僕に世界が救えるか

野部 悠愛

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プロローグ

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僕にはどうせ何も出来ない。
勉強も運動も話すらまともに出来ない。

……でも、助けたいと思ったんだ。

学校からの帰り道、いつもと同じ景色。
その中にいつもと違うものが見えた。
刃物を持った男が小さな子どもたちにゆっくりと近づいて行く。
子どもたちは目に涙をためて恐怖によって逃げるどころか声すらも出せずに立ちすくんでいた。
人通りの少ない道には、いつも通り人がいない。
このままじゃダメだ!……そう思ったとき体が勝手に動いて、ボクは子どもたちを背に庇うようにして男の前に立ちはだかった。
しかし、僕には子どもたちを守るだけの力は無い。
「逃げて!誰でもいい、大人の人を呼んで来るんだ……!」
僕は子どもたちに向かって叫んだ。
子どもたちは逃げて行く。
男がボクに向かって話しかける。
「ヒーロー気取りかい?………まぁ誰でも良いんだ僕はね、人を殺してみたいんだよ。だからお嬢さん、さっきの子どもたちのかわりに君を殺すことにしたよ。」
男はニヤニヤと笑った。途端に刃物を持ったまま突進して来た。
たった一瞬で足に鋭い痛みが走る。
「アハハ!これでもう逃げられないね?」 
男が笑っている。
笑いながら今度は腹を何度も何度も何度も何度も
刺した。
痛い いたい イタイ!
まるでクッションをナイフで刺すように
グチャグチャと音を立てるたびに男は狂喜の笑い声をあげる。
自分でも生きているのが不思議なくらいにナイフが突き立てられていく。
クッションの中の羽のように血が飛び散った。
「アァ!血だ!フフッ 綺麗だねお嬢さん。」
男は笑う、それはそれは楽しそうに。
刺され続けるうちにいつの間にか痛みがなくなった。
……あぁ、死ぬんだな………。
お父さん、お母さん。
ごめんなさい、せっかく産んでくれたのに、育ててくれたのに、
女の子なのに男みたいな性格で、可愛げも無くて、
運動も、勉強も、話も、まともに出来ないようなダメな奴のまま、親よりも早く死ぬなんて最悪だよね……。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。
男は「あぁ…もうかえらないと。」とポツリと呟いてどこかに行った。
パトカーが来たならあの子どもたちは無事に逃げることが出来たのかな…………そうだといいな…。


僕に世界が救えるか1


「…………やくそくだよ!…」
「………………………」
「うん!」

僕には昔からよく見ている夢がある。
白い空間で誰かと何かの約束をする夢……内容はいつも覚えてない。
でも、幸せな夢。

暖かい微睡みの中誰かに呼ばれている気がしてそっと目をあける。

そこはあの夢と同じ真っ白な空間だった。
「やっと目が覚めた?」
声のする方を見ると椅子に座った男の子がこちらを見ていた。

見覚えのある……誰だっけ…?
男の子は寂しそうに笑った。
「覚えてない…か。」
その顔に既視感を覚えた……。

途端に 頭の中で何かが弾けた。

……………………………………………………………………………………………

『ずっと一緒にいるよ。』
『ほんとうに?』
『もちろん!』
『……っ!うん、約束だよ!』
……………………………………………………………………………………それはいつも思い出せない夢の中での約束だった。
そうだ、そしてこの約束をした人は……!
「……ア…オ…?」
夢の中の男の子、やっと名前を思い出した。
男の子、アオは目を一瞬 見開いて嬉しそうに笑った。
「○□△!△△□!覚えていた!賭けには勝ったぞ!!」
アオが呼びかけるように大きな声で言った。
しかし、他に人の姿は見えない。
名前と思われる部分は上手く聞き取れない。
「五月蝿い、○△□見ていたのだからわかっている。」
「良かったわね、○△□!」
2つの声がした。
もちろん僕ではないし、アオの声でもない。
ただ、アオが話していたときと同じで名前と思われる部分が聞き取れない。
「あかね!」
アオに名前を呼ばれてそちらを見る。
「目を、閉じていて。」
よく分からないけれど従った方が良いことだけはわかったので強く、きつく目を閉じた。
……………………………………………………………………………………「目を開けて。」
さっきより大分低い声が聞こえた。
多分アオの声だと思う。
とにかく声に従って目を開けた。
そこには綺麗な女の人と男の人が、3人いた。
3人とも髪は白銀で、瞳は女の人が黄色、男の人が2人いて1人が色素のない白色、もう1人が鮮やかな青色だった。
思わず見とれていると、白色の瞳をした男の人がこちらに1歩近ずいて話し出した。
「いきなりこのようなところにいて驚いたことだろうと思う。覚えているかは知らないが、君は死んだんだ。分かるか?」
凛とした声で投げられた問いに、僕はボーっとしていた思考を引き戻し覚えている出来事と共に返事をした。
「はい。僕は確かにナイフで刺されて死にました。」
男の人は悲しそうな顔をして、
「……そうか………。」
と呟いた。
死んだ、死んでしまった。
父や母よりも、大好きな友人よりも先に……。
それは、確かに悲しいことだった。
でも、不思議なことに僕の中には悲しみ以上に安堵がひろがっていた。
男の人がまた僕に問いかける。
「君はナイフで刺された。痛かっただろう?」
「はい。ナイフで刺されたのはとても痛かったです。でも、僕の痛みの、命の代わりに小さな子供たちが痛い、辛い思いをしませんでした。」
「君はそれで満足か?」
「はい!とても。こんな僕でも人を助けることができた、それだけで満足です。」
「では最後に、君は君を殺した者を憎むか?殺したいか?」
………憎い?殺したい?
その問いにすぐに答えることが出来なかった。

「……………正直に言うと、よくわからないです。ナイフが痛くて、笑ってる男が怖くて……。」

そう、ただ怖かった。
振り下ろされるナイフも、笑っている男も、
……でも、
「なのに、憎くはないんです。ただ、‍人を傷つけることで喜びを得る男は、人を殺してみたいと笑った男は、哀れだと思います。」
そう、憎いと言うよりは哀しいと思った。
自分でも偽善者のようだと思った。でも事実だった。
白い瞳の男の人は目を見開いて、その後少し笑って、
「…………そうか…。」
と嬉しそうな、でもどこか寂しそうな顔で言った。
「……………変わらないな……。」
最後の呟きは小さくて聞き取れなかった。

だけどなんだか泣きそうに見えた…。

 ……あれ?
おかしい、僕は前にもこの人のこの表情を見たことがある気がする。
でも、そんなはずは無い。だって、あの夢であったのは間違いなくアオだけだったのだから。
 それなのに、なんだろう?既視感がある。
見たことがある。一体、どこで?
見たことがあるのなら、何故思い出せない?

もう少し、もう少しで何かがわかりそうな気がする
……そのとき頭に鋭い痛みが走った。

「…ッ?!あかね!!」
アオの声が聞こえて倒れかけた僕の体が支えられた。
そして、頭の中から白い瞳の男の人でもアオでもない優しいバリトンが聞こえた。
ーもう少し、今はまだ何も考えずに 
                                                ゆっくり おやすみー
ふっと頭痛がなくなり、まろやかな眠気がボクを包んだ。その眠気に抗う間もなく瞼が重くなった……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「集まったか、愛しい子らよ。今回お前たちを呼び出したのは…………」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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