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ヴィヴィアンの恋と革命

(9)ある親子の会話

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 不審者たちを追っていたノラヨは、王都の西端にある、ボロボロな建物に侵入していた。

 『マルド商会』という看板が、斜めに引っかかった家の中では、ノラサブに絡んでいた親玉らしい男が、しょんぼりした顔で椅子に座っていた。


「お前たちの魔術が太刀打ちできないほど、防御障壁が硬いとは…」

「だから、あの家に強行突破なんか無理だって言っただろう」

「ウィステリア嬢に勝てるやつなんか、この国にはいないぜ」

「他国にも、ほぼいねえな。で、どうするんだよ、親父」

「ワッパーウェアの利権を脅して奪うとか、無理すぎるだろ」

 手下のように従っていた四人は、親玉の息子たちだったらしい。


「しかし、やらなければうちは終わりなんだ…」

「言いたかないけど、親父よぉ、うちの商売なんざ、とっくに終わってるぜ」

「しょ、商売なんかのためじゃない! 母さんとミルザを取り戻すために、わしは!」

「親父が無理な借金なんかしなければ、こんなことにはならなかったんだぜ」

 大柄な息子たちに囲まれて、マルド商会の会長と思しき男は、ただただ小さくなるばかりだった。

「そ、それは、分かっている。あんな危ない事業に乗ったって破滅するだけだって思ったさ。でもあの時は、なぜだか断れなかったんだ」  

 苦渋の表情で言葉を絞り出す父親を見て、長男らしい男が、苦々しい顔で言った。

「実は俺も、あの話は親父らしくないとは思っていた。ずっと地道に商売してきたのに、いきなり商会の規模を大きくするって言い出して、顔つきまで変わってたからな」

「そうなのか、兄貴?」

「ああ。だけど、いくら止めても親父は話を聞かないし、母さんとミルザまで、いつの間にか奴らのところに働きに行っちまって、帰らなくなったんだ」

 弟の一人が、目を細めて父親を見ながら言った。

「なあ、もしかして親父、洗脳魔術を食らったんじゃねえか?」

「なっ、わしが洗脳!?」

「俺の目にも、親父が少し別人に見えるぜ。兄貴たちも、そう思うだろ」
 
「ああ。大っきい兄貴と違って、俺らは隣国に出稼ぎに行ってたからな。帰ってきてすぐ、親父がちょっとおかしいのには気づいたさ」

「だな。商売がうまくいかなくなったせいかとも思ったけど、そういうのとは違うんだよな」

 末っ子らしい男が、父親に感情のこもらない視線を向けながら、言った。

「いまの親父は、親父の皮だけそのままで、中身をおおかた吸い取られた残り滓みてえだぜ」

 容赦のない息子の言葉に、マルド商会長は激昂した。

「お前たち、父親に向かって何を言う! いますぐ出ていけ! 店は誰にも継がせんからな!」

「いらねえよ、こんな店」

「母さんとミルザのことは、どうすんだよ」

「え……あ……う、ウィステリアを脅して、利権を……」

 マルド商会長は、壊れた自動人形のようにカクカクと動きながら、筋の通らない言葉を吐き出した。

 四兄弟は、顔を見合わせて頷いた。

「洗脳で、決まりだな」

「どうする、兄貴」

「まずは、魔導医師に解呪してもらうしかないだろう。あとのことは、それからだ」

「だな」


 天井の片隅から一部始終を見ていたノラヨは、空いていた窓から外に飛び出した。


──奴らのテーブルの真ん中にあったのは、トンチキ壺で間違いなさそうじゃ。急いで姫様たちに『ホウ・レン・ソウ』せねばの。

 ノラヨは滑空しつつ、詠唱した。


──甘き風よ、姫様をお守りするために我が羽の願いを聞き届けよ。秘技、縮空!

 小さなノラヨの身体が、一瞬だけギラリと光って、宙に消えた。



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