少し前まで、僕を見守っていた先生も運動場に向かった大多数の子供たちの面倒を見る為に教室をあとにしていました。
そんな誰も居なくなったこの場所で、僕は1人、さみしく縄跳びの縄を編み続けます。
(はやく……はやくしないと……ひとりぼっちだ)
早く結ぶ為にと、慌てて編み続けますが、なかなか上手くいきませんでした。
それは元々、器用ではなく、蝶々結びなどもできなかったので、こういった作業は苦手なのも起因していたのかも知れません。
ただ、そのせいで焦ってしまい心臓の脈が速くなり徐々に胸が痛くなっていきます。
(ど、どうしよううまくいかない……)
この状況を誰かに助けてほしくて……でも、その一言が出てきませんでした。
それは僕の性格が意地っ張りで、カッコつけだったからでしょう。
(だれか……おしえてよ……わかんないよ)
すると、教室の外から誰かが向かってくる足音が聞こえてきました。
そして、僕が教室の入口に視線を向けると、女の子が立っていました。
その子は、とても可愛くて面倒見がいい、森永璃子《もりながりこ》ちゃん。
誰にでも平等に接する姿に、男女を問わず同じ組の子たちからも、人気な子。
その子は、僕が泣きそうになっているのを見ると、何も言葉を発することなく、傍に来て上手くいかなった縄を手際良く編んでいきます。
この間、彼女は僕に話し掛けてくれました。
「ちゃんとできないことは、できないといわないとだめだよ」
という言葉をです。
その後も何かを言ってくれたはずなのですが……当時の僕は、颯爽登場した璃子ちゃんに心を奪われてしまい覚えているのは、その一言と屈託なく笑みを浮かべる明るい表情だけ。
これが、僕の心が奪われた最初の恋となりました。
🌟🌟🌟
そして、その心奪った璃子ちゃんはというと――。
今も屈託のない笑顔を浮かべています。
それは教室ではなく、一緒に住まう家の玄関で。
そこでおじさんになったというのに、相変わらず意地っ張りで、カッコつけな僕へと同じ言葉を掛けています。
とはいえ、初めに言ったように社会の荒波を乗り越えてきたおじさんですからね。
少しはマシになっています。
もちろん、それは彼女が口酸っぱく言い続けてくれたおかげですが――。
「今日は、遅いんですよね?」
「うん、ちょっと頼み事あるしね」
「あのね? たかちゃん、出来ないはできないってちゃんと言うんだよ?」
「うん……わかってるよ! もう子供じゃないんだから」
「うふふ、ならいいけど!」
「――う、うん」
その隣には、僕に似た意地っ張りでカッコつけな息子の勇里《ゆうり》と、彼女に似た屈託のない笑顔を浮かべる娘の有希《ゆき》も同じことを口にしています。
「パパ、だめだよ?」
「めっ、ですよ!」
「ふふっ、そうだな……ありがとう! 気をつけるよ!」
「そうですね! みんな心配しているのでお願いしますね」
「うん……うっし! んじゃ、いってきまーす!」
「はーい! 気をつけてー!」
「はやく……かえってきてね」
「ゆうき、ねないでまってる!」
「はいよー!」
そして、僕はその背に今でも恋い焦がれる妻と、家族の声を受けて家を出ていく。
そんな日々を過ごしています。
だから、僕はあの日の出来事と、今に至るまでのこの胸を叩く痛み。
そして、心を踊らせた日々の全てを。
恋心を。
忘れるわけがないのです。
ずっと。
あの日の恋心が全てに繋がり、今があるのだから。
母子家庭に生まれて、下には2歳下の弟と5歳下の妹がいる。
もう中年だが、日々どうにか過ぎゆく年月に逆らいながら、過ごしている何処にでもいるおじさんだ。
そんな僕には死ぬまで、忘れたくない気持ちがある。
それは恋心。
恋心と聞くと、ただ男女が本能にかられて子孫繁栄の為に……なんてこという解釈もあることだろう。
ですが、今回お話させて頂く恋心は少し違うのです。
いや、人によっては同じじゃないか? なんて思われるかも知れません。
それでも今一度、恋心について考えて頂けると嬉しいです。
では、どうぞ。
🌟🌟🌟
あれは僕が5歳の頃、家庭の事情で私立の幼稚園から、保育所へ転園した日のこと。
幼稚園から保育所に転園したことは、幼い自分にとって、とても大きな変化で気を張っていたのを今でもはっきりと覚えています。
それはそうですよね。
周囲の子たちは、赤ちゃんの頃から知り合いでお友達。
でも、僕には友達はおろか、話す相手すらいなかったのですから。
これは子供だからこその、仲間内の絆の強さと残酷さといったものでしょうか?
