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ヴィヴィアンの婚約
ヴィヴィアンは優しさについて語った
しおりを挟む「ユアン・グリッドは、魔導虫が好きなの?」
「うん、まあ……子どもの頃から使い魔にするのが夢で。でも僕の呪術とは相性が悪いみたいで、一度もうまくいったことがないんだ。埋葬虫みたいに強力な虫に憧れてたけど、僕の呪力じゃとても手が届かないし、弱い虫だと、なぜか集まりすぎて、手に負えないし…」
──弱い虫どもは、優しい人間が大好きじゃからなあ。
──大事に守ってもらえると分かったら、そりゃあ我も我もと寄ってくるぞい。
「え、あれって、呪術の失敗じゃなくて、僕が優しいと思われたからだったの?」
ユアン・グリッドの失敗談を聞いて、ヴィヴィアンは、以前スカーレットに教わったことを思い出した。
「人を助けるための魔導医術では、優しさは諸刃の剣なんだって。魔術も呪術もそうだって。優しさは相手を生かす強さになるけど、行き過ぎた優しさは、助けたい相手を殺すこともあるって、私は教えられた」
「優しさが、助けたい相手を殺す…」
ユアン・グリッドには、いろいろと思い当たる節があるようだった。
「僕は、本当に未熟だな」
「私も、いっぱい叱られた」
「ウィステリア嬢を叱る人なんて、いるのか…」
「いまもいっぱい叱られるよ」
ヴィヴィアンは、スカーレットの鬼のような説教を思い出して、ちょっと首をすくめた。
──姫様を叱るというと、あの赤い姐御様じゃろうなあ。
──愛ある叱責じゃな。
ヴィヴィアンの肩にとまって訳知り顔で話す虫たちを見ながら、ユアン・グリッドが、おずおずと質問した。
「あの、今更のような気もするんだけど、ウィステリア嬢の埋葬虫は、どうして僕らと会話できるんだろうか」
「え、虫は、普通しゃべるよね」
「普通の虫は、喋らないと思う…たぶん」
「鞭とかも、喋るよ。ね、メアリー」
メアリーの袖口から、蛇鞭がにょろりと頭を出した。
「シャベリマス」
「うわあメアリー! へ、蛇が!」
「ユアン、この蛇さんは、鞭なの。ヴィヴィアン様が、私を治すために、作ってくださったの」
「え、どういうこと?」
「メアリーの中の悪い病気を、しばいて治す治療器だよ。あ、そうだ」
ヴィヴィアンは、病院で仕事をする予定だったことを思い出した。
「メアリーと同じ病気の人たちに、これから治療器を作って配らなくちゃいけなかったんだ。患者さんに説明するとき、メアリーに手伝って欲しいんだけど、お願いできるかな」
「はい、もちろん。昨日の会議の時のように、実演すればいいでしょうか」
「うん。よろしく」
「メアリーが行くなら、僕も一緒に手伝いに」
ヴィヴィアンは、首を横に振った。
「ユアン・グリッドは、まず、魔力枯渇が回復するまで、たくさん食べて寝て、休むべき」
「だけど…」
「ユアンは安静が必要だろう? 僕がかわりに行こう」
「ギル・グリッドも、魂が体にちゃんと馴染むまで、あまり動かずにここにいた方がいいと思う」
「いや、僕は…」
兄弟がさらに何か言い募ろうとするのを遮るように、華やかな声が病室に飛び込んできた。
「ヴィヴィアンちゃん、ここにいたのね。いろいろ片付いたから、あなたの方を手伝いに来たわよ」
「ヴィヴィアン、薬壺はどうなった?」
イルザとスカーレットの後ろには、驚愕の表情を浮かべたアーチバル・グリッドが立っていた、
「ギル…」
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