キャベツの妖精、ぴよこ三兄弟 〜自宅警備員の日々〜

ほしのしずく

文字の大きさ
上 下
4 / 9

第4話 ぴよちゃんずと鬼軍曹🐥🐤🐣🕷

しおりを挟む
 大阪府に住まいを構える山田家。

 今日もここで摩訶不思議生物であるキャベツの妖精たちは、ひよこ生を謳歌していた。
 
 リビングの窓際、日当たりのいい場所。

 彼らはそこにある黒ゴマ色ソファーの上で、とうもろこし色のモフモフふわふわボディーを寄せ合い座っている。

 いつもと同じ位置。

 右から頭に1本の毛を生やす長男のぴよ太、2本の毛を生やす次男ぴよ郎、3本の毛を生やす三男ぴよ助の順に。

 いつもなら鼻提灯を膨らませているはずのぴよ助が、小さな手足をぴょこんと出して立ち上がった。

「ぺよ! 今日はなにするぺよ?」

「ぺよぺよ、なにするぺよかぁ……うーんぺよ」

 その隣にはまだ眠たいのか、ぴよ郎が糸目のまま首を傾げている。

 一番端にいるぴよ太はゆっくりと小さな手足を出して立ち上がった。

「ぺよっと、お掃除はこないだしたぺよからねー」

 今日は珍しく何も無い日。

 だからこそ、ひよこたちはそれぞれに何をするのか、考えていた。

 まずは、一番初めに立ち上がった甘えた三男坊のぴよ助。
 
「やっぱり、プリンぺよかね……ぷっちんしたいぺよ」

 3本の毛を揺らしながら、ソファーの上をとてとて歩いている。

 その頭の中は、相変わらず冷蔵庫の中身でいっぱいだ。

 次にまだネムネムモードの要領のいい次男ぴよ郎。

「……やっぱり、準備が8割っていうぺよ。備えないとぺよ」

 2本の毛を窓から流れ込む風で揺らしている。

 その頭の中は、ロボット掃除機での失敗をどうやって活かすのかでいっぱいになっていた。

 最後に、ゆっくりと立ったしっかり者の長男ぴよ太。

「ぺよ……頼まれていたことは、他になかったぺよ? ぴよちゃんたち、もしかして忘れてないぺよ?」

 1本の毛をぴーんと立てたまま揺らさず、ソファーで仁王立ちしている。

 その頭の中は、山田夫妻が帰ってくるまでにやっておかないといけないものが、本当になかったのかなどで、いっぱいになっていた。

 3匹がそれぞれに「ぺよぺよ」とくちばしを鳴らしていると、上の辺りから音が聞こえた。


 ――カサカサ。


 だが「ぺよぺよ」とお喋りを続けるひよこたちには届かない。


 すると、その瞬間が訪れた。


 ――ぽとっ。


 着地音を鳴らしたと思えば、人間では生理的に受け付けられない動きをする黒光りするゴキ……いや【G】。


 ――カサ、カサカサ。


 頭に生えた触覚を揺らして、周辺の状況を確認している。


 ――カサカサ。


 その特徴的な音を耳にしたことで、一瞬して固まる3匹。


「「「ぺ、ぺよ!?」」」

 すると、打ち合わせでもしたかのように横並びとなり、抜き足差し足忍び足で距離をとっていく。

「抜き足ぺよ……」

 ぴよ助は一番内側で慎重に歩みを進め、その左を歩くのはぴよ太も足音を立てないようにゆっくりと歩みを進めていく。

「差し足……ぺよ。慎重にいくぺよよ……ぴよ助」

「ぺよ、ぴよちゃんに任せてぺよ!」

 ぴよ太の言葉にぴよ助は元気よく返事をする。

 それを一番外側を歩くぴよ郎が注意した。

「忍び足……ぺよ。大きな声を出したら気付かれるぺよよ」

 ぴよ郎は小さな手をくちばしの前に当てている。

「ぺよ……わかったぺよ……」

 そんなやり取りがありながらも、3匹は順当に歩みを進めた。



 ☆☆☆



 直線距離にして、ひよこ15匹ほど離れたソファーの上。

 ここでひよこたちのコソコソ話が始まった。

「ぺ、ぺよ。ぴよ太、どうするぺよ?」

「ぺよ、逃げたい気持ちあるぺよ。でも、ここでアイツを倒さないと、ママさんが気を失っちゃうぺよ」

「ぺよ……ぴよちゃんは逃げたいぺよ。ママさんには悪いけど、無理なものは無理ぺよ。だって見てペよ」

 ぴよ助が指差す場所には、音を立てながら元気よく動き回る【G】がいた。


 ――カサカサ、カサカサ。


「やばいぺよね……」

 ぴよ太は言葉を失い、立っていた頭の毛にも元気がなくなり倒れている。

 その左に立っていたぴよ郎も悪寒が走ったせいで、全身の毛が逆立ってしまい大きくなっていた。

「ぺ、ぺよ。気持ち悪いぺよー、ぴよ助の考えが合ってるような気がするぺよ」

「ぺよ、だから無理ぺよ。パパさんの帰りを待ったほうがいいぺよ」

 三男坊ぴよ助の的確な答えに上2匹は戸惑っていた。

 ぴよ太はその場でくちばしを紡ぎ。

「ぺよか……」

 ぴよ郎は深く頷き2本の毛を揺らしていた。

「ぺよね……」

 いつもなら、しっかり者の長男ぴよ太がみんなを励まし、要領のいい次男がどうやったら上手くいくのかを考える。

 その後を甘えた三男坊のぴよ助がついていく。

 しかし、今回ばかりは【G】を目の前にしたことですっかり戦意を喪失してしまい、上2匹はどうしていいのかわからなくなってしまった。

 そんな中、素直なぴよ助の意見を耳にしたのだ。

 ぴよ太とぴよ郎の答えはもう決まっていた。

「ぺよ、みんな。一時的に避難するぺよ」

 ぴよ太の言葉にぴよ郎はひょこひょこと頷く。

「ぺよぺよ、ぴよ太の意見に賛成するぺよ」

「ぺよー。ぴよちゃんもぴよ太に大賛成ぺよー」

 ぴよ助は自分の意見が通ったことを喜んでいる。

 こうして、3匹の気持ちは1つになった。


 そんな中。


 今度は階段の方から小気味良い音が聞こえてきた。


 ――カタカタ、カタカタ、カタカタ。


 その謎の音は、物凄いスピードで近づいてくる。


 ――カタカタ、カタカタ。


 ぴよ太は頭を振り1本の毛を左右に揺らしていた。

「ぺよ、なんの音ぺよ?」

「ぺよ、わかんないぺよ。でも、カサカサじゃないから【G】じゃないぺよね」

 ぴよ郎は冷静に耳を澄まして音を聞き分けている。

 そんな2匹を見たせいでぴよ助は、その場で小さな手足をバタつかせ慌てていた。

「でも、近づいてくるぺよー! ちょっと怖いぺよ」


 ――カタカタ。


 そして、その音は急に消えた。

「消えたぺよ……」

 ぴよ太は顔色をとうもろこし色から、ピーマン色へと変えている。

 ぴよ郎はつぶらな瞳をキョロキョロと動かす。

「ぺよ、どこに行ったぺよ? もう音はしないぺよ」

「ぺよ、でも近くまでは来ていたはずぺよ。怖いぺよー!」

 ぴよ助は怖すぎて震えている。

 近付いてきた音が急に消えたことで、全員が警戒モードになり毛が逆立っていた。

 モフモフふわふわボディーから、ボフボフもわもわボディーになっている3匹。

 すると、ぴよ郎がふと【G】の居た方向へとつぶらな瞳を向けた。

「あれぺよ?」

「ぴよ郎、どしたぺよ?」

「ぺよ……Gの姿も消えてるぺよ」

「ぺ、ぺよ!? ほんとぺよ?」

「ぺよ……ほんとぺよ」

「ぺ、ぺよ! ほんとぺよ。いないぺよ!」

 ぴよ太とぴよ郎の会話を聞いたことで、ぴよ助はボフボフもわもわボディーのままソファーで大騒ぎし始めた。

「わー! 怖いぺよー! また急に出てくるぺよー!」

「ぺよ! まだ何か聞こえるぺよ……」

 ぴよ郎の言葉に固まり、耳を澄ませてしまうひよこたち。

「「「ぺよ?」」」


 ――カタ、カタカタカタ。