もし、これが3歳くらいでしたら、まだ周囲に溶け込めたのかも知れません。
ですが、5歳となるとしっかり自分たちを認識しており、あとから来た僕のことは仲間とは違う外から来た子といった見方をしていたのだと思います。
実際、僕以外の子供たち同士は、名前で呼び合い僕だけ「佐藤くん」や「佐藤」などの苗字呼びでした。
それでも、僕は元々負けず嫌いだった為、かけっこなどで必死に人気を得ようと頑張ります。
とはいうものの、そう簡単に上手くいくことはなく。
かけっこで運動場の走る方向が違ったり、保育所にくるまでしたことがなかったドッジボールのルールを知らなかったりなど、そんな保育所ならではのルールに戸惑い、間違ったことをよく笑われてしまっていました。
かなしいものですよね。
本人は至って本気だったのですが……。
それでも、僕は踏ん張って過ごしていきます。
弟や妹にカッコいい姿を見せたい。
ひとりで僕を育ててくれている母に心配をかけたくない。などの理由で。
今思うと、当時の自分の方が打たれ強かったような気もします……うんうん。
今なら、しっかりと「出来ないものはできません!」という自信があります。
なんと言っても、社会の荒波を乗り越えてきたおじさんですからね。
出来ないことを「できる」と言ってしまうことの恐ろしさは身を持って理解しています。
だというのに、幼き日の僕は「できる!」と言ってしまいます。
そうやって、気を張りながら過ごしていた保育所生活であることが起きました。
それは、先生からの「自分たちで縄跳びの縄を作りましょう」というお話でした。
この保育所では年長組になると、紅白の布地で自分の体の大きさにあった縄跳びを作るというイベントが存在していたのです。
ここで素直な子であれば、「せんせいつくったことがないのでわかりません」と言えばいいのですが、当時の僕は絵に描いたような意地っ張りで、カッコつけでした。
なので何も言わず、他の子供たちと同じように「できます!」元気よく返事をしてしまいます。
今、思うとその縄は作りは簡単なものでした。
それは紅と白の布地できた紐をそれぞれ1本ずつ用意し、それらを捻りながら互い違いに重ね合わせて1本の縄にしていく単純な作業。
しかし、経験の無い作業でしたので、戸惑っていました。
(できるってこたえちゃったけど……できるかな……でも、やってみないとわからないよね……)
そして、その後。
お昼寝を終えてから、一斉に作業を始めました。
「せんせーい! できたから、あそんできていいですか?」
「わたしもー!」
「ぼくもー!」
「オレもできた!」
「はい、皆さん出来ていますね! その縄跳びを持って運動場に行って下さいー!」
先生の言葉を受けた子供達は元気よく返事をして、1人、また1人と順番に運動場に出ていきます。
「じゃあ、いってきまーす!」
「せんせいもきてねー」
「まってるからなー」
その光景を見た、当時の僕はこんな事を考えていました。
(なんで、うまくむすべないの……わかんないよ。これじゃまた、なかまはずれになっちゃう)
🌟🌟🌟
そして、日が傾きワックスと木の香りがする教室の中。
少し前まで、僕を見守っていた先生も運動場に向かった大多数の子供たちの面倒を見る為に教室をあとにしていました。
そんな誰も居なくなったこの場所で、僕は1人、さみしく縄跳びの縄を編み続けます。
(はやく……はやくしないと……ひとりぼっちだ)
早く結ぶ為にと、慌てて編み続けますが、なかなか上手くいきませんでした。
それは元々、器用ではなく、蝶々結びなどもできなかったので、こういった作業は苦手なのも起因していたのかも知れません。
ただ、そのせいで焦ってしまい心臓の脈が速くなり徐々に胸が痛くなっていきます。
(ど、どうしよううまくいかない……)
この状況を誰かに助けてほしくて……でも、その一言が出てきませんでした。
それは僕の性格が意地っ張りで、カッコつけだったからでしょう。
(だれか……おしえてよ……わかんないよ)
すると、教室の外から誰かが向かってくる足音が聞こえてきました。
そして、僕が教室の入口に視線を向けると、女の子が立っていました。
その子は、とても可愛くて面倒見がいい、森永璃子《もりながりこ》ちゃん。
誰にでも平等に接する姿に、男女を問わず同じ組の子たちからも、人気な子。
その子は、僕が泣きそうになっているのを見ると、何も言葉を発することなく、傍に来て上手くいかなった縄を手際良く編んでいきます。
この間、彼女は僕に話し掛けてくれました。
「ちゃんとできないことは、できないといわないとだめだよ」
という言葉をです。
その後も何かを言ってくれたはずなのですが……当時の僕は、颯爽登場した璃子ちゃんに心を奪われてしまい覚えているのは、その一言と屈託なく笑みを浮かべる明るい表情だけ。
これが、僕の心が奪われた最初の恋となりました。
🌟🌟🌟
そして、その心奪った璃子ちゃんはというと――。
今も屈託のない笑顔を浮かべています。
それは教室ではなく、一緒に住まう家の玄関で。
そこでおじさんになったというのに、相変わらず意地っ張りで、カッコつけな僕へと同じ言葉を掛けています。
とはいえ、初めに言ったように社会の荒波を乗り越えてきたおじさんですからね。
少しはマシになっています。
もちろん、それは彼女が口酸っぱく言い続けてくれたおかげですが――。
「今日は、遅いんですよね?」
「うん、ちょっと頼み事あるしね」
「あのね? たかちゃん、出来ないはできないってちゃんと言うんだよ?」
「うん……わかってるよ! もう子供じゃないんだから」
「うふふ、ならいいけど!」
「――う、うん」
その隣には、僕に似た意地っ張りでカッコつけな息子の勇里《ゆうり》と、彼女に似た屈託のない笑顔を浮かべる娘の有希《ゆき》も同じことを口にしています。
「パパ、だめだよ?」
「めっ、ですよ!」
「ふふっ、そうだな……ありがとう! 気をつけるよ!」
「そうですね! みんな心配しているのでお願いしますね」
「うん……うっし! んじゃ、いってきまーす!」
「はーい! 気をつけてー!」
「はやく……かえってきてね」
「ゆうき、ねないでまってる!」
「はいよー!」
そして、僕はその背に今でも恋い焦がれる妻と、家族の声を受けて家を出ていく。
そんな日々を過ごしています。
だから、僕はあの日の出来事と、今に至るまでのこの胸を叩く痛み。
そして、心を踊らせた日々の全てを。
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忘れるわけがないのです。
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きっと、こういうの些細な気遣いにときめくのかな〜?
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