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ヴィヴィアンの婚約

ヴィヴィアンは鍋料理をふるまった

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「ようこそ、ウィステリア邸へ」

 いささか雑な詠唱で自邸に戻ったヴィヴィアンは、新しい家族たちを食堂に案内した。

 大テーブルの真ん中には、巨大な錬金釜が鎮座して、蓋の隙間から紫色の湯気を景気よく吹いている。

「これから歓迎の晩餐にするから、食べたいものを遠慮なく言ってほしい」

「あるじが作るのか?」

「私が作った鍋が作る。ノラゴは何が食べたい?」

「なんでもいいのか?」

「なんでも出るよ」

「なら肉! いっぱい!」

「オヤジ虫さんたちは?」

──わしらも肉じゃな!

──番には、きれいな水か、果物の汁をくださるとありがたい。

「分かった。壺の人は?」

「うえっ? あ、ええと…握り飯を」

「中の具は肉と魚、どっちがいい?」

「お魚で」

「ん。じゃ、作る」


 ヴィヴィアンは、錬金釜のそばに、大皿を五枚を並べてから、きりりとした表情で料理の名前を言った。

「謎肉だんごの甘酢あんかけ、赤黒ピーマンの謎肉詰め、謎肉の角煮、スパイシーなフライド謎肉、青魔魚のおにぎり」

 べちゃべちゃどちゃどちゃばちゃっ!

 大皿五つに、料理がどっさり盛り付けられた。

「うおおおっ、すげえ!」

──なんという、魅惑の香り!

 それからヴィヴィアンは、ガラスのパンチボウルを二つ出してきて、飲み物の名前を告げた。


「魔樹森林の黄桃ジュース、虎狼山のおいしい水」

 ばしゃっ、ばしゃっ!


「じゃ、食べよう」

 ヴィヴィアンが取り皿を配ると、埋葬虫たちは、いそいそと料理のそばに飛んでいったけれども、すぐに食べようとせずに、何やらコソコソと話し込んでいる。


──うーむ、これだけの美味なる肉を思う存分味わうには、この身体では不足じゃのう…

──番の手前、ちと恥ずかしいが、ノラゴに倣ってヒトガタに化けるかの。

──なんの、ヒトガタでも美男子となれば、惚れ直してくれるやもしれぬぞ。

──だのう。番のお世話も、ヒトガタのほうが都合もよいしの…


 相談がまとまると、埋葬虫たちは、ヴィヴィアンに変身の許しを願い出た。


──姫様、お見苦しいかもしれぬが、しばらくの間、わしらもヒトガタで過ごすことをお許しいただけぬだろうか。

「全然問題ないよ。好きなように過ごしてくれたらいい。あ、みんなの分の椅子を出すね」

 ヴィヴィアンがいそいそと椅子を並べている間に、四匹の埋葬虫は、青鈍色の髪を持ち、黒っぽい服を着た、四人の美少年に変わっていた。

「オヤジたち、若作りしすぎだろ…」

になる予定だったんじゃが、ちと加減が違ったの」

「ノラゴよりは年嵩になっとるじゃろ」

 彼らの横では、握り飯を手に取りかけていた壺の女性が、目を丸くしていた。

「ほえー、めんこい虫たちが、きれいな男衆に変わっちまった…」

「あ、そうだ、壺の人の名前を教えて」

「へ? オラですか?」

「うん」

「名前…んーと、なんだった……あ、タバサだ」

「タバサ。たくさん食べて。それから話そう」

 タバサと名乗った女性は、ヴィヴィアンにぺこりとお辞儀をした。

「はいです雇い主様。うほお、夢にまで見た握り飯……いただきます…うまっ!」

「よかった」

 ひたすらに、けれども和気藹々と食事が進み、大皿を何度か追加して、ようやく全員が満腹になった。

「あー美味かった! あるじ、ご馳走様!」

「姫様の料理の腕に、我ら感服いたしましたぞ」

「握り飯が旨くて旨くて…泣げだ…」

 薬壺から出てきたタバサは、額のたんこぶをなでながら涙を浮かべている。まだ痛みがあるのかもしれない。

「鍋料理は、好きなときに自由に食べてくれていい。出し方は分かるよね」

「あるじがやってくれたみたいに、皿を用意して、料理の名前を言えばいいんだよな」

「うん」

「よし、肉の料理の名前をいっぱい覚えるぞ!」

「握り飯も、具の違うやつをいろいろ作れるんだべか」

「できると思うよ、タバサ」

「夢の職場だ……」









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