 ――カタカタ。


 ――カタ。


 そして、3匹の後ろでその音が止まった。

 ひよこたちは息を揃えて振り向く。

「「「ぺ、ぺよ!?」」」

 すると、そこにはアシダカグモがいた。

 右前足を1本、3匹に向けてヒョイっと上げている。

 これがクモの挨拶のようだ。

 そんなフレンドリークモを前にして、ひよこたちは恐る恐る近付いていく。

「どうもですぺよ……」

 しっかり者のぴよ太は、少しマシになったボフボフもわもわボディー、いやポフポフふわふわボディーで丁寧にお辞儀をする。

 次に怖さよりもクモの種類が気になり、モフモフふわふわボディーに戻りかけている次男ぴよ郎が続いた。

「なに蜘蛛さんでしょうかぺよ……?」

 しかし、まだ100%警戒心を解いたわけではない。
 ぴよ助の好奇心が今のところ怖さに勝っているだけだ。

 ただ、今も警戒心MAXのガクブルボフボフもわもわボディーの三男ぴよ助は、やはり怖さが勝ってしまい挨拶すらままならないでいた。

「お、おっきくて怖いぺよー!」

 理由は違えど怯えてしまっている彼らを前にして、クモは必死にジェスチャーで自分が無害だということを伝えた。



 ☆☆☆

 ――しばらくして。


 ジェスチャーのかいあってか、ひよこたちは元のモフモフふわふわボディーへと戻っていき。

 それを確認すると、アシダカグモは素早い動きで姿を消した。


 ☆☆☆
 

 このあと、山田夫妻が晩御飯を食べるテーブルの下で、アシダカ鬼軍曹ごっこという不思議な遊びをするひよこたちの姿が見られましたとさ。

 ぺよぺよ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

魔法アプリ【グリモワール】

阿賀野めいり
児童書・童話
◆異世界の力が交錯する町で、友情と成長が織りなす新たな魔法の物語◆ 小学5年生の咲来智也(さくらともや) は、【超常事件】が発生する町、【新都心:喜志間ニュータウン】で暮らしていた。夢の中で現れる不思議な青年や、年上の友人・春風颯(はるかぜはやて)との交流の中でその日々を過ごしていた。 ある夜、町を突如襲った異変──夜にもかかわらず、オフィス街が昼のように明るく輝く事件が発生する。その翌日、智也のスマートフォンに謎のアプリ【グリモワール】がインストールされていた。消そうとしても消えないアプリ。そして、智也は突然見たこともない大きな蛇に襲われる。そんな智也を救ったのは、春風颯だった。しかも彼の正体は【異世界】の住人で――。 アプリの力によって魔法使いとなった智也は、颯とともに、次々と発生する【超常事件】に挑む。しかし、これらの事件が次第に智也自身の運命を深く絡め取っていくことにまだ気づいていなかった――。 ※カクヨムでも連載しております※

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

迷宮階段

西羽咲 花月
児童書・童話
その学校にはある噂がある 「この学校は三階建てでしょう? だけど、屋上に出るための階段がある。そこに、放課後の四時四十四分に行くの。階段の、下から四段目に立って『誰々を、誰々に交換』って口に出して言うの。そうすれば翌日、相手が本当に交換されてるんだって!」 そんな噂を聞いた主人公は自分の人生を変えるために階段へ向かう そして待ち受けていたのは恐怖だった!

ななちゃんと友達

マキ
児童書・童話
初めての幼稚園の友達のお話

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

処理中です...