45 / 89
ヴィヴィアンの婚約
ヴィヴィアンは藪から何かを出した
しおりを挟む「ヴィヴィアンちゃん、ほんとに!?」
「はいイルザ様、藪から棒人間を出しました」
「ヴィヴィアン、あなたって子は……昨日の今日よ? どれだけ偉業を積み上げちゃうのよ」
「え、藪から棒人間、ダメだった?」
「ダメなもんですか。最高よ! だけどその格言、ちょっと違ってるわよ。たしか『暴力人間藪よりい出て、蛇より痛し』、でしたわよね、イルザお姉様」
「スカーレットちゃん、そうだけど、今はそれじゃなくて…本当にグリッド家の嫡男の命を使わずに、それを無害化できるの?」
「できると思います。ていうか、トンチキな壺が、さっきから今ヤレすぐヤレって、すごく偉そうで、揺らすたびに、どんどんうるさくなってて、やかましいからぶっ飛ばしたいけど割れたらダメだから、耐え難きを耐え難しを耐え難くて……あれ?」
「分かったわ。あなたが言うのだもの。確実にできるわね」
予想もしない話の展開に、グリッド親子は呆然としていた。
「代々の我が家門の者たちの苦悩と絶望が、あっさり藪から棒人間……」
「父さん…」
「偉そうなんだ、薬壺…」
当事者たちの衝撃の余韻になど構うことなく、ヴィヴィアンは話を進めた。
「というわけで、ここで今すぐやりたいので、皆さん、材料集めに大至急ご協力をお願いします」
「ヴィヴィアン、創生するのね」
「うん、リサイクル」
「必要なものは?」
「とりあえず、トンチキ壺からちょっと見捨てられたセイモア・グリッド。あと、セイモア・グリッドの地肌から見捨てられた髪の毛」
「量は?」
「できるだけいっぱい。ぎゅうぎゅうに欲しい。あ、セイモア・グリッドは一人でいい」
「セイモア・グリッド以外の毛が少しくらい混じってても、大丈夫?」
「たぶん。トンチキ壺も、ここまで来て細かいことに文句は言わないと思う」
「ヴィヴィアンちゃん、彼はまだ執務室で気絶してると思うけど、その状態で構わない?」
「はい。昏倒上等です」
「なら、うちの人に運ばせるわね。スカーレットちゃん、さっき私が吸魔の呪具をまとめて解呪したときに、ついでに集まっちゃったモノって、どうなったかしらね」
「髪の毛も混入しているアレでしたら、サンプルを取ったあと、医療廃棄物として処理するように、病棟の看護師にお願いしましたわ」
「てことは、特殊ゴミ置き場ね」
「それならば、私が取ってこよう」
アーチバル・グリッドが名乗りを上げた。
「お願いするわ、アーチバルさん。ヴィヴィアンちゃん、他にはなにか必要?」
「布団叩き」
「ヴィヴィアン、それも解呪の材料なの?」
「理由はよく分からないけど、トンチキ壺がすごく欲しがってる」
「そうなのね。ちかごろあまり見ないアイテムだけど、どこで調達できるかしら」
考え込むスカーレットに、メアリーが、入院中に聞き齧った雑談を披露した。
「あの、それでしたら、屋上の布団干し場で、使ってる看護師さんがいます。ご年配の方で、ストレス解消に、とてもいいんだそうです」
「なら、その看護師に聞いて、譲ってもらえばいいわね。メアリー、付き合ってくれる?」
「はい」
スカーレットたちが、物資とセイモア・グリッドを集めるために病室を出ていくと、ユアン・グリッドが小声で尋ねきた。
「あの、ウィステリア嬢、セイ兄さん、何がどうなってるんだろうか。地肌から髪が見捨てられたって、一体…」
「どうなってるかは、見れば分かると思うけど、いま私の口から原因とかを言うのは、忍び難きを忍びたい」
ヴィヴィアンとしても、彼が慕っている兄が、気持ちの悪い母親崇拝変態になっていたと告げるのは、さすがに気が引けた。
煙に巻かれたような顔のユアン・グリッドを見かねて、兄も言葉を添えた。
「ユアン、仕方がないことって、あると思うんだ。セイモアが目覚めて、いろいろ自覚して落ち込んだなら、僕らで支えよう」
「ギル兄さん、知ってるんだ…」
「まあ、あの子がやらかしてるのを、ずっと壺の中で見てたからね」
「セイ兄さんも、僕みたいな感じだったのか」
「うん、まあ……薬壺に選ばれたせいで、余計に酷かったとは言える」
「そっか…」
「ユアン、僕が薬壺に囚われたとき、まだ母さんの魂が意識をかすかに保っていてね。母さんは僕たちのことを、本当に心配していた。母さんのそういう思いが、薬壺に捻じ曲げられて、全部セイモアに注がれてしまったんだ」
ヴィヴィアンは、親虫たちの突撃の場面を思い起こした。
「羊膜っていう、キラキラしてるけどキモい防護膜が、セイモア・グリッドをぴっちり包んでた」
「うん。あの膜は、消えていった母たちの残存思念が作ったものだった。意識や記憶が消えてしまっても、グリッド家の息子を守るという意志だけが残ってたんだよ。セイモアは、もともと母さん思いの優しい子だったから…」
「セイ兄さんも、優しさが行き過ぎちゃったんだね、きっと」
(行き過ぎた優しさは有り余る虫を集らせ、変態を作る……)
ヴィヴィアンは、心の中の箴言集に、そう書き留めた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる