上 下
24 / 54

第20話

しおりを挟む



さぁ動物園デートの始まりだ。



動物園のエントランスゲートをくぐり園内へ入る。
夏休み中の為園内には家族連れやカップルで溢れかえっていた。


この人混みの中じゃ直ぐにはぐれてしまいそうだ。
はじめさんに向けて右手を差し出す。
ハテナ顔で同じく右手を出し握手する形になる。



「いやそうじゃなくて、左手出して!
で、こうだよ!」



指と指を絡めて《恋人繋ぎ》の完成だ。



はぐれない様にね。
それに折角遠出してきたんだよ!今日は人目を気にせず手を繋ごうよ!」



そう言って歩き出す。
慌てて付いてくるはじめさんは、少し照れていたが微笑んで頷いてくれた。


ゲートから入ってすぐの所にレッサーパンダ館、ペンギン館と続いる。
触れられそうな程間近で動いでる姿が見られ、その愛くるしい姿に頬が緩みっぱなしになる。

隣に目をやると、頬を赤らめ目をキラキラさせているはじめさん。でも眉間には深い皺を刻んでいる。
久々のその表情につい笑ってしまった。



「はじめさん眉間に力入ってるよ。
愛らしい動物達に大興奮って感じ?でもその睨みスタイルやめたと思ってたー。
ーーふふふっ、やっぱりはじめさんのその表情は萌えポイントだよね!動物達に心弾ませてたのに、一気に持っていかれちゃった。
あー、でもふわりとした柔らかい微笑みも大好きだからなぁ。甲乙付け難い。」



どっちが良いか真剣に悩んでる横でふっと息を漏らし呆れた様な顔をしているはじめさん。
眉間を指でほぐす様に触りながら



「意識してるわけじゃないんだが、長年の癖は治らないな。他に人が居ると思うと力が入ってしまう。
ーーー最近ゆづ葉の前でこの表情を見せなかったと言うなら、それはゆづ葉の前では素の自分で要られたからなんだと思う。」



さらっと私が喜ぶような事を言うもんだから、衝動的に抱き着いちゃったのは仕方がないと思う。
だから真面目な顔ではじめさんを諭す。



「はじめさん、そうゆう事は誰もいない二人っきりの時に言わないとダメだよ。私が衝動的に抱き着いちゃうの知ってるでしょ?
もう、自重してね。」




「!!俺が悪いのか!?
ゆづ葉が自重「えっ?私はムリだよ?野生動物は本能のままに生きるものだから。」」



「野生動物じゃないだろ!!」



「本郷家の家訓で『獲物は逃さずまっしぐら』って言うのがあるんだよ。」



「そんな家訓あってたまるか!」



「信じるか信じないかはあなた次第。」



そんなやり取りをしながら、今度ははじめさんの腕に抱き着く形で園内を回る。そして堂々と一緒に歩けるという幸せな時間を噛み締めていた。



爬虫類、猛禽類、草食動物と回っていき、気付くと既にお昼を回っていた。
どうするか聞く前に



「良い時間だし、そこで飯にしよう。」



とはじめさんが芝生広場にあるベンチへ向かう。木々で影ができ少し涼しく感じた。
するとはじめさんが持っていたバッグからお弁当がでてきた。



「ゆづ葉に食べてもらいたくて作ってきた。食べてくれないか?」



出発時間が早かったにも関わらずお弁当を作ってきてくれたなんて感動だ!



「うん!食べる、いや食べたい!!
絶対残さず頂くからね。」



蓋を開けると色とりどりのおかずが並んでいた。
一つ一つが手間暇掛かっているのがわかる。


手を合わせ



「「いただきます。」」



『美味しい!』『幸せ!』と語彙力皆無の感想を述べながら食べ進める私をはじめさんは優しい微笑みで見てくれていた。
そしてあっという間に完食してしまったのだった。



「ご馳走様でした。
味付け全部私好みで美味しくて、、んーなんだろ?
ーーそう、愛情、、を感じました。」


自分で言っておいて恥ずかしくなってしまった。照れ笑いで誤魔化していると



「毎日、俺がどれだけ幸せか感謝してるか伝えたかったんだ。
まっ、まぁ、弁当一つだけじゃまだまだ足りないだろうけどな。」


はじめさんも私と同じ照れ笑いしながら頭を掻く。
私はその手を両手で覆い自分の方へと引き寄せる。


「そんな事ない。量とか数とか関係ないよ。
気持ちを込めて作ってくれたの食べて分かったよ。すごい嬉しくて、、幸せになった。
だから私ももっともっと愛情込めてご飯作るからね。」



こうして幸せな昼食を終え、再び園内を回り出した。

マップを見ながら猛獣ゾーンへ向かうと、より一層の賑わいをみせていた。

やはり動物園と言えばライオン!と思いきやここでの人気はホッキョクグマらしい。なんでもプールへ大胆に飛び込む姿が大迫力だそうだ。
長蛇の列になっており展示スペースまでまだ順番がある。
その間時間があるのではじめさんがお手洗いへ行くと席を外す。
スマホを見ながら待っていると後ろのカップルが何やら騒がしい。聞き耳を立てなくてもはっきり会話が聞こえた。
怪しい雰囲気についスマホの操作が止まる。



「あぁー、暑いし、クセーし、クソみたいに人多いし、、帰りてー。
ちっ、お前が行きたいって言うから来たが、最悪だ。」



大声で動物園ここには似つかわしくない男性の言葉が聞こえる。
周りもザワザワし出す。


「ーーーごめんなさい。
疲れたよね、、もう大丈夫だから、、帰ろう?」



下を向き謝る女性。



「あぁ″っ?!
なら最初から来たいとかぬかすな!!クソが!」



「ごめんなさい、、ごめんなさい、、」



「俺が悪いみたいアピールすんな!!」



高圧的な男性にすっかり震え泣いてしまっている女性。


これは流石にーーー見過ごす事が出来なかった。


「あのー、大声やめてもらえませんか?動物達も怯えるし、何より彼女さん泣いていますから。
帰りたいならお帰り下さい。
その方が自身も周りも幸せですよ。
あぁ、でも彼女さんはまだ回りたそうなので私がお預かりしますね。だから安心してどうぞあちらへ。」

出口を手で指し示し笑顔を作る。
そしてサッとカップルの間に身体を入れ彼女さん隠す様にしてから小声で聞く。


(迷惑だったなら即訂正するよ。でももし彼と離れたいと思っているならこのまま私に合わせて。)


一瞬悩んだようだがコクンと僅かに頷いてくれたのでそのまま肩を抱き彼女と歩き出す。



「よし、じゃあふれあいコーナー行こっか。誰かさんの事はスッパリ忘れて可愛い子達に癒されようねー。」



数歩進んだ所で肩を掴まれグイッと引かれる。半歩下がったがなんとか踏ん張る。



「おいっ、待てよ。調子に乗るなよ!」



「ーーーこれ以上騒がない方が良いですよ。あなたの大声のおかげで警備員さんがもうそこまで来ている。
肩を掴まれたこの状況で私が一声あげれば確実に連れていかれますからーーそうならないよう、素直に出口へ向かって下さい。」



慌てて肩から手を退けた彼に向かってとびっきりの笑顔を作り手を振る。


「じゃあ、さようなら~。」


彼は舌打ちをしすごい形相で睨みながら出口へ向かって行った。



「目立っちゃったからとりあえずここから離れよう。」


「はい、、ありがとう、ございます。」


震える小さな声。さっきのをまだ引きずっているようだ。
彼女さんの手を引き歩き出すと、はじめさんが帰ってきた。



「なんか騒がしかったようだが、、、、震源地はゆづ葉か?」



彼女をチラッと横目で見て、その後呆れたように聞いてきた。
何か察したようだ。



「はははっ。。。」



正直に話すとお説教コースになりそうだなと苦笑いが出てしまった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

処理中です...